21世紀記念SS 史上最大のリレーL「学園食糧難事情〜いかにして僕らは餓えに至ったか〜」Vol.14 投稿者:雅 ノボルと血を見た参加者達





「さて、残ったのはやはり君か」
 薄暗い室内。
「少々期待外れだったよ」
 未だ色濃く残る毒霧の残る奥深く。
「まさか彼があぁも簡単に落ちるとはね……」
 其処に彼らは居た。
「待っていたよ。……君を、ね」
 五人の勇者達を、そして最大の懸念事項であった鬼を始末した今、彼の前に立ちはだかるのは、
彼に唯一対抗でき得る能力を持つ者ただ一人だけだった。

「貴方には……僕しか居ない。そうでしょう? 月島先輩……」
 その名を、長瀬祐介。


「だーかーらっ!! 何でここで待ってなきゃならないのよっ! さっき突入の決意を固めた
ばっかだってのに!」
 梓は居ても立っても居られないといった感じで、綾香の制止に苛立っていた。
「もぅ……さっきから何度も説明してるでしょ? この先は……あなた達じゃ駄目なのよ」
 綾香もかなり困った様子で梓を含めた十人を見回した。
「説明になってないっ! 今だって、こうして暗躍の刺客を返り討ちにしたばかりじゃないか!」
 梓は腕を振り上げて、後ろに立つ彼らを指さした。
「でも……、満身創痍じゃない」
 そう言って、苦笑する綾香。
「だからどうだってのさ! まだまだ……いよいよこれからって時だろ? 今は!」
 梓の言葉に全員が頷く。
「でも、正直限界一杯一杯なのは否定できない。……違う?」
「ぐっ、それは……」
 綾香の間髪入れないその指摘に、梓は言葉に詰まった。

 正直、彼らはもはや闘える状態にはない。梓には一目でそれが分かった。
 いや、彼ら自身でさえ、それは薄々分かりかけていたことではあった。
 それを気力で押し切り、気づかないフリをすることで最後の決戦に赴くつもりだった。
 だがしかし、鬼の血を継ぐ梓自身や、身体能力に秀でたSS使い達はまだいい。
 それ以外の者の事を考えたら、とてもじゃないが無理強いを出来るような状況ではなかった。
 彼らはそこまで先の戦闘で追い込まれていた。
 策士月島、何処までも抜け目のない男である。

「私達がこれから闘おうとしてた相手……月島生徒会長。いや、月島暗躍生徒会会長……」
 結花がふと、ぽつりとつぶやいた。
「……そう言えば、月島会長の事って、私余り知らない……」
 マナのつぶやきに黙って頷く一同。
「一応、ある程度のことは聞き及んでいますが、正確なところは私も知りませんね」
 ティーもそれに同意する。
「月島拓也は……危険よ」
 皆の視線が自然と集まる中、綾香はただ一言だけそう呟いた。


「月島拓也。お前は……彼のことを一体どれだけ知っている?」
 悠は、自分の斜め前方を黙々と匍匐前進しているシッポに問いかけた。
「現行生徒会長兼暗躍生徒会会長。三年生。特異能力者(SS使い)であることは
周知の事実ではあるが、その実体に関してはハッキリしない点が多い。
彼の能力に関してはイロイロ噂が立っているが、そのどれもがどうも決め手に欠ける。
唯一分かっていることは、その能力が電波と呼ばれ、遠隔不可視攻撃だと言うこと」
 シッポは後ろの悠を振り向くことはせず、匍匐前進を続けたままその問いかけに答えた。
「……ま、上出来だ。正直それぐらいだろう。普通に情報収集して分かる事なんて、な」
 悠はその答えに頷くと、匍匐前進を止めてその場でマグライトを胸から取り出した。
「……これで? こんなの殆ど何も分かってないに等しいですが……」
 シッポも悠の様子に気づき、後ろを振り返る。
「……あれは実際に見た者にしか分からんよ。わかったところで、口を紡ぐ事に変わりはないが」
 悠はそのマグライトを口に咥えると、同じく胸から地図を取り出して照らした。
「そりゃまた、何故?」
 シッポはソウル・ハッカーズのディスプレイを表示させ、現在位置を確認する。
「あれは……知らない方がいいことの部類に入る」
 地図と現在地の照合を終えると、悠はそれらを胸にしまった。
「ふぅん……まぁ、今からイヤでも見れるからなぁ……」
 シッポはそう言って首を傾げると、匍匐前進を再開した。


