21世紀記念SS 史上最大のリレーL「学園食糧難事情〜いかにして僕らは餓えに至ったか〜」VOL.9 投稿者:雅 ノボルと血を見た参加者達

※続けてVOL9をお送りします。

 舞台は変わって第一購買部の厨房。
「で、また私は先頭な訳ですか………」
 見かけの被害よりもずっと被害が少ない為に、着ぐるみ用のでっかいファース
トエイドをベタベタとはっ付けたみやびんが先頭で、これに梓、結花のパチモン
コンビが続き、続いて響子先生にハンティングモード寸前のレミィ、一番最後
にがちゃぴんちゃんの縦列行動で、昼間のはずなのに薄暗い厨房の中を移動する。
 既に中の様子は尋常な様子ではなく、紫色の毒々しい煙が蔓延する中を、ほぼ
手探りで煙の発生源を捜索すると言う、見つかっても見つからなくても後が怖い
モードに突入していた。
「なんか……… カサカサ音がする………」
 それどころか、デロデローとかウケケケケとか、「うきゅー」とか、「HAHA
HAー」とか言う音も聞こえてくる………
 イヤ、聞きたくない時に聞きたくもないようなもんが聞こえてるし………
「雅君、宮内さん、梓さん達も許可しちゃうから、遠慮しないで殺っちゃいなさ
い」
 仮にも校医だろアンタ? ってなことをさらっと言ってしまうあたり、かなり
キレかけてる響子先生だった。
「………なんか気が引けるんですけどね………」
 などと言いつつ、改造ショットガンのセーフティを解くみやびん。そして、無
造作に引き金を引くと、煙の向こう側からアフロの毛玉が転がって、力尽きる。
「でも許可が出たんだろ? やるしかないって」
「ていうか、あたしは無性に許しがたい気持ちでいっぱいよ! どうやったら厨
房がこんなになるのよ」
 思いは二人とも似たよーな梓と結花。彼女ら料理人は、何より汚された台所の
状態が許せなかった。
 彼女らの右腕と魔脚が振るわれるたびに、足元には何かの物体……… アフロ
化されたりヒゲ化されたりおさげに寄生させられた一般生徒が転げ回る。
 一方………
「く、くくくくく……… Leeeeeet'S Huuuuntiiiiing Tiiiiiime!!!」
 すでに濃厚すぎる獲物の気配のおかげで、いきなりハンターモード全開のレミィ。
 響子先生に言われるまでも無く、既に矢の餌食になった得体の知れない連中が、
足元をピクついてるらしい。
「マダね、マダマダね。アタシの狩りの疼きを充たせてくれる相手はイナイの?」
 あぶねー事をいっているようだが、まだ味方を狙わないだけの理性は残ってる
らしい。
 かきかきかき……… ぱっ。
『暗くて狭くて怖いの』
 というプラカードを掲げつつ、手持ちのフ○ーザーを撃ちまくるがちゃぴん。
「………諸悪の根源はまだなの!?」
「って、一体何よそれ!」
「諸々の悪行を根本となるモノの存在ね、きっとこの奥だヨ」
「つーか……… 大体予想できるのが悲しいかも………」
「って言う事は……… あの寸胴鍋はここにあるのか………」
『人騒がせな寸胴鍋なの』
 その寸胴鍋を探す、4人と2体の探索は続くっつ!(を

(みやびんです……… おわらねェェェぇ!(T_T))

―――――



「……やっと来たか」
「わりーわりー。人の波が緩むのを待ってたら遅れちまった」
「来ただけでもいいと思うぞ、俺的には」
 校内某所。
 それをどこかと言えば、校舎「リズエル」の屋上である。
 そこに集まったのは合わせて七人。全員男。
 すなわち。
 ……長瀬祐介。
 ……柏木耕一。
 ……藤田浩之。
 ……藤井冬弥。
 ……千堂和樹。
 ……宮田健太郎。
 ……城戸芳晴。
 ほぼ全員が真剣な面持ちで、眼下で繰り広げられている騒動を見据えていた。
「これ以上、問題を広げるわけには行かない」
 耕一が、全員を代表したように口を開く。
「元々、千鶴さんの気まぐれが起こした騒ぎだ。俺が命に代えても止めてみせる」
「俺、昼まだなんすけど」
「この騒ぎじゃ、そうそうは食べられないよ」
「オレはもう食ったからなぁ……」
 その浩之の言葉に、グサリグサリと視線が突き刺さる。
 耕一は、ゴホンと咳払いを一つすると、全員を見回して言葉を続ける。
「それで、だ……この場に集まってくれたみんなに、この……」
 ここまでで言葉を切る。
 そして続ける。
「絶望的な作戦を、手伝ってもらいたい」
 その眼は、逡巡も気後れもなく、ただ、決意と信頼に満ちている。
 そして、それを見返す面々の目もまた、同じような光であふれていた。
「うん。僕が……役に立てるなら」
「ったく、しょーがねぇなぁ。やってやろーじゃねーか」
「ご指名を受けておいて、断るわけにもいかないだろ?」
「ま、修羅場モードに入ったつもりでやってやるさ」
「面倒ごとには慣れてるよ」
「このままじゃ、何かと不便だし」
 全員の言葉を聞き、全員が頷き交わす。
 立ち位置で円形を作ると、円陣を組むかのような雰囲気で、
全員が一斉に右腕を差し出した。

