21世紀記念SS 史上最大のリレーL「学園食糧難事情〜いかにして僕らは餓えに至ったか〜」VOL.12 投稿者:雅 ノボルと血を見た参加者達




  刹那、レミィが疾風の如く動いた!
  目標はただ一つ。三人の中で唯一運動神経が人並みの香奈子を押さえること!
(月島の計算は間違ってはいないさ。何故なら――)
  しかし、それを見越していたかのように、Runeがレミィに向かい手を伸ばす!
(――何故ならばレミィ。
テメェがそう動くことさえ、月島の、そして自分の計算内だからさ!
――喰らえ!)
「我眠る琴音の波紋!!」
「させるかぁ!!」

「ミ、ミヤビンッ!?」

  Runeの放った昏睡系音声魔術。
  その波動が今まさにレミィに到達せんとしたその瞬間、倒れ伏していて動けなかった筈
のみやびんが、己の身を挺してレミィをかばい止めたのだ。
「俺に構わず行けーーーーーーっ!  レミィッ!!」
「――クッ!」
  みやびんの身を張る行為に駆け寄ろうとしたレミィ。
  だがその前の、みやびんの叱咤によってレミィは進む。当初の目的通り。
「させないっ!」
  が、既にその場に香奈子はいなかった。
  暗躍生徒会第3の男・健やかに間一髪香奈子は連れ去られてしまったのである。
「クッ!」
  その後を懸命にレミィは追う。しかし相手は学園屈指の健脚。
  追いつける間もないレミィに再びRuneが照準を向ける!
「喰らえ今度こそ!  我眠る琴音の波紋!」
『そうはさせないの!』
  バシイッ!
  Runeの音声魔術を、今度はがちゃぴんが盾となり阻止してのける。
「ガチャピンッ!………クウッ!」
  がちゃぴんに気を取られるレミィだが、自分のすべきことを思い出し追い続ける。
  しかし、香奈子を抱えた健やかの超健脚に追いつける見通しが全く立たない。
  普段こそ温厚で毒無くボケっとしているが、暗躍生徒会副会長にして中核の一人。
  咄嗟に香奈子を庇った機転といい読みといい、まさにその実力には恐れ入るほど。
「やるネ、スコヤカ……ケド、ワタシは負けナイ!ミヤビンとガチャピンのタメにモ!」
「さすがはレミィ……けど、追いつかれはしない!  俺達の誇りの為にも!」
  果てしなく続く、お互いの意地を賭けたレミィと健やかの追いかけあい。
  本来同じ暗躍生徒会の仲間同士がよもや敵味方となり、こうして闘っている瞬間。
  しかし二人、いや、彼らの間には憎しみなど無い。
  そこにあるのは、互いに認め合ったもの同士、敵味方に分かれようとも己の意志を貫か
んとする、二人の戦士の熱き想いだけ。
  しかし、そんなチェイスにも終わりがやってきた。
  充分に魔力充填が終わったRuneが、三度レミィに狙いを定める。
  今度はみやびんもがちゃぴんも、彼女を守る盾はない。
「今度こそもらった!俺達の勝ちだレミィ!  喰らえ!我眠る琴音の――」
  その時!