「何故……等と尋ねるのは無粋ですね。貴方には」
「よく分かってるじゃないか……。くくく……気分が良いね、話がスムーズに進むというのは」
 じり、と言う足音をさせながらお互いに一歩分近づく。
「……この騒ぎを止めてください。貴方になら、出来るはずです」
 祐介は静かに歩み寄る。
「おやおや? どうしてかな? まさかこの僕の能力をアテにしてるのかね?」
 一方拓也はその場に足を止める。
「……そんなんじゃない! 貴方の、生徒会長としての人望と実績があればこそ……」
 祐介はその言葉を忌々しく否定すると、キッと拓也を睨んだ。
「人望に実績と来たか……。祐介君、君は人という物をよく分かっていないようだね」
 拓也は額に軽く右手を当てると、静かに祐介に問いかけた。
「……どういう意味です?」
「今まで散々見てきたろう? たかが昼食が食べられないと言う、たったそれだけのことで、
この学園はこんなにも混乱している。どうしてだと思うかね?」
 そう言って今は見えない外を指し示すように、拓也は右人差し指を伸ばした。
「今更何を! 全部貴方の仕組んだ事じゃないですか! この混乱も、惨状も!」
「そう。全てはこの僕が仕組んだこと。……どうだい? 退屈な日常では味わえなかったスリルと興奮は」
 そう言って拓也はくっくっくと含み笑いを漏らした。
「貴方って人は……ッ!!」
 祐介は握る拳に力が入るのを自覚した。
「ほらほら、こうしてる間にも外では更なる混乱が起こってるかもしれないよ?」
「!? まさか……これ以上まだ何かしたんですか!?」
「さぁ? 何かしたのかもしれないし、してないかもしれない。……こうなったら実力行使でもするかぃ?」
 そう言っておどけてみせる拓也は、明らかにこの状況を楽しんでいた。
「もう……もう終わりにしましょうよッ!!」
「あははははは……!! そうだ……やって見せろッ! この僕を倒す以外にこの宴は終わらないのだからッ!!」
 辺りの空間が、電磁スパークの電光と共に歪みだした。


「ほな一体どないせぇっちゅーねん! こうしてこのままここに居ったって何の解決にもならへんのやで!」
 綾香の理不尽とも思える一方的な制止に、いい加減苛々してきた来夢が語気を荒める。
「今は……待って。一見、事態は収束の方向に向かいつつあるように見えるけど、その実まだ予断を許さない
状況であることには変わりがないの」
「それって、どういう意味? だって、後はこの件の首謀者である月島会長を残すのみなんじゃないの?」
 厳しい表情でそう言う綾香に、晶が総意を代表して問いかけた。
「相手はあの月島会長。用心に用心を重ねるに越したことはないって判断ね。それに、予想された食料の搬入に
暗躍の妨害が一切入ってないって言うのも変な話じゃない? ここまで散々色々やってくれたのに、搬入に関しては
全くのノータッチ。何かあると見るのが定石よ」
 綾香はいつになく熱心な様子で、手にした情報を彼らに伝えようとしている。
「ふもふも? ……じゃなくて、それは、私達の猛攻や治安活動に勤めてくれてる人達のおかげじゃ?」
 みやびんはボイスチェンジャーが入りっぱなしだったのを慌てて切ってから、改めて言い直した。
「それなのよね。月島率いる暗躍から見れば、この混乱を不動のモノにするためにはそれを妨害しない手はないじゃない?
一般生徒の暴動と暗躍の妨害。この二つの相乗効果なんて予想するだに恐ろしいわ。護る方はどっちもなんて器用な事、
とてもじゃないケドできないもの」
「私は各方面との調整と連絡で手一杯で補給の様子までは手が回りませんでしたが……、確かに、それは変ですね」
 と、ティーも頷く。
「だから……って、何よ……もぅ」
 続けてその先を言いかけた綾香の胸ポケットに入れていた小型通信機の電子アラームが三度、鳴った。
【こちら月島組、特攻組、どうぞ】
 ピーという電子音の後に、くぐもった男の声が流れた。
「はいはい、こちら特攻組……どうでもいいけど、そのネーミングセンス何とかならないの?」
【……こちら目標βの現在位置まで到着せり。目標は交戦中と思われる。相手は……長瀬祐介だ】
「長瀬祐介?! ……って、誰だっけ?」
 そこで一同、顔を見合わせる。
 ……結構ヒドイゾ。

