21世紀記念SS 史上最大のリレーL「学園食糧難事情〜いかにして僕らは餓えに至ったか〜」VOL.8  投稿者:雅 ノボルと血を見た参加者達

※まずお詫び。
 えーしゅいません。雅です。アップ遅れておりますが、きちんとオチは着けます。
 んであ、本編どーぞ。


ある日、3〜4時限目の休み時間にみやびん達が目撃したのは、寸胴鍋を
抱えた千鶴校長の姿………
噂はあっという間に全校生徒……… いや校内の全員に伝わり、わずかな
食料をめぐってのバトルロワイヤル(を)な昼休みが始まった!
あらゆる思惑がめぐる試立りーふ学園のお昼に、騒乱と言う名の疾風(かぜ)
が舞う!

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「ほんま関東の人間はケチくさいったらないわ」
「普通ケチくさいのは関西の奴だろうが。それに、たこ焼きは昔っから一口サイ
ズって決まってるんだ! そんな一口で食えないような大きさにしたら食いにく
いだけだろうがっ!」
 猪名川由宇とXY−MENは、いまだ戦っていた。己のプライドを賭けて。

 戦いの熱気渦巻くこの屋台では、しかし、いまだに売上は出ていなかった。
 それなりに製品は完成しているにもかかわらず、だ。
 客が傭兵部隊によって近づけないでいることも、その原因ではある。
 だがそれよりも、お互いにお互いのたこ焼きを片っ端から捨てているのが、そ
の主因であろう。
 売り物の無い屋台に売上があろうはずも無い。

 ちなみに結局この不毛な戦いは今回の騒動が終わるまでしっかりと続いていた
ようだ。食材を無駄に浪費しつつ……
 もちろん、風見ひなた、赤十字美加香、Rune、軍畑鋼といった傭兵の面々
が報酬(=昼飯)にありつけたという記録はない。


「ねーちゃん、そっちくれ!」
「はい、良太」
「はぐはぐはぐ……あちち」
「そんな慌てなくてもいいわよ。まだまだいっぱいできるみたいだから」
「おう! あ、今度はそのチーズ入りくれ」
「はいはい」

 そして屋台の裏手では。
 苦笑しながら良太に『廃棄処分』となったたこ焼きを渡している雛山理緒の姿
があった。

【お詫びと訂正:先ほどの記述で『食材を浪費しつつ』とありましたが、
 どうやら無駄にはなっていなかった模様です。お詫びして訂正致します】

(……あれ? 中身とろりの大玉て京風だっけ? ……ま、いいかのOLH(笑))

――――


「さてと、そろそろ前座は終わりね」
  学園屋上。
  セミロングの黒髪を風に揺らし、何者をも魅了せんとすその瞳は真っ直ぐに、
下の惨状を見下ろしている。
「このへんでそろそろ真打ちが出てこそ、場も盛り上がるってものよね……」
  口元に不敵な笑みを浮かべ、女生徒は澄んだ声を学園中に届けと響かせた。
「さあみんな、準備はいい!?
  この広瀬ゆかり率いる風紀委本隊が、この騒乱を見事に静めてみせるわ!!」
「委員長。お言葉ですが――」
「……何?」
  この土壇場で、先程までこの女委員長の側で傅いていた騎士・とーるが、その
重い口を開く。

