グラップラーLメモ第二十九話「へーのき=つかさの憂鬱その弐」 投稿者:beaker
<ドッキンばぐばぐアニマルに激しく影響を受けています(笑)>


――へーのき=つかさの控え室……の扉の前

男二人が集まってひそひそと会話をしている。
それに無理に割り込もうとする幼女三人。
「さあ、どうするよ?」
「知るか、もー慰め様が無いぞ」
「そこを何とか……こう、さあ?」
「へーのきお兄ちゃん可哀想だよねー」
「ねー」
「ねー」
コホンと咳払いをして、全員の顔を見回す榊。
「ともかく、だ。なるべく明るく声をかけてやろうじゃないか。
つまり、こう『Hi! 何かあったのかいHAHAHA! ユーウツなど吹き飛ばして元気出せヨ!』くらいに」
「それ、ただのアフロ男」
OLHがツッコミを入れる。
「呼びましたカ〜?」
壁から頭を出すTaS。
「ダーク・フレア!」
「AAAAREEEEEEEEEEEEEEEEE〜〜〜〜〜」
ぜーぜーぜーと壁に手をかざしながら肩で息をするOLH。
榊が頭を飽きれたように振りながら言った。
「全くもってどこから出て来やがったあのアフロ」
「壁の中からデェェェェス」


ひょっこり出てくるTaS。


ぼかすかばきぐしゃっ!
どかどかどかどかどかどかどかどかどかどか!
ぬりぬりぬりぬり。
「アアッ! そ、そんな壁に塗り込めるなんてヒドイデェ……もがもがもが」
「さて、アホは放っておいてへーのきくんを慰めてやらないとな」
キィッといささか耳障りな音と共にドアが開く。
その扉の向こうでは…………


へーのき=つかさが首を吊ろうとしていた。
(遺書付き)
「「のわああああああああああああああああああ!!!!」」
・
・
・
・
・
「ふ〜、何とか九死に一生を得てみました」
「お前は柴田○美かい」
「首吊る事は無いだろ、首吊る事は」
「これから痛い思いをするくらいならいっそ楽に殺してくれって感じなもんで」
「馬鹿野郎!」
びしぃっ!
激昂したOLHがへーのき=つかさの頬を叩いた。
「今死んで何になるって言うんだっ!?」
ジィンと熱く痺れる頬を押さえるへーのき。
「…………………………」
「いいかっ!? どーせ死ぬならこの生命保険にサインをだな……」
受取人OLHとなっているように見えるのは気のせいだろうか?
とりあえずハンマーでOLHを殴り倒しておいて、榊が言った。
「確かに相手は'あの'Dガーネットだけど勝てない相手ではないじゃないか、
今の内に作戦を考えてみようじゃないかっ」
「ボインタッチはもう通じないし……」
「第一Dセリオに見られたらまず間違い無く殺されるな」
「うんうん」
「ころされちゃうね☆」
「まずあのスピードに対抗するべきじゃないか?」
「アフロになれば物理法則を無視できマース」

「ダークウィンド」
「はぐわっっ!!!」

「つまり、スピードだ。すぐに速くなるにはどうすればいーと思う?」
「とりあえずYOSSYFLAMEにでも聞いてみよう」
ぴっぽっぱ(←電話を鳴らす音)

ぷるるるるるるるる……

がちゃり

「はい、もしもし」
「何故速いんだろうか?」
「溜まっていると速いぞ」

がちゃり

「…………ちょっと会話がズレているような気がした」
「じゃあ次は綾香さんあたりに」

ぴっぽっぱ

ぷるるるるるるるる…………

がちゃり

「Hi モシモシ!」
「速くなるにはどうすればいーんでしょーか?」
「それはアフロになるべきデース!」
「……………………」
振り返ると携帯電話に長い糸とその先に紙コップがつけられ、それに向かって例の人が喋り掛けていた。
「ドウシマシタ?」


「うーん、どうすればいーんだろうねえ?」
とりあえずTaSの首の骨をへし折ってからじっくりと考える一同。
「やっぱり速くなるのは諦めてDガーネットの弱点を突くべきでは?」
意外と鋭い事を言うOLH。
「ふむ、じゃあDガーネットの弱点って何だ?」
「万歳突撃なとこ」
「……………………それ、弱点か?」
「鳥頭なところ……か?」
「確かに鳥頭だが……さすがに目の前で戦っている人間を忘れるほど馬鹿じゃない……かもしれない」
「語尾に自信が無いな」
「下手をすれば来栖川警備保障まで一人で帰って来れないからなー」
「ああ、思い付いたっ!」
OLHがぽんと手を叩いた。
「「お、何だ?」」
「つまりだな、Dガーネットを闘技場まで来させなければいーんだろ?」
「「まあ、確かに」」
「だから俺達二人でだな…………」
ひそひそひそ。
既に目的が「Dガーネットに勝つ事」から「Dガーネットと如何にして闘わないか」に
変化している事に気付くものは誰もいなかった。
「ワタシは気付いてまシター」
やかましい。


