テニス大会エントリーL 『搾取の構図〜Yinとエビルの場合〜』  投稿者:原案・監修.Yin/文.葛田玖逗夜
   テニス大会エントリーL 『搾取の構図〜Yinとエビルの場合〜』

 原案・監修.Yin
 文.葛田玖逗夜



 学園は昼休みだった。
 かつては戦場だった昼休みだったりもするが、今もそれは変わらない筈であ
るとも思ったりする今日この頃、そこのところどうなんでしょうかにゃんこ先生?
 なんだか、錯乱気味ではあるが、いきなりの出だしに作者が途惑っていたり
する所為なので、気にしないよーに(人のプロットだし)。

 それはさておき、時は昼休みなのである。
 激戦繰り広げられる第1購買部――つまりは食堂――の喧騒に巻き込まれず
にすんだ弁当組が、中庭のそこかしこに散り、それぞれにのどかな昼食の時を
過ごしている。
 そして、初夏の木漏れ日の下、ロータリーの芝生の上に陣取り、仲むつまじ
く弁当をつつき合うカップルが、ここにも一組――



「お、その卵焼き美味しそう! いただきー!」

「あ、やだ。レッドさんのも入ってますよ(クスクス…)」

「でも、そっちも美味しそうなんだも〜ん」

「じゃあ、私が食べさせてあげますね。はい」

「あーん」

「お味は、いかがです?」

「(もぐもぐ)うん、アイラナの料理はいつ食べても美味しいよ」

「それは、きっとレッドさんへの愛情がこもっているからです…(ぽっ)」

「ううん、それだけじゃないさ! アイラナは本当に料理が上手だよ
 …早く僕だけの為に腕を振るってもらいたいな…」

「…私だって、レッドさんのためだけに…」

「アイラナ…」

「レッドさん…」

・
・
・
・
・

「いい加減にしろ、お前ら」



 ――プラス邪魔者が一人、いた。
 空中にまんがの吹き出しのような文字が浮かぶの同時に、天使・アイラナの
マスターであるYinの呟きが、二人の甘い戯れを見かねたように割って入っ
た。

「…今、お前ら、俺の目の前でなにをしようとした?」

「ちっ、良いところだったのに」

「マスター…」

 恨みがましい二つの視線を手馴れた調子でやりすごし、Yinは二人に食っ
てかかかる。

「…ったく! 昼日中、しかも健全な学徒が集うこの学び屋で!!
 お前たちは神聖な学園生活をなんだと…」

 どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどおおおぉぉぉぉぉぉぉっっ!!

 Yinの言葉を遮るように、突如傍らで土煙が上がる。

「うわぁああああああああああああああああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜んっっ!!
 るりるりも、さおりんも、みずぴーもみんなパートナーが決まっちゃって、
 僕だけ相手がいないよおおおぉぉぉぅ〜〜〜〜〜っっ!!」

 一時は校内一の色男ぶりで名を馳せた長瀬祐介が、何やら意味不明なことを
口走りながら泣きながら駆け抜けていった。

「……」

「……」

「……」

「……(ま、見なかったことにしよう)」

「アイラナ、怪我はなかったかい?」

「ええ、レッドさんこそ大丈夫でしたか?」

「…あのくらいで、ケガもなにもないだろーが」

 二人のいちゃつきぶりは、既に日常としても慣れきってはいたものの、ここ
数日のそれは、更に異様な熱のこもり方感じられていた。
 それは、成り行き上、常に行動を共にしていることが多いYinだからこそ、
気づいたことなのかもしれない。
 例えば、今、食べている弁当一つとってみても、それは明らかなのだった。

「なぁ、ところで、アイラナ…ひとつ、教えて欲しいんだがな…
 なんなんだ、この弁当の差は?」

 三人が口にしている弁当は、いずれもアイラナの手製のものである。
 アイラナにとって思い人であるレッドの弁当が、Yinのものより少々豪華
で、手間隙かけたものあるのはいつものことだったが、今日に限ってはそれが
あからさま過ぎている。
 レッドの弁当の器が漆塗りの二段重ねであるのに対して、Yinの物はアル
ミ製のここ数年あまり見かけたことのないような代物だったし、中身にしても、
レッドの方が卵焼きや唐揚げやたこウインナーなどのお弁当定番メニューから
始まって、煮物や焼き物などが所狭しと並び、まさに栄養のバランスもバッチ
リと言わんばかりの色とりどりの野菜群が小奇麗に尚且つ慎ましやかに一角を
飾り立てているのに対し、Yinのはほとんど日の丸弁当で、脇に申し訳程度
の煮しめた大根のシッポやキャベツの芯を薄く刻んだらしいものがちょっぴり
であった。
 メインディッシュらしい卵のカラの白さが目に染みる。
 Yinのは、明らかにレッドの弁当に時間をかけ過ぎてしまった為の帳尻合
わせにかろうじて形をなしたものとしか思えない。

