21世紀記念SS 史上最大のリレーL「学園食糧難事情〜いかにして僕らは餓えに至ったか〜」VOL.5 投稿者:雅 ノボルと血を見た参加者達

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「見えましたっ!」
 ハンドルを右にきりながら鈴香は思わず叫んだ。
 エディフェルの横を走り抜けた宅配トラックが横転しかねない勢いで曲がる。
「後少しの辛抱ですから頑張ってくださいね!!」
 そのまま隣の南に声をかけるが返事はない。というよりもこの時点で南はな
かば気絶していた。
「ええぃっ、ラストスパートっっ!!」
 くぃっとハンドルの右下についたレバーを引くと車体がさらに加速する。
「ちょ、ちょっと、待ってくださ〜い」
 南の悲鳴がどこ吹く風か、鈴香はさらにエンジンの回転数を上げたのだ。

「ご、ごめんなさい……」
「そんなことはいいですからしっかりと捕まっていてください」
 謝る南に対してそう一声書けながら鈴香はハンドルを握りなおしていた。
(……甘かったです)
 一瞬、そんなことが頭の中をよぎる。
 結局南が生徒たちを止めておけた時間は数分だった。
 いくらこみパでヲタクを相手に闘っていた南とは言え、食糧難に見舞われた
生徒たちを食い止めておけるわけがない。
 いや、実際こみパでも流されてたし……。
 もっとも、彼女のおかげで生徒を轢き殺さず、もとい、迂回をせずに校内に
入れたのだから感謝はしているのだったが。
 いまや背後から押しかけてくる暴徒とかした生徒から逃げるために、鈴香は
アクセルをさらに踏み込むしかなかった。
(このまま行ったらちゃんと渡せませんね。どうしましょう?)
 とりあえずは学生食堂を目指しながら走るトラック。
 だが、実際の被害はここからだった。


「見つけたにゃ」
「よし、なら行くぜ!」
 たまの声にイビルが手にした槍を構える。
「じゃ、頼んだわよ、アレイ」
「は、はい……」
 メイフィアの言葉にだが、アレイは決心のつかぬ表情で頷く。
「いいからとっとと行くにゃ」
「そうそう、さっさと行け。そーれ!!」
 アレイの背後からイビルとたまがぐぃっと押す。そう、アレイを落とすために。
「え? あ、ま、まだ心の準備がぁああああ」
 そして見事にアレイが落下していく。


「っ!!」
 ブレーキを踏む。と同時にアクセルを離しハンドルをきる。タイヤが焦げる
ような匂いがし、見事なドリフトが決まった。
 直後に先ほどまで進行方向だったところに何かが落下し、土煙を上げる。
「な、なんですか?」
「わかりません。でも、何かが来ます!」
 南の言葉に鈴香は緊張した表情で答えた。宅配屋としての勘が告げる、何か
の襲撃を感じて。


「ちぃ、失敗したようだな」
「まったく、イビルがあのタイミングで押すからにゃ」
「んだと? お前も押したじゃねぇか!」
「あ、ち、違うにゃ。あれはきっとアレイが鈍いからにゃ」
「どうでもいいけど早く行かないと逃げちゃうね、あれじゃ」
「あ、そうだった。行くぜ!!」
「頑張ってくるにゃ」
「お前らも行くんだよ。さっさと来い!!」
「うみゃぁああ、あたしは戦闘は苦手なんだにゃぁああ」