「――あのー、Dガーネットさん」
「――ナンデショウカ?」
「――この文字何て読むと思いますか?」


「手加減」


「――ソレ、食ベレルノデスカ?」
「…………」
「…………」
「――Dマルチさん、救急車の用意をお願いします」
「――はい」
………それでいいのだろうか?
……いーか。


「――それでは行きましょうか」
「――ドコヘデスカ?」
「――――会場へ」
「――ハイ」
そんなDセリオとDガーネットの前に突然ばたばたとOLHと榊が駆け込んできた。
「あ、Dセリオさん!? 大変だよ! 向こうの廊下でジンさんがメチルアルコール持って
掃除機振りまわして暴れてる!」
(現実のネタを使うなよ、おい)
「――何ですってっ!? 分かりましたっ! すぐに行きます!」
慌てて駆け出すDセリオ、それにDマルチと榊が続いて行く。
振り返って駆け出す瞬間、ちらっとOLHに目で合図する。
頷くOLH。
一方のDガーネットは何をどうしたらよいのやら、ぽつんと立っていた。


「――アノ」
「な、何か?」
おずおずとOLHが聞く。
「――ドコカヘ行カナケレバナラナイノデスガ?」
「どこかってどこへ?」
「――ドコデシタッケ?」
「えーっと、じゃあ案内するからついてきて」
OLHはDガーネットを伴って控え室を抜け出した。
タイミング良く、二人が去った直後、スタッフが彼等を呼び出しにきたところであった。
スタッフは誰もいない控え室を見て、首を捻ってデコイらに連絡する。


「――それで、ジンさんはどこにいるのですか?」
「えーっと、多分あっち、かな?」
榊が適当な方向を指差す。
「――本当ですか?」
ジロッと二人に睨まれる。
怯える榊、手を大きく振って否定する。
「ほ、本当ですってばさ!」
「――とにかく、行ってみましょう」
何とか誤魔化しきったと思ってホッとする榊。
だが……


「よお、Dセリオ! そんなに急いでどこに行くんだ?」
ジンが自動販売機のオイルを飲みながら(あるんかい)、いきなりDセリオ達に話し掛けた。
「――ええ、ジンさんが掃除機を振りまわして暴れているそうでってジンさん!?」
「何だそれ? 試合前にアルコールを飲むバカがどこにいるか!」
「……」
「……」
「こそこそこそ」
「――さ〜か〜き〜さ〜ん?」
思い切りドスの効いた表情で睨むDセリオ。
「ひっ、ひいいいいいいいい!?」
思わず腰が抜けて後ずさる榊。
「――どういう事か説明してもらいましょうか?」
無敵のDシリーズ二人に迫られる榊。
当然あっさりと吐いた。
「じ、実は…………」
・
・
・
・
・
「――なるほど、そういう訳でしたか」
「――卑怯ですね」
「す、すいませんっ! でもへーのきくんが余りに憐れで……」
「どうでもいいが、何故俺をダシに使う?」
「いや、やっぱりセットだし」
「あのなっ!」
「――そんな事よりもDガーネットさんです」
「――今から急いで戻れば試合には……間に合いますね」
素早く時間の計算をするDマルチ。
「――ただし、DガーネットさんがOLHさんにかどわかされていない場合ですが……」
「――DガーネットDガーネット」
「――とにかくまずは……」
「――アソコニイルアソコニイル」
「「「え?」」」
Dボックスが指差した(?)向こうにはしっかりDガーネットがいたりした。
向こうもこちらを見付けたらしくタタタと近寄ってくる。
凍り付くOLH。
「――Dガーネットさん!」
「――ハイ?」
「――とにかく話と処分は後です、急ぎましょう!」
やっぱり、処分があるのか……
ワカメのような涙を流す二人であった。
「自業自得ってヤツだ、自業自得」
ちゅーちゅーとオイルをストローで飲みながらジンは言った。


「このまま来ませんように来ませんように来ませんように!」
神に祈りをささげるへーのき=つかさ。
「おや? アレは誰でしょうカ?」
何故かセコンドについているTaS。
ダダダダダダッと土煙を上げんばかりに闘技場へ乱入してきたのは……

「やっぱりダメだったかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「へーのきサン、不幸ですネェェェェェ!!」
凄く楽しそうにへーのきに言うTaS。
「嬉しそうに言いやがってぇぇぇぇぇぇ!!」
「HAHAHAHAHA! 人の不幸は蜜の味デェェェェス!」


