シネマLメモ「スターウォーズエピソード1:ファントムメナス」胎動編  投稿者:beaker


A long time ago

in a galaxy

far,far away……







 平和な銀河に突如として異変が起こった。
 辺境の星、ヒメカワ星は第二購買部との課税問題の縺れから彼等の武装艦隊に
 武力封鎖を掛けられたのだ。
 ヒメカワ星の女王、姫川琴音は彼等の要求を断固として拒否。
 このままでは事態が悪化する事は眼に見えて明らかであった。
 火急の事態にもなかなか動き出そうとしないリーフ共和国議会に苛立ちを覚えた
 エルクゥ同盟は事態の調停のため、二人のエルクゥの騎士を派遣した……









 CINEMA Lmemo「STAR WARS:EPISODE1/THE PHANTOM MENACE」



       「胎動」





 ――ヒメカワ星の遥か上空、第二購買部武装艦隊の母艦

 ザザッというノイズ混じりの音声でドロイドが“彼等”の到着を伝えた。
 共和国からの調停役だ。
 銀の背景に緑の葉をあしらったマークは彼等が共和国の代理人である、という事を伝えてもいる。
「彼等を“特別席”に御案内してやれ」
 ドロイドにそう言い含めるとbeakerは眼の前の男――のホログラムに向き直った。
「調停役どもが到着したようです、すぐに始末いたします」
「結構」
 それだけを言ったホログラムの男――フードに隠されて顔は見えない、そして一度も逢った事すらない。
 だが彼の力は微弱なSSの力しか持っていないbeakerにすら伝わってきた。
「あの……それで我々はこれからどうすればいいのでしょうか?」
「まずその目障りな馬鹿ドロイドどもに絶対に王女を殺すな、と伝えておくんだな。
そして課税問題は全てこちらの指示に従うという旨の誓約書にサインをさせろ」
「はいはい、それはこちらとしても全力で」
「……ではまた追って連絡する」
 言うなり通信が途切れ、ホログラムが消え去った。
 ややあって、ふうと一息をつく。
「おい、誰か茶を持ってこい!」
 手近なドロイドに怒鳴りつける。
「本当にいいのですか?」
 沙留斗が心配そうな顔でbeakerに問い掛けた。
 beakerは黙って首を振った。
「我々に選択肢はない、彼等の言う事さえキチンと聞いていれば上手くいくさ」
「そうですかねぇ……調停役に来た彼等、エルクゥの騎士ですよ?」
 beakerは椅子から転げ落ちそうになった。
「エ……エルクゥの……騎士が……?」





 はっくしょん、と大きなくしゃみが艦内に響き渡った。
 艦内を歩いていた二人組の内、先頭の方がくるりと振り返った。
 既に歳の頃は六十を過ぎているかと思われる人間だが、肉体はどう見ても三十代のような
しなやかさを保っている、六十と思わせる証拠はと言えば際限なく伸びた白髪だけであった。
 眼は蒼く、揺るぎ無い意志を持つ事が見て取れる。
 一方のくしゃみをした人間――彼は肉体も精神も全てが若さに溢れていた。
 短く切られた髪の毛は黒く、一方の人間との絶妙なコントラストを保っている。
「どうした? 風邪でも引いたか?」
「いいえ、師匠。これは……そう、これは僕の第六感というやつです」
「ほほう、お前の第六感は果たして何をお前に告げてくれたのだね?」
 感心するように、あるいはからかうように髭を擦りながら頷いた。
「さっさと済ませてヒメカワ星名物の温泉たまごを食べたい」
 くっくっく、と師匠と呼ばれた人間――名を西山英志という――は笑い出した。
 その笑いに抗議するかのようにもう一方の人間は言葉を続ける。
 彼の名前は風見ひなたといった。
「でも師匠、この勘は重要な事を知らせていると思いませんか? つまりこれはこの調停は
こじれる事なくスムーズに済むという事で……」
「ふふふ、ひなた、この艦内の気配を感じ取ってみろ。どう考えても我々を歓迎するようには
感じ取れないぞ。残念だがお前の第六感は外れたな」
「……しかし、師匠。私には彼等が逆らおうとする理由も勇気も全く感じ取れませんが」
「確かにな」
 そう言って西山英志は行き止まった場所の扉を開けた。
「だが、SSの力を感じ取れない人間は返って何をするか分からんぞ」