※ えーと、ネタが浮かんだので二度目もらった夢幻来夢です。
※ でもちゃんと書ききれてない……。後の人、すませんm(__)m
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「え〜と、その車に積んだ荷物はわたし達がいただいちゃいます! から、車
から降りてください!」
 顔面砂だらけになり口からペッペッと唾を吐きながら、とりあえず位置的に
先頭に立っていたアレイが啖呵を切った。
 落下した地点にはしっかり人型の跡が残っているというのに頑丈な娘である。
腐っても魔族という事か。
 その隣に「ヴニャ〜〜〜〜〜〜ッ!?」などと絶叫を放ちながらも、くるく
ると空中で回転し、華麗に着地をキメたたま。だが高度化しすぎた体操では十
点満点を取ることは出来なかった。残念である。
 二人の上からフヨフヨと、そしてパタパタとメイフィアとイビルが降り立つ。
 4人が並んだ姿は、それなりに様になっていた。
「おいこら、なんでテメ〜が主導権握ってんだ?」
「え? あ、で、でもいちお〜これでもデュラル家の突撃隊長ですから」
 4人が様になっていたのは口を開くまでだった。
「口答えすんな! テメーの下に見られそうだってだけでも、こっちは血管切
れそうなんだよ!」
「……もしかして昨日のオーラスでのテンホー、まだ根に持ってるんですか?」
「あれでイビルはトイレ掃除当番に決まったからにゃ。無理もないにゃ」
 たまが訳知り顔でうんうんと肯く。
「って〜か、どう考えても不自然なほど、イビルのツキが無かっただけなんだ
けどね〜」
 額縁に肘を付き、肺一杯に吸い込んで、スハ〜とタバコの煙を吐き出す。
 同族に魂を売るわけにもいかないのが、悪魔のつらいところだ。その辺りの
事情は魔女たる彼女にもわかっている。
「ちくしょ〜。あの時、あの配牌で、よ〜やく光明がって〜か、一気に逆転の
チャンスだったのによ〜」
 イビルが泣き出さんばかりの表情でボヤく。
 とはいえ別段今やろうとしていることとは関係無い。
 ――そのことを言っといたほうがいいのかな?
 などと殊勝にも思いはしたが、実行はしない。
 メイフィアにとっては今回のミッション、さほど気が進まないものらしい。
脱力している様子が「これでもか!」というほど見て取れる。いつも眠そうな
半開きの瞳が、いつもに増して眠そうだ。
「あの……。それで」
 内輪で盛り上がり始めた雀鬼の面々に、窓から半身を乗り出した南が遠慮が
ちに声をかける。とりあえず話のわかりそうなメイフィアに。
 賢明だ。
「どういったご用件なんでしょう?」
「ああ……。うちが貧乏なのは知ってるでしょ? いろいろ資金繰りして収益
をあげようと努力してるんだけど、明日の食費もままならない現状でね〜」
 結構悲惨だ。
 が、それを能天気に述べているせいか、悲壮感はまったくない。
 もとよりそういうものは学園に属している者には無縁という説もある。どい
つもこいつもメゲるという事を知らない奴ばかりだ。
「はぁ……」
「それで今回の食糧難に目をつけて、どっかから食料調達して少々割高で売り
飛ばそうって事になったのよ」
「あ、それは良い考えですね。このままでは暴動が起こりかねませんから」
 もう起こっている。
「そーそー。考えは悪くないのよね〜」
「? 何か問題でもあるんでしょうか?」
「うんまーねー」
 カリカリと頭を掻きつつ、告げる。
「調達する資金が無いのよ、ウチには」
「ああ、なるほど……。え?」
「まーそーいう訳で、山賊まがいのことやろうとしてる訳なんだけどね〜」
 嘆息。
「ちょ、ちょっと待ってください。それじゃ……」
 珍しく声をどもらせ、鈴香が冷静に確認する。
「あなた方の用というのは……」
「ん。ま、『適当に』『どっかから』持ってこようって事になってんだわ」
「そうですか」
 肯いて車を降りる。
 滑り止めのためのグローブを指から抜き、ポケットにしまう。
 視界を妨げる帽子の鍔を頭の後ろに回す。
 両の手を所定の位置に構える。
 瞳に闘志の炎を燃やす。
 覚悟完了。
 戦闘準備良し。
「真心運ぶペンギン便。そのドライバーを務めるからには、ありとあらゆる事
故に備え、障害を排除し、無事荷物を届ける能力を要求されます」
 静かに、告げる。
「邪魔するなら、討ちます」
 静かな。本当に静かな宣告だった。
「……ヘッ。おもしれぇ。人間風情がどこまで出来るか、見せてみなっ!」
 それに応えてイビルが吠える。
「にゃ!」
「突撃準備ぃっ!」
 そして戦場に風が吹いた。


「おぼえてやがれぇ〜」
「あらほらさっさです〜」
「にゃ!」
「戦術的撤退ってヤツよね〜」
 両手を合わせ直立した姿勢のまま、走り去っていく四人をぼんやりと見つめ、
信じられないものを見たように鈴香は呟いた。
「効くもんなんですね、般若心経」
 聖属性だった。


