「……がっ! がはっ! うぅ……うぅぅ……ぐっ!」 ビクッ! ビクン! ビクビクビクッ! 突然、祐介の体が電流を流されたかのように弾けた。 「うぐぁ……がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 そのままゴロゴロと床を転げ回る。 「くくく……やっぱり止めは刺しておかないとね。ギャラリーも増えたようだし」 そう言って、拓也はちらりと蹴破られた扉の方を見やった。 「あぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁああああああっ!?」 悶える、祐介。 「あはははは……ほうら、お客様にもぉっとサービスしないとねぇ……?」 嗤う、拓也。 「っちゃー、エゲツなー……」 「彼とはやりたくないな……」 一方、排気ダストの中で二人はげんなりしていた。 「あそこまでやる? フツー」 「……お前には彼が普通に見えるのか?」 「イヤ、見えない」 結構酷いことをキッパリと言ってたりもした。 「まぁ、それはともかくとして。……届いたみたいですね」 「あぁ……結構行けるモンなんだな、ハム無線でも」 おまけに古かった。 「貴方は……月島さん、ですよね?」 「月島は月島でも、妹の方やな」 「ルリコ? ナンデココニイルネ?」 扉に張り付いていた三人が、一斉に彼女に問いかける。 「……電波、届いたから……」 月島瑠璃子もまた、そう言って微笑った。 「ほらほらほら……どうした? お客様にご挨拶を……!?」 言いかけて、固まる拓也。 「うぐ……はぁぁぁぁ……」 電波による戒めを解かれ、崩れ落ちる祐介。 「……長瀬ちゃん……」 それを受け止める瑠璃子。 「るっ……瑠璃子っ!! ここここ、これは違うんだ……違っ! 違うんだ!!」 いきなりガタガタ震え出す拓也。 「……お兄ちゃん……」 そんな兄を、ただ見つめるだけの妹。 「ソソソそうだ! ぼぼぼ僕が悪いんじゃない! コ、コイツが悪いんだよ瑠璃子!!」 壊れ出す拓也。 「アハハハハ……おおおお前さえ消えればッ! おおお……お前なんかッ! 壊れてしまえッ!!」 何の制限もなく、最大出力で放たれる電波。 「お兄ちゃん……駄目っ!!」 そして、それを受け止める瑠璃子。 そのあまりの出力に顔を歪ませながらも、何とか祐介へのアタックは防ぐ。 「ルリ……ルリコルリコルリコルリコ……」 最早己自身が壊れてしまった拓也には、そのことすら気づかない。 そしてより一層、相手の破壊を確実にするための駄目押しが放たれた。 「……長瀬ちゃん!!」 ぎゅぅっと握られる祐介の手。 「……帰ってきて……長瀬ちゃん……」 「………………」 「…………」 そして、そっとそれを握り返す手の平。 「……瑠璃子さん……?」 「……お帰り、長瀬ちゃん……」 薄目を開けた祐介に見えたのは、微かに微笑む瑠璃子だった。 「……ねぇ? 月島先輩何か様子がおかしくない?」 ふと、固唾を飲んで見守っていたマナがその疑問を口にした。 「オカシイってユったらタクヤはいつもヘンね!」 割と酷いことをさらっと言うレミィ。 「うーん、僕には月島さんの優位に変化はなさそうに見えますが……」 「そもそも、なんもせーへんウチから苦しがってるこのバトルそのものがヘンやねん……」 FENEEKに来夢。 「月島自身が……壊れ始めてるんだ……」 梓が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。 「壊れ……?」 三人の声が、ハモった。 「何か梓先輩だけ反応が違いますねぇ」 排気ダストの中から彼らの様子を見たシッポがふと、呟いた。 「彼女だけは……この傍観者の中で唯一、本物の電波戦を既に見ている筈だからな」 「電波戦? ……これのことですか?」 そう言って、眼下を指さすシッポ。 「あぁ……。語り出すと色々長くなるが、昔SGY大戦ってのがあってな……。 彼女はその時月島拓也の電波を見ている筈だ。だから本当の電波の怖さも、威力も知っているのだろう」 「SGY……私も資料でだけなら知ってますがね。なるほどそうか、言われてみればSGYは現三年しか、 その様子を知らないんだっけ……」 「彼女はその数少ないウチの一人、ってワケだ」 悠はそれに一言だけ、付け加えた。 「あれ……? 