グラップラーLメモ第三十四話「DanceFightRevolution!」 投稿者:beaker
「参ったな……」
beakerに(多分忘れていると思うけど設定上、購買部が主催です、ハイ)
運営を任されたスタッフの一人が頭を抱えた。
「えーっと、素手部門に一人欠員。武器部門に一人欠員ですけど、武器部門は元々
数が少なかったですからねえ。後二人欲しいですよね」
別のスタッフがトーナメント表をめくりながら言った。
確かにそうだ。
現在準決勝に進出が確定した選手――

素手部門……来栖川綾香、柏木梓、無音(藤田浩之は棄権)

武器部門……ジン・ジャザム、へーのき=つかさ(佐藤昌斗は棄権)


「おいおいおい、武器部門なんか既に決勝じゃないか」
焦ってページをめくる。
「で、リザーバーは?」
「いやあ、それが……全員逃げちゃいました☆ミ」
スタッフは照れたように答えた。
「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっぃぃぃ!?」
「いやあ、『あんな化け物と闘ってられるかいっ!』という声があちらこちらから出て」
「参ったなあ、どうするよ?」
「うーん、そうですねえ、このまま続行という訳にも……」
「今から募集してみようか?」
突然二人の背中から声がした。
「「え?」」
現在アナウンサー役の通称たまねぎスピーカー(おいおい)、長岡志保である。
「今からアナウンスして募集かければ、三人くらいは集まるんじゃない?」
「むう、まあ、そうですよねえ……」
「とりあえず、やってみるか……」



『……という訳で今からなら楽に準決勝へ進めるわよーーー!!! カモンジョイナス!』
「どーやって楽しめとゆーのだ」


素手部門受付場所

受付開始より五分後。
ふらりふらり、白衣のポケットに手を突っ込み、鈍重な歩き方でこちらに向かってくる一人の男がいた。
「ありゃ、先生。どうしました?」
「どうしました……ってここは確か素手部門の受付では?」
何を言っているんだ、とばかりのあっさりとした答え。
戸惑いながらスタッフもそれに答える。
「はぁ、そうですけど……」
「それでは、これを」
ひらりと参加用紙を手渡す、目を見開いたまま受け取るスタッフたち。
やがて一人がおずおずと口を開いた。
「あのー、マジですか?」
「もちろん、それではよろしく」
すっと右手を挙げて、ふらふらと歩き去っていく。
スタッフはそれを見ながら、
「……大丈夫かな?」
そう呟いた。

そして結局、素手に登録してきたのは彼、一人だった。


一方、武器部門受付……


「おらぁっ、参加!」
「参加しまーす!」
「参加しマース!」
レッドテイルが参加用紙を叩き付け、ディアルトが丁寧に参加用紙を差し出し、
TaSが白マジックで顔面に参加と書いてあるのを誇らしげに見せた。

「……と、とりあえず全員受理させて頂きます」
スタッフは戸惑いつつも、全員の参加用紙を受け取った。
早速、運営スタッフのリーダーの元へ走り出そうとする。
「ちょおおおおおおおおおおおおおおおおっと、待ったああああああああああ!!!!」
時間ギリギリ、飛び込んできたのは……
「ちっ、あなたも出るんですか……」
ディアルトがつまらなそうに言った。
「当たり前だっ! こんな面白そうな事放っておくかっ!」
(ってゆーか、葵ちゃんがいない今、遠慮なく闘えるっ!)
YOSSYFLAMEであった。
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で、結局……。
「……という訳でして協議の結果、皆さんは四人でまず、それぞれ闘っていただきます。
残った二人が準決勝確定、という事になるのですが……」


「別に文句はない」
「ありません」
「異議ナーシ!」
「いいんじゃないの?」


「はい、それでは早速試合を始めさせていただきます、時間押しているんで今すぐに対戦相手を
決めていただきます、それでは、各自くじを引いて下さい!」
祈るようにくじを引く四人……
そして、対戦相手が決定した。


