シネマLメモ「スターウォーズエピソード1:ファントムメナス」包囲編 投稿者:beaker






 ヒメカワ星と第二購買部の調停に立ったエルクゥの騎士、西山英志と風見ひなた。
 しかし、ある男に操られている第二購買部は二人を襲撃。
 からくも逃れた二人はヒメカワ星への輸送船に潜入し、王女の救出に向かう。




  CINEMA Lmemo「STAR WARS:EPISODE1/THE PHANTOM MENACE」



       「包囲」





「ああ……」
 ピヨピヨと雀のような生き物が枝の上で鳴くのを聴きながら、
地面に寝そべる。
 TaSにとってのんびりした時間は至福の時であった。
 もう狩りで足を引っ張ったからと言って謗るような上司もいない。
 ましてや、ちょっと武器を躓いて破壊したからと言って悪鬼羅刹の表情で怒鳴りつけるような
王様もいないのだ。
 食べたい時に食べる、眠りたい時に眠る。
 それでは結局のところ動物と一緒ではないかとTaSは思ったのだが、
我々とて基本的には動物の一種なのだ。
 彼にはどうにも他のヒト――の気持ちが理解できなかった。
 苦しい思いをしてまで人は人として生きる価値があるのだろうか?
 ……動物になれば楽なのに。
 そんな事を思い浮かべながらTaSは今日の夕飯はどこで捕まえようか考えていた。
 だが、


「……オヤ?」


 地鳴りが聞こえる、動物が騒ぎ始める、樹が振動で揺れ始める。
 まるで巨大な何かが近付いているようだ。
 TaSは起き上がって周りを見渡した。
 観れば動物たちが一斉にある方向へ向かって逃げ出そうとしている。
 好奇心が刺激されたTaSは動物たちが逃げてきた方向へ歩き出した。
 しばらく歩くと、何か巨大な……まるで宇宙船のような……ものが見えた。
 とりあえずノックしてみる。
「入ってますカー?」
 その声と同時に宇宙船の前方がパックリと開いたのでTaSは飛び上がった。
 さらにそこから何体ものロボットが飛び出してくる。
 ロボットらしきものは二足歩行形態に変形すると、銃を構えて辺りの様子を見回し始めた。
 そしてバッチリ発見されるTaS。
 TaSは逃げ出すか攻撃するか迷った挙句、

「おハロー」

 とりあえず挨拶を交わしてみた。
 ロボットは首を傾げたが、すぐにこちらに向かって銃を構える。
「NONONO! ブレイクブレイク!」
 慌てて両手を振って降伏する、が、それに構わずジリジリとこちらに近付いてくるロボットたち。
 もうお終いか、と思った矢先、ロボットたちの首が吹き飛んでいた。
 TaSがつぶった目を開くと、人間たちがライトセイバーでロボットたちを
薙ぎ倒している。
 これが、あの有名なエルクゥの騎士か!
 あっという間に宇宙船のロボットを残らず薙ぎ倒した二人を見て、TaSは歓声を挙げた。
「素晴らシイ! グレート!」
 その二人は「何だこの変人は」という眼でTaSを訝しげに睨んだ。
 無理もない、何故ならTaSは頭が爆発していた。
 正確に言うと髪形が爆発していた。
 もっと正確に言うとアフロヘアーだった。
 場の緊張感を台無しにするタイプ。
「助けてくれてありがとうございましたー!」
 二人は互いに視線を交換し合い、結論を出した。
 何も見なかった事にしたらしい。
 スタスタと歩き出す二人。
 そして彼らについていくTaS。
 TaSとて受けた恩は二日は忘れない。
 猫は三日覚えているけど。
 負けているのか。
 二人はついてくるTaSを無視して話し始めた。
「……ふむ、地図によるとここからヒメカワ星の首都までは随分離れているな」
「この森を抜ければ何とかなりそうなんですが……」
「いずれにせよ隠密行動でないと姫の救出は困難になりそうだ、歩いていかねば」
「時間が惜しいですね……」
「あなた達、ヒメカワ星人の町へ行くつもりですカー?」
「うるさい、アフロ。悪いか!」
 目つきが悪い若者の方がTaSを怒鳴った。
「オー! 差別的発言は良くないですネー! せっかく近道を教えてあげようと思ったノニ!」
「まあ落ち着けひなた、君は近道を知っているのかね?」
 白と黒が入り混じった髭面の男が、TaSに向き直っていった。
「あなた達はワタシの命の恩人デース! だから恩は仇で返さなきゃいけないのデース!」
「仇で返してどうする!」
 すかさず風見がツッコんだ。
「オー、イッツアアメリカンジョークね! HAHAHA!」
 愉快そうに膝を叩くTaS。
「……殴っていいですか?」
「……いや、もう殴っただろ」
 風見は棍棒で彼の顔面に向かってフルスイングしていた。