「――って、卵のカラ……?」

「ああ、マスター、ごめんなさい。
 私たちの分で卵切れちゃったの」

「ええぃ! こんなモノ、食えるか!!
 お前、俺のことをニワトリかなにかだとでも思ってるのかっ!?」

「いえ、それはSSの続きを望む人たちの代弁にと思って(にっこり)」

 (注:図書館収録Yinさん作のSS参照のこと・笑)

「ぐはっ!!」

 本人には永遠にも思える苦悩の時を、これまたさりげなくやり過ごし、口の
端から吐き出した血を垂らしつつも何事もなかったようにYinは問いかけを
続ける。

「…ま、それはそれとしてだ。
 この歴然とした料理の差は一体なんなんだ?
 わけを言え、わけを」

 別のパッキング容器に入っていたらしい食後のフルーツを、レッドの口に運
びながら、アイラナはごく当たり前のことであるという様子で答えた。

「テニス大会ですよ」

「…テニス大会?」

「そうですよ、マスター。知らないんですか?
 暗躍生徒会主催の男女ペアのダブルスのテニス大会」

「ああ…
 あの優勝商品が鶴木屋豪華スィートルームにペアで2泊3日ってヤツか?」

 ここ数日、学園はこの話題で持ちきりなのであった。
 どちらかと言えばことなかれ主義であり、所属するアフロ同盟に振りまわさ
れることになりがちなYinは、比較的その手の情報に疎い方であった。
が、今回の件はそんな彼の耳にも入っている。
 愛する者たちへの想いを抱えながらも、日常、それを表現する機会を持つこ
とないの多くのSS使いたちにとって、このイベントはそれぞれの想い人たち
との親睦を深める、まさに絶好の機会だったのだろう。
 主催が“あの”暗躍生徒会であり、何らかの裏があるであろうことは容易く
想像がつくことであるとはいえ、このようなチャンスを逃すことはSS使いの
名がすたるというものである。
 どうせ、それに出なかったからとはいえ、トラブルに巻き込まれないという
保証はどこにもないのであるし。
 どちらにしろ、好きだといえる相手も特にはいないYinにとっては、特に
関わりのある話とは感じられなかった。

「そう、それです。それに俺たち、出ることにしたんですよ。
 ねっ、アイラナ♪」

「ええ♪」

 (※私信・レッドテイルさんへ:経緯は自分でちゃんと書くよーに・笑)

「なるほどね…そーいや、さっきの祐介さんもそれか…
 …変わったよな、あの人も…」

 Yinは、彼方の方へと憐れみの目線を送った。
 思わず涙ぐみながら、敬礼すらしそうになる自分を、かろうじて抑える。
 (注:祐介と川越たけるのエントリーが決まる数日前の出来事である)

「そして、優勝して二人で温泉旅行に…」

「…レッドさん(うっとり)」

(外泊なんてぜぇーーーったいに許可しねぇ)

