グラップラーLメモ第二十一話「チェーンイベント」 投稿者:beaker
(注:「フェイス/オフ」を見ていないと楽しめなくは無いかもしれないそんな新しい予感)

オルゴールの音と共にオープニング。
セピア調の画面にマルチとセリスが楽しげにお掃除しているシーンからスタート。

「お掃除がんばるですぅ〜」
「がんばるぞ〜〜」
ふにゃけた顔でマルチを追い掛ける男の名はセリス。
あははははとそれはそれは楽しそうに闘技場の周りをお掃除する二人
(天神は何故か近くのゴミ箱に逆さまに突っ込まれていた、さらにそれを見たはるかに
「あ、犬神…………」と呟かれるだけで何もされてない)。


「あははははははは」
「あははははははは」
それはそれは楽し(以下略)だったが、そんな彼らを冷徹な目で見下ろす一人の男がいた。
ところどころ薄汚れた白衣。
さっき、綾芽にチョコレート食べた手でべたべた触られたのだ。
ばさりと白衣を脱ぎ捨て、眼鏡を外す。
そう、彼こそはゆーさ(略つーか殴られた)、もとい「はるか はじめ」。
通称はっちゃけはじめちゃん(大嘘)。


今、彼は二階にいる。
きょろきょろと辺りを見渡し、誰もいない事を確認する。
そっと床に伏せ、先ほど購入したコーラなんかをストローで飲む。
彼の側にあるのは冷たい銃身、冷たいスコープ。
悠 朔はニヤリと笑うとスコープに目を押し付けた。
ターゲットの姿を確認してから、もう一度ストローに口をつける。
そしてスコープを覗く。
安全装置を外す。
スコープの中の人物は…………

「セリス、悪いな…………」
楽しそうに掃除を続けているセリスがぴょこぴょこ動き回るのを辛抱強く捉えつつ、
そんな言葉を呟く。
と、その時。
「ああっ、マルチ!!」
マルチが床にずっこけたらしい。
慌てて駆け寄ってマルチを抱き起こそうとするセリス。
(……チャンス!!)
額から汗が出る。
セリスはまるで動こうとしない。


「…………って何やってのよ、あんたはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
踏み付け三連発。
どげしどげしどげし。
「いたい、いたい、いたいってば!!」
急いで立ち上がる悠 朔。
「いきなり何するんだ綾香!! せっかくチャンスだったのに!!」
「アホかぁっ!!」
拳で思い切り悠 朔の頭をどついた後、うっとうしそうに漆黒の髪をかきあげる。
言わずと知れた来栖川綾香である。
「対戦相手を銃で狙って恥ずかしくないの!?」
「ふっ、分かってないな綾香」
眼鏡をかけ、くいっと上にあげる。
「闘いとは対戦相手が決まった瞬間から既に始まっているのだよ!!
勝てば官軍、負ければ賊軍! 歩く姿は百合の花!!」
どこか間違ってます。
だが悠 朔の言い訳にも綾香は勿論耳を貸さない。
「と・も・か・く! 正々堂々と正面から闘う事! 良いわね!?」
負けじと悠 朔も反論する。
「ふん! そんな偽善者みたいな事やってられるか、気持ち悪い」
「はぁ、全く……」
やれやれと言う風に肩を竦め、ためいきをつく。
だがそんな彼女の目に床に転がったスナイパーライフルが目に止まった。
好奇心で抱え上げてみる、ズッシリと重たい。
「こんなの学園にわざわざ持ち込んで……ったく」
「いや、購買部で『本日入荷の新商品!』だったんで買ったんだが……?」
(……あそこかい)
「あれ? ところでこれ引き金はどこにあんの?」
「わっ、馬鹿!! あんまりべたべた触ると…………」


ズギュン!!