「ルミラ様。囮役が時間を稼いでいる間に、食材の確保に成功しました」
 フランソワーズの報告を聞いて、ルミラが喜色を浮かべる。
「へ〜。やったじゃない」
「ええ。私は飛ぶことが出来ませんから」
「?」
 言葉の意味はよくわからなかったが、とにかく食料を確保できた事に違いは
ない。
「……ま、いいわ。早速売り出しましょ」
「その前に質問ですが」
「何?」
「誰が調理するんですか?」
 空気が凍りついた。
「調……理?」
「はい。食材は手に入りましたが多少手を加える必要があります。緊急に手配
された食料調達第一便は幸いに何者かの手によって強奪されましたが、第二便
以降の到着までさほど時間がありません。高価で売りさばくためには短時間で
調理が出来る人が多人数必要です」
「エ、エビルは?」
「行方不明です」
「幻八」
「ティリアさん、サラさん、エリアさんと共に、生死不明の重体です」
「だ〜。こんな時になにやってんのよあいつらは。……んじゃ、たま」
「食中毒が発生するのは避けるべきです」
「アレイ」
「手が遅過ぎます。人員としては0.5人プラスといったところでしょうか?」
「イビル」
「作業が雑です。仮にもお客様に、お金を出してもらえるものが作れるとは思
えません」
「……私とフランソワーズとメイフィア」
「純粋に人数が足りません」
「…………」
「…………」
「とりあえずしばらく食いっぱぐれる心配は無いわね」
「そうですね。思いつきで行き当たりばったりに行動した割には、悪くない結
果です」
「非難するわけ?」
「とんでもありません。無二の忠誠を誓う矮小な使い魔であるわたくしは、ル
ミラ様を信じて付き従うのみです」
 フランソワーズの返答はどこまでも晴れ渡ったこの蒼穹を写したかのように、
限りなく、ただひたすら嘘臭かった。


 突如ドン底に叩き落された試立Leaf学園の食糧事情を救済するべく救援を要
請されたペンギン便。
 そのエージェントにはペンギン便が誇る最高の人材が派遣された。
 だが、学園とペンギン便社の期待を背負った鈴香は不覚にも無念の涙を飲む。


 学園の混乱の時代は続く!!

                     <餓狼はやりたい放題:悠朔>

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『いきますよ、美加香。必殺、鬼畜ストライクっ!!』
『みきゃぁぁあああ』
『我は放つあかりの白刃っ!!』
『だぁぁ、誰か助けてくれっすぅ』
『この学園を守る、正義の名の元にっ!』
『……ジャッジの名に掛けてっ』
『食わせろおおおおおおおおおっ!!』

 そのころ、警備保障の控え室では。
 モニターに映る各所の惨状を眺めながらへーのきがお茶をすすっていた。

「──よいのですか?」
「え? なにがです?」
「──この状況です。私達も出動するべきなのでは?」
「──シュツドウデス、シュツドウデス」
 しかし、へーのきはDセリオの質問にそっけなく答える。
「その必要は無いでしょう。この程度の騒ぎで」
「──ですが、一部で学園の施設が破壊されているようですが?」
「まあ、このくらいなら、いつもの課外活動での損傷レベルでしょう」
 本当は『あなた達が出ていったらもっと被害は大きくなってしまうんです』
と言いたいのを堪えていたりするのだが。
「──そうですか? では今お飲みになっている薬は?」
「……いつもの奴です……」
 愛用のトランキライザーを手に答えるへーのきだった。


 さらに家庭科準備室では。
「はいっ、お兄ちゃん。あーん」
「あーん(ぱくっ)(むぐむぐ、ごっくん) うん、うまい」
「今度はボクのねっ」
「はいはい(ぱっくん、もぐもぐ) うん、これもうまい」
 笛音とティーナの幼な妻二人に弁当を食べさせてもらっているOLHがいた。
「(ひょい、ぱく、ひょい、ぱく)うん、これもおいしいよ、笛音ちゃん」
「だああ、こらあっ! それはてぃーくんのじゃないっ!!」
 ついでにてぃーくんもいた。
「もう、お兄ちゃん。お兄ちゃんのぶんもいっぱいあるから、すこしぐらいわ
けてあげてもいいでしょ?」
「そうそう。それに足りないんだったら私が作ったの食べればいいでしょ?
 ほら、この煮物なんかどう?」
「……なんでお前までいるんだよ?」
 斎藤勇希教諭もいた。というか、この場所は勇希教諭の管轄地域である以上、
いて当然では有る。
「あら、せっかくこの子達を安全な場所まで誘導して、ついでに君まで連れて
きてあげたのに、そんなこと言うの?」
「ううう……せっかく……今日はせっかく三人でぽかぽか日差しの中でお弁当
食べようねーって約束してたのに……」
「まあ、こんな日もあるわよ。それよりほら、この卵焼きはどう?」
「(ひょいぱく)うん、こっちのソーセージもおいしいよ」
「だあああっ!? てぃーくんはもっと遠慮しろー」
「あらあら、遠慮なんかする事ないわよね?」
「「うんっ!」」
「しくしくしく……あ、これおかわり」


 と、それなりに平穏にこの事態を切り抜けた連中もいる事はいたらしい。

(ここまでOLH。まあ、せっかくだから(笑))

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