「…で、それに出場することと、この卵のカラ弁当になんの関係があるんだ?」

 ぱりぱりぽりぱり…

「食ってるじゃん」

「こんな物でも、食用アフロに比べればマシだ。
 それにカルシウムでも補給しておかなきゃと、お前らのお惚気には付き合い
 切れそうにはないカラな…」

「だから、参加の為にレッドさんに体力をつけてもらわなくっちゃと思ったんです」

「……(それで、俺にはこの仕打ちかい)」

「うん、アイラナ。二人でがんばろうね!」

「はい、レッドさん」

「アイラナ…」

「レッドさん…」

・
・
・
・
・

「…だから、やめい」

「「……(じと〜)」」

「テニスねぇ…
 まぁ、レッドは、常日頃からガンブレード振りまわしてるだろーからともかく…
 …アイラナ、お前テニスなんかできたっけ?」

「…それは」

「ないはずだよな?」

「大丈夫さ!」

「根拠は?」

「愛の奇跡」

「…はい?」

「レッドさん!」

「僕がアイラナを想い、アイラナが僕を想う!
 この二人の愛の熱く燃えあがる二人の“愛”が!!
 いかなる不可能も可能にするんだっ!!」

「…レッドさん(うっとり)」

「…ちなみにレッド、お前、ちゃんとしたテニスの経験は…?」

「ない(きっぱり)」

「……」

「と、ゆーわけで、がんばろうね、アイラナ!」

「はい!」

「…勝手にしろ」

 愛の炎が陽炎のように、熱く手に手を取り合う二人の背後に揺らめくのを横
目にしながら、Yinは諦め顔でラブラブフィールドをあとにした。

「…テニス大会か…」



               ――☆☆☆――



 そして、放課後。
 Yinは、第一校舎リズエルの裏手を文化部専用クラブハウス練へと向かっ
て歩いていた。
 その足取りはどこか重たげで、表情も憮然としている。
 昼間のいざこざが、彼の心に影を落していたのだった。

「まぁ、どうせ相手もいないしな…第一、メンド臭ぇ…」

 なかば自分へ言い聞かせるように、そんなことを呟きながら入り口を抜け、
階段を上がる。

「……(どいつもこいつもいちゃつく事ばっかり考えやがって)」

「……(勝手によろしくやっていやがれ)」

「……(ああ、でも俺にも相手がいればなぁ…無理だろうけど…)」

 見る者がいれば、道行の途中、彼の頭上にそんな言葉がまんがの吹き出しの
ように浮かんだことに気づいたかもしれない。
 “オープン・クローズ”。
 内面の言葉を開闢してしまう彼の能力故の出来事なのだが、イベントを前に
したクラブハウスはひっそりと静まりかえり、人の気配はほとんどなく、彼の
心情を知ることが出来たものはいない。
 皆、大会に向けての特訓に大忙しなのであろう。

 そう、テニス大会にエントリーしたくとも、自分には声をかけてくれるよう
な相手がいないことは、よくわかっていた。
 かといって、誰かを誘うような勇気もない。
 そんな、どうしようもない思考のループに陥り、Yinは少々落ち込んだり
しているのだった。
 ――こんな気分の時は、生物部部室でうたた寝でもしてるに限る。

 生物部の部室は、3階の薄暗い廊下の奥まった一角にあった。
 長いタイル張りの廊下を進み、扉に手をかける。
 鍵はかかってはいない。

「ったく、相変わらず無用心だな…」

 部長の葛田が勝手に持ちこんだという設備はその辺の企業の生化学系研究室
に優るとも劣らず、一台数百万はするという機器等が平然と置かれている上に、
危険な薬品なども多い。
 なのに、この部屋に鍵がかけられることは滅多にない。
 「部員の出入りに不便だから」というのが葛田の言い分であったが、たしか
に付近住民からは魔城として恐れられていたりするらしい学園に、外部から侵
入するような物好きはいないらしく、盗難らしい盗難も今のところは起こらず
にすんでいた。

 中に入ると、扉は二重になっている。
「P1 LEVEL」と書かれた強化ガラス製の内扉が音もなく開き、Yin
を迎え入れた。
 むっとするような緑のにおい。
 案の定、二十畳ほどの部屋の中に人のいる気配は感じられなかった。

 この部屋に人が揃うことはあまりなかった。
 部長である葛田は、図書館地下にあるという私設の地下研究施設か、ダーク
十三使徒の建物にこもっていることが多かったし、副部長の神無月も、掛け持
ちしているオカルト研究部で妖しげな儀式や、それに使う諸々の品の収集に駆
け回っていることがほとんどだった。
 よって、生物部部室は、Yinの専用昼寝部屋となることも多かった。

 がちんっ! がちんっ!

