21世紀記念SS 史上最大のリレーL「学園食糧難事情〜いかにして僕らは餓えに至ったか〜」VOL.10 投稿者:雅 ノボルと血を見た参加者達




ある日、休み時間にみやびん達が目撃したのは、寸胴鍋を抱えた千鶴校長の姿………
全てはここから始まった!
校内を怒涛の如く混乱の中に叩き込んだドン底の食料パニックに、終止符は打たれ
るのであろうか………?
そして、このパニックを生み出したものの影を、いまから知る事となる………
長いこと中断してすいません!
いま、『至上最大のリレーL:激闘編』の幕が上がる………






 ブシャアアアアアアアアアアアアアアッ!!
「「「扱いがひでえッ」」」

  どしゃっ。

  中心部に七人の勇者が向かったその刹那、中心部の奥が爆発。
  それとともに、何かに噛み砕かれたかのような血まみれの三人の勇者が転がり込んで
くる。
「――!?」
「け、健太郎!?」
  怪我人の中の一人の身元に気づき、悲痛な面持ちで駆け寄る結花。
「健太郎!  健太郎、しっかりして!!」
  ユサユサと健太郎を揺さぶる結花。
  残りの二人、藤井冬弥と千堂和樹も響子やNTTTの看護を受けている。
「一体……中に何が……?」
  FENNEKが表情を強張らせて呟く。
「ケッ!  何があんのか知らんけど、そんなんでビビッてられっかい!」
「ダメです!」
  血気逸る来夢をティーが制止する。
「中に何があるのかもわからない!  無闇に飛び込むのは自殺行為です!」
「でも!」
  そんなティーに、今度は梓が咆える。
「中にはみんながいるんだ!  この状況!  黙って見過ごせっていうのか!!」
「それで無闇やたらに入っていって足手纏いになるおつもりですか!!」
「っ!!」
  咆える梓に珍しく、声を熱くし制止に咆えるティー。
「彼らを信じるんです………彼らを………!」
  ティーの手が強く握られている。そのあまりに血が滲むほどに。
「ティー……」

  ガタンッ!

「!………城戸さんっ!?」
  入り口から出てきたのは城戸芳晴。全身ボロボロの満身創痍で。
「城戸さんっ!  しっかりしてくださいっ!」
  倒れる間際、駆け寄った八塚に支えられる芳晴。
  最後の根性を込め、八塚の耳に何事かを囁いた。

「………ア……ク…………イ……」

「城戸さんっ!!」
  八塚に支えられたその態勢のまま、城戸の意識は既に無かった。



  ――同時刻。第一購買部倉庫前。

「ふう……」
  セミロングの黒髪が安堵に揺れる。
  ジャッジ、風紀委員会らの共同戦線の凄まじさは、学園中の烏合の暴徒を沈静化させる
には十分過ぎて余りある程の戦力、そして説得力だったのである。
「――ありがとう」
  同志達に微笑みかけ謝辞を口するゆかり。
「礼には及ばないよ」
「これが僕らの仕事だからね」
  ゆかりの言葉にあくまでも爽やかに応えるジャッジツートップ・岩下とセリス。
  その横で聞こえないふりをしているあくまで強情なディルクセン。
「さて、と」
  一息ついて、またも、いつもの不敵な顔つきに。
「とーるくん。もう一つの仕事も片づけちゃいましょうか?」
「――了解」
「もう一つの仕事、って?」
  再び起動の構えを見せるゆかりととーるの二人に、岩下が尋ねる。
「どうやらこの事件の発端は、千鶴校長がなんらかの目的で行っていた“あること”が
原因らしいんです……」
「それで、原因の本格的な究明、解決に尽力しようと」
「なるほど……」
  ゆかり達の話に頷く岩下。
「そういうことなら僕らも協力するよ。共に事態解決に全力を尽くそう」
「そうですよ。たった二人だけなんて今更水臭い」
  セリスや冬月も続ける。そしてディルクセンもまた。
「それとも何か?  貴様等だけでいい格好をしようとでも?」
「あ、あはははは………やだ、そんなコト思ってるわけないじゃない。ねえ?」
  ゆかりの冷や汗が全てを物語る。呆れたような皆の視線が彼女に突き刺さる。
「ま、まあ……。でも、冗談抜きで全員で行くのは無茶。ここの守りもあるしね」
  作り笑いを浮かべていたゆかりが一転、引き締まった表情で方針を述べる。
「そんなわけだから、主力で行けても2,3人ってところ――」
「駄目だ。お前達全員で守らなければ、あっという間に瓦解するぞ」

  ――え?

