グラップラーLメモ第十七話「へーのき=つかさの憂鬱その壱」 投稿者:beaker
重い鉛のような空気が控え室を包み込んでいた。
幾度目かの溜息を吐くへーのき=つかさ。
「ふぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
OLHや榊宗一は互いに顔をちらちらと見ながら、アイコンタクトをしていた。

「おい、何とか言葉をかけてやれよ」とOLH。
「今更何をかけろとゆーのだ、そっちこそ慰めてやれよ」と榊。
「無理だって! どう考えてもこれから待つのは惨劇しかないんだからな」
「しかし…………何人もいる選手の中でよりによってDセリオと当たるとは……気の毒に」
「何かの悪意が働いているとしか思えないよな……」
うん、そのとーり。

「へーのきお兄ちゃん、かわいそう……すきなひととたたかわなきゃいけないなんて」
と笛音がポツリと言う。
OLHは思わず「いや、落ち込んでいるのはそれだけが原因じゃないんだってば」と言おうとしたが、
子供の夢を壊すのもなんなので黙っておく事にした。
ともかくこんなとこにいては息が詰まる、違った子供の教育によろしくないなどと適当な言い訳をして
とりあえずその場を立ち去るOLH達であった。


――そして対戦相手のDセリオの控え室。
「やあ、Dセリオさん調子はどうですか……ってわたたっっ!!」
「――はい?」
振り返るDセリオが持っているのは巨大なミサイル。
「だあああああ、Dセリオさん! ミサイル反則反則反則!!!」
「――今、取り外しているのですが?」
冷静な声でツッコミを入れるのはDマルチ。
「な、なんだ、そうなんですか……よかったぁ」
ホッと胸を撫で下ろす。
さすがにDセリオもこの試合のルールくらいは把握しているようだ。
「――で、この強力スタンガンを装着する訳ですね」
「「把握してねええええええええええええええええええ!!!!!!!」」
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「……という訳で武器は一種類だけ! それ以外は一切合財禁止なの!」
「――スタンガン…………」
「駄目!」
「――ペンシルミサイル…………」
「駄目!」
「――サテライト…………」
「ぜっっっっっっっっっっっっったい駄目ったら駄目!!」
「――残念ですね」
「ってゆーか、一応仮にも同じ警備保障の同僚であり、友人なんだから手加減……」
「でぃーせりおおねーちゃん」
とことことこと笛音と木風が近づいた。
困惑するDセリオの手をぎゅっと握る。
「「あのね、わかってるよ、でぃーせりおおねーちゃんのきもち」」
「で、Dセリオさんの気持ち?」
「「ふたりはだまってなさい」」
しおしおと頷くOLHと榊。
「「でぃーせりおおねーちゃん、へーのきさんのことがしんぱいなんだよね」」
心配なら張り切ってスタンガン装着しようとしたりしないって……
と喉から出掛かる言葉を飲みこむ二人。
「べ、べつに私は……誰が相手だっていつだって……」
頬をかすかに赤らめながら喋るDセリオ。
「だ、大体参加したのはへーのきさんの意志ですし、私が対戦相手に決まったって
へーのきさんは何とも……」(注:へーのきさんは貧乏くじ引いて強制参加です)
「「ううん」」
笛音と木風は同時に首を横に振って否定した。
「へーのきお兄ちゃん、ずーっとためいきついてたよ、なんともおもってなかったら
ためいきなんかつかないよ、でぃーせりおおねーちゃんがすきだからためいきついていたんだよ」
「――!?」
たちまち顔が茹蛸のように真っ赤になるDセリオ。
「わわわわわわわわわ私はそのですね、べっべっべっべっべっべっべっべべつにへーのきさんに
どう思われてもですね、業務が私には第一でしてそのあのですから、へーのきさんとどうこう
とか、そんな…………」
慌てて笛音と木風の言葉を否定しようとするDセリオ。
だが、その慌てっぷりからはどう考えても説得力が無い。
つんつんと榊がOLHを肘で突いた。
(なあなあ)
(何だよ?)
(やっぱりDセリオさんって…………)
(そーだろ、やっぱり)
(へーのきはどーなんだろ?)
(満更でも無いんじゃないか?)


