グラップラーLメモ第五話「三重のセキュリティシステム」 投稿者:beaker
第一試合から大波乱!!
柏木梓は葛田玖逗夜(偽者、念為)の急襲によって大ダメージ!!
そればかりか、葛田の拳すらよけきれない!!
なぜ葛田の拳がヒットするのか!?
なぜ梓は見切れないのか!?
闘いはますます白熱!!
グラップラーLメモ、どうぞ!


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「くっ・・・・!!」
梓は一方的に押されていた。
葛田はただパンチをボクシングスタイルで繰り出しているだけ。
だが、梓はカウンターどころか避ける事すら出来ず、
攻撃を食らい続けていた。
「ああっ、もう!!梓ァ!何やってんのよ!!」
綾香がたまらず叫ぶ。
(もーうるさいわね!!、こっちだって必死にやってんのよ!!)
そう言いながらも梓は思いきり逃げ腰に攻撃を避ける事で何とか堪え忍んでいた。
もっともこれでは自分の攻撃すら出来ないので、結果的に一方的に押されているのだ。
「しかし・・・攻撃を避けきれないな。」
極めて冷静に久々野が呟いた。
「ええ、梓先輩なら避けれる程度のパンチだと思うんですが・・・」
二人の会話を背中で聞きながら、綾香もそう思っていた。
あの”爪の塔”の柏木梓があの程度のパンチをどうして・・・
綾香はラッシュをかける葛田の顔を見、それから腕を見た。
黒と白の縞模様の袖・・・あ・・・
綾香が気づくとほとんど同時にこの場の闘士たちの何人か・・・
無論梓も気づいたいた。

(腕の・・・模様!!)

綾香が叫んだ・・・いや、叫ぼうとした。
「梓!!腕の・・・」
「分かっているわよ!」


そう言いながら梓は葛田の拳を一歩踏み込んで・・・躱した!!
「!!」
「ハアッ!!」
そのまま葛田の伸び切った腕を掴んで、脇腹に拳の一撃を加える。
「グウッ!!」
葛田は捕まれていた腕を振り解いて脱出し、後退する。


「なるほど・・・、横縞の模様・・・ねえ。」
「どういうことですか?」
訳も分からず葵が綾香に問いただした。
葵の方をチラリと見てから、綾香は説明を始めた。
「葵・・・相手の服の腕の部分を見てみなさい。」
「腕・・・?あっ、黒と白の縞模様になっていますね。」
「どういうことか分かるかしら?」
「いえ、全然・・・」
葵はショボンとうな垂れた。
その様子に綾香はクスリと笑ってから、こう言った。
「人間の眼はね、横縞を見ていると錯覚を起こすのよ。」
「錯覚?」
「そう、横縞の模様はその物体を大きく見せ掛けるの。それが梓の眼を混乱させていたのよ。」
「何か・・・卑怯です。」
葵は少々嫌そうに言った。
純粋な娘ね・・・
綾香はそう思ってクスリと笑った。
(でもね、葵。そんな考えじゃ優勝は無理なのよ、
喩え誰に卑怯者と罵られても勝利を掴むぐらいの執念が無いと・・・)


一方ハイドラントは弟子の技が破られたにも係らず、余裕を保っていた。
(まあ”第一の罠”は突破できたか、問題はこれからだな・・・もう一つの罠、見切れるか?)


『さあっ、ついに梓選手のパンチがクリーンヒットしました!
調子がイマイチだったのか葛田選手の攻撃をくらい続けていましたが、一気に反撃!!』
志保が一気に捲し立てる。

だが、葛田はさほどの表情も変えず、ボクシングスタイルを取り続けている。
そして・・・一気に踏み込んだ!!
ヒュッ!!
奇麗なワンツーだ、が・・・
(見切ってんのよ、あんたのパンチは!!)
梓は先ほどと同じタイミングでぎりぎりに躱してカウンターを叩き込む・・・はずだった。
「大丈夫、梓は避けられる・・・ッ!?」
葛田のジャブが梓にヒットした!!
綾香たちも驚いたが、それ以上に明らかに動揺が見て取れたのは梓であった。
その動揺が梓のガードの甘さを引き起こした。


そして


葛田のアッパーが梓のあごに直撃した


「ッッッ!!??」
梓はマリオネットの糸が切れたように崩れ落ちた。
「梓さん!!!!!!!」
「梓!!!!」
葵や綾香、秋山といった面々が次々に叫ぶ。
その叫びが届いたのか梓は何とか踏みとどまった。

葛田は落ち着き払った口調で言った。
「・・・躱せなかったでしょう?」
『こ、これは一体どうしたことか!?・・・いやそれより、先ほどのパンチは私の幻覚でしょうか!?
そう、何か腕が伸びたような・・・』
(腕が・・・そう、確かに腕が伸びたわ。幻覚じゃなく、現実に腕が伸び切った状態からさらに伸びた・・)
梓は先ほどのアッパーカットで混乱する思考を無理矢理腕の疑問に集中させた。
(さっきと・・・長さが違う・・・いや、腕の長さ自体は一緒・・・と、すると・・・)
考えをまとめる暇も無く、葛田がさらにジャブを繰り出してきた。

カリッ

それは本当に微かな音

骨を鳴らす時よりもほんの少しだけ大きい音

だがそれは確実に

梓の耳に届いていた

『あ〜〜〜〜っと、またもやパンチが直撃ィィィィィィ!!』
だが今回も梓はぎりぎりで踏みとどまった。
自分自身の耐久力に驚いていた梓だったが、すぐに気づいた。
葛田のパンチの威力が落ちている。