「うあ……っ!」
  ズダアアンッ!
  よもやまさかの健やかの転倒。
  しかも後頭部をしこたま叩きつけ、起き上がる気配が無い。
「健やか先輩っ!」
「すこちゃん!?」
「スコヤカ、大丈夫!?」
  倒れ起き上がらない健やかに、香奈子やRune、それに今は敵のレミィまでもが、脇
目も振らずに駆け寄ってゆく。
「健やか先輩……なんで……?」
  半分泣きそうな表情を浮かべ、彼の手を掴む香奈子。
  何かに足をとられ、転倒するその一瞬、受け身を取ろうとすれば楽に取れた展開。
  しかし健やかは香奈子の身を案じ、自分の身を盾にし香奈子を無事地に下ろした。
  その結果、自分が受け身が取れずモロに後頭部を打ちつけることをわかっていながら。
「……ったぁ……」
「先輩っ……!」
  起き上がれなかった健やかの意識がちゃんとあった。
  これだけでも、香奈子にとっては十分過ぎた。
「脳震盪だな、おそらく」
「それなら、外にキョウコ達がいるネ。見てもらえば」
  今のレミィの頭の中には、戦闘意欲などこれっぽっちもなかった。
  あるのはただ、仲間に対する気遣いだけ。
「そうだな。それじゃすこちゃんを診てもらうとしよう」
  そしてそれは、Rune達も同じ。
  仲間のダウンを前に、変なメンツに拘る彼らでもない。
「休戦……だな」
「ウン……引き分けネ」
  ここに3対3の対決は、引き分けという形で終止符が打たれた。
「ああ、それと」
  思い出したかのように、Runeがレミィに告げる。
「あいつら二人、ただ眠らせてるだけだからな。意識が回復したら、自分で歩いていけ
るだろう。ただそれまでは、側で看てやったほうがいい」
「ウン……」
  そう言い残し、Runeと香奈子は健やかを連れて、戦線離脱していった。
  遠くではまだ、十勇士と暗躍側の激しい戦いが繰り広げられている。
  それをよそに、レミィはみやびんとがちゃぴんの側にいた。
「アリガト………」
  いかにも気持ち良く眠ってる彼らの額に手をやって、レミィはそっと呟いた。



「えらい待たせたなあ……よっしー……」
  レミィ組vs香奈子組の決着がつきしそのころ。
  そうこうしているうちに、復活した来夢が再び、YOSSYの前に立ち塞がる。
「なあ、もう引き返してくんないかな。これ以上やっても延々と同じ結果だぜ。
言っとくけど俺、今のお前の最大のネック・牧部さんを逃がすつもりなんかないよ。
お互いに疲れるしさ。そのほうがお互いにとっていいと思うんだけど」
  少なくともこの勝負において、なつみを盾に来夢を誘き寄せる戦法をとりつづけている
限り、YOSSYの絶対有利はまず動かない。
  が、そのたびになつみによって回復を施された日には、待っている決着は、互いの疲れ
によるダブルノックアウトのみ。
  そんな風に勝負が見えているのに、長々と闘り続ける根性はYOSSYにはない。
「お互いにとって、か………物は言いようやな、よっしー」
「……何?」
「あんなあ……同じ格闘部の俺をあんまりナメんやないで」
  そこらの女性と比較しても遜色ない端正な面差しの来夢の口が、ある確信に歪む。
  YOSSYの持論の致命的な欠点が、来夢の口から語られる。
「お前さあ………俺と闘りあう前に一戦ほどやったやろ。
その結果――おそらく烈風乱舞やな――最初に乗り込んできた七人の内の一人が、キサ
マの手によって葬られた」
「ああ、確か城戸とかいったっけな。相当手強い相手だったぜ。奴等の混乱に乗じなけ
れば、果たして勝てたかどうか……」
「その闘いで、や」
  YOSSYに指をビシリと突きつけ、確信を込めて来夢は告げる。
「キサマ、ホンマのところ、今立ってるのがやっとやないんか?」

