シネマLメモ「フェイス/オフ」中編 投稿者:beaker
OLHはようやく自分の家――バンガローを改装した家だが――に辿り着いた。
ふっと彼は窓枠のペンキが塗りかえられているのに気付いた。
はて?一体いつ塗り替えたんだっけ?
衛星放送用のパラボラアンテナはあの場所だったか?
鳥のえさ台はいつから壊れていたんだっけ・・・
彼は自分が自分の家の事をさほど知らないことにショックを受けた。
頭からbeakerの嘲笑う声が離れなかった。

(おいおい、俺を閉じ込めてそれからどうしようってんだ?)

(お前にはもう何も残っちゃいない、今のお前はただの抜け殻だ)

奇妙によそよそしく感じられる我が家を見つめながら、OLHはふとこの家に入ることに恐怖を
感じている自分に気がついた。
カウンセラーの一人はOLHがbeakerに執着するのは彼が勇希から逃げようとする便利な口実だと
諭した。
beakerと相対している時には憎しみはあったが恐怖は無かった。
だが今こうして自分の家のドアを開け、リビングで苛々しながら待っている勇希を
見た時に感じたものはまぎれもない恐怖だった。
(あのカウンセラーの言った事は正しかったのかもしれないな)
OLHは痛烈にそう思った。

勇希は今日二人で行くはずだった映画のチケットを見てため息をついた。
「・・・ただいま。」
OLHが声をかけると勇希は眼をそらした。
「勇希、話があるんだが・・・」
そのOLHの言葉を遮って勇希が喋り出した。
「今日は色々とあったの・・・聞かせてあげましょうか?まずテレビが壊れたわ。
続いてそれを修理しようと電話したら従業員はお盆休みでしばらく修理は無理。
三つ目にあなたは今日のデートをすっぽかした。それに・・・」
OLHは勇希の肩をぎゅっとつかみ、その眼をじっと覗き込んだ。
「どうしたの、OLH」
OLHは口を開きかけたが、その言葉はどこか闇に吸い込まれるように消えていった。
彼の表情には深く心に訴えるものが表れていた。
勇希はOLHの顔から、暗く凍てついたものが消え去っている事に初めて気がついた。
陽気で快活だったかつての彼がわずかながら姿を見せていた。
そう、初めてのデートだったとき、とても魅力的だった彼が。
「あの・・・・・・あの男?」
勇希はそうであって欲しいと思いながら彼に囁いた。
「今度こそ捕まえたのね?・・・終わったのね?」
OLHはただうなずいていた。
感情が雪崩のように彼の頭に押し寄せてきたため、少しくらくらした。
勇希はOLHを改めて抱き寄せて、優しくキスした。
「これからは君に償いをするよ。デスクワークに回る。映画館にも行く。今度こそ約束するよ。」
OLHが涙を流しながらそう言っているのを見て、勇希は彼が本心からそう言っているのが分かった。
こんな日が来れば良いとは思っていたものの、本当に来ると涙を流すしかない自分が
疎ましかった。


翌日、おそらく何ヶ月かぶりに熟睡したOLHは警備保障に出勤した。
今日はいつもと違ってお祝いと感謝の日になるだろう。
ならば今日こそは今まで愚痴もほとんど言わずに自分についてきてくれた部下達に感謝すべきだ。
そうOLHは決心した。
オフィスは蜂の巣さながらにうなりをあげていた。
捜査官・暗号解読者・アシスタント達が忙しなく動き回っている。
榊がOLHを発見して駆け寄ってきた。
「おい、大変だ!!」
榊が焦っているのがOLHにも見て取れた。
「どうし・・・」
「いいからこっちに来い!!」
榊がOLHを強引に別室に引っ張っていった。
「悪い知らせがあるんだ・・・これを見てくれ。」
榊が持っていたフロッピー・ディスクをコンピュータにまどろっこしそうに挿入した。
しばらく待った後、画面にbeakerが仕掛けた爆弾の設計図が映し出された。
「これは・・・?」
「飛行機の残骸から見つけたものよ。・・・沙留斗の所持品ね。」
後ろから声がかかった。振り向くとそこにはスーツ姿の女性が立っていた。
「私の名前は広瀬ゆかり。来栖川特殊研究班のものよ。」