  全員の視線が一点に集う。
  視線の先には三人の男女。悠朔とシッポ、そして来栖川綾香の姿が。
「数ではこちらが圧倒的に劣勢だ。お前達全員の結束で押さえているに過ぎない。
もし誰か一人でも抜け、その綻びから攻め崩されれば、お前達とてひとたまりもない。
――お前達に一般生徒を本気で攻撃することは出来まい?」
「ぐ……」
  悠の指摘に皆一様に言葉がない。
「……どうやら、策が有りそうだね」
  その中でセリスが平常のまま、悠の腹を巧みに探る。
「そういうことだ。今の状況と彼我の戦力全てを考慮した場合、我々が乗り込むのが一
番効率的ということ。それに――」
  悠の代わりに述べるシッポの口が重苦しく動く。
「――我々は“切り札”を持っている」

「切り札……って、あ……っ!」
  シッポの謎のセリフに戸惑っているうち、既に駆け出す彼ら三人。
「そーゆーことよ!  ここは私たちに任せときなさいっ!」
  綾香のセリフを置き土産に、彼ら三人脇目もふらず、現場に向かって一直線。

「あ、あ……」
「委員長?」
「あの女ぁぁぁぁぁぁ!後で覚えてなさいよぉぉぉぉぉっ!!」
  出し抜かれ虚しい怒りに咆えるゆかりの肩を、とーるは哀愁を込めて叩いた。



  ――同時刻、化学準備室。

「……どうします?」
  ティーの声が力無く響く。
  それもそのはず。
  必勝を誓った七勇者のうちその半分、四人もの勇者が返り討ちにされたのであるから。
  そして、城戸の残した言葉「ア・ク・イ」。
  その唯一の鍵の謎も解けぬまま、決死隊は窮していた。
「もう一刻の猶予も無いよ、ティー!」
  結花が掴みかかるようにして訴えれば、
「そうね。店長さんはじめ四人もやられちゃってる。残りの三人もこのままじゃ……」
「耕一……!」
  なつみもそれを肯定し、その言葉に梓も戦慄し、
「ここは、行くしかないんじゃないかなぁ……」
  ダメ押しのみやびんの言葉が決定的となる。
「――わかりました。行くしかないでしょう」
  意を決して、ティーが重苦しく頷く。
  その瞬間、集まった決死隊から大歓声が湧き起こる。
「ただし、負傷者の看護とバックアップの為に、何人かは残ってもらいます。
それ以外の方は皆一緒に行きます。決して一人にはならないでください。いいですね」
『オウッ!!』
  治療と後方支援の為に響子とNTTT、長瀬源之助、それとティーの四人は残留。
  みやびん、がちゃぴん、梓、結花、なつみ、レミィ、マナ、八塚、FENNEK、来夢
の十人による選抜決死隊が結成されたのである。
「よし!  行くよみんな!!」
『オオオッ!!』
  梓の号令の元、決死隊十勇士が最終拠点に怒涛の勢いで雪崩れ込んだ。



「フフッ………」
  闇の中、微かな光が男を照らす。
「今度は十人で来るとはね。彼らも退屈させてくれないな」
「そうですね、会長。これだけでも私達の目的は達せられたと言えましょうか」
  僅かな光に照らされし男の側に忠実に、女が傅く。
「でも、第一購買部倉庫の暴動は沈静化させられたみたいだけどね」
  二人から少し離れた闇から、のんびりとした男の声が木霊する。
「非日常の刺激ってヤツを堪能してもらえたんだ。準備の甲斐があったというものさ」
「……なんだと……!」
  首領格の男の呟きに、床で寝転がっていた男が激しく食ってかかる。
「……ということはなにか。あの暴動は、もとはといえば……」
「御名答だよ、藤田君。
まあ我々はただ、騒動を希求して止まぬ生徒達の背中を、軽く押してあげただけだが」
  首領の口元が邪に歪む。刹那、男の理性が吹き飛んだ。
「月島あああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「……少し、静かにしたまえ」

  ゴンッ!!

