21世紀記念SS 史上最大のリレーL「学園食糧難事情〜いかにして僕らは餓えに至ったか〜」VOL.11 投稿者:雅 ノボルと血を見た参加者達




「行けえ!  下水ワニどもよ!」
「っ!!」

  ガチン!ガチン!ガチンッ!!

  凄まじき咀嚼音を轟かせるのは、間一髪身を躱した結花の足元に群する獰猛な鰐達。
「この攻撃……!  健太郎をやったのはあんたね!?」
「……健太郎……?  ああいたなそういえば。アッサリやられたアレのことか?」
「な、なにぃっ!?」
  さすがに今の一言は腹に据えかねた結花。
「くらえぇ!!  必殺・音速の魔脚!!」
  ビキィッ!  ズダァン!
  ものすごい蹴撃を脇腹にくらい、倒れ伏す男。
「これで決まり………ええっ!?」
  結花の顔が驚愕に染まる。
  かけては仕損じた事の無い音速の魔脚をマトモに食らいながらなおも……
「ふう……棒手裏剣を腹に仕込んでなかったら、さすがにヤバかったな……」
  よっ、と立ち上がり、そして構える男。
「……そういえばまだ名乗ってなかったわね。江藤結花。健太郎の仇は必ず討つわ」
「暗躍生徒会・Hi-waitだ。 女とて容赦せん。絶対正義の元、貴様を倒す」



「何故君が暗躍に荷担する?  清廉なアフロ同盟員の君が」
「フ……」
  歩く車載兵器・FENNEKが何やら問い掛ける。対して、
「俺はアフロ同盟でもあるけど、同時に生物部でもあるんですよ。
この異常現象での実験。植物の変異。研究しない手はないでしょう!」
  血走らせた笑みを浮かべ、アフロ同盟にして生物部・Yinが彼と対峙する。
「君の望みは叶えられそうもない。この状況はなんとしても打開しなければならない」
  やるせなく呟き、火炎放射器をYinの回りの変異植物に向ける。
「――悪く思わないでくれ」

  ゴオオオオオオオオオオオオッ!!

  FENNEKの火炎放射器が火を噴き、Yinの植物群はなす術なく燃え尽きた。
  ――かに見えた。

  シャギャアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!

「な、なにいっ!!」
  FENNEKの顔に焦りが走る。
  なんと彼が焼き払ったと思われた植物群から、さらにおぞましい、ハエトリソウの巨大
バージョンとも思える植物群が見る見るうちに巨大化し、あまつさえ物凄い殺気を込め
て、FENNEKを威嚇しているのだから。
「……南米の多年草植物・オジギソウ。これは俺が改良した食人植物バージョンさ。
コイツは難儀な事に、火気を孕むものに強烈な敵意を宿す。つまり……」

  シャギャアアアアアアアアアアアッ!!!
「どうやら、あんたを敵として認識したらしい。――覚悟したほうがいいぜ?」



「で……あたしの相手があんたってことだね……」
  目の前に立ちはだかる包帯姿の巨漢を前にし、梓の顔に緊張が走る。
「……………」
  物言わぬ巨漢のミイラ男は、ただ黙って梓との間を詰めてゆく。
「暗躍もどーゆー奴を子飼いにしてるんだか。まったく……」
  梓が愚痴ったその瞬間、男は動いた!
「チェイサーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
  梓必殺の剛拳が男を返り討たんと繰り出される……が!?
「なにっ!?」
  その得意の右正拳をあっさり躱したどころか、その右腕を瞬時に肩に背負い――
「うわあああああああああああっ!!」

  ドオオオオオンッ!

「ゲホ、ゲホッ!………ハァ、ハァ!……ゲホッ!!」
  綺麗に背中から投げ落とされた梓のダメージは尋常ではない。
  その上なおも押さえこもうとするミイラ男の反撃をなんとか躱し、態勢を整えるが……
(こ、こいつ………やる……!)
  慎重に間を取る梓の顔は、先程とは違う鬼女の顔。



「ちゅるぺたあああああああああああああああああああああああああっ!!」
「な、なんなのよコイツ……っ!  雷獣すねキック!!」
  ゲシイッ!
  本日5度目の雷獣すねキックが見事に男の脛に決まる。
  が……
「ふああっ!  おとなしく観念せんね!!」
  なにやら凄まじい桃色の執念を宿し執拗にマナを狙う男、ダーク13使徒・平坂蛮次。
  その巨躯と怪力に物言わせ、一気にマナを捕まえようとするが、間一髪のところでマナ
もまた、その小柄な身体を生かし、平坂の魔の手から辛くも逃れる。
  が、それもいつまで持つことか……
「グフフフフ……大人しくワシに身を任せれば、至上の快楽を味あわせてやるけんのう
……」
「八塚くんっ!  ボケっとしてないで助けてよぉっ!!」
  なんかLメモに載せるにはあまりに抵抗のあるセリフを吐きながら一歩一歩、ジワジワ
とマナににじり寄る平坂蛮次。
  そんな平坂の魔の手に迫られ、たまらずパートナーの八塚に助けを求めるが……
「ガッハハハハハ!!  そやつに助けを求めても無駄だというのがわからんけんのう?
そやつの得意である魔術は、最初にワシが封じたんじゃけえのお!」
「――ッ!」
  豪傑の彼らしく、その笑いも豪快の一言。
  平坂の言う通り、八塚は初っ端から平坂に捕まり投げを打たれ、音声魔術士の命という
べき喉を、この戦いの序盤に潰されてしまっていたのである。
  なつみに頼めば治してくれるのだろうが、なつみもまた闘いの中、はぐれてしまってい
る。
  今や八塚は押し寄せる多数のメタオに押し寄せられ、マナを救える状態ではない。
「暗躍の会長も粋な計らいをしてくれるものよ。
こんな極上のちゅるぺた娘を用意してくれるんじゃけえなあ……」
「ひっ……!」
  そう。
  平坂を八塚&マナ組にぶつけ、二人に対抗する対策までもの彼に対しての入れ知恵。
  まぎれもなくそれは月島拓也の仕業。
  平坂だけではない。
  YinをFENNEKにぶつけたのも。
  謎の柔道ミイラを梓にぶつけたのも。
  Hi-waitを結花にぶつけたのも。それ即ち月島必勝の策略に他ならなかった。
  パートナーが潰され自身の技すら効かず、八方塞がりのマナ。
  彼女が平坂の毒牙にかかるのは、もはや時間の問題であった。

