ハンターLメモ第二話「ハンターなんかなれないね!」  投稿者:beaker




「導師……本当にやるんですかぁ?」
 何とも間延びした声で葛田玖逗夜は上の導師――ハイドラントを見上げた。
 呼ばれたハイドラントは重々しく頷く。
「ああ、我等を除け者にした罪、実感してもらわねばな……」
「私たちは一応悪者だから仕方がないと思うんだけどなぁ……」
 神凪がシャベルで土を掘り返しながらぶつぶつと呟いた。
「何をっ! 俺達だってみんなみーんな生きているんだ友達なんだ〜〜♪ だぞ!」
「いや、友達じゃないと思います……」
「ちくしょう! クソゲーハンター同士じゃないか! beakerのばっかやろーーーーー!!」
 ……ようするに除け者にされた腹いせらしい。
 beakerはこのハンター試験予備校(と呼称される)を開くにあたり、風紀委員会から一つの
条件を出された、それがすなわち、


『ダーク十三使徒には受験資格を与えないこと』


である。まあ彼女達からすればただでさえ厄介なダーク十三使徒に国家の後ろ盾をつかせる訳には
いかない、というのが本音であろう。
 beakerは0.0008秒ほど悩んで快くそれを了解した。下手に反論してこのイベントを潰される方が困る。
 ……とゆー訳でダーク十三使徒は参加できないのでその腹いせに現在落とし穴を掘っている途中なのである。

「ど〜せぇ、僕たちは悪役〜、うんとこどっこいしょ〜♪」
「目指すは学園征服だ〜♪」
 ……とセンスのない歌をがなりたてながら葛田と神凪は穴を掘った。
 掘って掘って掘りまくった。
 そして……
「導師! このくらいでどうですかっ!?」
葛田がはるか上方にかすかに見えるハイドラントへ向かって叫んだ。
「うむ、今そっちに行くぞ!」
 とぅっと叫んで穴に落下するハイドラント。
「うむ、これくらい掘れば彼奴等の脱出も困難であろう、良くぞ頑張った!」
「ありがとうございます、導師! ……でも我々のように音声魔術使いならば魔法で脱出可能なのでは?」
「ふっふっふ、こんなこともあろうかと思って第二購買部で『簡易性魔法呪縛結界』を買っておいた。
これを使えば空間移転呪文を使っても脱出はできん!」
 そう言ってハイドラントは落とし穴の壁に札をぺちぺちと貼り付けていった。
「これにて結界は完成! ここから脱出するなど不可能! わっはっはっはっはっは……」
「さ、さすが導師! 我々の姑息な意図などお見通しという訳だったのですね!」
 葛田が眼を輝かせながら言った。
 そんな中神凪はさっきから何かをいいたげにハイドラントの肩を叩いていた。
「何だ?」
「俺達…………どうやってここから脱出するんです?」
 何を言っているんだ? とばかりにハイドラントは肩を竦めた。
「音声魔術に決まってるじゃな…………………………あ」
「………………?」
「たった今…………結界…………」
 震える手で神凪は壁に張られた札を指差した。
 沈黙が三人を支配する中、葛田が何か思い付いたという風におずおずと口を開く。
「導師…………どうしましょう? なーんちゃって…………」
「本当に……どうしよう? なーんちゃって…………」
 しっかりと返答するハイドラント。





(あの時ほどダーク十三使徒に入った事を後悔した事はありませんでした。 後日、神凪談)
そんなこんなで









===ハンターLメモ第二話「ハンターなんかなれないね!」===









 ――職員室
「むむむむむ………………」
 緒方理奈は先ほど廊下に貼り付けてあったポスターを両手で握り締めながら唸り続けていた。
「理奈先生、どうしたんですか……? さっきから……」
 唸りつづけている理奈を心配してか澤倉美咲が声を掛けた。
 途端、理奈は立ち上がって叫ぶ。
「これよ! これなのよ! よし、早速連絡付けなきゃ!」
 そう言い残して走り出していた。
「……おーい……」
 一人置いてきぼりにされた感がする美咲であった。


 ――どっかの教室
「と、ゆー訳で!」
 黒板をバンと手で叩き付ける理奈。
 眼が暑苦しくなるくらい何かに燃えている。
「このハンター試験を受けて一気に予算獲得&メジャー化を狙います!」
「……」
「……」
「……」
「だいじょーぶ! あなた達のアフロさえあれば試験なんて恐れる事はありません!」
「……先生って意外に責任感強いタイプですね」
「……まさかホントーに目標見付けてくるとは思わなかったデース」
 心底感心した、という顔で理奈を見つめるアフロ同盟の面々。
「とりあえず我々アフロ同盟の中から精鋭メンバーを送り出す事にしましょう、まずTaSくん!
キミはリーダーなんだから当たり前ね」
「……精鋭ってウチら顧問も含めて六人しかいないのに……」
「それから……デコイくん! キミのカメラに対する執念を買うわ。あなた達二人!
しっかりアフロ同盟の宣伝しておきなさい! ついでに試験にもキッチリ合格! そして……」
 コホンと咳払いをして、
「私も出ます、だ・か・ら! 怠けちゃダメよ?」
 そう言って理奈はニッコリと笑った。



 アフロ同盟からTaS、デコイ、緒方理奈参加!