「がぁ……っ!!」
  後頭部に鈍い衝撃を食らい、浩之は意識を切られる。
  そんな彼を冷笑さえ浮かべ見つめる首領=暗躍生徒会会長・月島拓也。
「太田君……」
「会長がこれ以上手を下す必要はありません。残りは私達に任せて、会長は“鬼”を」
「……ありがとう」
  月島の側に側近・太田香奈子が傅く。ゴトンという音と共に、消火器を床に置き。
「七勇者のうち四人を討ち、一人を捕え、残り二人も封じています。
残りの十人の始末もまた、彼らにお任せになればよろしいかと思います」
「そうさせてもらうよ。“彼ら”を借りるのも、結構骨が折れたからね」
  遠い闇の向こうを見つめながら、拓也が嘯く。
「フィナーレまでは、もう少し、か……」



「こ、耕一!?」
  梓の悲痛な声が響く。
  最深部に雪崩れ込んだ十人の目に映ったのは、頭を抱え苦しむ“鬼”柏木耕一の姿。
「耕一、耕一しっかりしろ!!」
「あ、あずさ……」
  耕一の表情はすっかり色が無くなっており、額には脂汗が尽きない惨状。
「あの耕一先生をこうまで………いったい、誰の仕業だ……?」
「……こんなコトがデキルのは、タクヤしかいないネ」
「タクヤ?  あの月島拓也か!?」
  FENNEKの問いかけに、重く頷くレミィ。
「なるほど。城戸さんの“ア……ク…………イ”という言葉の真の意味。
“暗躍生徒会”のコトだったわけね……」
  顎に手をやりなつみが呟く。
「暗躍……もしや今までの騒動全てが……」
「そう。今までの騒動の全てが、彼ら暗躍生徒会の差し金だったということ、かもね」
  八塚の呟きに応えるマナ。
「最初からおかしいとは思っていたのよ。千鶴校長が何を作っていたとて、人間を襲う
ような物体をホイホイ作り出し、迷惑になると知っていながら放置してるなんてね。
おそらく千鶴先生は何も知らない。純粋に“目的”を達せようと、厨房に篭っているだ
け。
それによって出来る不純物を増幅し悪用して楽しんでるのが……」
「奴等暗躍生徒会、ってことか………しかし、何の為に?」
「簡単ネ」
  レミィが言葉を引き継ぐ。その表情にはいつもの笑みが見られない。
「ワタシ達暗躍の行動目的は大きく二つ。学園に刺激を与えることと、自ら悪役になり
きるコト。
そう考えれば、タクヤやカナコ達がこんなコトをしたトコロで、何も不思議じゃないネ」
  レミィの肩が怒りに震える。
「ドーシテ……」
  震える唇から言葉が紡ぎ出される。
  やがてそれは澄んだ咆哮と化し、周囲に響き渡った。

「ドーシテワタシモ誘ってくれなかったネーーー!!  タクヤのバカーーーーーッ!!」
『おいっ』
  全員秤で計ったように一斉に、ツッコミが綺麗に炸裂した。

「こうなったらやってやるネ!  タクヤのプラン、ブレイクしてやるネ!!」
「やってくれるのかレミィ!?」
「当然ネ。今回は味方につかせてもらうネ、ミヤビン!!」
  身内相手だと知って萎えるかに思えたレミィの闘志が、除け者にされた(少なくともレ
ミィはそう思っている)怒りで更に燃え立ってくるのを見、みやびんは安堵した。

【そうそう。そうこなくっちゃいけない。宮内君】

「!?」
「タクヤ!?」
  突然闇の中から声が響く。しかも聞き覚えのある声が。
【ようこそ十勇士の諸君。心から歓迎するよ】
「ふざけんな!!  自分達が何をしてるかわかってんのかお前ら!!」
「今すぐこんなふざけた事はやめなさい!!」
「タクヤー!  ヨクも仲間ハズレにしてくれたネーーーー!!」
  声の主・月島拓也に向かって怒りの叫びをぶつける面々。
  しかしそんな声にも、拓也は動じる様子はない。
【それじゃ、君達を手厚く歓迎しよう。――頼んだよ】
  それを最後に拓也の声が途切れる。そして――

『ちぇやあああああああああああああああああああああああああっ!!』
  闇の向こうから斬り込みし暗躍の刺客達。
  それはまさしく、有無を言わせぬ開戦、そのものだった。