かくして試合は開始されてしまったりした。
「では……はじめっ!」
の合図と同時にダッシュで逃亡するへーのき=つかさ。
「……おーーい?」
思わずデコイが呼び掛ける。
が、そのデコイの横を風を切る速さ(文字通りに)で追い掛けるDガーネット。
「うわあああああああああ、追って来たああああああああああ!!!」
「サアサア、ネズミのように逃げなサーイ!!」
「言われんでも逃げるわあああああああああ!!」


「……ギブアップすればいーんじゃないかなー?」
デコイの呟きは誰の耳にも聞こえる事無く風に消えて行った。


へーのき=つかさは走りながらちらっと後ろを見た。
猛烈なスピードで追い付かれ……追い付かれ……追い付いた。
「速いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
後ろを見て慌てたせいだろうか?
へーのきはずるっと足を滑らせた。
足がもつれ、無様に倒れる。
「ああ、静岡のお母さんお父さんダディにマミィグランパグランマごめんなさい
つかさはもうこれまでの人生のようですさようならああこれまでの人生が走馬灯の
ように流れる流れる流れるるるるるるるる」
目をつぶった。
次に来る攻撃に心の準備をする。


だが攻撃はやってこなかった。
「……あれ?」
ゆっくりと目を開いてみる。
目の前でDガーネットはうつぶせに倒れていた。
「???」
へーのきは混乱する。
何がどうなったのであろうか?
デコイがこちらへ近付いて来る。


――何が起こったのか

まず、へーのき=つかさがこけた。
ところが追い付く直前でターボ全開で走っていたDガーネットはへーのきの身体に足を取られ、
顔面からすっ転んだのである。
首から良い響きが聞こえた。


デコイが恐る恐る近付く。
「Dガーネット選手〜〜?」
ぽんぽんと肩を叩いてみる。
反応無し。
今度は身体を揺すってみるが反応はない。
「決着、か……?」
その時ぎゅいーーんという音が聞こえた……ような気がした。
「?」
耳を近づけてみる。
何も聞こえない。
気のせいか……と思った瞬間、


GON!!!!!!!!!


Dガーネットが突然立ち上がった――立ち上がろうとした。


デコイが側にいたのに。


「☆♪∀\Ω☆♪+?!$%&!?」
デコイの目から火花が散った。
彼の頭はアフロだがDガーネットが立ち上がった勢いはアフロのガードをかいくぐり、
頭蓋骨に直に衝撃を味あわせたのだ!
「あわびゅっ!」
何故か北斗の拳三コマ雑魚(一コマ目で襲いかかり、二コマ目で返り討ちにされ、三コマ目で破裂)
の叫び声をあげてダウンするデコイ。
その惨状を茫然と見つめ、今度こそ終わりか……と諦観の表情でDガーネットを見上げるへーのき。
だが、彼女を見て凍り付く。
正確に言うと彼女の頭。
回らない舌で必死に現状の状態を言おうとする。
「ア、アフロ……アフロがDガーネットさんの頭にっっ!?」


ががーん(白黒反転、妙に劇画な表情で驚愕するDセリオやへーのきたち)


「ア、アフロが感染……」
「――な、何てことでしょうか……」
「――アフロアフロ」
がくがくと震え、唇まで真っ青にするDセリオたち。
Dガーネットもその視線に気付き、頭をわしゃわしゃと触ってみる。

ちょっともじゃもじゃした感触。

気持ち良い。

結構気に入っちゃった。

……ところで自分は何をしていたのだろうか?

きょろきょろと回りを見回す。
あ、Dマルチさんだ。
ひょこひょこと彼女の方向へ向かう。
Dマルチさんは真っ青になってこちらを見つめている。
どうしたのだろうか?

「――Dマルチさん、頭ドウデスカ?」
わしゃわしゃと撫でながら、言う。
DセリオとDマルチはぐっと唇を噛みながら、
「――も、もうこれ以上はご勘弁をおおおおおおお!!!」
絶叫した。
二人でDガーネットを押さえ付ける。
「――アフロアフロ」
何も考えていないDボックス。


かくして、Dシリーズ四人は退場した。
後にはへーのき=つかさが残される。
「……すいませーん、この場合は……?」


アンタの勝ち。


志保はそうアナウンスした。
余りの展開に拍手も忘れ、見送る観客たち。
と、静まり返る闘技場で先程から押し黙っていたTaSがボソっと呟いた。
陽気な表情は欠片も無く、シリアスな顔で。


「そんなにアフロ、イヤですカ〜〜?」
・
・
・
・
・
「「「「「「「「「「「「「イヤだっっっっっっ!!!!!!」」」」」」」」」」」」」



Dガーネット・・・アフロは剥がれたらしい
へーのき=つかさ・・・何となく準決勝へ
デコイ・・・保健室送り(後任は誰だろう?)
榊&OLH・・・騒動で最初の一件は誰も覚えていなかった
TaS・・・しばらく落ち込む