「一人はみんなのために! みんなは一人のために! 我ら……主人公のために!!」

「復権を!」「役割を!」「自我を!」「名声を!」「関係を!」「伏線を!」「出番を!」

「「「いくぞ!」」」
「「「「応!!」」」」



 ……その一方で、策も何もなく厨房に突撃していたメンバーは、危機に瀕していた。
「響子センセェぇぇぇっ!! どーするのよぉォォォっ!?」
「口動かしてる暇あったら脚を動かしなさいっ!!」
  唯でさえ、相手は「あの」柏木千鶴が製造していた料理である。
 いや、恐らくは、未だ現在進行形で調理を続けているのだろう、前に進むにつれ、
敵と呼称して差し支えないものの襲撃が、次第次第に勢いを増しているのだ。
 まずはレミィの矢が尽き、そして各種銃器の弾薬・エネルギーが尽きた。
 今や、戦線を保っているのは梓と結花のおかげと言っても過言ではない。
 他のメンバーはと言うと、レミィがその道16年の突き飛ばしで時間稼ぎ、
みやびん・がちゃぴんはそのサポートに回っている。
 響子先生は……狩猟者に襲われたような表情をしているとだけ言っておこう。
「ひぅ……だ、誰よ!? こんな所に来ようなんて言ったのは!?」

 あんただ、あんた。

 そんなツッコミもできないほど、全員が必死になっていた。
 そして……いよいよ戦線崩壊の時が近づいてきた。
「つぅっ……!!」
「結花ちゃんっ!?」
 突然、がくりと膝を折る結花。
 その隙を衝いてか、数体の敵が飛びかかるが、すんでの所で梓に打ち払われる。
「大丈夫っ?」
「ちょっと……キツイ……かも」
 いくら体力に自信があってスポーツマンで凶暴で貧乳(宮田健太郎・談)とはいえど、
結花はごく普通の女の子である。
 エルクゥの血を引く梓や、ハンター・モードに入って脳内麻薬垂れ流し状態の
レミィとは違い、限界は早く訪れる。
 後退して響子先生に治療を受ける結花。
 そのフォローに入った梓の傷が、見る見るうちに増えていく。
『このままじゃ、もたないの』
「手、動かす暇あったら単独で突っ込みまくるレミィのフォローしてください」
 バトりながら器用に筆記をこなすがちゃぴんと、それをたしなめるみやびん。
『ここは、ぼくたちふたりが囮になるしかないの』
「なってどーするっ!?」
『←あそこに、ガスバーナーがあるの』
 ご丁寧に矢印まで沿えて、敵をぽかぽか殴りながら会話を成立させる。
 一応、言うほど簡単ではない。
『あれを使って、一気に焼き払うの』
 幸い、既に敵影には生徒らしき原形を留めている者はいない。
 ほぼ全てが動物や植物の類が突然変異したものである。
「やってみる価値は……あるかもな」
『なの。この間読んだ雑誌にも、似たような状況があったの』
 深く考えることはせず、みやびんは響子先生に呼びかけた。
「響子先生! 僕たちで敵のど真ん中に突っ込んで、血路を開きます!
その隙間を衝いて、あのガスバーナーまでたどりついてください!」
 それを聞いて、即座に作戦の意図を理解する響子。
「火攻めってワケ、か……でも、あなた達は大丈夫なの?」
「ふもっふ!」
『なの』
 ボイスチェンジャーを作動させるみやびん。
 ホワイトボードを投げてよこすがちゃぴん。
 二人が決して後に引かないという決意が、その行動からひしひしと感じられる。
「……あたしに、行かせてください」
 結花が、毅然とした表情を浮かべて立ち上がる。
「でも……大丈夫?」
「平気です。みんな頑張ってるのに、あたしだけ黙ってられないから」
「……わかった。気をつけてね」
 立ち上がり、ダッシュの構えを見せる結花。
 ここぞとばかりに獅子奮迅の動きで敵を出来るだけ一カ所に押し込む梓とレミィ。
 そして、そのただ中に突っ込むみやびんとがちゃぴん。
「今よっ!!」
 結花が、駆け出した。


 痛い、痛い、痛い。
 脚が悲鳴を上げる。全身に気怠さが重くのしかかる。
 しばらく感じることのなかった感覚。

 この感覚を忘れていたのは、いつ頃からだったか。
 もうすっかり昔の話で、さっぱり思い出せない。
 ……けれど、一つだけ思うことがある。
 夏。
 健太郎やスフィー、リアンと行った、海水浴。
 あの時やったビーチバレーの時に、自分以外はみんなこんな感じだったんだろうか。