「磁器のケース・・・・断熱カバー・・・爆弾と神経ガス・・・細菌兵器。」
「つまり・・・このLeaf学園のどこかに・・・この爆弾がセットされているってことか?」
「そういう事になるわね。」
OLHの両肩にずしりとした重みがかかっていた。
心臓の音が場にいた全員に聞こえるのではないかと思った。
「爆発時間まで明示してあるな・・・次の金曜日の正午きっかりにこのLeaf学園のどこかで爆発が
起きるようにセットされてあるってことか。」
榊があっけに取られたように呟いた。
「beakerを尋問するぞ。今日は月曜日だからタイムリミットまで、十二日ほどしかない!」
「それがそうもいかないのよ。」
駆け出そうとしたOLHを広瀬ゆかりが引き止めた。
「なぜだ?」
「彼は今植物人間なの・・・おそらく一生目覚めることはないわ。いえ、目覚めるかもしれないけど
・・・少なくとも金曜日にまでに、目覚ましの音でパチッと目を覚ますという訳にはいかないわね。」
「ならもう一人の人間に聞くまでさ。」
OLHはそう言い捨てて部屋を飛び出した。


「もう一度聞くぞ、爆弾はどこだ?」
これまでどんな犯罪者も尋問させてきたベテランの捜査官が沙留斗の尋問に当たっていた。
だが
「これで七回目だぜ。あの爆弾は単に設計図を書いただけだよ。ただの頭の体操、
設計図を書くことは罪になるのかい?」
沙留斗は神経に障る声で嘆いた。
OLHと榊とへーのき=つかさはポリグラフを見た、またもや変化無し。
へーのきは肩を竦めてモニタを消した。
OLHは立ち上がってへーのきの目を見つめた。
「やつは嘘をついてる。」
「OLH、あのポリグラフを出し抜いた犯罪者は今まで一人もいない。」
「奴がその最初の人間です。沙留斗もbeakerと同じくとびきり頭が切れる異常犯罪者です。
どうやったかは分かりませんが、つながれる前に何とかあの機械を出しぬいたんだ。」
「しかしだな・・・」
「これだけは確実に言える。あの爆弾は実際に作られていて、金曜日に爆発する。」
「どうしてそうわかる?」
「勘です」
へーのきは首を振って、鼻から大きく息を吐いた。
「きみの直感を信じるよ、OLH。いままでと同じくね。だが、具体的な証拠が無い限り
俺達は動けないぞ。」
OLHはへーのきの肩をつかんで、揺さぶった。
「あんたは管理職だろう!!現場の事もbeakerの事も何も知らないくせに勝手な事をほざくな!!」
榊が慌てて彼を押しとどめた。
「よせ、OLH!!」
OLHは足音荒く尋問用の部屋を出ていった。
深い、荒い息がへーのきの耳に届いていた。


「コーヒーでもいかがかしら?」
OLHは思いに沈んでいたため、広瀬ゆかりがこちらをじっと見つめているのに気づかなかった。
声をかけられて慌ててOLHは振り返った。
広瀬ゆかりの顔は真剣で、すぐに何か重要な用件があることは見て取れた。
「いや、遠慮しておこう。」
「じゃ、軽く食事でも。」
「それも遠慮する」
「・・・beakerは爆弾を仕掛けた場所について何か言っていなかった?」
「知っているのは弟の沙留斗一人だけだ。奴は爆発するまで絶対に口を割らないだろう。」
広瀬ゆかりが隣に座った。
「捜査官を一人反省房に潜入させて・・・」
「無駄だ。奴は教科書に載ってもおかしくないくらいの偏執病者だ。
話すとしたら兄のbeakerにだけだろう。だが、肝心のbeakerは生ける屍と来ている。
もっとも目覚めていたからといって兄が弟を説得する確率は皆無だろうがな。」
広瀬ゆかりはちらりとこちらの顔を覗き込んだ。
「OLH、それに関しては何とか出来るかもしれないわ。」
OLHは嫌な予感がした。同時にひどく興味をそそられた。
「つまりこちらではあなたをbeakerとして反省房に潜入できるように手配できるってことよ。」
広瀬ゆかりは立ち上がってOLHについてくるように促した。
「・・・どういう・・・事なんだ?」
「私たちは密告者等の顔の整形や、捜査官潜入の為の変装を担当しているの?知っている?」
「いや・・・だが、それとこれとどういう関係が・・・」
「つまり、あなたの顔とbeakerの顔とをすりかえる事だって出来るわけ」
「馬鹿馬鹿しい」
OLHは一蹴した。
広瀬ゆかりは話を続けた。
「特殊班によるとあなたとbeakerは身長・体重・全体的な体格も一緒。
既にbeakerから顔の型は取ってあるの。後はあなたの顔にこれを合わせて、beakerの顔を剥いで
移植すれば・・・」
「馬鹿馬鹿しいって言っただろ?」
OLHはきびすを返した。
「いい?私たちにはもうこれしか方法が残されてないのよ!あなたにもそれは分かっているはず」
ひどく気分が悪くなったOLHは広瀬ゆかりを押しのけると、うつろな表情で部屋から走り出た。
「上手くいかなかったようですね」
特殊班の整形を担当する医者が部屋から出ていったOLHと入れ違いに入ってきた。
「彼は戻ってくるわ・・・これしかないんだから。」
独り言のように彼女は呟いた。