「ようこそいらっしゃいました。こちらのお部屋でしばらくおくつろぎください」
 セリオタイプのドロイドが抑揚のない音声で彼ら二人を椅子に座らせる。
 西山英志は目の前に置かれた茶を見て顔を顰めた。
 風見ひなたも口を付けようとして西山英志に向き直る。
「師匠、まさかこれ……」
「どうも歓迎してくれる、という態度ではないな」
 頷いて風見ひなたはコトリと湯のみを置いた。
 それと同時に壁に設置してあった排気口から煙が噴き出した。
 色鮮やかな煙はたちまち部屋中を覆い隠す。
「ガスかっ……!」



「――ガス散布、終了シマシタ」
「よろしい、奴等が乗ってきた宇宙船の爆破及びエルクゥの騎士どもへのトドメを命じる」
 beakerは通信パネルでそう命じるとどっかと椅子に腰を下ろした。
「ふぅ、一安心だな。これで“彼等”との約束は果たせそうだ」
「そうでしょうか?」
 沙留斗が疑問を口にした。
 そんな彼を何を馬鹿な事を言っているんだ、とばかりに睨み付ける。
「沙留斗、何が言いたいのだ?」
「エルクゥの騎士とは――」


 集合した戦闘用ドロイドが頷いてガス室の扉を開ける。
 当然のように流れ出すガスに隠れて何も見えない。
 ドロイド達は温度スキャンを始めようとした。
 瞬間、飛び出してきた二つの物体が彼等のカメラ・アイに映し出された。
「シャアッッッ!!!」
 気合いもろとも二人は次々とドロイドを切り裂いていく。
 カメラでその様子を窺っていたbeakerは飲んでいた茶を噴き出し、
慌てて他のドロイドを派遣させた。


「最強を誇る種族エルクゥの血を引く者達、力も、スピードも、技も、経験も、全てにおいて
全種族の遥か上をいく者達の集まり。ガス攻撃やドロイド如きでは……」


 ドロイドはブラスターを連射する、だが彼等のライトセイバーは逆にブラスターのエネルギーを
反射させて、たちまちドロイドを撃破していった。

「歯が立つはずありませぬ」


「ヤァッ!」
 風見ひなたが最後のドロイドを一文字に切り裂いた。
 数瞬遅れてドロイドの身体から火花が散り、崩れ落ちる。
「……ここだな」
 西山英志は一際豪華に、堅固に作られた扉の前に立った。
 そしてライトセイバーをその扉に突き刺す。
 まるで泥に沈めるようにズブリズブリとライトセイバーが扉に入りこんで行く。
 やがて、ライトセイバーによる熱で扉は次第に赤く溶かし出されて行った。
「ひぃぃぃぃっ!!」
 beakerは腰を抜かしたようにわたわたと椅子から転がり落ちる。
「だ、誰か何とかしろ!」
「分かっています、すぐにアレを向かわせますので」
 沙留斗は平然とした顔で通信パネルに呼び掛けた。
「……至急FENNEK二体を迎撃に向かわせろ!」


「師匠、まだ開きませんか?」
「ああ、かなり分厚く作っているらし……!?」
 二人の目の前にピエロが乗る玉のようにごろごろと二つの何かが転がってきた。
 転がりながらソレは変形する。
 風見ひなたは何となく昔見た子供のアニメを思い出した。
 だが、転がってきた物はそんなおもちゃより遥かに危険な代物であった。
「ヤバいっ、特殊ドロイド、FENNEKだ!」
 二台のFENNEKは人型に変形すると手に当たる部分のブラスターを連射し始めた。
 風見ひなたが必死にライトセイバーで受ける。
 だが、計四門のブラスターの連射に加え、彼等FENNEKが張った防御シールドは
さしものエルクゥの騎士と言えども手を焼くのは必至であった。
「ひなた、逃げるぞ!」
「しかしですね……」
 意固地になりつつあるひなたの首を引っ掴みながら彼は言った。
「逃げる事は恥ではない、大事なのは勝つ事だぞ」
ブラスターの連射をライトセイバーで反射させながら二人は当てもなく逃げ出した。