 土の敷き詰められた床から直接這えている食肉植物――葛田がどこからか持
ってきたものを、Yinが丹精こめて育て上げた――が、バスケットボール大
の頭部(?)に生えた象牙質の牙を打ち鳴らして彼を歓迎する。
 Yinだけが、この部屋に日参する主な理由がこれであった。
 部長の偏った自然志向の為に、同級生である図書館司書まさたの「植物園」
には敵わないものの、部屋一面に奇怪な植物が植えられており、更に無数の小
動物が放し飼いにされていた。
 この部屋の生き物たちの世話の一切がYinに任されているのだ。

「…そーいや…
 この間りーずさんが部屋の隅でツチノコを見たとか言ってたな…
 どっから、紛れ込んだんだろ?」

 そんなどーでもいいことを呟きながら、少しだけ窓を開け、日暮れ前の薫風
を部屋に招き入れる。
 ひとしきり、植物たちの様子を見て回った後、Yinはお気に入りのラフレ
シアの木陰に陣取り、腕を枕に軽く寝入ろうとした。
 その時である。
 視界の片隅に朱い影が揺れた。
 ふとに顔を上げると、目があった者がいた。

「……」

「エビルさん…?」

 無言で立ちすくみ、じっとこちらを見つめる少女の存在に、Yinはようやく
気づいたのだった
 『揺れた朱』とは、彼女の風に煽られたショートヘアだった。
 エビル。
 それが彼女の名前である。
 学園の立てられた土地の特殊な地場が招き寄せるのか、校内を横行する異世
界の種族“妖魔”。
 中でもパーソナリティーを持つ上位種族を“魔族”と呼ぶ。
 彼女は、“死”を司る能力を持った“魔族”であった。
 その、“生”と相反する属性を面白がり、葛田が無理矢理引きずり込んだ、
一応は生物部のメンバーということになっているらしい。
 葛田は、彼女に「命の大切さを教え込む!」と息巻いているが、死神相手に
どこまで人間の理屈が通じるものか、Yinには疑問であった。
 種族としての人と異なる特性の為か、それともそれが彼女の持ち味なのかは
不明だが、元々おとなしい性格な上に無口なこともあり、黙って立っていられ
るだけで容易く周りの者に認知されなくなることがよくあった。
 現に、隠れていた様子でもないのに、今までそこにいることがYinにはわ
からなかったのだ。

「どうしたんっすか?」

「……」

「珍しいですね。部室に顔を出すなんて」

「…待ってた」

「待ってたって…?」

 動かない。
 なんとなく、彼女が自分の言葉を待っているような気がしてYinは続けてみた。

「えっと…葛田さんが来るのをっすか?」

 やはり動かない。

「じゃあ、りーずさんを?」

 エビルはじっとYinの瞳を見つめたままである。

「……」

「…うーん…」

「……」

「…じゃあ…もしかして…俺…?」

「そう…」

「…え?」

「…テニス、出ない?」

「テニスって…例のテニス大会!?」

 こくり。

 吹きこんだ風がアフロを揺らす。
 穏やかな日差しの元、Yinの脳細胞が彼女の言葉の意味をとらえきるまで
の数瞬の沈黙の時。

「ちょ、ちょ、ちょい待ち!
 本気!? 本気で俺!? 俺誘ってんの!?
 葛田さんでもりーずさんでもなくて、俺!?」

 こくり。

 とりあえず、Yinは――





 ――踊り始めた。

 その時、彼がなにを思ったのかは知る由もない。
 ただ、「女の子に誘われた」という一点のみが、喜びの波動となり、彼の全
てを満たしていた。
 それはアフロ同盟で無意識下にまですり込まれた条件反射だったろうか。
 アフロはどこまでいっても、所詮はアフロというのことなのか。
 踊る。
 とにかく踊る。
 ここ、Yinさんの指示だけどいいのか、これでっ!?
 他に何かやることを忘れちゃいないのかっ!!??
 そんな作者の叫びが届く筈もなく、何はなくとも狂ったように踊り続ける。
 ひたすらに腕を振り、足を踏み鳴らし、腰をくねらせ、アフロを振り乱し…
踊る。
 16ビートでステップを踏み、自分の右足で左足を踏みこける。
 それでも負けずに立ちあがり、今度は左足で右足を踏み、倒れて顔面を強打。
 よくわからないがあばれはっちゃく張りの逆立ちを決めようとして失敗。
 どこからか取り出したたいまつを手に(無論、着火済)見えない棒――高さ
30センチの位置にあるらしい――を、胸を逸らせ、奇妙な生き物の様な姿勢
ですり抜けようとして、再びこけて失敗。
 ついでに脊髄を骨折。
 当然、制服に引火。
 これで、いいんか。
 火達磨になりながら、奇声を上げて室内を駆け巡る。
 その声に、苦痛の色はなく、どう聞いても、ダチョウが求愛行動をとる時に
発するような歓喜の雄叫びであった。
 何を思ったかそのまま、トドメに飛び込み後転。

