21世紀記念SS 史上最大のリレーL「学園食糧難事情〜いかにして僕らは餓えに至ったか〜」VOL.4 投稿者:雅 ノボルと血を見た参加者達

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 のほほんとしている鈴香とおろおろ南より少し離れた位置。
 暴徒と化した亡者達と配給者の中間点当たり……
 そこに2人の男が居た。

 うねるように迫り来る暴徒の海。
 だが男達は何処か覚めた感じで其の様子を見守っている。
 2人とも、何処か覚めたような覚悟したような……いや、それを更に越える
何か……
 そう、使命感のような物を背負った瞳をしていた。
 其の内の片方が、もう片方に口を開いた。

「1000人を越える数……しかも皆血走っている。正直ぞっとしないな…」

 眼鏡を掛けた男が校舎の方を見た。
 其処には最愛の彼女が居る筈だった。
 彼は、其の彼女の為に、彼女に安全な食料を届ける為にここに居た。
 お腹を空かせた彼女に、暖かい食事を運ぶ為……
 其の為に彼はここに立った。

「でも、止めないとより多くの犠牲が出る……だから、僕たちのやる事は一つ」

 モップらしき物を持った男が、相棒に答える。
 彼も、同じ様に校舎を見る。
 だが彼が命を捧げる相手には、食糧は必要なかった。
 彼が其処に居る理由は、自らを貫く正義の心。
 組織の長さる者として、先達する使命感に刈られ、彼はここに立った。

「この身を張って、彼等を止める事……」
「例えそれが難しくても……必ずやり遂げるっ!」

 彼等には使命があった。
 彼等には守らねばならない物があった。
 即ち、それは学園の平和であり生徒の安全。
 例えそれを守るのがどんなに困難でも、彼等は守らねばならなかった。
 自らに課す正義の御印に置いて。

「この学園を守る、正義の名の元にっ!」
「……ジャッジの名に掛けてっ」

 ジャッジの両雄、 岩下信とセリスが、キッと暴徒を睨んだ。
 そして裂帛の気合いを込めてさけぶっ!

「「お前達をとめるっ!!」」

 んが。

「「「やぁかぁましぃぁぁぁぁぁっ!!!(怒涛のタックル×1000)」」」

 止まりませんでした。

「「なぜだぁぁぁっ!!」」

 天高く舞い上がる2人は、それだけ叫んで人海へと飲まれていった。


 (……スマン、2人とも&しかも短い。(汗) 久々にL書く沙留斗)


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「あらあら……皆さん止まりそうにも無いですねぇ」
 宅配トラック、助手席の中。空高く舞いあがる岩下とセリスの二人を見て、
南はぼんやりと呟いた。
 一方の鈴香はのほほんとした表情もそのままに、視線だけは左右に走らせて
手早くどこを走ってどう抜けるかを見定める。そして、
「掴まっててください、合間を縫って一気に駈け抜けますよ!」
「鈴香さん、ちょっと待って下さいね」
「えっ?」
 アクセルを踏み込もうとしたところを、南がドアを開いて降りてしまった。
「牧村さん、危ないですよ! 早く乗ってください」
 珍しく慌てて声を掛ける鈴香に南はにこりと微笑みかける。
「でも、あの中を車で走るのも危ないですから。ちょっとだけ、待っていてく
ださいね」
「ちょっとだけ、って……南さん!」

 さすがに面食らった顔で鈴香が戻るよう説得するのには耳も貸さず、南はゆ
っくりと殺到する暴徒の方へと歩み寄って行く。
『食うううぅぅぅわああああぁぁぁせえええぇぇぇろおおおぉぉぉぉっ!!!』
 相手が誰であろうと関係ない、立ちふさがるものは踏み倒すのみ! ってな
感じの暴徒集団。ひょっとすると、配送トラック以外は見えてないのかもしれ
ない。
 そんな例えるなら軍隊アリくらいしか思いつかないような集団を目にしても、
吹っ切れたのか南に気後れした様子はない。今度は鈴香が心配げに見つめる中、
南はごそごそとかばんの中から二つのものを取り出した。
「……ホイッスルと、ライトスティック?」
 列整理でもするつもりなのだろうか? なんにしても、そんなもので欠食児
童の大群が食い止められるとも思えない。これは本気でまずいかなと、鈴香が
焦りを見せ始める。
 暴徒が二十メートルに近づいた時、南はようやく動き出した。
 ライトスティックを頭上にかざし、ホイッスルを口に当て、深く深く息を吸
って、
『ピピィィィィィィィィィィッ!!!!』
 ホイッスルを思いっきり吹き鳴らす!
 するとなんとしたことか、飢えで死んだ魚のよーな目に成り果て殺到しつつ
あった生徒たちが、一瞬正気に返って立ち止まったではないか!
 そしてをすっとライトスティックを横に振ると、
「はいっ、配送のトラックが入りまーす! 皆さん、トラックに道を空けてく
ださいねー!」
「……凄い」
 運転席の鈴香が驚くような光景が目前で広がった。
 これぞ南の熟練の技、かつてこみパでヲタク暴徒を捌いた経歴は伊達ではな
い!
 やがて、完全に車二台分ほどの道が開くと、ようやく南はとことこと鈴香の
配送トラックに戻ってきた。
「鈴香さん、どうかしましたか? 早く学生食堂に食料を運ばないと……」
「あ、ああ、そうですね」
 なんとなく気を殺がれた風で鈴香。
 しかし、ギアを入れ直しサイドブレーキを降ろしてハンドルを握りなおせば、
そこにいるのはいつもの彼女だ。
「さぁっ、昼休みをこれ以上減らすのも悪いですし、一気に学生食堂まで突っ
走りますよ!」