 しばらく歩いて湖へ出る。
「二人ともついてきてくだサーイ」
 そう言ってTaSは湖に飛び込んだ。
 二人も頷いて後へ続く。
 どれくらい深く潜ったであろうか。
 しばらくすると巨大な泡が水の中に浮かんでいる。
 そこへ向かって突き進むTaS。
 その泡は上に浮上するでなし、消えるでもなし。
 それは大変に奇妙で美しい光景であった。
 良く見ると他にも何十、何百、何千もの泡が水の中に浮かんでいる。
(これが……彼の国か……?)
 いくつもの星を放浪してきたエルクゥの騎士たちも
さすがにこのような幻想的な光景はお目にかかった事がなかった。
 TaSは一つの泡の前へやってくると両手を泡にくっつける。
 泡がTaSの身体を包み込むかのように彼の身体を中に引き入れる。
 スポン! というような感じで彼は泡の中へと入り込んだ。
 西山と風見も後に続く。
 TaSは不思議なほどおどおどしながら辺りを見回す。
 その様子を不思議に思った西山が声を掛けようとした、
 刹那――


 矢が彼らの足元に突き刺さった。


「うわっ!」
「おわっ!」
「What!」

 矢が放たれた方向へ眼をやると何かの生き物に乗った女性がこちらを睨みつけていた。
「ヘイ、TaS! 何をノコノコ帰ってきているのデスカー!?」
 こちらにゆっくりと近付いてくる。
 風見がライトセイバーを抜こうとするのを西山は素早く押し留めた。
 ここで諍いを起こしてはマズい。
「あー、レミィサン! 少々込み入った事情がありましてヒメカワ星人の街への近道を
使いたいのデース!」
「近道? ……ああ、コアロードの事ですか! でも何でまたそんな所へ?」
「この二人が近道を使いたいと言っているのデス」
「二人?」
 レミィと呼ばれた女性はチラリと風見と西山を見た。
 しばらく見つめた後、
「とにかくダディに報告してきマス、三人ともついてきなサーイ」
 風見はぶすっとしていたが、西山に促されて渋々と歩き出した。
 歩きながら西山がTaSに声をかける、
「君は相当恨まれているようだな」
「OH! どうして判りまスカ?」
「判るだろ、普通は」
「その通りデース、ワタシ、ちょっとばかり失敗してしまって追放させられた身ね、
今更ノコノコ帰ってこれる立場じゃありまセン……」
 TaSは悄然としてうなだれた。
「……どういう失敗を?」
「長のショットガンを手入れしていたらうっかり暴発させてしまって、
うっかり、その跳弾が長の尻に跳ねかえって七転八倒した拍子に泡から抜け出してしまって
あやうく長は溺れ死ぬところだったネ」
「言っておくが殺されなかっただけマシだと思いな!!!」





「断る」
 レミィの父親――部族の長、ジョージは肩に抱えたショットガンを動かしながらそう答えた。
「何故です?」
「我々はヒメカワ星人と敵対している、何故手を貸さねばならない」
 そっけない返答であった。
 豪を煮やした風見が一歩前に進み出る。
「ヒメカワ星人がやられたら次はアンタ達、ミヤウチ族の番だろう!」
「その時は勿論対抗する、ヒメカワ星人を奴らが倒してくれるならそれに越したことはないさ」
「なっ……」
 さすがにその返答に絶句する風見。
 西山が風見を手で押さえるような仕草をしながら、
「判りました、我々だけで対処します。ですがせめてコアロードを進むための
潜水艇をお貸し願いたい」
 ジョージは髭を摩りながら、
「通常ならばそんな依頼に答える義務はない、だがあなたは追放されたとはいえ、
我々の部族の一員を助けてくれた、その礼は果たそう」
「感謝します」
 西山は深く一礼した。
「道案内も必要であろう、ついでにTaSも連れて行け」
「こいつを?」
 風見がTaSの方を睨んだ。
 TaSの方はといえば顔面蒼白になって、
「冗談じゃナーイ! コアロードに行くくらいなら鞭打ち百回の方がまだマシネ!」
「貴様が命を助けられたのだ、その恩は返さねばならんのが我々の掟だ」
「悪いな、君はもう少しつきあってもらう」
 西山はかすかな笑みを浮かべてポンとTaSの肩を叩いた。
「それでは失礼します」
「エルクゥの騎士殿、丁寧な挨拶痛み入る。コアロードを無事通過できるよう
祈っております」
 ジョージがそう言うと、西山はニッコリと笑い、
「あなた方にもSSの加護があらん事を」
 そう言って軽く十字を切った。