beaker一味の完全なリストをそろえるのはOLHにはたやすいことだった。
そしてそこからbeakerが爆弾のありかをしゃべりそうな親しい人間をピックアップし、
その全員が尋問の為に来栖川警備保障に連れてこられた。
beakerの友人であり、時にはおかかえ運転手を努めるYOSSYFLAMEは麻薬の流通の影の黒幕であり、
事実上Leaf学園の闇の部分の生ける法律でもあった。
だが、OLHにはそんな事は知ったことではない。
厳しい表情のまま、尋問室で彼と向かい合った。
「・・・beakerから何か聞いていないのか?爆弾の場所は?」
「お役に立てればいいんだが、残念ながら。」
「・・・君を拘束する、罪は何だって良い。君の部下も一人残らずしょっ引く
そういう事態は君も困るだろ?」
YOSSYFLAMEは扇子を開いて、芝居がかった仕種で仰ぎながら、
ふと思い出したように呟いた。
「ところで、死んだ娘は元気かい?」
その言葉にOLHは実に劇的な反応を見せた。
椅子に座っていたYOSSYFLAMEを投げ落とし、銃を頭に突き付けた。
「ま、待ってくれ。・・・今度の土曜日に爆破するとしか伝わっていないんだ。嘘じゃない!!」
彼の眼が本気なのを見て取れたYOSSYFLAMEは慌ててしゃべった。
銃をホルスターに戻したOLHは深く深呼吸を吐いた。
「行ってよし」

坂下好恵はbeakerの女であり、YOSSYFLAMEの妹でもあった。
ひざの上に幼い娘を抱いた彼女は勝ち気な瞳とショートヘア。
しかし口がへの字に曲げられ、もううんざりと言っているような顔が彼女の美貌を台無しにしていた。
「beakerを最後に見たのはいつだ。」
幼い息子を外に出した後、OLHが尋問を始めた。
「それが何だってのよ、あいつは死んだわ。」
顔を歪めてOLHを見る。
「質問に答えろ。」
改めてOLHの顔にまっすぐ向き直ると坂下好恵は言った。
「いい、あたしは何にもしていないわ。今じゃ子供たちに空手を教えているの。あたしは・・・」
「まだ保護観察期間中だ」
チクショウ、あの事を持ち出すつもりだ。
坂下好恵の沈痛な表情に、OLHは効き目があったと見て取り、攻撃を続けた。
「坂下さん、娘さんを養育施設に入れることをお望みですか?」
好恵はOLHに飛び掛かった。
「卑怯者!!何も知らないって言っているでしょ!!なぜ信じてくれないの!?
どうして私たちをそっとしておいてくれないのよ!!」
OLHは自分が結局はbeakerが自分に対してしたことと同じような事をしようとしている事に
気付いた。
静かに、不器用だが同情のこもった口調で問い直した。
「beakerを最後に見たのはいつだ?」
好恵は口調の変化に敏感に気付き、真正面から彼の顔を見つめて答えた。
「もう何年も会っていないわ・・・本当よ」
「分かりました。もう行っても構いません。」
OLHは平静を装っていたが、心の中では悲しみの嵐が吹き荒れていた。



――来栖川警備保障特殊班研究施設

OLHはbeakerの体の周りをぐるぐる回った。
広瀬ゆかりは何回も手術後の魔法のような写真を見せ、変身の過程を説明した。
18周目でようやくOLHは手術を受ける決心をした。
「へーのきはどう言っているんだ、この手術を認めているのか?」
OLHは尋ねた。
「いいえ、彼には話せないわ」
広瀬ゆかりが答えた。
「お役所仕事でこの手術の許可を受けようとすると一ヶ月はかかるわ。これは極秘の手術で、
書類はまったく残さないの。」
続けて、
「あなたが榊と親しいのは知っているわ。彼に手を貸してもらうのは構わない。
だけどそれ以外の人間とは一切話しては駄目。例え奥さんと言えども。」
OLHは沈黙した。