  そして、月島必勝の組み合わせは、向こう側の対戦でも例外ではなかった。



「ホラホラどうした来夢!  反撃してこなきゃ面白くもなんとも……ねえじゃんよ!」
  バキイッ!
  木刀の一撃をモロに食らいよろける来夢。
「それにしてもまあ歯ごたえが無いこと。いったいどうしたの、ん?」
「グ……なにを、しらじらしい……!」
  と言われるや否や、男の姿が掻き消える。
  男は定めている。次の攻撃目標を。
  夢幻来夢にではない。彼から少し離れている少女、牧部なつみに向かって。
  ――ドンッ!
  疾った!
「シャアアアアアアアアアアアアッ!」
「……っ!」
「クッ!!」
  男の移動軌道はなつみに一直線。
  来夢としてはなつみを守る為、その軌道上に立ち塞がらざるをえない。
  が、それは、男の攻撃の格好の目標になるということに他ならなかった。
「クソ……黒い牙ァッ!!」
「ヒュウ!」
  なつみの軌道に割り込んだための不安定な体勢。
  そこからの“黒い牙”など、男にとっては何ら脅威ではない。
  難なくそれを躱した男。
  裂帛の気合を込め、反撃の、そしてトドメのそれを放った。
「絶・烈風乱舞!!」

  刹那、来夢の小柄な体は高く舞い上がり、地に叩きつけられた。

「夢幻くんっ!!」
  力尽き倒れた来夢に無我夢中で駆け寄るなつみ、その眼前に木刀がつきつけられる。
「――それ以上近づかないでくれるかな。回復魔法使われたら俺も骨だし」
「あなた……!」
「お、そうだ、自己紹介遅れたな。
2年のYOSSYFLAME。よろしく、牧部なつみさん」
「知ってるわ………噂通りの卑怯な男ね」
  あくまで軽やかな調子のYOSSYに、露骨な敵意を向けるなつみ。
「そういう闘い方しかできないの、あなたは。女を囮に仕留めるやり方しか……!」
「んー……できないわけじゃないけど、楽じゃん、そっちのほうが」
  実際問題、YOSSYと来夢は同じ格闘部の部員。互いの実力など百も承知。
  どっちが勝つのかわからないほどの闘いならば、より勝ちに近い闘いをするのが当然。
  例えそれが“卑怯”と呼ばれる闘いであろうとも。
「くっ……!」
  もう話もしたくないとばかりに、来夢の側に駆け寄るなつみ。
  そのまま一身に、来夢の傷を癒し始める。
(へえ……)
  木刀までつきつけて制止したにもかかわらず、それを意にも介さず治癒するなつみ。
(たいした女の子だなあ………でも、また疲れるのは嫌なんだけどなあ……)
  いくらYOSSYでも、まさか本当に殴って止めることなどできるわけもなく。



「くっ……なんなんだコイツら……これが暗躍生徒会の実力だってのか……」
『いたいの  いたいの』
  みやびんとがちゃぴんが傷つき倒れ伏している。
  もともとは3対3の対決だった。
  しかし今や、十勇士側で立っているのはレミィただ一人だけ。
  対して暗躍生徒会側は、香奈子に健やか、それに作戦参謀のRune、いずれも無傷。
  健やかが天下無双のスピードで敵方を混乱させ、香奈子が状況を的確に分析。
  その指示プラス己自身の戦術でもって、音声魔術で敵を討つRune。
  暗躍生徒会の三位一体のコンビネーションの前に、みやびん組はまるで歯が立たない。
「宮内さん。仲間であるあなたを傷つけたくはないの」
  ただ一人立ち塞がるレミィに、香奈子はあくまで穏やかに説得にかかる。
「会長があなたに声をかけなかったのは、まさしくこうなるのが読めていたから。
あなたに最後の幕引きをしてほしかったから。だからこそあなたをここに残した。
お願い宮内さん。彼らを連れて引き返して。――彼らのためにも」
「ミヤビン達のため……」
「そう。だからお願い……」
  俯き瞳を閉じるレミィ。
  おそらく彼女の脳裏には、様々な想いが渦巻いているのだろう。
(レミィ……)
  みやびんは、そんなレミィに敢えて何も言わなかった。
  レミィが考え、出した答えなら、何があっても従おう。そう思っていたから。
  そして、しばしの時が流れ。
「……カナコ」
 レミィの唇が緩やかに、そしてしっかりと紡がれた。

「カナコ。タクヤは一つダケ計算ミスしたネ。
ワタシは引かないネ。ミヤビン達のコトを思えばコソ、最後まで戦うネ!!」

  刹那、レミィが疾風の如く動いた!