リザーバー決定試合
第一試合、レッドテイルvsYOSSYFLAME

第二試合、ディアルトvsTaS


そして第一試合が――開始される。
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ジグザグにYOSSYFLAMEが飛び出してきた。
レッドテイルの懐に深く入り込み、切り上げの一撃を食らわせる。
「ぐっっ!!」
咄嗟の判断で後ろに飛びのく、だが虚を突かれたため間に合うはずも無く食らって後ろへ吹き飛ぶ
格好となった。
手で胸を押さえる。
YOSSYFLAMEの武器は木刀のため斬り付けられた痛みはないが、代わりに鈍痛がレッドテイルの
胸を襲う。
(速ェ……)
普段なら何てことないガンブレードが妙に重たく感じられる。
こちらの攻撃は先ほどから空振ってばかりだ。
相手のスピードに合わせながら走っている為、呼吸が荒くなってきた。
YOSSYFLAMEはニヤリ、と笑った。
背中にゾクッと寒気が走る。
こちらのスタミナが切れかけている事に気付いているのか。
多分、そうだろう。
レッドテイルはガンブレードを構え直した。
軽く身体を上下に揺らしてリズムを取るYOSSYFLAME。
そして次の瞬間、右足が床を勢い良く蹴った。
レッドテイルも懸命に走る。
ガンブレードをゴルフクラブでスイングするように扱い、地面から斬り上げる。
だが、その斬り付けのスピードより遥かに早く、YOSSYFLAMEがレッドテイルの懐に飛び込んだ。
木刀がレッドテイルの喉に叩き付けられる。
その場に崩れ落ちるレッドテイル。
呼吸する度に激痛が走る、たまらず喉を手で押さえた。
YOSSYFLAMEは手を出さなかった。
「げほっ! げほっ! げほっっ!!」
痛い、な。
くそ、たまらん。
レッドテイルは一人ごちながら、ゆっくりと立ち上がった。


(せめて、あいつの攻撃のリズムに身体を合わせる事が出来れば何とかなりそうなんだが……)
無理か。
スピードが速くてリズムが掴めないのもあるが、YOSSYFLAMEのリズムは独特すぎた。
(何かの音楽に乗っているような気がするんだが……)
それが解れば世話は無い。
ユラリ、とYOSSYFLAMEの身体が動いた。
また、襲いかかって来た!
「くっ……」
横に跳ぶ、攻撃している余裕は無い。
ただの逃避。
ゴロゴロと地面を転がって素早く立ち上がる。
「……?」
レッドテイルはてっきりYOSSYFLAMEがすぐに襲いかかってくると思っていたが、違った。
相変わらず足で軽快なリズムを刻みながら、こちらの方を向いているだけだ。
奇妙な違和感が襲う、絶好のチャンスを何故見逃すのだろうか?
その違和感が掴めないまま、再び攻撃された。
同じように横に跳んで避ける。
だが、レッドテイルが起き上がった瞬間、YOSSYFLAMEは間髪入れずに攻撃してきた。
「!?」
驚いて目を見開く。
一撃がまたレッドテイルの身体に入った。
吹き飛ばされて、地面に伏せる。
別に致命傷であった訳ではない、ただ時間を稼ぎたかった。
考える時間を。
あの時感じた奇妙な違和感と、先ほどの二回の攻撃の違いの異常さを。
(そうだ、考えろ考えろ……一回目の攻撃と二回目の攻撃では何が違う?)

俺の状態。

違う。

タイミング。

そんな些細な事ではないだろう、第一最初の攻撃はタイミングがそれほどズレているとは思えない。

時間。

当たり前だ、時間が違うのは。

馬鹿か、と自嘲する。

だが、その時電光のように脳裏に閃くものがあった。

そうだ、時間だ。

正確に言うと、リズム。リズムが違っていたんだ、最初の攻撃と二回目の攻撃では。

だが、まだ一つ問題がある。

リズムに乗って闘っているのは解っている、だが単調なリズムではない。

それなら俺にだって攻撃のタイミングが掴める。

もっと複雑なリズム、そう、まるで……

まるで……?

あっ……! 電流が走った。

音楽かっっ……やはり音楽でリズムを取っていたのか……アイツは。

倒れながらチラリとYOSSYFLAMEの足を見た。

軽快にステップを刻んでいる。

…………ようやく、掴めた。

彼のリズムの正体が。
そして自分の予想が間違ってなければ、曲も相当数に絞られたはず。
確認だ。
レッドテイルはゆっくりと立ち上がった。
ガンブレードを構える。
だが、目は彼の足に集中していた。
タン、タン、タン……と軽快なリズムを取る彼の足。
と、ある時点で急に激しくなった。
それと同時に襲いかかってくる。
ギュン……一層スピードが増した。
ガンブレードで彼の攻撃を何とか捌く。
捌き切れない攻撃も急所にだけは当たらせないように身体を動かした。
あちこち木刀で打たれるが致命傷にはならない。
かなり痛いが。
やがて、潮が引くように攻撃がピタリと止まった。
レッドテイルは身体の痛みを堪えながら、ガンブレードを持ち上げて構える。
さあ、来い。


しつこい、とYOSSYFLAMEは思った。
何度か致命的な打撃は食らわせたはずなのだが。
リズムを守りすぎるのも考えものか。
トン、トン、トンと足が自分の意志を離れたかのように勝手に動く。
こうなるまでにどれだけお金を注ぎ込んだ事か。
「この大会に優勝して回収しないとなー」
そう呟きながら、再びレッドテイルに狙いを定める。
今度こそ決める。
リズムを取りながら足を勢い良く床に叩き付けて、飛び出す。
レッドテイルはじっと動かず、こちらを見据えている。
諦めたか、それともタイミングを計っているのか。
多分、前者だろう。
タン、タン、タン、足のリズムと頭に流れる曲を調整しながらグングンと近づいて行く。
(……ここだっ!)
リズムが一番激しくなる部分で、襲いかかる。
レッドテイルは動かない、それどころか目をつぶっている。
「諦めたか? 貰ったっ!」
攻撃する瞬間、レッドテイルが突然弾かれたように動いた。