 ぐきり。

「……」

 そんな彼につられてか、なんとなくエビルすらリズムをとり始めているように
た。
 これがアフロの力なのだろうか…。
 種族の垣根すら越えて、キャラクターのアイデンティティーすら凌駕がする、
これがアフロのラテンな魔力なのかっ!?
 ――いや、これ以上は展開が変わってしまうのでからやめておくが。

 ともあれ、Yinの狂乱は、やり過ぎじゃないかと思うほどに続いていた――



               ――☆☆☆――



 ――時は、その数日前に遡る。

「みんなで旅行に行くわよ!」

 学園にほど近い、六畳一間のアパートの一室――屋敷を追い出された彼女た
ち、ルミラ一派の目下のねぐらである――で、下僕たちを前にルミラは、いき
なりそう切り出した。

「まぁ、いつも苦労かけてる(っていうか正確にはかけられてるんだけど)
 アンタたちを、慰安も兼ねて温泉旅行に連れてってあげよーかと思うわけよ♪」

「ホンマですか!?」

「…温泉」

「嬉しいですわ〜!」

「温泉にゃ〜!! 温泉にゃ〜!!」

「珍しく殊勝なことを言いだすわねぇ」

「……」

「で・も!」

「「「「「「…?」」」」」」

「予算がちょぉーっぴり、足りないのよねぇ〜
 と、ゆーわけで、これよ!」

『暗躍生徒会主催・男女混合テニス大会』

 ルミラは、1枚のポスターを皆の目前に突きつけた。

「…?…それとウチらにどんな関係があるんです?」

「…賞品?」

「そう! こーれ」

 ルミラの指差した個所には、一際きらびやかな文字が並んでいた。

『優勝賞品:ペアで鶴来屋温泉郷二泊三日の旅!!』

「なるほどぉ〜、それに便乗して予算を浮かせようっていうんですね〜」

「その通り!」

「セコ〜」

「…なんですって?
 一体、誰の所為で、私がこんな苦労を…」

「まぁ、まぁ…」

「とにかく! 私も既にエントリー済みよ。
 まぁ、私の魔力をもってすれば優勝もそれほど難しくないとは思うんだけど、
 でも、念には念を入れてってことでね!
 そーゆわけだから、あんたたちも協力しなさい!」

「…協力?」

「なるほど、下手な鉄砲も数うちゃ当たる、よね」

 …ぎく。

「まぁ、折角だからこれを利用しないって手はないでしょ!」

「テニスなぁ〜…」

「ところで〜…てにすって、どんな食べ物ですかぁ?」

「そこ、お約束のボケしない」

「…ZZZ…」

「寝るな!」

「にゃぁ〜」

「……(無表情)」

「……(はぁ…)」

「とにかく!
 全員、可能な限りパートナーを捕まえて、エントリーするのよ!!
 これは命令ですからね!」



「…やれやれ」

 下僕たち全員が散り散りに出ていったあとの部屋で、ルミラ頭を一人頭を抱
え、溜息をていた。
 もっとも、そんなふがいのない部下たちだからこそ、実は旅行の費用などま
ったくなく、このペア旅行で全員をなんとか潜り込ませようという彼女の企み
にも気づかれずに済むのではあった。

「生活には、やっぱり潤いってモノがないとね」

 そう、それが多少強引に手に入れられるものであったとしても…。
 人間界で暮らしていく限りは、魔族にも休養は必要なのだ。



               ――☆☆☆――



 踊りつかれた息を絶え絶えに横たわる黒コゲのYin(というか、生きてる
方が不思議だが)の目前に、相変わらずの無表情でエビルは立ち尽していた。
 今回のパートナー選び、彼女は彼女なりに考えてのことだったのだろう。
 だが、他に人間関係の少ない彼女にとっての選択肢は、それほど多いわけで
もなかった。
 とりあえず、仮にでも自分が所属している生物部――この「団体に所属する
こと」が人間たちにとって何を意味するものなのか、未だに彼女にはわからな
いのではあったが――の部室で待ち構え、最初に来た人間を誘おうと思ってい
たのだった。
 だが、Yinが最初に現れたことは彼女にとっては幸いでもあった。
 かつて、ルミラに言われた言葉がエビルの脳裏に浮かんでいた。

