学園祭Lメモ「楓祭’98/カップルコンテスト」 投稿者:beaker
体育祭も恙無く(どこが)終わり(まだ続いているけど)、生徒の興味(不安)は次なる学園祭へと移っていた。
学園祭には出店の他にもいくつかのイベントが行われる事になっている。
例えばバンドコンテストや、女装(!)コンテストなどなど、
そして購買部が主催するイベントとは………


「「「「「「カップルコンテスト!?」」」」」」


「そですよ、既にポスターは理緒さんがそこら中に張ってきてるはずです。見ませんでしたか?」
beakerは愉快そうに笑うとカウンターの椅子に腰を下ろした。
時は放課後、購買部の関係者が珍しく一堂に介していた。
月一恒例の会議以外で全員が集まる事は滅多に無い。
「つまり……一般で言う美男子美少女コンテスト……って事になるのかしら?」
勇希が興味深げに尋ねた。
「ま、似てはいますがちょっと違いますよ。あくまで競うのは”カップル”なんですから」
「はあ、カップル……ねえ」
勇希が分かったような分からないような呟きを漏らす。
「それで、購買部(ウチ)からも一組出場させようと思っているんです」
「一組ですか?」
続いて沙留斗が尋ねた。
「ま、出場したいなら止めはしませんけどね。仲間同士で争う事はないでしょう?」
「個人的には一組でも多い方が映えるんだが……ねえ」
デコイがカメラのレンズを神経質に拭きながら言った。
「出場者は大量に出る事が予想されますよ、賞品が賞品ですからねえ」
「あ、やっぱり出るんだ」
「ええ、グランプリを取ったカップルには副賞もいくつか用意しますよ。
もっともグランプリを取った時点でそのカップルは最高の名誉ってやつを獲得出来ると思いますけどね」
「ふーん、賞品目当ての即席カップルが続出しそうだけど……いいの?」
「ええ、それで構いませんよ。それくらいの事は計算の内です」
beakerは眼鏡をくっと上げた。
「まあ、大体の事は分かったわ。……で、問題は誰が出るかって事よ」
勇希は面白くなりそうな予感にわくわくしながら言った。
「ではお聞きします。男子で出たい人いませんか?」
beakerがデコイ、沙留斗、ひめろく、T-star-reverse、東雲忍と言った購買部男子に聞いた。
「俺は撮影があるからな……」
デコイは相変わらずカメラのレンズを拭き続けながら言った。
「えーと僕も……遠慮します」
タハハとテレ笑いを浮かべながら沙留斗も答える。
「僕……も遠慮させてもらいます」
ひめろくも間髪入れずに答える。
「私もお断りします。葵ちゃんと組めませんからねえ…………ってマズいっ! 先に帰らせて頂きます!」
T-star-reverseは叩き付けるように購買部のドアを開くとすっ飛んでいった。
おそらくは葵の元へ行ったのだろう。
「競争率が……高いですからねえ」
beakerがしみじみ呟いた。
「本人はそーゆーのがまだ全然分からないって言うのが一番の困り者なのよねえ」
はあっと坂下好恵はため息を吐いた。
「……あの、僕もそういうことは苦手なので……遠慮させてもらいます」
東雲忍は申し訳なさそうに言った。
「……すると、後は……beakerくんしかいないわねえ」
「それでは男子は僕が参加します。で、女性ですが………」
「女性は……ねえ、もう決まったようなもんじゃない?」
勇希がニヤニヤと笑う。
「……まあ、そうだろうなあ」
沙留斗もニヤリと笑って好恵の腕を肘で突っついた。
「それなんだけど……私断らせてもらうわ」
・
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「「「「ええーーーー!!??」」」」
勇希、沙留斗、ひめろく達はもちろんのこと、デコイも思わずレンズを拭くのを止めて好恵を見据えた。
だがbeakerはいささかも表情を変えない。
「すいません、好恵さん。変な事を頼んだみたいで」
「別にいいわよ、元々そういうのって苦手だしね」
勇希が慌てて二人の腕を掴んだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ、それでいいの!?」
beakerと好恵は顔を見合わせた。
「beaker……言ってみんなにも協力を持ち掛けた方がいいんじゃないかしら?」
「そう、ですね。隠さないと困る話でなし」
「「「「「?」」」」」
「実は……」
そう言うとbeakerはゆっくりと話し始めた。