 疲れた。
 休みたい、止まりたい、座りたい。
 眼を閉じて、横たわって、全身の力を抜きたい。
 なんか、ふにょっとした枕とか、そーいうので。
 眠い。

 だんだんと思考能力が低下する中、ガスバーナーが結花の手の届く範囲に入った。
 手を伸ばし、ひっつかむ。
 そこで、気づく。
  ……ホースが、ボンベに繋がっていなかった。

「ダメじゃん」

 ひときわ大きな脱力感が、彼女を襲った。

 その時。

 轟っ!!

 熱風と高熱を伴い、何か巨大な質量を持ったものが、炎と共に駆け抜けていった。
 その炎の舌に舐められた敵は灰と化し、囮の二人もギリギリで解放される。
「この……炎は!?」
「お待たせしましたね」
 駆け抜けていったものの方から声がする。
 見れば、そこにあるものは一台の乗用車。
 そして、その傍らに白衣の男性。
「まったく……校医は一人だけじゃないんですから、無茶はしないで下さい」
「ふう、なんとか間に合って良かった……」
「NTTT先生! それに……FENNEKくん!」
  が、援軍はそれだけではなかった。
「ほらほらっ! ケガ人に近寄るんじゃないわよっ!!」
「マナちゃんっ! 無茶はしないでくださいっ!!」
 結花に寄る敵を思い切り蹴飛ばす観月マナと、それを援護する八塚崇乃。
「ほりゃあっ!! こっちは無傷やっ! かかってこいやぁっ!」
 梓の獲物をまとめて刈り取る勢いで暴れ回る夢幻来夢。
 戦況は、一気に傾きを異にしはじめた。

「……さて、大丈夫ですかな?」
「あ、ああ……いや、はい」
 やたらに矍鑠とした老人に声を掛けられ、梓は多少混乱しつつ返事を返した。
「なつみくん、頼みますよ」
「はい」
 その老人に促され、なつみと呼ばれた一人の女の子が梓に近づく。
 そして、梓の胸元に手を当てつつ、眼を閉じて精神を集中する様子を見せた。
「……え?」
 その瞬間、女の子の手から光が発され、梓の身体から痛みが引いていった。
 光が消えたとき、梓の傷はすっかり癒やされていた。
「……嘘みたい……まあ、この学園で今更って気もするけど」
「まあ、事実は事実ですからな」
 ……気のない様子でつぶやく老人に、しかし梓はびしりと指を突きつけた。
「そうそう。あんた、どこかで見たと思ったら、骨董のテレビで出てくる人」
「ええ……長瀬源之助です。こちらの子は牧部なつみ。君とそう歳もかわらんはずだ」
「よろしく……」
 ぺこりと頭を下げるなつみ。
 なんとなく間の抜けた雰囲気を感じ、梓は頬を掻きつつ生返事を帰す。
「ああ……うん、よろしく」
 と、そこで響子先生の突拍子もない声が響いてきた。
「ああっ! そう言えばNTTT先生、ガスマスク無しで平気なんですか!?」
 それを聞いて梓も気づく。
 さっきから次々と現れた面々、いずれも防毒装備を装着していなかったのだ。
「心配無用ですよ」
 また新しい声がする。
 今度の声は、梓にもわりと馴染みのある声だった。
「そこのティー、解りやすいように説明しなさい」
「はいはい」
 いつの間に現れたものか、T-star-reverseがいつもの笑顔でその場に立っていた。
「一応、あちこちと連絡を付けましてね……来栖川さんとマールちゃん、それに
ここにいる長瀬さんの協力を得て、この……空間まで歪み始めてる厨房の空気を、
浄化する作業を、急ピッチで行ってたワケです」
「なるほど……あの飛行船ってのも、必ずしも道楽でもなかったわけか」
「空気の浄化のために一番役に立つのは、やはり新鮮な空気ですから」
「マールちゃんが飛行船を使って上空の空気をコントロールして、それから
芹香さんの儀式で開いたゲートで、大量の新鮮な空気をここに運ぶ。
あとは、魔法で浄化作用をブーストする……言うほど簡単ではないですがね」

 解説役。
 その役をきっちりこなしたことを確認すると、ティーはさらに厨房の奥へと
足を進めようとするメンバーを止めにかかる。
「何でやねん、これ以上進んだらあかんねって……?」
「ま……いろいろありまして」
「色々って何だよ」
「……色々です。色々。男の意地を賭けた、とでも言いますか……」

 先に中心部に向かった七人の勇者達を想い、ティーは祈らずにはいられなかった。
 どうか……彼らに幸せな結末があらんことを、と!



(ここまでティー3回目です。さあ、最終決戦だ:笑)
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