「…………………………………………………………………………………………………」
「…………………………………………………………………………………………………」


「あのな、綾香」
「うん」
「これ……そこのボタンにちょっとでも触れるとすぐに発射するんだ……」
「えーっと、つまり今わたしは…………」
「撃ったな、あっさりと」
「どええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
「まあ、幸い上に向かって銃弾は飛んで行ったから直接な被害はないだろう」
「な、なあんだ…………ほっとしたぁ」
へなへなと崩れ落ちる綾香。
「だが、跳弾がどうなるかは知らんぞ?」
「えええええええええええええええええええええええ!? そんな無責任な!!」
撃ったのはお前だろーが、綾香。
悠 朔は口に出さずに心の中で呟いた。


その頃…………撃った弾丸は天井から跳ね返り、一人の男に迫ろうとしていた。
「ふーふーふー、あつつつつ」
一生懸命にスープに息を吹きかけながら、あちこちに目をきょろきょろさせている男。
Runeである。
そんなスープは誰も盗まないってば。
「幸せそうだねるーちゃん」
そんな彼の傍らにいるのは無二の相棒健やか。
「ああ、久しぶりにマトモな食事……トマトスープだけど」
「うん、それもトマトジュースを理科実験室のアルコールランプで沸騰させて、
家庭室にあった凍り付いたタマネギをガスバーナーで焼いてぶちこんだだけのスープだけどね」
げしげしげし
「痛いよるーちゃん」
「人の楽しい気分を台無しにするよーな事を言うからだ。
さ、て。 いっただっきまーす」


カン!!


鉄琴をハンマーで殴り付けたような良い音がしたかと思うと、
つい先ほどまでRuneの手元にあったはずのトマトスープがどこかに消えていた。
後、数センチ首を前に倒せば温かいスープが飲めますよ的な形のままRuneは硬直している。


「………………………………ごくごくごく、はーおいしかったー」
スッキリ爽やかな笑顔でスープを飲み終えるRune。
袖で口元なんかも拭いてみたりする。
そんな彼の笑顔を見ながらそっと健やかはハンカチで涙をぬぐった。
「君のその笑顔が悲しいよるーちゃん」
「本気でやかましい」


で、その弾かれたトマトスープはと言うと真っ逆さまにある少女の元へと落下していた。
「マルチ! マルチ! しっかりして!」
ゆさゆさとか細い肩を掴んで揺り動かす。
「はいぃ、大丈夫ですぅ〜」
「ああ、良かったよマルチ!!」
ちょっとコケただけなのに。
だが、そんなマルチの元へやってきたのは……


バシャッ!


トマトスープが引っ繰り返り、マルチの頭から降りかかった。
少し遅れて缶がコン! と彼女の頭にヒットして床に転がる。
「え? ま、るち…………?」
「………………………………」
言葉が続かない。
汗が滲み出て、心臓が早鐘を打つ。
マルチは呆然となって自分の両手を見る。
自分の手が真っ赤に、ドロドロとしたものに、染まっている。
マルチはセリスの方を見つめると、
ガクン、と糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

<注:ビビってオーバーヒートしただけ>

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
マルチぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

絶叫するセリス。

「大丈夫? 大丈夫? 大丈夫か? 起きてくれえええええええええええ!!!!」
ぺちぺちと頬を叩いたり、ゆさゆさと体を振ってみたり。
「マルチ、マルチマルチマルチマルチマルチマルチマルチマルチ!!!」
しばらくして、ウィーンという起動音と共にゆっくりとマルチが目を開く。
「はうっ、うーんうーんうーん、はっ、わ、私どーなったんですかー」
そんなマルチを見て感極まったか、ぎゅっと抱きしめるセリス。
「はわわっ、どーしたんですかぁ?」
困惑するマルチ。
「ああっ、マルチっ! 良かったよーー」
トマトスープの匂いがした。


そんな惨状を二階で冷や汗をかきながら見つめる二人。
来栖川綾香と悠 朔。
「…………………………………………」
「…………………………………………」
「…………………………………………逃げよっか?」
「…………………………………………ああ」
そそくさそそくさーー。
だが、悠 朔がその場から離れた瞬間、
「プアヌークの邪剣よおおお!!!!!!!!」
光熱波が先ほどまで悠 朔がいた場所を吹き飛ばした。
「のわっ、とっ、たっ!?」
「きゃあっ、な、何!?」
一階を見るとRuneがこちらに手を突き出しているのが見えた。
後ろで健やかが懸命に押さえようとしている。
「る、るーちゃん落ち着いて……って無理みたいだね」
「はなせえええ!! あの男だけは絶対にブチ殺すうううううううううう!!!!」


弾かれたようにダッシュする綾香と悠 朔。
「逃げるぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「わたしは関係なああああああああああああああああい!!!」
「嘘付け!! 直接の原因が何言うかああああああああ!!!」
「元はと言えばあんなところでセリスを狙ってたアンタが悪いいいいいいいいい!!!」


「うん?」
ピクリとセリスが反応する。
何となく自分の名前が呼ばれたような気がした。
きょろきょろと辺りを見回し、やがて逃げまくっている綾香と悠 朔を発見する。
「あれは…………悠 朔? まさか…………」
ちなみに綾香は無意識に視界に入っていないらしい。


「あ、これアンタに返す」
走りながらひょいと持っていたライフルを悠 朔に投げる綾香。
「いらんわっ!!」
と言いながらもしっかりと受けとめる悠 朔。


ズギュン!!