「これで最後の一枚………っと、終わりっ」
ぺたんとポスターを貼ってぐりぐりと壁に押し当てる。
綺麗に張られたポスターに理緒は満足を覚えた。
さっきからポスターを貼りつづけて一番良い出来だ。
理緒はポスターをまじまじと見つめた。
『カップルコンテスト』
ポスターにはそう大きく書かれている。
だが理緒はそれよりも端に書いてある賞品が気になって目をやった。
『グランプリには副賞として海外旅行ご招待他…』
海外旅行かあ………いいなあ。
理緒はため息を吐いた。
「ま、私には縁の無い話……か」
そう一人ごつと理緒は購買部に戻ろうとした。
理緒は海外へ行ったことが無い、と言うより旅行そのものを経験したことが無い。
まあ家庭の事情からすると当然のことである。


だがふと窓の外の風景を見て足を止める。
ポスターを持った悠 朔が早速綾香にアプローチしていた。
理緒は窓越しにその様子を見る。
「綾香さん………羨ましいなあ」
綾香は何度か購買部に来た事がある。
特に親しく話をしたわけではないがサラサラと風になびく髪や、好恵と格闘の事について
語り合う時の楽しげな表情、そして男とも対等に渡り合う強さに理緒は密かに憧れていた。
「お金もあって美人で性格も良くて……はあ、いいなあ」
理緒はため息を吐いた。
どうも神様とは不公平な人生を与えてくれるものらしい。
「ま、考えてもしょうがないかっ、戻ろうっと」
理緒はいつものようにポジティブな思考に切り替えた。
決して逆境にめげない理緒のたくましさは実は大きな魅力となっているのだが、その事を分かっている
のはYOSSYFLAMEを含めた極一部の人間だけだった。
もっとも当人もその事を含めた自分の魅力と言うものにほとんど気付いていなかったのであるが。

「たっだいま〜、beaker君ポスター貼り終わったよ〜」
購買部の扉を開けると全員の視線がこちらに集中した。
「ご苦労様でした、理緒さん。で、話があるのですが………」
「?」
理緒は不思議そうにbeaker、そしてこちらに注目する勇希達を見つめた………。
・
・
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・
・
「ええーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
キーンという音が購買部に響き渡り、思わずbeakerは耳を塞いだ。
「そ、そんなに驚かなくても…」
苦笑してbeakerは理緒を見る。
「だ、だ、だ、だ、だ、だ、だって! だって! だって! だって!」
「大丈夫ですよ、うちが全面的にバックアップしますから、それに僕がリードしますしね」
「で、で、で、で、で、で、で、で、でもでもでもでも!! わ、私がカップルコンテストなんて!」
「大丈夫よ〜、私がすっごい素敵なドレスくらい作ってあげるから!」
勇希がぽんと両手を彼女の肩に載せて後ろから言った。
「え!? いや、その! そうじゃなくて! え、えーっと……よ、好恵さんは!?
beakerくんが出るなら好恵さんが出ればっ……」
「ごめん、えーっと、私は用事があって……ねえ?」
手のひらを合わせて好恵は理緒に謝り、ちらりとbeakerを見た。
「えーっと、つまりはそーゆー事なので、よろしくお願いします」
「で、でも…………私なんか出たって…………」
今度はしゅんとなって肩を落とす。
「大丈夫ですよ、理緒さんの魅力は僕が保証します」
ニッコリと笑ってbeakerはぽんぽんと理緒の頭をはたいた。
「う、うん…………でも負けちゃったら私の責任だし…………」
「大丈夫、大丈夫。自信はあります」
「うん……じゃ、じゃあ私…………出るね!」
「よっし! 早速服のサイズを測ってあげるわね」
勇希が腕まくりをする。
「それでは僕が服を脱ぐお手伝いを…………」
「「「するなっ!!」」」
ズゴンッッッ☆
好恵だけでなく勇希、恋と言った面々からも一斉に百トンハンマーでツッコミを食らったbeakerであった。
「雉も鳴かずば撃たれまいと言うに……」
やれやれという感じでデコイが肩を竦めて頭を振った。



口笛を吹き、スキップしながら廊下を歩く男がいる。
彼の名前はわいー…………もといXY-MEN。
西山英志に喧嘩を売ったことで一躍名を馳せた彼は今破り取ったポスターを握り締め、
柏木楓の元へ向かっていた。
もちろん柏木楓と一緒に出場する為である。


一方、当然と言うか何と言うか西山英志もまったく逆のルートからスキップしつつ、
ポスターを握り締めて歩いていた。
「楓〜〜〜〜〜〜〜」
既に優勝を確信と言うかその後のことまで妄想が爆走しているらしい。
そして二人の邂逅。