 ――あの二人、観察しとけば、面白いものが見られるかもしれないわよ…

 エビルやルミラたち魔族にとって、Yin(とその相棒である天使)は、ど
うやら特別な存在となる可能性を秘めているらしい。
 その興味の対象と、行動を共にできる。
 どうやら退屈はせずにすみそうでだった。
 更に、それは、主人であるルミラの言葉に従う為の目的とも合致する。

「ところで、どうして僕を…」

「…優勝」

 ようやく正気に戻ったか、Yinが唯一の――そして、もっとも肝心の疑問
を口にした。
 と、同時にエビルの自らの使命を反芻する声が重なる。
 途端にYinの脳裏からは、疑問は消し飛んだ。

「こーなったからにはやるしかないっす!!」

「……」

「ええ! やるからには優勝を狙いましょう!!
 こう見えても、昔はバトミントンでちょいとらなしたもんです!」

 先ほどまでちょっぴり感じていないこともなかった戸惑いなどどこ吹く風、
Yinの魂にファイヤーがともっていた。

「…少なくともレッドとアイラナにだけは絶対に負けてやらんからな。
 今日からの俺はミラクルYinだっ!!
 奇跡は我と共にありィィィッッ!!」

(…そして…もしホントに優勝なんかしちゃったりしたら…
 二人で温泉旅行…なのか…!?)

 仮に優勝したとしてもルミラたちに商品は奪われてしまうという、そんな事
情もつゆ知らず、やや遅い我が世の春に心ときめかせるYinであった。





 翌日、Yin、エビルの二人はテニス大会にエントリーすることとなる。





 果たして、テニス大会優勝の行方は如何に!?
 ルミラたちは温泉旅行を手中にすることができるのであろうか!?





                ――大会本編へとつづく(らしい?)――





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 ★ あと書き:Yin編

 プロットだけ書いて葛田さんに渡し、後はちょこちょこ質問に答えるだけ…
 なんて楽なんだろう(爆)

 とまぁ、そんな冗談とも本音ともつかないことをのたまいながらこんにちあ。
 自作のLとなる予定だったんですが、物理的に時間がなかった為、代筆してくれる
という葛田さんにお任せしてしまったわけですが…結果、正解。
 俺が書くより絶対に面白い物が出来ました(笑)

 二人で設定を煮詰めたり、アイデアを出し合ったりするのは楽しい作業でした。
 特にエビルなどは、今までほとんど触れられた事のないキャラだったので、元のイ
メージから外れない様にキャラを掘り下げてみたりもしました。
 ついでに俺のキャラも掘り下げられるかなぁ、と思ったんですが、結局はアフロで
した(笑)

 何はともあれ、良い経験だったと思います。
 プロットだけで人にイメージを伝える事の難しさを思い知ったり。
 とりあえずは、この二人組が善戦できる様にと祈りながら後書きを終えたいと思い
ます。



 あと、もしレッドさんのエントリーLがなかった場合は、

 レッドテイル&アイラナステア

 を他薦します。



 ★ あと書き:葛田玖逗夜編

 …あー…
 …Yinさんが「時間がない」ってことなんで、プロットもらって書きました…
 …ま、生物部代表ってことで…(笑)
 …ひょっとして、このような形での競作はLメモ初の快挙かも…?(笑)
 …でも、とりあえず、書いただけ…
 …無駄に長くなってしまったよーな気もしますけど…(笑)
 …まぁ、Yinさんが自分で書けばよかったなんて思っても、あとの祭ですな…(笑)

 …いやぁー…それにしても、雀鬼キャラのわからんことわからんこと…(汗笑)
 …ついでに、僕自身もテニスはやったこともないんで、その辺一切触れてません…(笑)
 …Yinさんがバトミントン経験あるって言ってましたけど…
 …この2つ、ゴルフとゲートボールくらいは違うよーな…(笑)

 …そして、神凪さん、すみません…
 …これで、もしあなたたちのペアが優勝しても、賞品はルミラたちのものに
なってしまうってことで…(笑)

 …そーいうわけで、

            「Yin×エビル・ペア」

                            参戦です…☆

 …これは、「自薦」なんでしょーか…それとも「他薦」…?(笑)

 …てなことで、YOSSYFLAMEさん、あとはよろしくお願いします…
 …このような機会を与えていただいて、ありがとうございました…
 …がんばって下さい…!!