何か嫌な予感がする。

だが、この学園にはもうすぐ爆発する爆弾が仕掛けられているのは間違いない。
OLHはほとんど無意識にうなずくと、広瀬ゆかりの方を向いた。
「分かった、手術を受けよう」
「・・・ありがとう、今日は家に戻って体を休めて頂戴。明日には別人に変身するから。」
OLHは家に帰る、と言うことを聞いて気が重くなった。
さて、勇希にどう言い訳しようか・・・



「勇希・・・起きてくれ、話があるんだ。」
家に帰ったOLHはベッドで寝ていた勇希を呼びかけた。
勇希は眼を覚ますとOLHに抱き着いて、胸に顔を埋めた。
「もう、あなたが帰ってくるかどうか心配しないでもいいのね」
その言葉にOLHは今から放つ言葉をためらった。
今すぐ取って返して手術を断ろうか、という考えも頭に浮かんだ。
「勇希、物事にけりを付けるためにはまだ続きがあるんだ。」
「何ですって?・・・・・・まさか、まさかまた任務に戻るの?」
「これで本当に最後なんだ。これを終わらせてやっと俺は幻影から解放される。」
「ふざけないでよ!!ここにいてくれるって言ったじゃないっ!!!約束したじゃない!!
それよりも大事なことって何よ!!」
勇希は感情を爆発させた。
「言えないんだ、どうしても。俺にしか出来ないってことの他は・・・」
勇希はベッドにへたり込んだ。
「行っても良いって言って欲しいの!?いいわよ、どこへなりとも行ってしまいなさいよ!!」
勇希は金切り声を上げた。OLHはじっと彼女の眼を見つめた。
「出ていって!!」
勇希は激しくすすり泣き始めた。
OLHは部屋から出ていくと居間で寝ようかと思った。
だが、OLHはふと笛音の部屋で足を止めた。
ドアを開いて部屋を見渡す。
OLHは今夜はここで寝ることにした。
彼女の事を決して忘れない為にも。



手術は榊・広瀬ゆかりの立ち会いの元、特殊班の医者数人のみで極秘裏に行われた。
OLHは榊に結婚指輪を手渡した。
「・・・いいか、三日だ。三日後は何があろうが絶対にお前を元に戻す。・・・いいな?」
「ああ、なるべく努力してみるよ。」
ガッチリ握手をすると、OLHは麻酔をかけられ眠りに就いた。
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手術は長時間に渡った。
腹の脂肪は取り除かれ、代わりに刺青があちこちに入れられる。
髪の毛は刈り込まれ、指紋の皮を張りつけ、顔面の皮は剥がされて保存された。
榊は手術の陰惨さに思わず眼を背けたくなった。
笛音の体を貫いて自分の体に残った傷痕も奇麗に消されてしまった。
榊はそれを見て、OLHが終わったらあの傷痕を戻してくれるように頼んでいたのを思い出した。
「この傷痕の事を、笛音の事を、忘れるわけにはいかないんです。お願いします。」
そう言っていた。
おそらくOLHは永遠にあの傷痕を治さないだろう・・・癒す事の出来ない傷痕。
最後にbeakerの顔が剥がされ、OLHに移植された。
そして・・・



「OLH、起きてくれ・・・OLH!!」
OLHは一瞬記憶が混乱した。
自分は家のベッドで寝ているのでは無かったのか?
数秒して自分が手術を受けたことを思い出した。
「ああ・・・今起きる・・・」
「さあ、包帯を外しますよ」
医者がそう言ってゆっくりと包帯を外し始めた。


そこには・・・自分が今まで一番憎んできた男の顔があった。


娘を殺した男。


部下を殺した男。


そして俺の人生を奪った男。


OLHは吐き気を感じ、頭がくらくらしはじめた。
「大丈夫かっ!?」
OLHは側にあった帽子かけで鏡を破壊すると、ゆかり・榊・医者を指差しながら怒鳴った。
「こ・・・殺してやる!!!殺してやるぞ、貴様ら!!!!」
「落ち着け、OLH!!落ち着くんだ!!!」
「うるさいっ!!!黙れ!!!」
医者の一人が落ち着いて彼に鎮静剤を注射した。
「そうだ、お前はOLHだ。いいか、OLHなんだ!!!」
榊が両肩をしっかりつかんで、怒鳴った。
その言葉が聞こえたのか、鎮静剤が効いたのかは分からないが
OLHは次第に落ち着きを取り戻していった。
「寝ている暇は無いぞ、これから声と仕草の練習だ。」