「――たった2人で風紀委本隊も何もないと思うんですけど」
「言わないでっ……!」

  頬に冷や汗走るゆかり、屋上の風がやけに沁みる。
「しょーがないじゃないのよっ!  気がついたらみーんな個人行動とっちゃって、
誰も残ってなかったんだものっ!
ディルクセン先輩なんか、ここぞとばかりに部下大勢引き連れて抜け駆けするしっ!」
「こんなときに寝ていた貴女が悪いんでしょうがっ!」
「今日の朝方までドラマの収録だったのよっ!  昼休み前に帰って来て、ちょっ
と保健室で寝てただけじゃないのよっ!  みんな起こしてくれないんだからっ!」
「そんなところで寝てるなんて、誰もわかるわけないじゃないですかっ!」
「……ところでとーるくん」
  不毛な言い争いをしていた二人だったが、不意にゆかりがとーるをジト目で睨
む。
「あなた、よく私を見つけられたわね」
「それは……私は学園の治安維持組織、風紀委員会の一員ですから」
「うんうん、それは感心ねえ」
  腕を組んで頷きながらなぜかニヤつくゆかりに、それを訝しむとーる。
「……何をおっしゃりたいんですか……?」
「いやね、ただ、きっとあなたのことだから汗水走らせて新城さんを捜してみた
けど見つからなくて、たまたま偶然ここを捜した時に、私を見つけたんじゃない
のか、と……」
「な……なんでもいいじゃないですか!  それがどうかしたんですか!?」
「……それだけ派手に動き回ったんならあなたのことですもの。大方の現状は把
握できてることでしょうね?」
「あ……!」
  チャラけた裏のゆかりの狙いに気づき、驚きの声をとーるは上げる。
「とーるくん。現状における行動の目標は?」
「暴徒ならびに暴動による不可解現象の鎮圧。並びに千鶴校長の説得」
「了解。前者への対応は現場を駆け抜けながらの協力の要請!
XY−MEN君やレミィ、ううん、生徒指導部にも手を貸してもらうわ!!」
「――それだけではこの現状には役者不足です」
「え?」
  駆け抜け現場に向かいながらの会話。ゆかりのプランに口出すとーる。
「この状態、風紀委だけでは手に負えません。各方面に散らばっている有志達に
対しても意思疎通、相互協力を呼びかける必要があります」
「……有志達……って……」
「ええ、無論ジャッジもそれに含みます」
「……はぁぁ。優秀なのは十二分に認めるけどねえ……」
「委員長。学園存亡の危機に私情は挟まないでください」
  前髪をクシャッと掻きあげて嘆息するゆかりをとーるが窘める。
「……そんな睨まなくてもわかってるわよ。現場の風紀委員。それにジャッジら
各有志に相互協力を求める。いいわね?」
「了解!」  
  疾風の如く一気に階段を駆け降り、現場に雪崩れ込む二人。
「……まあ、ジャッジの活動って目立ちますからね。委員長が嫉妬なさるのも、
わからなくはないですが」
「う…うるさいわねっ!  そんなこと言う前に急ぎなさいっ!」
「ふふっ…了解です」
「まったく…っ!」
  からかわれてるとわかっていても、ついふくれてしまうゆかり。
「それで委員長。後者はどうします?」
「千鶴校長……ねえ……」

  阿鼻叫喚渦巻く現場に入り際、ゆかりの唇が僅かに動く。
「ええ!?  何って言ったんですか!?」
  大歓声の中、ゆかりの澄み切った叫びが今度は、とーるの耳に飛び込んだ。
「臨機応変!  さあ、いくわよ!!」

(YOSSYFLAMEでした。あとはお任せいたします!^^)

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「委員長! 思ったんですがまず協力者を集めるところから始めた方が良いので
は? 四方に散っている戦力を一旦集中し、行動を密にしなければ、ここまで混
乱が助長されている現状の収拾はほぼ不可能です!」
 ゆかりの後を追って疾走する。
 とーるは自分の役割をよくわきまえていた。
 とにかく現状の把握と、的確な助言を出す事に腐心する。
 出来うる限りのサポートを。
 それは自分の持つ性能を最大限に発揮することが可能な命題。そのはずだ。
 だがゆかりはかぶりを振った。
「そう! それはわかってる! でも今は時間が惜しいの! 多数に呼びかけ
るのは後でいい! 手近な人だけ捕まえて!!」
「時間……?」
 言われて確認し、はっとする。
 もう昼休みの時間はさほど残されていない!
「しかし……休み時間が終わってしまえば、事態は終結に向かうはずではない
ですか? 生徒の行動は必然的に束縛されます!」
「甘い! ここまで理性フッ飛ばした連中が、その程度で止まるもんですか!」
 人の波を軽快なフットワークで突っ切りながらゆかりは重々しく宣言する。
「ここはLeaf学園なのよ!?」
 ショックのあまり、一瞬とーるの頭が空白に染まる。
 そうだ。
 確かにそうだ。
 飢えた連中が、そうやすやすと、そうおとなしく教室に戻るわけがない。ここ
はカーニバルとサバトとハロウィンが常に同居するパラダイスだ。
 自分は何を勘違いしていたのかと、少し自己嫌悪に陥りかける。
 それを意識の隅に追いやり、慌てて修正案を割り出す。
 今行かなければならない場所。
「そうか! なら行き先は第一購買部倉庫!」
「正解!! なんとしても死守するわよ!」
「騎士の名誉にかけて!」
「信頼してるわよ!」
 屋上からであったからこそ誰よりも先に見えていた。
 風見鈴香が持てるドライビングテクニックを総動員して疾駆して来る様が。
 あれさえ到着し、無事に食料が調達されるようになれば生徒は落ちつきを取り
戻すはずだ。
 だが今、食料を満載したトラックがこの学園に乗り入れて、無事でいられる保
証はどこにもない。というより、襲撃される確率のほうが遥かに高い。
 ――護らなければ!
 ゆかりととーるは走る速度を上げた。
 余力を残しつつ、そして出来る限り早く。
「いい!? 声をかけるのはルートの途中に居たときだけ! 事情の説明なんか
はあとにまわしてとにかく引っ張ってくること!」
「連れて行くのは大物。つまり組織の中心人物の方が望ましい!」
 並走する二人は肯き合うと二手に別れた。
 だが目的地は同じ。
 ――第一購買部倉庫へ!!