「ほほ〜、結構集まりましたね〜」
 理緒が整理している書類を手に取りながらぱらぱらとめくってみる。
 まあ動機は様々だろうがこちらとしてはお金が集まればそれで良い。
「まあ、問題は……この中の何人が脱落するか、ってところですか……」
「あ、やっぱり脱落する人とか出そう?」
 理緒が希望ハンター別に書類を仕分けながらbeakerに尋ねた。
「そりゃまあ、ハンター試験ってのは並大抵の厳しさじゃないですからねぇ。
それが素人を一ヶ月で鍛え上げるって言うんですから……」
「一人も合格者が出なかったらどうするの?」
「まあ、その時は……責任持ってお金を返さなきゃいけないでしょうねぇ」
「大変だよねぇ」
「そうですねぇ」
 のんきに言っているが実はとっても大変である、と言う事はお互いに理解していた。
 沙留斗にも気合いを入れてやっておかないとな、beakerはそう思った。



 ――それでもって数日後の放課後――

「えーっと、それでは次にテキストの三十三ページを開いて下さい。ここに書かれているように
ハンターのマナーで重要なものの一つに……」
 放課後、ハンター試験を受ける為に集まった生徒達を相手に沙留斗は無難に授業をこなしていた。
 始まった当初こそ、やや緊張気味でハラハラさせたものだが、今は四苦八苦しながらも何とか
やっていける状態だ。
 ただ、一部の生徒はいつまでたってもいわゆる'勉強'ばかりで、実地訓練をさせてくれない事に
不満を持ち始めていた。
 ……彼、夢幻来夢あたりがその一番手であろう。
「やっとられへんわ……毎日毎日学校の補習受けてるんやないっちゅーねん……」
 女性から羨望の眼差しで見られるような輝く髪を指に巻き付けながら、ぶつぶつと呟く。
「あ、ではこの辺で今日は終わります。皆さん、お疲れ様でした、予習もちゃんとしておいてください
ね……」
 沙留斗は一礼すると教室から出ようとした、だがそんな彼に夢幻が声を掛ける。
「なあなあ、実習みたいなもんはいつするんや?」
 沙留斗は少々困ったような笑顔を浮かべながら、
「うーん、まだハッキリとは……」
 そうやって言い淀む。
 そんな彼に夢幻は畳み込むように言った。
「もー、こんな下らん勉強はそろそろ飽きてきたんや、もっと、こうパーッとやらん?」
 思わず沙留斗がその言葉に抗議しようとした瞬間、
「まあまあ、夢幻さんの言う事ももっともじゃないですか」
 ポン、と、だが力強く肩を掴まれた。
「マスター……」
「そうですね、明日は勉強の息抜きを兼ねて戦闘訓練にしましょうか」
 肩に力を込めながら、beakerは沙留斗にパチリとウィンクした。
 その言葉に飛び上がって喜ぶ夢幻。
「よっしゃ! アンタ結構話わかるんやな、んじゃまた明日〜!」
 夢幻は鼻歌を歌いながら教室を飛び出した。
「マスター……」
 憤懣やる方ない、と言うように沙留斗がbeakerを見る。
 beakerは肩を竦めると、
「なぁに、今言った事は多かれ少なかれ誰しもが持っている疑問なんです、だったら……」
 ニヤリと笑った。
「それを解消させてあげなくてはね」


 ――翌日
「えーっと、今日は息抜きも兼ねての戦闘訓練です、ハンターたるもの、何かしらの闘いは
避けられません、たとえエニグマハンターであっても然りです。各自パートナーを見つけて
ちょっと闘ってみてくださいね」
 沙留斗はグラウンドに集まった参加者にそう言った。
 一部の戦闘マニア……おそらくトレジャーハンター志望だろうが、そこから歓声が挙がる。
 やはり、長い間机に齧り付いていただけあってストレスが溜まっていたのだろう。
 早速夢幻も自分の対戦相手を探し始めた。
「お〜い、ウチと闘いたいヤツおらへん?」
 そう呼び掛けてみる。
 すると、人込みに紛れて一人の男が手を挙げた。
 喜び勇んで彼に駆け寄る。
「へ? ……アンタがぁ?」
 夢幻は思わず気の抜けた声を出していた。
「手加減、してくださいね」
 そう言ってニッコリと笑ったのはbeakerであった。