こちらのリズムにピタリと合わせて。


「PARANOIAだよなっ!!」
バレたかっ……!! 咄嗟に身体を横に捻る。
だが、遅かった。
横薙ぎされたガンブレードの一撃がモロに脇腹に食い込んだ。
更に、ガンブレードがガンブレードたる所以である――トリガーを押す。
カチリ、刀身が震動して更なる衝撃がYOSSYFLAMEの身体を襲った。
「がっっ……」
今度はYOSSYFLAMEが吹き飛ぶ番だった。
間髪入れずレッドテイルは襲い……かかれなかった。
肩で息をする。
リズムが分かってはいてもそれに合わせるのが大変だった。
ギリギリまでYOSSYFLAMEを引きつけて、こちらにかかってきた瞬間を狙う。
「ふう、DanceDanceRevolutionプレイしていて良かった……」
『DanceDanceRevolution』……巷で大人気のダンスゲームである。
指定されたステップを音楽にノリながら踏んでいく……単純だが難しいゲームだ。
ともあれYOSSYFLAMEはそのリズムにノリながら攻撃を仕掛けていた事は間違いない。
無茶苦茶と言えばこれほど無茶な攻撃もないのだが。


「くっっ……」
YOSSYFLAMEがようやく起き上がった、血が唇の間から滴り落ちる。
十二分に練られた一撃のはずだった、だがそれ単体では仕留められなかったようだ。
脇腹を押さえて伏せている為か、顔の表情が掴みにくい。
苦しいのだろうか?

違った、YOSSYFLAMEはニヤリと笑みを浮かべた。
困惑するレッドテイル。
「何だ……?」
YOSSYFLAMEはよろよろと木刀を拾い上げた。
こちらへ向き直る。
そして、こう言った。
「決勝戦まで取っておくつもりだったんだけど……なあ」


瞬間、
「……え?」
彼の姿が視界から消え去った。
「食らえ……」
こいつは……まさか……


PARANOIA-MAX!!


四方八方から残像のようなものが現れては消え、レッドテイルに襲い掛かった。
「やべ……」
PARANOIA−MAXまではやってないんだよな……
四方八方からの打撃、計十三撃がレッドテイルの身体中にヒットした。
血を吐いて仰向けに倒れるレッドテイル。
ガンブレードを命綱のように必死に握り締める。
呼吸はますます荒く、肩が激しく上下する。
YOSSYFLAMEも同じだった、こんな攻撃をそうそう二回も三回もやれるほどのスタミナはない。
だが、やらなければならなかった。


「……まあだやる気かよ?」
「…………」
返事はなかった、返事ができないほどスタミナを消耗しているのか。
だが、レッドテイルは立ち上がり、ガンブレードを大きく振りかぶった。
それが、証拠だ。
「いいだろう……とことん……!!」
やろうじゃないか! そう叫んで再び発動させた。


PARANOIA-MAX!!


一撃、二撃、三撃……
レッドテイルは微動だにしなかった、確かに木刀の一撃を食らっているはずなのに。
両手でガンブレードを振りかぶったまま怯まなかった。
YOSSYFLAMEは正直焦っていた、全く倒れないレッドテイルに。
「くそっ……」
ラスト一撃、真っ正面から彼の肩へ木刀を叩き込んだ。
その瞬間、今度はレッドテイルが笑った。
「この瞬間だけ……動きが止まるんだよな」
「!?」
しまった……慌ててYOSSYFLAMEは後方にさがろうとするが、
「間に合わ……」
「食らえ」
じっと我慢していたレッドテイルの一撃が爆発した。
YOSSYFLAMEの頭にガンブレードが叩き込まれる。
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「勝負アリ!!」
とーるが高らかに宣言した。
レッドテイルは足を引き摺りながら帰って行く。
ズキン、脇腹の痛みが響いた。
「折れた、か……」
だが、まだ闘える。
つくづく馬鹿な意地の張り方だな、そう思った。
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「うーーーー、身体中が痛いいいいいい、すりすり」
「って人に抱き着くなああああああ!!!」
絶叫しながら広瀬ゆかりがYOSSYFLAMEを殴った。
「今度はマジでいてえええええええええええええええええ!!!!」
相田響子はそんな二人を見ながらため息をつき、
「元気があって、よろしい、と……」
そうカルテに書いた。