 耳障りなブレーキ音を響かせ、軽トラックが第一購買部倉庫へと突入する。
 それをバックに砂埃を撒き散らしつつ足でブレーキをかけ、とーるはトラック
に追いすがる生徒達の前に立ちふさがった。同時に背負っていた両刃の長刀を抜
き放ち、眼前で一振りする。
「ここから先は通行止めだ! 先へ進みたければ他を当たれ!」
 鋭い一閃と一喝に気圧され、群集の一部が走る速度を緩める。
 が、止まりはしない。
 集団と言う余裕に押され、前へ。
「うるせぇっ! どけぇぇぇぇぇぇ!!」
「ああ! そうさせてもらうとも!」
 言った瞬間にはとーるの姿はそこから掻き消えるようになくなっていた。
 現れた位置は群集の右斜め前方。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 高く掲げた剣を垂直に落とし、柄近くまで大地に縫い付ける。
 再びその姿が消失。
 残像を残すほどの高速移動。
 次の出現点は群集の左方前方。
 大樹の根元にロープをかけ、力任せに引く。
 ロープの先端は先ほど埋めこんだ剣。
「う、おわああああ!!」
 地面から10cmほどの高さに張られたロープに足を取られ、幾人かが転び、
バランスを崩した。前が崩れれば後ろは進めなくなる。将棋倒しになり、それで
大半の動きが止まった。
 それでも先に察知して飛び越えた者も何人か居る。
 走る。
 倉庫へと。
 その先頭に疾風が襲い掛かった。
 ゴキン……と、鈍い音がしたかと思った瞬間、先頭を走っていた者は倒れ伏し
ていた。
 全体重と己の移動速度を総て乗せた、必殺の一撃。
 その手を紅に染め、ゆかりは冷然とした瞳で立っていた。
「……いいのよ? 進みたければ進んでも」
 その足元で倒れたまま、ヒクヒクと痙攣を繰り返す犠牲者。
「私を……私達を倒せれば、だけどね」
 その言葉を合図にしたかのように、姿を現す者達。
「……なるほど。確かに携帯保存食片手に走り回ってる場合ではなかったようだ
な」
 言ってスッと、片手を差し出す。
 掌を下に。
 ゴウッ!!
 音と共にそこから凄まじい炎が吹き出す。
 紫に染まった、灼熱の炎が。
「ここさえ押さえれば、あとはなんとかなる……かな?」
 その傍らに立つ一人が、とぼけた調子で小首を傾げる。
 だがその手には光り輝くソードが握られている。
 彼がその気になれば絶対の壁と呼ばれる障壁を作り出すことが可能だ。まさに
これ以上の壁役はいない。
「風で連絡を取りましたからね、おいおい他の方達も集まってくるはずです。戦
闘は苦手ですから見物に回らせてもらいますよ」
「……戦艦冬月から援護射撃が可能ですが?」
 冬月俊範パートナー、綾波優喜の言葉に、ジャッジのトップ2が首を左右に振
りたくる。
 こんなところで余波など食らいたくはない。
「……生徒指導部部長ディルクセン。以下15名。風紀委員長の指揮下に入る」
「ご苦労様。でも敬礼は必要無いわね」
「フン……」
 苦虫を噛み潰したような表情。
 だがその口元には、確かに笑みが作られていた。
 自ら掲げた大志。治安維持に際して公私混同が出来るほど、彼は悪人ではない。
「さ……どうする?」
 一同を代表するように、ゆかりが群集に問う。
 だがそれを待つまでも無く、今度こそ。
 今度こそ惑える群集は立ち止まっていた。
 進もうとすればどうなるか。その見本を見せられた群集に進む勇気はもう、湧
いてこない。防衛につく人間が集まったと言っても、まだ20人程度だ。全員で
突っ込めば誰かが倒れたとしても、大半が倉庫に辿りつくだろう。
 だが、誰も倒れる側にはなりたくないのだ。
 たとえその確率がいかに低かろうと、倒れ伏す側になる可能性は誰にでも平等
にある。
 狂乱は去った。少なくとも今、ここにあったものは。


 自分の演技力も捨てたものではないと、ゆかりは自賛してみた。
 余裕の表情を決して崩さない。
 足元に倒れ伏している人物に視線を向ける。
 痙攣していたはずのその人物が示す、群集にばれないように密かに親指を立て
たサムアップ・サイン。
 ――お疲れ様、夏樹。
 彼女の最も信頼する側近で親友、貞本夏樹の名演技。
 ――あなたも女優でやっていけるかもね?
 クスクスと笑ってみせる。
 これでさぞかし、冷徹で、無慈悲な女に見えることだろう。
 威圧として申し分無い。
 ――もうしばらくは、時間稼がないとね。
 まだまだ平穏が約束されたわけではない。
 だが、とりあえずの危機は去った。
 今、この場所からは。


 <ふと気付いたがもしかして自キャラ、千鶴先生とファーストコンタクト?
              それよりギャグじゃなかったのか、これ?:悠朔>



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