「くっ……くぅぅぅぅぅうぅぅぅうううっ!!」
 キィィィィィィン……という独特の高周波音を響かせつつ、祐介の電波が月島を襲う。
「……まだまだ……」
 一方月島も祐介の電波に対抗すべく、自らの電波を発動させ始めた。
「貴方は……貴方は何時もそうだ……」
 バチッ! バチバチッ!!
 周りの空間から紫色の電光が迸る。
「私が……何だぃ?」
 ズガァンッ!!
 壁に吊り下げてあった鉄板が盛大な音と共に床に落ちる。
 大きくて厚い業務用鉄板が、飴細工のようにねじ曲がった為だ。
「……そうやって笑って! 面白がって! 笑顔で人を弄んで!!」
 パァン! パァン! パァン! パァン!!
 紫電が並べて置いてあったボウルを全て吹き飛ばす。
「……それで? そうさ……楽しいんでるさ。だってそうだろう? つまらない日常より……」
 そう言って拓也は薄笑いを浮かべながら、
「刺激のある方がより楽しいに決まっているじゃないか!!」
 叫んだ。
「……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 もんどり打って倒れたのは祐介の方だった。


「うへぇ……何だこの空間の電磁波LVは。ブラウン管が吹っ飛ぶぞ」
「驚いたな。電波使い同士が闘うと、不可視攻撃が目に見えるようになるのか……」
 シッポと悠は適当なエアダクトの床プレートに穴を開け、下を覗き込みながら待機していた。
「とりあえずは様子見ですかね……」
「……だな。下手に手を出すとこちらが危ない」
 と、そこで悠の通信機がコールサインのバイブレーションを開始した。
「……こちらβ地点」
【私よ! そっちはまだなの!? こっちはもうみんなを引き留められそうもないのよ!】
 隣にいるシッポにまで聞こえてくる程、綾香の方は切羽詰まった状況らしい。
「今バトルが開始されたところだ。巻き込まれたくなければ大人しくしていろ、とでも言っておけ」
【それでも駄目だから……って、ちょっと梓っ!! ……ブツッ】
 最後に雑音を送ってきたのを最後に、通信は一方的に切断された。
「……綾香も貧乏くじですかね」
「……私達が行った方が良かったと思うか?」
「……そーは思いませんけどね」
 シッポ達は普段が普段なので、こういう時に彼らが素直に言うことを聞いてくれるとは限らない。
 本人もその辺はしっかり自覚しているようで、綾香を残したのは賢明と言える。
 だが、彼らの勢いを一人で止められるほどの力はやはり綾香にもなかった。


「月島ぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ゴガァン!
 アルミの扉が、梓の蹴りによって吹き飛ばされた。
「ちょっと! 梓! 待ちなさいって……あら?」
 先行した梓に追いついた綾香と一行は、蹴り破られた扉の隙間から中の様子を伺い知ることが出来た。
「……静か、ですね」
 FENNEKが、そーっと扉の影から覗いてみる。
「……闘ってたんやないのか?」
 来夢がその下から、同じくそーっと覗く。
「ショーブアッタネ?」
 逆側の端からレミィ。
「…………」
 一方梓は、最初に扉を蹴破ってからずっと、そこに立ちつくしたままだった。
「……梓先輩?」
 八塚に手を貸しながら少し後ろにいたマナが、その梓の背中に呼びかけた。
「……まだ、終わってない……」
 梓の目は、俯せに倒れ伏した祐介をずっと見ていた。
「……そう、なんだろ?」
 梓はそう言って、自分の右後方を仰ぐ。

 いつの間にか、そこに彼女が立っていた。