「……へえ、面白い推測だな、来夢?」
  来夢の推測にもただ口元を緩めるのみ。木刀を静かに構え、戦闘態勢に入る。
「お前の推測が当たってるかどうか……」
  刹那、YOSSYの姿が掻き消えた。
「――お前自身の手で確かめてみな!」
  ダンッ!
  消えたと共に、来夢目掛けて痛烈な一撃を加える。
  ダンダン、ダンッ!
  二発三発、YOSSYの猛攻の前に来夢は、亀のように身を縮こまらせているだけ。
「ヘッ!どしたよ来夢!  腰引いて縮こまっちゃってよ!  女みてえだなテメェは!」
「ちょっと、女みたいってそれどういう意味よ!  女性蔑視の発言よ!」
「だああ!  真に受けるなあ!」
  来夢にとっての禁句をあえて口にし挑発し攻撃させる腹積もりだったが、ただなつみの
怒りを意味も無く煽るだけの結果になる。
  その間も来夢は何も言わず、亀のように身を縮めるだけ。
「こーなったら仕方がねえ、無理矢理でもぶち開けるぜ………絶・烈風乱舞!!」
  瞬間、袈裟斬りからの雨のような斬撃が、止むこともなく来夢の華奢な体に降り注ぐ。
「いくら縮こまってても、これにはひとたまりもねえだろう!」
「へえ………今何かしてんのか?」
「!!」
  縮こまったその態勢のまま、来夢がほくそ笑んでいる。
「城戸さんが倒れはったんは、決して無駄ではなかった………、………城戸さん」
  縮こまった奥の来夢の瞳がギラリと光る。
「仇取らせていただきます!  喰らいやぁぁ!!」
  ゾク……
  YOSSYが背筋に寒気を感じたときには、既にもう手後れだった。
「――神威のSS・黒破…雷神槍ぉぉおおおおおおおおっ!!」

  バチイイイイッ!!!
「があああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

  未だ雑なれど来夢の黒電の前に、さしものYOSSYもたまらず、今ここに崩れ落ちる。
  この一撃の為に、力を溜め続けていた来夢。
  100万ボルト強の凄まじい黒電の拳の想像を絶するそれは、あのしぶといYOSSYを
相手にしてさえ、断末魔と共に地に沈めるには十分過ぎる威力を持っていたのである。
「夢幻くんっ!」
  来夢の勝利を確信し、なつみが彼のもとに駆け寄る。
「夢幻くん、大丈夫……?」
「ああ。治癒はええよ、あんたも疲れるやろ。な?」
「夢幻くん……」
  傷だらけになりながらもなつみの治癒にかかる負荷を気遣い、とどめる来夢。
「だから言ったんや。同じ格闘部の俺をナメンな……ってな」
  黒焦げになって倒れ伏してるYOSSYに、やるせない視線を来夢は向ける。
「今のお前の烈風乱舞、一体本来の何分の一の威力や。……アホでもわかるでそんなん」
  最初の烈風乱舞を食らった時に、来夢には既にわかっていたのである。
  YOSSYの戦闘力は、その時点で既に尽き果てていたことを。
  そしてそれは同時に、それだけ城戸芳晴という男の力が底知れないことを指していた。
  おそらく本気を出すその前にYOSSYの軍門に下ったのであろうが、それですらYO
SSYに対し、これだけの置き土産を残せる男。
「まったく、底知れん人やで……」
  来夢の口から笑みが漏れる。それは期待か恐怖なのか。

「牧部」
「ん、なに?」
「悪いけど、コイツ治してやってくれるか?」
  なつみに対し微笑みながら、倒れているYOSSYを指差す来夢。
「いいの?  こいつのことだからまた、治った途端に……」
「そりゃないそりゃない。ああ見えて決着がつけば結構潔いヤツやから。それに……」
  パタパタと手を振りながら愉快そうな笑みをなつみに向け、来夢は続ける。
「……友達やからな。コイツは」
「夢幻くん……」
  果たして来夢は気づいているのか。
  なつみの彼を見る瞳が、いつもと違う色を帯びていたことを。



「ええいっ!  ハイパードライヴすねキック!」
  ゲシイッ!
「ガハハハハ!!  今日は蚊がよく刺すのお!!」
  マナの飽くなき威力のすねキックの数々が、13使徒の怪物・平坂蛮次相手には、全く
といっていいほど通じない。
「くそ、いい加減倒れなさいよ!  こうなったら――」
「さて、もうええやろ」
  マナのすねキックに対し、平坂もまた渾身のローキックで応える!
「これで終わりやあ!!」
「ナメるなあ!  真・雷獣すねキックっ!!!」

  バチイッ!!!