翌日、沙留斗が投獄されている反省房へ植物状態から蘇った’beaker’がやってきた。
囚人も看守も彼を好奇の目で見つめている。
(試されているな)
OLHはそう感じていた。
もし他の囚人に舐められた場合、沙留斗はおそらく兄と話もしないだろう。
刑務所とは――つまりこの場合は反省房だが、そういうものだ。
強く、タフな人間がこの場を支配する。
OLHは鈍重な動きで歩きながらそう思っていた。
ブーツが異常なほど足に負担がかかる。
この反省房に入れられてまず最初にされた事はこのブーツを履かされる事であった。
ブーツは重く、電磁石で床の鉄板にひっつきながらでしか歩けないようにされている。
逃亡防止用とは言え歩きにくい事この上なく、寝るときもはずす事を許されない。
おもちゃのロボットのように歩きながらOLHは食べ物を受け取っていた。
気取られないように周りを見渡すと・・・沙留斗がいた。
彼はこちらをじっと値踏みするように見つめている。
OLHはなるべく神経を落ち着かせながら彼の元へ足を運んだ。
「よお、沙留斗・・・」
沙留斗はこちらを訝しそうに見つめて言った。
「あんたは俺の兄貴じゃない」


OLHは一瞬目の前が真っ暗になった。
「俺の知っている兄貴ならOLHなんかに捕まったりしない」
ニヤリと笑いながらそう言うのを見て、OLHはようやく冗談だと分かって胸をなで下ろした。
だが、ここからが本番だ。
「ふん、ちょっと調子が悪かっただけさ。」
「それにしても・・・あんたいつからそんなに腰抜けになったんだ?
さっきの不安そうな表情といったら別人みたいだったぜ。」
OLHは自分がかなりマズイ状況にいる事を認識した。
「なあ、沙留斗・・・俺は奴等に捕まったんだ・・・捕まってだな、何かの手術を受けさせられた
みたいなんだ。」
「頭の中でもお掃除されたのかい?」
「ああ、まるで24時間薬でラリってるようだ・・・頭の中がぐるぐるする。」
「酒でも飲むか?ここには安酒しかないがな。どうだ兄貴?」
「俺が安酒を飲まないってことは知ってるだろ?坊や?」
「坊やって呼ぶなといつも言ってるだろ?」
嬉しさと悔しさの入り交じった表情で沙留斗は返事した。
(よし、もう一息だ)
「しかし・・・ここにいるとあの芸術的な爆発が見れないのは何とも惜しいな。」
「俺はそれより受け取るはずの1000万ドルが惜しいがね。」
(1000万ドル?くそっ、やはり雇われていたのか。)
「いいじゃないか、俺達はここでゆっくりと爆発が起こるのを待つとしようや。」
「見れないのは確かに惜しいな・・・」
「あの爆弾はまさに芸術品だからな・・・購買部に飾っておいてもいいくらいだ。」
「まあ、確かにね。だが・・・この際教会で我慢しようや。」
(かかった・・・!!)
OLHがニヤリと笑ったのを見て、沙留斗は不思議そうにこちらを見つめた。
「どうした、兄貴?」
「感謝するよ、マヌケ野郎が。」
そう言い捨ててOLHは去っていった。
沙留斗はなぜだか良く分からないが、自分がとんでもない失敗をしたと感じていた。


翌日、OLHが独房で腕立てふせをしていると看守がやってきて面会だと告げた。
おそらく榊か広瀬ゆかりだろう、とOLHは検討をつけていた。
一刻も早くこんなゴミ溜めのような場所から抜け出したかった。
帰ったらシャンパンを開けよう・・・そんな事を思いながらOLHは面会室にやってきた。
面会室と言っても普通の刑務所のような面会室ではなく、
少し広めの何も無い空間、
そこに看守がガラス越しに監視しながら直接面会人に会わせると言うものだ。
OLHは重いブーツを履いたまま、開かれないドアを辛抱強く眺めていた。
やがてドアが錆付いた音を立てて開いた。

だが、そこにいたのは・・・


榊宗一でもなく


広瀬ゆかりでもない


自分に会いに来たのは


目の前にいるのは


絶対に存在しないはずの


絶対にありえないはずの


自分が・・・自分の顔をした人間が目の前にいた。


<続く>



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疲れたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
あ〜やっぱし三回じゃ終わらないわ、これ。
と言う訳でもう少し続くと思います。
次回予告も疲れたから、ナシ!!(笑)