「やった、やったぞ! エルクゥの騎士どもを追い返してやった!」
 beakerは手を叩いて喜んだ。
 同時に惑星ヒメカワから通信が入る。
「――御機嫌は如何かしら? 第二購買部の方々」
 大型ディスプレイに映し出されたのは若くして――ヒメカワ星史上最小年齢の16歳で――
女王に選ばれた姫川琴音であった。
「これはこれは王女様、そちらの状況は如何ですかな?」
 嫌味ったらしくbeakerが言う。
 その言葉に琴音はフンと鼻を鳴らして、
「その余裕もそこまでですよ、共和国から調停役が派遣され、そちらにもう着いている頃です」
 そう言い放った。
「はて? 我々の元へ調停役が? 申し訳ありませんが何かの間違いでしょう」
「なっ……」
 ここへ至って初めて琴音の顔色が変わった。
「馬鹿な、まだ辿り着いていないとでも!?」
「さて……我々には全く」
 かぶりを振ってbeakerは椅子に腰を下ろした。
 頬杖をついてディスプレイの彼女に向かってニンマリと笑う。
「我々もこの状況については非常に苦慮しているのですよ。
大人しく契約書にサインさえしていただければ……ね」
「それは……我々の要求は全く聞き入れるつもりがないという事ですね?」
 一瞬で冷静さを取り戻した琴音が聞いた。
 beakerと沙留斗は沈黙した、それが答えだ。
「分かりました、その選択……後悔なさらないように」
 琴音はそう言って通信を断った。


「さ、て。エルクゥの騎士達はどうなったのかな?」
 手を揉みながらbeakerは沙留斗に聞いた。
 だが沙留斗は蒼ざめたまま無言で首を振る。
「見失いました……これをご覧ください」
 沙留斗が映し出されたディスプレイには……ズタズタに切り裂かれたFENNEKが二台、
御丁寧にスプレーでラクガキされた上に旗を立てられていた。
 無論、風見ひなたのイヤガラセだった。
 ビデオを巻き戻してみるとカメラに向かってピースしてるし。
「……うーん」
 バッタリとbeakerは倒れた、急激なストレスで胃に穴が開いたらしい。
「さて、“あの方”にどう報告すりゃいーのかねぇ……」
 沙留斗も胃に穴が開きそうだった。



 一方、西山英志と風見ひなたは格納庫まで戻っていた。
だが自分達が乗ってきた宇宙船が完全に破壊されているのを見てため息をつく。
「さて、どうしましょうか。師匠?」
「……ふむ、ひなた、気配を消せ。……アレに乗るぞ」
 西山英志は傍の宇宙船を指差した。
 おそらくヒメカワ星侵略用の輸送船であろう。
 ドロイドがいくつかの荷物を運んでいた。
「ふむ、あの様子だと……侵略も間近のようですね」
「ああ、我々もさっさとヒメカワ星に合流しないと事態は悪化する一方だ」
「彼らに和平の意志はない」
「完全にな」
 ふと思い付いたように風見ひなたはニヤリと笑った。
「でも私のSSの力もまんざら捨てたものじゃありませんね……少なくとも交渉が短く終わった事
は事実なのですから」
「違いない」
 そう言って西山英志もニヤリと笑った。
「では行くか」
 二人は気配を消し、そっとその船に乗り込んだ。









 ――同時刻、リーフ星

 ……リーフ星には“地面”が存在しない。
 爆発的に増加した人口、そして傲慢なまでに発達した技術力は完全に
星をコントロールしていた。
 だから自然の産物は必要なかった。
 あるのは機械の床と機械の塔だけ。
 無数に立ち並ぶ塔の一つに彼は立っていた。
 様々なデザインの塔の中で一際無骨、だが最も高い塔の最上階。
 そこに、彼は立っていた。
 黒いフードに覆い隠された顔からは何の表情も、感覚も、心も伝わってこない。
 彼は呟いた。
「どれほどこの時を待った事か……」
 その言葉は誰の耳にも届かず、消えた。
 ……その場にやってきたもう一人の存在を除いては。
 彼は音も無く塔の頂上からジャンプし、バルコニーの柵へ降り立った。
 便宜上地上と呼ばれる部分まで一体どれくらいの高さがあるのだろうか。
「ついにエルクゥとの対決の時が来た……」
 降り立ったソレはそう言った。

 それに呼応して頷く。
「そう、復讐の時が」


 風に煽られて彼等のフードがめくられた。
 だが気にする事なく言葉を続ける。


「俺は憎い……エルクゥが、リーフが、星が、銀河が、人間が、全ての種族が憎い……」


「見ていろ……貴様等が信じる全てを跪かせてやる……」


 全ての崩壊の時は……確実に近づいていた。




<続>