「「あ」」


受けとめた拍子にボタンに触れたらしく、またもやあらぬ方向へ撃ち出される弾丸。
カンキンコンという音と共にその弾丸はある男へと飛んでいった。


ガン!! 男の頭に直撃する弾丸。
「いってええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
頭を押さえてうずくまる男は…………

「誰だコラァァァァァァァァァ!!!!!」
ジン・ジャザムであった。
「最悪の展開だ…………」
悠 朔は二階を逃げ回りながら一階を見てため息をつく。
「どうする綾香…………って、あやか、さん?」
彼がちょっと目を離した隙に前方を走っていたはずの綾香の姿がどこにも見えなくなっていた。
「あやかさーーん」
きょろきょろ。
「あ、や、かーーー?」


「我は放つあかりの白刃!!」
立ち止まった隙に、Runeが悠 朔が立ち往生している場所に魔法をぶち込む。
直撃は免れたものの床が崩れ、悠 朔は二階から一気に一階へと落下した。
「うわあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ(エコー)」
ドサリと落ちた拍子に頭に破片が当たり、昏倒する悠 朔。
・
・
・
「うーんうーん、むにゃむにゃむにゃ」
・
・
・
「……………………はっ!?」
飛び起きる悠 朔。
ジン・ジャザム&Runeが仁王立ちになって自分を睨み付けていたりして。
「なまぬるいな、行くぜダメ押し」
夢なら醒めてくれ…………


ドスゥッ!! という足音がして、セリスが闘技場に踏み入った。
「悠 朔くうううううううううううううううううううううううううううん?」
闘技場で逆さ十字に張り付けされている悠 朔を睨み付ける。
「こ、こんにちわー。セリス先輩…………」
「マルチを傷付けた罪はとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっても
重いからねえええええええええええええええええええええええええええええええ?」
「いや、あの、それ、俺じゃなくて綾香でもなくてるー…………」
「問答無用!! マルチを虐めるものは等しく悪!!!!」
「だから人の話を聞いて」

「セリス超アッパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「チキショーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


天井のライトまでぶっ飛ばされて悠 朔選手の負け。
デコイ、審判する間も無し。


「はっはっは、人がゴミのようだ」
「……何、天空のラピュタやってんのよ」
「助けてやったのにその言いぐさは無いだろうが」
ハイドラントと綾香である。
「ごめんねー、ゆーさくー」
心がちっともこもってないぞ、綾香。


かくして悠 朔さん本人はどこからどー見てもシリアスキャラなのに、
何故かこーゆー結果になった事を悔やみつつ幕。
なお、Runeは後で綾香に食事を奢ってもらった。


ちゃんちゃ…………どばきぃ!!(←今回一番の被害者に殴られる音)


悠 朔選手・・・一回戦敗退
セリス選手・・・二回戦進出!


<今回はもうちょっとだけ続くよ〜〜>


『皆さ〜ん、一回戦から激闘に次ぐ激闘! お楽しみ頂けましたかしら?
さあ〜て、いよいよ二回戦のそれぞれの対戦相手が決定しました!
試合順に名前がスクリーンに映し出されるのでチェックしてね〜〜』
志保のアナウンスが体育館に響き渡り、観客達は何も映し出されて無いスクリーンを凝視する。
やがて、パチパチと名前が浮かび上がり、その度に「おお〜〜」という歓声が巻き起こる。


二回戦 ベアナックル部門

第一試合

柏木 梓vs西山英志

第二試合

EDGEvs来栖川綾香

第三試合

藤田浩之vs柏木耕一

第四試合

ハイドラントvs無音


二回戦 武器部門

第一試合

へーのき=つかさvsDガーネット

第二試合

ジン・ジャザムvsセリス

第三試合

きたみちもどるvs佐藤昌斗


以上。

「あ、へーのきさんが死んでる」
「…………………………………………これは夢だ、夢なんだ」
現実です。




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