「……ふぁっくしょん!」
聞きようによっては下品な声を挙げながらへーのきが一際大きいくしゃみをした。
「うう、皆薄情だな……あっちへ行っちゃって」
ずずっと鼻をすすりながらそうボヤく。
まあ、へーのき本人も試合前だしちょっとは集中したかったのだが。
壁に掛けられた時計を見る、既に自分の試合まで残り数分といった所だった。
ゴロンと長椅子に寝っ転がる。
パイプの簡素な椅子なので背中が少し痛んだ。
「セリオ、さん…………」
天井を見つめたまま、へーのきは呟いた。
その呼びかけは何を表しているのだろうか。
それから彼は起き上がった。
屈伸をして、愛用のバドミントンラケットを手に持って二、三度振り回す。
試合五分前、
ドアがノックされた。
「へーのき選手、時間です」
「分かりましたー」
ドアの外から聞こえてきた声にそう応じると、へーのきはバドミントンラケット、
通称’いそめ350 ’を腰に差した。
「ま、とにかくやってみるしかないか……」
そう呟きながら。


一方のDセリオも悩んでいた、
何となく自分がへーのき=つかさに好意を持っていた事は分かっていた。
しかし、よりによってその彼と戦う直前にそれを自覚するとは……。
「――私は、どうすればよいのでしょうか…………?」
笛音にも木風にも、OLHにも榊にも、Dマルチ達にもその疑問に答える事は出来なかった。
警備保障代表という看板を背負っている以上、不名誉な試合放棄は出来ない。
かと言って試合放棄しなければへーのきと闘う事になる。
正直、自分とへーのきを比べてみた場合、自分の方が戦力の点では上だとDセリオは思っていた。
実際の話、彼女の思っていた通りである。
圧倒的な火力を誇るDセリオと比較的攻撃方法は地味なものが多いへーのき=つかさ。
普段だったらDセリオの火力で、
へーのき=つかさはあっという間に蹴散らされてしまうかもしれない。
だが、今回Dセリオに許された武器はサイファー一本だけ。
勿論これでもまだ若干Dセリオに分が有ると言えるだろう。
しかし、しかしだ。
この場合、Dセリオもへーのきも本気だとしたら一瞬で勝負がつくような闘いにはならないはずだ。
へーのきも武器、いそめ350(バドミントンラケット)を持っているし、何より力ではDセリオより
遥かに勝るのだ。
大切な仲間に、大切な友人に、大切な人に向かって破壊行動をすんなり取れるほど
Dセリオは単純な思考回路を持ってはいない。
だが、Dセリオだってへーのきに傷つけられたくは無い。


ではどうすれば?


答えは出なかった、出せないのだ。


こんな問題に対して答えが出ないのが’人間 ’なのだから。


明確な答えが出せないまま、闘技場へ向かうDセリオ。
その答えを持っているのかいないのか不明のへーのき=つかさ。
そんな彼等を不安そうに見つめる警備保障の面々。
二人の尽きない想いはどこに向かうのか?
選ぶのは修羅か? 愛か?
次週、グラップラーLメモに乞う御期待!!!



















と思ったけど何だか余りにも短いのでこのまま続ける事にする(ガタッ!!←こける音)
さて、という訳で対峙いたしましたDセリオとへーのき=つかさ!!
二人の愛の行方は一体全体どーなっちまうのかねー、はーこりゃこりゃ。
(注:ここら辺からどうも眠気が襲ってきたのでかなりなげやり風です)
「えーっと、武器の使用は例によって登録されたものだけで、それ以外の武器の使用は即反則と
見なします、特に、その、Dセリオ選手、余計なものは持ってませんよね?」
デコイが試合前の注意をことさら念入りに二人に述べた。
Dセリオは聞いているのかいないのか、心ここに有らずといった感じであった。
一方のへーのきも下を向いてぶつぶつと何か独り言を呟いている。
「どうなるんだか、この試合……」
かぶりを振ってデコイが志保に試合開始の合図を告げた。
「それでは両選手、一旦後ろに下がってください」


『武器部門、第二試合…………れでぃぃぃぃぃぃいいごーーー!!!!!』
へーのきは試合開始と同時につかつかと前に進み出た。
Dセリオはまだ悩んでいるのか少し弱腰ながらサイファーを腰から引きぬく。
それにも関わらず、へーのきはやや目を伏せてDセリオと視線を合わせない
ようにしながら、ズンズンと前へ前へ進んで行く。
「へ、へーのきさん…………」
おっかなびっくりと言った感じでDセリオがへーのきに声をかける。
だが、それでも彼は前へ突き進む。
愛用のラケットは腰に突き刺したままで、抜こうとする気配は全く無い。
やがて、へーのきがピタリとDセリオのちょうど三メートル前で止まった。
そしてポツリと言った。
「セリオさん…………これしか方法が無いんだ、ごめん!!!」
「――――え?」
何を言っているのか分からないという表情でDセリオが聞き返した。
と、突然へーのきが叫びながら走り出した。
「セリオちゃあああああああああああああああああああん!!!!!!!!」
「――セ、セリオちゃん?」
「ボインタアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッチ!!!!!」
「――――――――――――――はい?」
観客には確かにむにゅ、という可愛い柔らかい音が聞こえたような気がした。
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……………………ぶしゅ〜〜〜〜〜〜〜……………………