(気が抜けるなぁ……こないな文系男倒したってしょーがないやん)
 ぶつぶつ呟きながらも夢幻は拳を構える。
「ほら、手加減してやらんけど来ぃな」
「それは困りますねぇ」
 beakerはもたもたと黒いコートを脱ぎ捨てようとする。
 敵わんわ、とばかりに夢幻が拳を下げた、その瞬間だった。
「きゃ〜〜〜〜〜!!! 夢幻ちゃ〜ん♪」
 周りの輪から突然黄色い歓声が聞こえてきた。
「なんや?」
 思わず振り返って声の方向を見つめる。
 だが、人込みに紛れているらしく、声を出した人間はどこにも姿が見えなかった。
(全く……)
 そんな事を心の中で呟きながらbeakerの方向を振り向こうとした瞬間、
冷たい金属製の何かが彼の頭に押し当てられた。
「……………………え?」
 思わず呆気に取られた声を出す。
「王手飛車取り。ハイ、僕の勝ちですね」
 そう言いながらカチリと銃の撃鉄を起こす。
 これでわずか2kgの力を指に込めるだけで殺傷力充分の弾丸が夢幻の頭を打ち抜く事になる。
「な、何で……」
「別に銃を使ってはいけないなんて言ってませんよ」
 beakerはこめかみに銃を突きつけながらそう言い放つ。
「んな無茶苦茶な言い訳通じるはずないやろ! この、卑怯モン!!」
 激昂してそう叫ぶ。
 いつしか、あちこちで殴り合いを始めていた他の人間も呆気に取られて彼等二人を見つめていた。
「卑怯……? ありがとうございます、誉めて戴いて」
 beakerは怖いほど醒めた眼付きだった。
 そして振り返って沙留斗に言う。
「ねえ、そう思いませんか?」
 沙留斗は近付いて頷いた。
「ええ、確かに……誉め言葉ですね」
「無茶苦茶抜かすなっ!」
「ハンターの闘いの過酷さ……知らないだろ?」
 沙留斗は夢幻に近づいて言った。
 beakerはそれを見て銃を下ろす。
「ハンターの……闘いの過酷さ?」
「そう、ハンターってのは御上公認とは言え……別に全員が仲良しこよしって訳じゃない。
財宝を奪い合う事もあれば、賞金首を巡っての争いが起きる事もあるし、エニグマハンターに
したって『解き明かした謎』を誰かに先に発表されないとも限らない」
「……」
「食べ物に毒を混じらされる事もある、賞金首に返り討ちにされる危険もある、謎の遺跡なんて
何が出てくるかわかったものじゃない」
「……」
「だから、何が卑怯で何がフェアだなんて言うのは俺達ハンターからすれば馬鹿馬鹿しいも良いところ。
騙される人間が悪い、そう決まっている」
 全員が粛として沙留斗の声を聞いていた。
「だから、何が起こっても平気なように……勉強だけはしなくちゃいけないんだ。
先人が苦労の末に書き記した文献、これさえ使えば未知の空間でも多少は不安を解消できる。
……それが嫌なら……済まないがハンターの試験を受ける資格もない!!」
 夢幻は顔を伏せた。
 歓声を挙げた先ほどの人間達も気まずそうに顔を伏せる。
「今日の授業はこれまでです……お疲れ様でした」




 ――また翌日
「授業、来てくれますかねぇ?」
 沙留斗が不安そうに前を進むbeakerに言った。
「どうでしょうねぇ」
 自分には責任ないとばかりに肩を竦める。
 ……実際の発案者は彼なのだが。
「まあ、来なかったら来なかったでいいんじゃないですか、厳しい現実に眼が醒めたでしょ」
「でもですねぇ……アレは少々やりすぎのよーな……」
 そんな事を言い合いながら二人は教室の前に立った。
「さ、てと。どうだろうか……?」
 がらがらと扉をわずかに開けてbeakerは教室に首を突っ込む。
 振り返ってニヤリと笑った。
「思っていた以上に彼等は根性があるみたいですよ、'先生'」
 そう言ってポンと沙留斗の肩を叩いた。
 沙留斗もその台詞に思わず急いで扉を開く。
 そして眼を輝かせた。
「おっっそいで、先生!!」
 そこには、
「さあ、勉強を始めましょうか!」
 誰一人として欠けていない参加者たちがいた……


「ま、結果オーライってとこですかね、良かった良かった」
 beakerは口笛を吹きながら、教室を去って行った。
「それでは今日の授業はテキスト三十八ページを……」
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 そして一週間がすぎて、ようやく実地訓練が行われる事になった。
 場所は図書館のダンジョンの地下一階から十階まで。
 大したモンスターも出ず、宝も罠も初級者の人間にとっては手頃であろう。
「それでは皆さん、三人一組になって、一組ずつ降りて行ってくださいね〜」
「獲った宝は全部自分達のものにしていいですよ〜」
 beakerがそう言うと全員から歓声があがる。
 だが、beakerも、沙留斗も、参加者も、

「おのれ、購買部ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 ダーク十三使徒が罠を張って待ち受けている事までは気付いていなかった。
 ってゆーかダーク十三使徒の存在そのものをここんとこ忘れていた。
 だって、あの落とし穴から出れてないし。



 ともかく、そんなこんなで地獄の実地訓練が始まったり。











<つづく>