瑠璃子さん……どうして、ここに?」 祐介はぼんやりと、自分を膝枕してくれている瑠璃子を下から眺めた。 「……うん……」 そして、目覚めて尚どこかぼんやりとしている祐介にただ微笑みかける瑠璃子。 「あぁ……こうしてると……気持ちいいんだ……」 祐介はもぞもぞと、姿勢を仰向けから横に直す。 「……長瀬ちゃん、お兄ちゃんを……」 にこ、と笑って祐介の額に手をそっと置いた。 「……え? ……何? ……瑠璃子さん?」 しかし瑠璃子は祐介の問いに答えることはなく、そっとその瞼を閉じた。 「アハハハハ、アハア……アハハ……ルリルリルリコ……」 「瑠璃子さん……? 瑠璃子さん……冗談だよね?」 祐介はゆっくりと起きあがると、瑠璃子の両肩をそっと抱く。 「……月島さん……? また……また貴方ですか……?」 祐介の瞳が、ゆらりと揺れた。 「……シッポ。例のアレ、用意しておけよ……」 「了解。しかし果たして、実際はどうなる事やら……」 がちゃん、という音を立ててシッポが肩に担いでいたディバックから何かを取り出した。 「……祈るしかないな」 「アテにならない神頼みっと……」 神主見習いと無神論者は、次の事態へ備えるためにそれぞれ身構えた。 「……月島さん……もうしないって……約束したじゃないですか……」 「ルリコルリコルリコルリコルリコルリコ……」 祐介はぼんやりと、目の前で涎を流しつつ暴走する拓也を見ていた。 拓也は焦点の合わない瞳で、ぶつぶつと何か呟いている。 「……また同じ事を繰り返すのは……嫌だなぁ……」 祐介の掌中で、紫電がばちりと弾けた。 「ルリコユルシテルリコユルシテルリコユルシテルリコユルシテ……」 「……月島さん……わかりました。僕が止めてあげます……」 祐介は、暴走状態最後の一撃を蓄え始めた拓也に静かに微笑んだ。 「こっ……壊れてッ! ここここ壊れッ! 壊れェェェェェッ!!」 拓也のありったけの力を込めた、大質量破壊電波が祐介に迫る。 「…………」 しかし、祐介はただ黙ってそれを見つめている。 その場から、一歩も動かずに。 目に見える程の紫電球が、いくつも祐介目がけて迫る。 バチィッ! バチバチバチッ!! そして、辺りはもの凄い音と光で一面真っ白一色に塗り潰された。 拓也の電波球が、祐介の防御展開磁壁に衝突した結果だった。 「なっ何やっ!? 今度は何か見えたで!!」 来夢達の目からは、拓也が雷球を祐介に放ったように見えた。 「こんな……こんな事ってっ!!」 マナはL学の非常識っぷりにはもう慣れたと思っていた自分が間違っていたことにこの時気づいた。 「何だ……この程度なんですか? もうちょっと頑張ってくださいよ……」 しかし、その雷光の中から祐介が無傷でゆっくりと歩みだしてくる。 「ひっ……ひぃっ!! ひぃぃぃぃっ!!」 流石の拓也でさえ、驚愕の表情を浮かべずには居れなかった。 「前はもう少し……強かったじゃないですか……」 祐介はそう言いながら、懐かしそうに目を細めた。 「あ……あぁぁ……」 拓也は完全に祐介に気圧されて、蛇に睨まれたカエル状態になってしまっていた。 「さぁ……一緒に気持ちよくなりましょうよ……」 既に動けないで居る拓也に向けて、祐介がゆらりとその右手を向ける。 その時だった。 「やっやめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 声の主は、拓也ではなかった。 どがっ! という音と共に、壁まで弾き飛ばされる祐介。 「はぁ……はぁ……はぁ……」 祐介を突き飛ばしたのは、梓だった。 「ど、どーしたんですかっ!?」 FENEEK達が慌てて梓の元に駆け寄る。 「はぁ……はぁ……はぁ……」 梓は額に大量の冷や汗を浮かべながら、壁に叩き付けられて朦朧としている祐介を見ていた。 「何なんや……一体」 来夢はその場に崩れ落ちた拓也を見てぽつりと呟いた。 「うふふ……ヒドイなぁ……悪いのは月島さんじゃないか……」 「…………」 壁に背中を預ける格好で、祐介は薄笑いを浮かべながら喋る。 「瑠璃子さんがね……僕にお兄ちゃんをお願いって言ってくれたんだ……邪魔しないでよ」 「……今のアンタ冷静じゃないよ」 梓は吐き捨てるように一言、ぽつりと呟いた。 