ぼて


Dセリオは見事に耳と頭の上から蒸気を出してオーバーヒートしてぶっ倒れた。
普段ならこの手のセクハラなら相手を一瞬で滅殺して終わるのだが、何千人という観客、
それに相手と試合前の一件もあいまって、思考がやや混乱気味だったのだ。
デコイはおっかなびっくり、そろそろと近づきながら(目覚めたらまず暴走は確定)、
Dセリオの状態を確認する。
勿論確認するまでもなくオーバーヒートしていた。
デコイは「こんなんでええんか? 本当にええんか!?」と物凄く言いたかったが、
仕方が無いので腕を振ってへーのきの勝利を宣言する。
「ふー、何とか……」
「へーーのーーきーーー」
ゴゴゴゴゴゴという擬音と共にOLHと榊が闘技場へ踊り出た。
「わ、わあ!!」
「お前とゆーやつはあああああ!!!!!」
「この外道!! スカポンタン!!」
「へーのきお兄ちゃん、さいてー」
「さいてー」


「だだ、だって、誰も傷付かないように試合を終えるにはこうするしか……」
慌てて両手を振って弁解をはじめるへーのき。
「おまーな、目覚めた後どーするんじゃあ!!」
「(ぽん)おお、何か忘れてたと思ったらそれだ」
「それだじゃなぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
とりあえずOLHと榊とbeaker(忘れているだろうがDセリオの熱烈なファン)らが、
へーのきを心ゆくまで殴り倒した。


ところが。


ムク。
「…………? わ、わあ!! Dセリオさん!?」
とりあえずへーのきが次の試合に出れるか出れないか微妙な状態になるまで殴り倒していると、
Dセリオが冴えない表情で起き上がった。
まるで二日酔いから目覚めたかのようだ。
「に、に、に、に、に、に、逃げろおおおおおおおおおおお!!!!!!」
わあああああああああああああああと観客も含めたほとんどの人間が
蜘蛛の子を散らす様に逃げて行った。
デコイらも慌てて隠れる。
へーのきら以外誰もいなくなった体育館の闘技場のど真ん中で
Dセリオは辺りをきょろきょろと見回している。
「――どうしました、皆さん?」
「あ、あ、あの〜、D、セリオ…………さん?」
おっかなびっくりでbeakerが喋りかけた。
「――あの〜、私はここで何をしているのでしょうか?」
「えーっと、その、な、なんだったっけ? アハハハハハハ」
笑ってごまかそうとするbeakerら。
Dマルチがそんな彼女にとことこと近づいて行く。
しばらく何かやっていたが、やがて解答が出たらしい。
「――どうも、先ほどのショックで記憶に混乱が起きているようです、この三日ほどのデータが
消去されています」
「消去?」
「って事は…………」
「た、助かったぁぁぁ」
床にへたり込むへーのき。
そんな彼等を不審げに見ながらDセリオはDマルチに問い質した。
「――何があったのですか?」
「――じ」
Dマルチがその質問に答えようとした瞬間、あっという間にOLHと榊が彼女の口を塞いでどこかへ
走り去って行ってしまった。
Dセリオは続いてへーのきやbeakerにも解答を試みた。
当然の如く曖昧に誰も答えない。
そんな中、やはりプロ根性で最後まで居残った志保が言った。
『と、と、と言った訳で第二試合はへーのき選手の勝利……って誰も聞いてなーーーい!!!!』
何かやたらと強引だって事は百も承知だけど(笑)


へーのき=つかさ・・・二回戦進出!
Dセリオ・・・一回戦敗退
デコイ&beaker・・・大会が終わってしばらくして後、パトロール中のDセリオにさりげなーく
          へーのきがDセリオにボインタッチしている写真を手渡し、逃走。
          その瞬間、これまでのBEST3にランクされる伝説の破壊が巻き起こった。
          後の人間はこの時の一件を’ロストリーフ ’と呼ぶ事となる。



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