  二人の放ちしキックの応酬は全くの互角。だが……
「き……きゃああああっ!!」
  バアァン!
  マナの華奢な身体が吹き飛び、壁に叩き付けられる。
  キックが全くの互角と言うことは、体重の軽いマナが吹き飛ばされるのは必然。
「く……っ!」
  脛のダメージプラス壁に激突したときのダメージが加算され、マナは起き上がることが
できず、その場で悶え苦しむ。
  そしてそれほどの絶好機を、この平坂が見逃すはずはなかった。
「ちゅ〜る〜ぺ〜た〜」
「ひい……!」
  なにやら鬼気迫る勢いを持って、欲望の権化、平坂蛮次は一歩一歩マナににじり寄る。
  足を壊し動けぬマナ。後ろに後ずさろうとも、後方は壁。
「ちゅ〜る〜ぺ〜た〜、夢にまで見たちゅるぺたじゃ〜〜〜」
「あ、ああ……」
  普段気丈なマナの表情が、恐怖に彩られる。
「ふははははぁ。恐怖に歪むちゅるぺたの顔こそ我には最高の美酒ぅ〜〜〜」 
  両指をワキワキさせながら、舌なめずりしながら、マナの恐怖に脅える表情すらも、極
上のワインを味わうかのように、一歩一歩ゆっくりと近づいてゆく。
  そして、ついにその腕が恐怖に震える獲物の肩にゆっくりと置かれたその瞬間。
  マナの喉から全ての衝動が悲鳴と化し迸った。

「八塚くん……助けてえええええええええええええええええええええええええ!!!」

「――ぐぎゃああああああああああああああああああああああ!?」
  その瞬間、マナの裂帛の悲鳴と同時に、なんと平坂の巨躯が炎に包まれた!
「………え?」
  あまりのことに、その成り行きを呆然と見つめるしかマナにはできない。
  そんな彼女の目の前で、全身を炎に包まれた平坂は、絶叫を上げのた打ち回る。
  ダーク13使徒の怪物・平坂蛮次唯一の弱点。
  それは、肉体攻撃に対しては豪勇堅固他ならない彼の強靭な肉体が、事もあろうか、魔
術の類には恐ろしく耐性が欠如しているという、致命的な弱点を有するということ。
「がっ、がっ、があああああああああああああああああああああああっ!!!」
  断末魔と共に、巨躯がここに崩れ落ちる。
  かくて、全身を魔術の炎に包まれた平坂は、なす術なく打倒されてしまったのである。
「ど……どうなってんの……?」
  その一部始終を、ただ呆然と見つめていたマナ。
  腰が抜けてしまっていることにも気づかずに、炎に包まれた平坂を見続けていた。
「はっ!………八塚くんは!?」
  唐突に思い出す。
  自分にとっては甚だしく不覚にも助けを求めてしまった、そのパートナー八塚崇乃は一
体どうしたか。マナは必死にあたりを見回し、そして……いた。
「八塚くんっ!!」
  そのパートナーは、全身を血の海に沈め、床に倒れ伏していたのである。
  腰が抜けてるにもかかわらず、八塚の元へ這って寄るマナ。
  そして、彼の元についたマナが目にしたものは――

『偽ル者ヲ噛ミ砕ケ、焔纏イシ黒豹ヨ』

  八塚崇乃の感情が針を振り切ったときのみに発動する、炎系の音声魔術。
  平坂に喉を潰され音声魔術を使えなかったはずの八塚の魔術発動方法。
  それは、自らの腕を切り、致死量にも匹敵するほどの血液でもって血文字を彩り、音声
の代わりに其れを媒介に技を発動させる、音声魔術士、いや、全ての魔術士にとっての
邪法中の邪法。音声魔術ならず、血誓魔術とでも言おうか。
  魔術とは想いの力によって、その形、威力、属性さえも変わるもの。
  マナの悲鳴を耳にした瞬間、何よりも彼女を助けたいという、あまりに強すぎるその願
いが、その邪法を可能にしたのであろう。

  大量出血で気絶している八塚を背負い、マナは必死に外へ向かう。
  しかしおそらく、八塚は無事復活することだろう。
  魔術とは想いの力によって左右されるもの。
  さすればマナの想いによって、発動後の結果さえも、左右してしまうのであろうから。

  二人の立ち去りしその後には、強い想いの血文字のみが残されていた。