「冷静? あはは……僕はいつだって冷静だよ……」 「…………」 「今だってホラ……月島さんの精神だけを破壊できるようにこうやって指向性を持たせてるから、君達は平気なんじゃないか……。 何なら感じてみるかぃ……? 僕の電波を……」 祐介は薄笑いを浮かべながら、梓達に向けてその掌を開いた。 ……きぃぃぃいぃぃぃん……。 電波特有の高周波とと共に、梓達の表情が激変する。 「うぐっ!? やっやめっ!! ……あがッ!? あぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁッ!!」 梓が、レミィが、来夢が、FENNEKが、マナが、八塚が、残らず全員が頭を抱えて 地面に倒れ込んでのたうち回る。 「シッポッ!!」 それを見て悠がすぐさま足下の排気ダストを蹴破る。 「アイサーッ!!」 シッポがその穴から直滑降ダイブすると共に、手に構えていたスタングレネードを思いっきり地面に叩き付けた。 ドグンッ!! という重い音を響かせながら、辺りは閃光に包まれた。 「くはぁっ! あぁぁぁ……はぁ…はぁ…はぁ…」 閃光の煌めきと共に電波から解放された一同が、びくりと体を痙攣させながら息を吐く。 悠はそんな彼らを一足飛びで越えて祐介の目の前に立ちはだかると、彼が顔を上げる間もなくその鳩尾に前蹴りを一発叩き込んだ。 「ぐふぅッ!?」 祐介は腹を抱えて床に倒れ込むと、再び意識を失った。 「連れてきたわよっ!」 全ての戦いが終わった後一同がその場にへたり込んで休憩していると、綾香が息せき切ってその場に現れた。 「連れてって……誰をや?」 来夢が不振そうに尋ねる。 「彼女達よ」 結花が自分の後ろを指で指し示すと、瑞穂と沙織がその後に続いているのがわかった。 「私は月島さんを、新城さんは長瀬君をお願いします!」 瑞穂はその場を一瞬で判断すると、自分はすぐさま月島の元に駆け寄った。 「わかった!」 沙織も祐介の元へ駆け寄って、寝かせてあった体を抱き起こす。 「祐クン! 祐クン!」 ゆっさゆっさとその体を揺する。 「……ぅ……うぅ?」 僅かに反応があった。 「祐クン! 私だよ! 大丈夫!?」 ゆっさゆっさゆっさゆっさ。 「うぅ……そんなに揺すらないで……わかったから……」 「あっ!! ゴメンっ!」 その祐介のうめき声を聞いて、ぱっと手を離す沙織。 ……ゴン! 祐介の負傷にたんこぶが一つ、追加された。 「……すまない。途中から何が何だか分からなくなってしまって……」 祐介と同じく、仰向けに寝化せられていた拓也を心配そうに見つめる瑞穂とレミィ。 「月島さん……」 「タクヤ……」 「……またしても長瀬君にやられてしまったよ……」 全てが終わった後の満足げな表情で、拓也は微笑んだ。 「月島さん……この件はジャッジとしては……」 瑞穂はやや言いにくそうに、言葉尻を濁した。 「タクヤ……ナンデ誘ってクレナカッタネ?」 レミィはその隣でまだ言っていた。 「……そう言えば月島さん……さっきまだ何か仕掛けがあるような事を……」 祐介は満身創痍の体を沙織に支えて貰って何とか、上半身だけ起き上がらせる。 「あぁ……あれか。簡単な事さ。救援物資の手配を全て瓶と缶にしただけだ」 くっくっくと含み笑いをする拓也。 「……当然、栓抜き缶切りの類は回収済みってワケね……」 綾香がぽつりと呟く先には、恐らく食料の分配を始めようとしていた岩下達が居るハズの第一倉庫があった。 「だぁぁぁっ!! 何故だっ!? 何故この広い学園内に栓抜き缶切りが一つもないんだっ!?」 「陰謀だっ!! これは最早陰謀だっ!!」 岩下とセリスは、目の前にうず高く積まれたケースを前に頭を抱えながら叫んだ。 最初から陰謀以外の何物でもないだろ、という突っ込みは誰にも出来なかった。 ちなみにその後、無理矢理こじ開けて中身をブチ蒔ける者や、十得ナイフを持つ者を求めて缶切り狩りが横行するのだが、 真っ白に燃え尽きた彼らにそれを取り締まれというのは酷というモノだった。 瓶はホラ、割と何とかなるし。 裏技とかで。 梃子の原理がポイントだ! ヽ( ´ー`)ノ ヽ( ´ー`)ノ ヽ( ´ー`)ノ ヽ( ´ー`)ノ っちゅーことで、第十四話、第十五話を担当させていただきましたシッポです。 vs月島、ようやっと終結です。後はこの話の終局と落ちですな。 このリレーって確か去年の秋か冬にスタートしたハズなんだけどなぁ…… 何で今暑いんだろ(笑)