グラップラーLメモ第四十一話「Hot Boys!」  投稿者:beaker





――武器部門・準決勝第一試合開始五分前



「……正気か? てめえ」
「……無論、正気だからこそジンさんと闘いたいんだ」
「分かった、ならば俺も本気で行くからな……」


――武器部門・準決勝第一試合十分前


「ちょ……待ってください!」
アイラナは保健室を飛び出したレッドテイルの前に慌てて立ちはだかった。
レッドテイルは壁に手を突きながら、ゆっくりと歩き――歩くというよりも身体を傾けた
慣性で動かしているような酷さだったが――アイラナの前を通りすぎた。
慌ててまた彼の前に立ちはだかるアイラナ。
「そんな……身体で……無茶です! 棄権してください!」
レッドテイルは
「すまないが……どいてくれ、試合に遅れる」
と言っただけだった。
「嫌です、どきません!」
アイラナは瞳を潤ませながらレッドテイルの言葉をキッパリと否定した。
「ダメなんだ、俺は出なくちゃならないんだ……頼むからどいてくれ」
うわごとのようにその言葉を繰り返すとまた歩き出した。
「分かっているんですか!? 相手は……ジンさんなんですよ!」
「分かっているとも」
「その身体では……その傷だらけの状態じゃあ……」
「ああ、負けると分かっているさ」
その言葉にアイラナは茫然とレッドテイルを見つめた。
「じゃあ……じゃあ……どうして……?」
「アイラナ、君には……」
レッドテイルは歩き出した。
「君には多分分からないだろうな……」
「何が……です……?」
「傍目には下らないと写るかもしれない。実際馬鹿げた事なのかもしれない。
だけど、行かなくちゃならないんだ。古臭くて陳腐な言葉だが……『男の意地』ってヤツだ」
「男の……意地……?」
「俺はYOSSYFLAMEさんに勝った、だからこの準決勝に進む権利を得た。YOSSYFLAMEさんだって
先に進みたかったはずなのにな。ならばYOSSYFLAMEさんの為にも俺は戦わなきゃいけないんだ。
佐藤さんのように進みたかったのに無念の内に倒れた人間もいる、だが俺はまだ動けるんだ。
だから……闘わなきゃいけない」
アイラナはその言葉に立ちふさがっていた手をスッと下ろした。
顔を伏せる、泣いているようだった。
「心配するな、約束する。……絶対に生きて帰るから」
「…………はい…………」
ぐしぐしと手で眼を擦った、そしてニッコリと笑いかける。
「帰ってきたら……治療受けて下さいね」
笑いながら、涙が零れた。






――武器部門・準決勝第一試合開始五秒前


5。
「レッドさん……私待ってますから」
4。
「――行くぜ! 覚悟はいいかっ!?」
3。
「……(最初の一撃に全てを賭ける!)……ハイ!」
2。
「それでは……」
1。
「始めぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」



(狙いは一点……突き!)
レッドテイルはガンブレードを水平に構えた。
一気にダッシュする。
突き。
全身全霊を賭けた二段突き。
ジンは避けようともせずに立ちはだかった。
その代わりにゲッタードリルを構える。
「テメエの二段突きと俺のゲッタードリル! どちらが上か見せてやるぜ!」
レッドテイルは凄まじいスピードの突きを放った。
だが、ジンはそれをゲッタードリルで見事に弾く。
レッドテイルはその弾くのも計算に入れていたらしく、すぐにガンブレードを懐まで戻し、
二段目の突きを放つ。
「これでっ、どうだァァァァァァァァァァ!!!!!!」
ジンは避けなかった。
鍛え上げた腹筋に全身全霊を集中させる。
ガンブレードは脇腹に深く食い込んだ、ように見えた。
(やった!)
心の中でレッドテイルは歓声を挙げた、だが次の瞬間驚愕する。
(ぬ、抜けない……)
ガンブレードは押しても引いてもビクとも動かなかった。
腹筋の筋力だけで、ジンはガンブレードを押さえ付けていた。
「今の突き……凄かったぜ」
ニヤリとジンは笑った。
その賞賛の言葉にレッドテイルは微かに微笑んだ、最大の賛辞だ。
「どうも」
ジンはゲッタードリルを構え……
「だが、惜しかったな」



ドリルハリケーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!


レッドテイルは全身に強い衝撃を受けたかと思うと空中に吹き飛ばされていた。
「がっ……」
ドサリと床に落ち、激痛が彼の身体を襲う。
だが、意地でも失神はしなかった。
最後の言葉をジンに伝えるまで。
微かにとーるの、
「勝負あり!」
という言葉が聞こえてきた。
チャンスは今しかない。
「ジンさん……」
呻いたようにしか聞こえなかったがそれでもジンは振り返り、耳を澄ませた。
「アリガトウ……本気で……打ってくれて……」
それだけ言い切るとレッドテイルの意識は深い闇の中に沈んでいった。
「フン、手加減するとでも思ったのかよ……」
冗談じゃねぇ、とジンは思った。
こちらが本気になってなければ先程の突きでのびていたのはこちらだっただろう。
それほど凄まじい、一撃必殺の突きだった。
現に脇腹には今もなお激痛が走って、血が滴り落ちている。
「さあて、これで俺も怪我人の仲間入りか……」
今回の大会は試合で負った傷を魔法で回復する事は一切許されていない。
つまり自力かあるいは薬か何かで回復させるしかない、と言うことだ。
これまでジンはエルクゥ特有の回復力を生かしてかなりの軽傷で済んでいたが、
今度の脇腹の傷はかなりヤバい。
だが、ジンは顔が笑うのを押さえ切る事ができなかった。
「こうでなくっちゃ……面白くねえよなぁ……」