(威力の低下・・・間際で起こる急激な伸び・・・そして音・・・まさか・・・)
梓が次第次第に鋭い表情に変わっていった。

獲物を狩る虎のように

梓がこの表情になったと言うことは・・・
「この試合、梓の勝ちだな。」
久々野が呟いた。
「どうして、そんな事が・・・!?」
葵が何時の間にか綾香の側に来ていた久々野を見咎めて言った。
「そうね。」
綾香は振り向きもせずに言った、眼は梓の姿を追いつづけている。
「あの顔見れば分かるでしょ・・・謎が解けたって表情だわ。」
「綾香さんは分かったんですか?」
葵が聞いた。
「・・・・・・・・・オホン!!ともかく注目ね。」
「・・・綾香、全然分かってないだろ。」
久々野がジト目でツッコンだ。
「う、うっさいわね!そーいうアンタは分かったの!?」
顔を赤らめて綾香が反論する。
「ま、大体はな。・・・あくまであの状況下でできそうな事を予想しただけだが。」
「で、どうやってアイツは攻撃しているわけ?」
「まあ、見てろ。」


梓は一旦ステップバックして、間合いを取った。
葛田も必要以上に追うつもりはないらしく、そのままじりじりと近づいている。
「・・・どうしてそんなに余裕があるんですか?」
葛田が不思議そうに聞いた。
梓は唇の端だけを歪めて笑った。
「そりゃあね、勝つと分かっているからよ。」
梓が答える。
「僕の拳はよけられませんよ。」
「そうかしら?・・・やってみなくちゃ分からないわよ。」
葛田は梓のセリフを聞き終わるか聞き終わらないかの内に、一気に間合いを詰めた。
そしてまっすぐ腕を伸ばす、
そして伸び切った瞬間、さらに腕が伸びた。
だが・・・

『あ・・・か、躱しましたーーーーーーーー!!!!』
梓は葛田のさらに伸びた腕も見切ると、すかさず懐に入り込み、膝をみぞおちに入れた。
「!?」
葛田は苦痛と驚愕の表情を浮かべながら、何とか後方に飛びのいたが、苦痛に耐え切れず片膝を突いた。
梓は葛田を見下ろした。
「・・・どうやらバレたようですね。」
葛田は苦痛に顔を歪めながら言った。
「あの音が無かったら多分分からなかったわね。」
梓は答えた。
『音?』
「音だってよ・・・」
「そんなん聞こえたか?」
「いや・・・」
観客がざわめく。
「そう、骨を外した時に鳴る音・・・
希にいるらしいわね。子供の時肩の骨が外れた人間が癖になって自由自在に外せるようになる・・・
そういうサッカー選手もいたはずよ。
あなたはそれを利用して、腕を目いっぱいに伸ばした後、故意に腕の関節を外し拳の飛距離を伸ばした。
でもそれは拳のダメージを若干和らげる事にもつながる。
そこであなたは腕の縞模様を使って、腕を伸ばしたり縮めたりすることで
相手の感覚を混乱させた・・・言うなれば二重のセキュリティシステム。
よくこんな事思い付いたわね、感心するわ。」

「・・・・・・」
葛田は膝をついたまま沈黙を保っている。
ハイドラントは・・・
「かかった・・・」
ニヤリと笑おうとするが、他人の視線に気づいてそちらを見た。
久々野だ。
彼は自分を値踏みするように見ている。
彼が言いたいことは視線だけで分かる。

(本当にこれが正解なのか・・・?)
そう。
残念ながら梓は引っ掛かった。
もう一つ’罠’があるんだよ・・・
ハイドラントは久々野から眼をそらすと、闘技場に視線を向けた。

葛田は片膝をついたまま、顔を伏せている。
梓は最初に奇襲を受けただけあってか、用心深く間合いを取っている。
観客は誰もがこのまま膠着状態に入ると予想した。
だが・・・

いきなり葛田が十分にバネを溜めた脚で一気に間合いを詰めた。
梓は膝で迎撃しようと思い切り膝を上げた。
葛田はその膝を両手でつかむなり、そのまま中空に飛んだ。
逆さになって一回転しながら、梓の背後に回る。
梓はいち早く反応して、裏拳を自分の背後にいるはずの葛田に向かって放つ。
が、裏拳は空を切った

葛田はそろっと梓が裏拳を放った手を引っつかむと、すばやく飛んだ。
『あああっと、飛びつき腕十字かあああああ!?』
葛田は素早く梓の首に脚を絡ませると、もつれ合ったまま倒れ込んだ。
『こ、これは三角締め!!右腕と首を両足で挟んで締め上げています!!』

綾香も、葵も、秋山もさすがにあっけに取られた。
久々野は薄々感づいていたのか苦みばしった表情を浮かべた。

「僕が腕を伸ばすだけしか能の無い人間だとでも思いましたか?」
葛田が少々自慢げに言った。
「僕のこの腕の本当の使い方を今から教えてあげましょう。」

「〜〜〜〜〜ッ」


つづく


<次回予告>

葛田の三重のセキュリティシステムの最後のトラップに引っ掛かってしまった梓!!
寝技に引きづりこまれた梓に勝ち目はあるのか!?
次回グラップラーLメモ「塔の誇り(仮題)」ご期待下さい!


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自分でもこんなに長引くとは思わなかった・・・いや、最初の試合にこれを選んだのは
まずかったかも・・・(他は大体一話で収まる予定なのに)
まあ、いいや。
あ、それから毎度の事ですが
「葛田さん、ごめん!!!!」
うむ、これだけ続いても何も言わない葛田さんには感謝しております。
諦められているだけならトホホですが(^^;;

http://www.s.fpu.ac.jp/home/s9712056/www/koubaibu.htm