(でぃるくせんでした。相変わらずギャグになりません(吐血) あとのかた、
頑張れ〜:逃走)



−−−


「…………で、情報を総合すると、今回の騒乱の直接の原因たる千鶴先生は、
寸胴鍋を抱えて化学準備室に消えた……と、そうなる訳です」

「…………ああ、そう」

 丁寧に説明をするシッポに対して、くぁ…… と、悠 朔は欠伸で応えた。

「ああ、そう…… じゃないでしょうが、部長っ!
 我々は今からその危険地帯へと踏み込むんですよっ?!
 もっとこう、アラスカの荒海を泳いで丸腰で敵軍の基地に潜入して敵の主力
兵器を破壊するような時のような危機感とか持ってもらわないとっ! 生身対
戦車とか生身対戦闘ヘリくらいの危険度は覚悟です! 天井裏から女覗いてい
る場合じゃないですよッ!」

「……何の話なんだ、一体?」

「覚悟の話です、覚悟の! そのくらいミッションインポッシブルなのですよ、
今回は!」

 と、会話をしている彼らは、現在その化学準備室の扉の前に陣取っている。
 と言うか、彼らのみである。
 情報特捜部と言う組織の動きは、結局こういう形に収まるのである。
 志保は面倒くさがりの上にいい加減なので取材をしない。城下に任せるとロ
クな事にならない。響は論外。シャロンはバックアップに残さざるを得ない。
 となると、まともな取材をするのはいつもシッポのみである。悠 朔を引っ
張って来れたのでさえ珍しい事だ。

「……で、何で私はここに連れてこられたんだ、シッポ?」

 と、悠 朔は、本当に自覚の無い顔で言った。悲しいほどに。
 シッポは、嘆息を一つつきつつ言う。

「取材をするためにでしょうに……」

「私が……?」

「ええ」

「よりによって千鶴先生の……?」

「そう」

 悠 朔は、ふ……と苦笑してみせた。

「酷いジョークだな、シッポ。もう少し気の利いた事を言って欲しいものだが」

 と、くるりと背を向けて、何気なく去ろうとする悠 朔。
 その襟首を、シッポはがっちりと掴んだ。

「逃がしませんよ、部長っ!
 さぁ、私と一緒に取材です!」

「ば、馬鹿なっ! 気でも違ったかシッポッ?!
 私はこんな無謀な真似をしたいとは思わない!」

「往生際が悪いですな、部長!
 ここまで来たなら一蓮托生!」

「千鶴先生の秘密に迫った者は、悉く口を閉ざした!
 その意味がお前には分かっていないんだ、シッポォォッッ!!」

「何も千鶴先生に突撃インタビューとかする訳でもなし!
 こっそり覗くだけですから大丈夫っ!」

「あら、インタービューなしなの? 残念だわぁ」

 その一声で、暴れていた悠 朔と、それを押さえ込んでいたシッポの動きが
止まった。

「ま、ま、まさか……」

「ち、ち、千鶴先生…………」

 おそるおそる振り返った二人の前には、そう、正にその千鶴先生がいた。
 逃げることも出来ず、ガタガタと震える二人。
 その二人を前にして、千鶴はふと、うーんと考え込んで言った。

「あ、でも、レシピは公開出来ないわね。
 ゴメンなさいね、折角だけど、取材をさせる訳にはいかないわ。
 来栖川さんとの約束なのよね。何しろ秘伝の惚れ薬だから……」

「え……ほ、惚れ薬?」

「ええ、惚れ薬」

 シッポと悠 朔、二人は顔を見合わせた。
 なんだ、それなら、飲ませる人と言ったら一人じゃないか。
 それを、全校生徒で大騒ぎして……正に空騒ぎだ。

「ふ、ふふふ……」

「ははははは……」

 何だか妙におかしくなって、二人は笑い出す。
 と、なにやら考え込み続けていた千鶴が、結論を出したらしい、口を開いた。

「ああ、そうねぇ……そう言えば、惚れ薬のこと……耕一さんに知られたら困
るかしら。 ねぇ、あなたたち………………?」

「はははは…………は?」

 二人の笑いは、凍り付いた。


(拡散しているお話の展開を、一つ終わらせてみました(笑) XY−MEN)