 西山と風見とTaSは引き渡された潜水艇に乗りこんだ。
 TaSが運転席に座り、風見が助手席、西山は後部座席に座る。
「それではシートベルトを締めてくだサーイ! 行きまスヨー?」
 そう言ってTaSがアクセルを踏むと恐ろしいスピードで潜水艇は発進した。
「コアロードはこの星の核に一番接近する道デス、もたもたしていると潜水艇が
溶け出しかねないネ!」
「お前の運転は大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫! ちゃんと免許持ってますカラ」
「本当か?」
 風見、とっても訝しげ。
「ミヤウチ星人の潜水艇免許試験は実技がないからネ!」
「ちょっと待てぇぇぇぇ!!!!!」
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(三時間ほど経過)
・
・
・
「ハ……ハハハハハ! 着いた! 着いたぞ!」
「死ぬかと思いまシタネー!」
「ああ、お前の運転がヘボでなかったらもう少し早かったと思うがな!」
 TaSの顔面はフリッカージャブを連発で貰ったかのように腫れ上がっていた。
 予想通り、TaSの運転はヘボかった。
 避ければいーのに巨大魚の顔面に突っ込み、
 ほっとけばいーのに巨大ナマズの背中を擦って、大騒ぎにしていた。
 幸い、巨大ナマズが追いかけてきた巨大魚に気を取られたため、何とか脱出できたのだが。
「貴様は潜水艇の運転を二度としない方が……うぇ、気持ち悪くなった」
 苦笑した西山は風見の背中を擦りながら、
「ともかくご苦労だった、お陰で大分時間が短縮できたことは間違いない」
 ふと見ればヒメカワ星人たちの首都はすぐそこであった。
「TaS、君はどうする? ここからは森に戻るなり、ミヤウチ族の元へ戻るなり、
好きにするがいい」
「……」
 しばらくTaSは考えていたが、
「まだ恩を完全に返しきったとは思えまセーン、しばらくついていく事にしマス」
「そうか、だが戦闘になったらくれぐれも邪魔するなよ」
「了解しまシター」
「では我々も急ぐとするか」
 かくして西山英志、風見ひなた、TaSの三人は一路首都エッグまで向かった。








――ヒメカワ星首都 『エッグ』




「……これ以降の通信は記録されておりません、現在復旧を急いでおりますが、
どうも惑星圏外のレベルで完全に断絶しているようで、復旧は不可能に近いかと」
 神経質そうな若者がレポートを読みながらそういった。
 他にも何人もの人間が玉座から離れた椅子に座り、報告書を開いている。
 玉座の左右には侍女がゆっくりと扇をあおいでいた。
「そうですか、判りました」
 中央の玉座に座る女王は驚くほど落ち着いて報告を聞いていた。
 初老の老人が報告を続ける。
「女王、この通信断絶が意味するところは一つしかないと思われます」
「……すなわち?」
「侵略です」
 初老の老人はそう言い切った。
 女王は頷いて、
「……私もそう思います、そして侵略の場合」
「我々に勝ち目はありません、我々は余りに……武力を軽視しすぎました」
 先ほどの神経質そうな若者が無念そうにいった。
「女王、既に監視の人間から森に無数の輸送船の着陸が確認されています。
脱出もおそらく不可能かと」
 ふぅ、とため息をついた。
 十七の即位直後の女王にこの事態は余りに重すぎる。
「やむを得ません、降伏すれば彼らも事を荒立てることはしないでしょう」
「しかし……」
「この上は元老院が何とかしてくれることを祈るだけです」
 所詮、受身か。
 琴音は歯痒かった、自分の星への侵略にすら対処できないとは。
 何百年もの平和が彼ら辺境の星の武力への侮蔑に繋がってしまった。
 時として武力は必要な切り札であるというのに。
 だが、今嘆いても仕方がないことだ。
 女王……琴音は神経質そうな若者へそっと耳打ちした。
「東西、わたしたちが囮になっている内に戦闘に必要な装備をできるだけ確保しておいてください、
それから戦闘要員も今の内に隠れさせるよう」
 東西と呼ばれた若者は頷くと、すぐに走り去った。
 それを見守ってから琴音は立ちあがり、
「行きましょう」
 そう言った。
 既に首都の近くに何百体ものドロイドが確認されている。
 民は混乱するだろう、だが立ち向かいもしないだろう。
 ……我々の生き方は正しかったのだろうか?
 そんなことを思いながら琴音は豪華なだけで動きにくい服を脱ぎ捨てた。





「――首都エッグ付近のドロイドより通信、琴音王女を拘束したとのことです」
「そうかそうか! いやあ、これで何とか面目が立つというものだ」
 beakerは嬉しそうに叫んだ。
「早速我らもヒメカワ星へ降りるぞ、船を用意しろ!」
「はっ」






 包囲が狭まっていた。
 蜘蛛の糸のように張り巡らされた罠が次第次第に彼らを追い詰めてゆく。
 そして糸は――全てをひっくり返すのだ。











<続>