「レッドさん……しっかりしてください……レッドさん!」
アイラナは必死に呼び掛けた。
レッドテイルはアイラナの肩に持たれかかって、顔を伏せていたが大丈夫だという事を表す
ジェスチャーは送れた。
無言のピースマーク、それがレッドテイルの生きている証だった。



ジン・ジャザム・・・決勝進出!
レッドテイル・・・準決勝敗退












――武器部門・準決勝第二試合開始五分後


「たああああああああああああああああ!!!!!!」
「そりゃあああああああああああああ!!!!!!」
吠えると同時に跳びかかる。



ディアルトの倭刀とへーのきのバドミントンラケットが激突した。
相討ち。
「くっ!」
だが筋力の差か、ディアルトがやや押されている。
(参った……たかがバドミントンラケットと思って侮っていた……)
確かにディアルトの倭刀に比べ、へーのきのバドミントンラケットはとてもではないが
武器と呼べるシロモノではなかった。
だが、へーのきはこのバドミントンラケットの扱いに慣れていた。
材質が何なのかまでは分からないが、鬼のような頑丈さで倭刀との鍔迫り合いにも
互角で立ち向かえる事が出来た。
それに、へーのき自身の闘いも手馴れたものだった。
これまで、一回戦、二回戦と特に本領を発揮する事なく、幸運としか言い様のない
展開で進んできたへーのき、だから正直言ってディアルトは少々彼を舐めていた。
だが、へーのきとて来栖川警備保障を束ねる人間。
そこらのSS使いとは比べものにならないほどの強さを有していた。
今、それを実感する。
だけど、ディアルトも負ける訳にはいかなかった。
目の前に突然降ってきた幸運……校内エクストリーム大会への出場権、そうやすやすと
手放せるほど、ディアルトは諦めが良くなかった。
(スピードでは私が勝ってる……武器のリーチでも……ならばっ!)


ディアルトは構えを変えた。
中段からの突きに移行できる構え。
へーのきの動きがピタリと止まった、ディアルトはニヤリと笑う。
(悪いがあなたの武器ではリーチが短すぎる! 連突きをガードし切れるほどの
スピードもあなたには無いはずだ!)

「それっ!」

ディアルトは遠慮なくへーのきの腹部を狙った、このスピードで腹部を狙ったのなら
避け切る事は不可能だ。
(これで私の……勝ちだ!)
勝利を確信した。
へーのきはその倭刀を避けようともせず、ただ、ラケットを構えた。
(……え?)
そして、そのラケットは下から上へ振り上げられ、
(……しまっ……た……)
自分のラケットもろとも、
「てええええええええええええええええい!!!!!!!!」
倭刀を弾き飛ばした。


倭刀とラケットが上空でくるくると回転する。
一瞬、ディアルトは茫然として空を見上げた。
それが隙だった。
へーのきはディアルトの襟を掴んだ、まるでこれから柔道でもやるかのように。
ディアルトも素早く立ち直り、へーのきの襟を掴もうとする。
(接近戦! ならば圓明流で……)
だが、へーのきの次の行動はディアルトの予想を遥かに越えるものだった。
へーのきは片手一本でディアルトの襟を掴み、ただ力任せに'ブン投げた'。
ほとんど野球のボールを掴んで投げるような動作だった。
ただ、ボールが身長185cm、体重80kgの巨漢の男であるという違いはあったが。


「…………ッッッ!!!!!!!!」
声にならない呻きを上げ、ディアルトは闘技場の真ん中から壁まで叩きつけられていた。
「は、発想のスケールで……負けた……」
どっかで聞いたような言葉を残してディアルトは失神した。
とーるがそれを見てへーのき=つかさの勝利宣言をする。


へーのき=つかさは、一息ついてどこかに行ったバドミントンラケットを
探そうとした。
そして、その時気付いた。
バドミントンラケットは空中にある事に。
空を見上げる、そしてその瞬間、'もう一つ'空中から落下してくる物がある事を思い出した。


ゴン!!!!!!!!!!!


顔面に倭刀の峰が激突した。
鈍く響ーーく音が闘技場にした後、
「……倭刀も……落ちてきてるの……忘れてた……」
へーのきはそう呟いてドサリと床に転がった。
「どうして……こう……最後の最後で……オチをつけちゃうかな……俺ってば……」
で、失神した。



ディアルト・・・準決勝敗退
へーのき=つかさ・・・最後のは勝利が宣言された後なので、一応関係はなかったらしい