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「……外はあんなですけど……、いいんですか幻八さん?」

 などと言っているのは勇者パーティーの唯一の良識派、エリア。
 どうやら室内らしく、外の阿鼻叫喚がくぐもって聞こえる。

「ばれなきゃいいんだよ、ばれなきゃ」
「そうそう、エリアも心配性なんだから」

 そう言って気楽に考えているサラとティリア。

「……ばれたら間違いなく殺されるな……、確実に皆に」

 それとは代わって涙を流しながらフライパン片手に料理に励む幻八。
 ここ仮眠館には幻八以下、数名が住み込んでいるので結構な量の食料が常に
温存されていた。
 そのため、今回の騒動にも巻き込まれずに、こそこそと料理を作っていられ
るのだ。
 ただ……、幻八に日葵柄のエプロンが妙に似合っているのが何とも言えない
が。

「しかし……そんなに千鶴さんの料理って凄いのか?」

 ”まだ“犠牲……もとい、食べた事のないサラが当たり前の疑問を飛ばす。

「皆さん、あれだけ騒いでいますからね……、相当なものだと思います」
「食べた事無いって幸せだよね……、っと出来た」

 いくつもの料理を片手にティリア達の座っているテーブルにやってくる幻八。

「やっと出来たわね。早く食べましょう!」

 どうやらティリアは待ちきれなかった様子である。
 そんな様子に苦笑しながらテーブルに物を並べていく幻八。

「それじゃ、いっただっきま〜〜す!!」
「ああっ、サラ! ずるいわよっ!!」

 いち早く箸を取り、食事にありつくサラ。
 それに負けじと食事を始めるティリア。

「2人とも、別に料理は逃げませんから……」
「「あまいっ!! 外のあれに見つからない内にとっとと食べないと!!」」

 そんなティリアとサラをたしなめようとしたエリアだが、2人の完全にユニ
ゾンした反撃にあい、沈黙。

「どーでもいいが2人とも、食べるかしゃべるかどっちかにしような」

 我関せずと言った感じで黙々と目の前に置いたノートに眼を走らせている幻
八の冷めたつっこみもどこ吹く風、な感じで食べている2人。

「しょうがないですね、それじゃ私も……あら、これおいしい」
「どれどれ……おお、ほんとに美味いな」
「ほんとだ、今まで食べた事のない味ね」

 そう言って一つの皿に置かれている料理をひたすら食べていくティリア達。

「……ってそんな料理作ったかな?」

 ティリア達の言葉に首を傾げながらふと視線をその皿に移すと……
 なんてことは無い、普通の料理だった。

「そんなに味が変わってるのか?」

 ひたすらに食べている三人を横目に、幻八も箸をその料理に伸ばす。

「……うん、確かに味が違うな……」

 幻八もその味を確かめるようにゆっくりと口を動かしている。

 ……からん……

 その途端、4人の手に握られていた箸が一斉に落ちた。

「「「「……………………」」」」

 沈黙が世界を支配する。
 いや、外の喧騒は相変わらず騒がしいのだが、それを遥かに超える沈黙が
その場を支配していたのは間違い無い。

「ぐごああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 突然、幻八が例によって全身の服を破りながら某魔獣状態に変わっていく。
 しかし、ARMSに変わった全身がゆっくりと、そして確実にボロボロと崩
れていった。

「わ……我が崩れる……、我が喰われるぅぅぅぅぅ!?」

 などとヴェノムを撃ち込まれたみたいな事を口走りつつ、完璧なまでに崩れ
ていく幻八。
 その時、横でティリア達は仲良くテーブルで突っ伏している。
 ……どうやら千鶴さんに関係するものがあったらしい……
 この一部始終……それが、人知れずこの騒ぎで被害を被った一例であった。
 外の騒ぎとは到底関係ない所で。


 その後の調査で分かったことだが幻八の仕入れた食材に、芹香さんが取り寄
せた物の一部が混在していた事が判明した。
 ……どんな物を使ったんだ千鶴先生……

「……私たち、あそこで何をしていたんでしょうか?」

 ただ、ティリアたちはあまりのショックに記憶を無くしていた事から、この
記録は抹消された。
 ただすべてを知っていた幻八は、

「……罰だ、罰が当たったんだ……」

 と、灰の状態から復活して以来遠い眼をしてそう呟いていたとさ。


(などとえらく関係ない所の話題を書き、本編を一切進ませない初参加の幻八
でした(笑))


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