ばったり



「………………………………………………………………………………………………」
「………………………………………………………………………………………………」

じっくりお互いを観察し、
お互いの手に握られているポスターを見つめる。
やがてこくりと頷き、突然準備体操を始める二人。
「イチ・ニ・サン・シ……」
「こきこきこきこき」
・
・
・
(中略しますが何時ものような激闘があったと思ってくだせえ)
・
・
・
「楓は渡すかああああああああああああああああああ!!!!」
「負けてたまるかああああああああああああああああ!!!!」
二人が三回目の激突をしようとしたその時、

がっこーーーん

実に響きのいい音と共にXY-MENが倒れた。
頭にマンガのような馬鹿でかいたんこぶをつくっている。
「え、EDGE……?」
目の前でこんぺいとう参号とかかれた巨大なとげ付き棍棒を持っている女性はEDGEであった。
「兄さん、今日のところは貸しにしとくわね〜、ちゃお♪」
とか言って去る。
西山英志は敵ながらXY-MENに同情して十字を切ると、
気を取りなおして楓の元へ向かった。


「ねえ〜いいでしょ? 浩之ちゃん?」
少し甘えた声で浩之に尋ねるあかり。
もちろん手には例のポスターを持っている。
「ばぁ〜か、そんな恥ずかしいイベント人前で出来るか」
「で、でも、ね? ほら、やっぱり賞品とかあるし」
「何だ、あかり? お前賞品が目当てなのか?」
「え?」
あかりは驚いたように浩之を見た。
「ち、違うけど…………」
俯いて頬を赤らめるあかり。
「いらねーなら止めとこうぜ。あ、俺今日はちょっと用事があるから先に帰るわ」
「え? あ、うん…………」
一層俯くあかり。
微かだが表情がちょっと暗くなっている。
浩之はその様子を見てチクリと胸が痛んだ、が。
「じゃ、じゃあなっ!」
強引に話を打ち切って浩之は校舎を飛び出した。
少し頬が赤くなるのを実感しながら。


「ふう、やれやれ。何とか参加せずにすみそーだぜ」
校門を出たところでため息をつく。
あかりには悪いけど…………とてもじゃないが俺が出てもなあ、などと一人呟く。
よーするにただ恥ずかしいだけなのだ。
トラブルを抱えないことに越したことは無い。
そうも思っていた。
だが浩之は弱い、根本的に勘違いをしている。
この学園にいて目立つ存在であるならばトラブルは避けられることなど無い、と言う事に。

嫌な予感がして足を止めた。


振り返る。


誰もいない。


気のせいだ。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド


後ろで物凄い足音がするのも気のせいだ、気のせいだ、気のせいなんだ・・・


「ってんな訳ねーだろがああああ!!!」
ノリツッコミを入れてからもう一度振り返る浩之。
さああああああっと顔から血の気が引いて行く。
「ダアアアアアアアアアアアアアアアアアリイイイイイイイイイイイイイインンンンンンンン!!」
「浩之殿おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
浩之に迫り行く怪獣二人(注:四季とセバスチャン)
「「一緒にカップルコンテストにいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「だああああああああ、こいつらの目当てもそれかああああああああああああああ!!!!!!!」
校門の壁に飛び乗り、もう一度学園に戻る。
「こうなったら…………」
逃げる、逃げる、逃げる。
校舎にもう一度入り、靴を履き替えようとしているあかりの手をいきなり握り締める。
びっくりして浩之を見つめるあかり。
「ひ、浩之ちゃん……?」
「あかりっ、さっき言ってたカップルコンテスト、俺お前と組むぞ!!」
「ええっ!!」
驚いたのはあかりだけではない。
「ええっ、そんなあ!!」
「な、何と言うことだ!!」
四季とセバスチャンも驚く。
「と、まあそーゆー訳だ。悪いが今回は諦めろよ、じゃあな!!」
と浩之は手を握り締めたままあかりと逃げ去った。
「「ちくしょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」


「カップルコンテスト…………ねえ」
また死人とか重軽傷者とか出るんだろうな…………
とゆーかすっごい嫌な予感がするな、と柏木梓はそう思っていた。
「梓さん!!」
秋山…………?
と思って振り返ったがそこにいるのは見知らぬ男子生徒だった。
つい訝しげに見てしまう。
「あ、俺は暗躍生徒会の城下 和樹と言います」
ぺこりと頭を下げる。
「あら、そうなの……って自分でバラしてどーするっ!!」
思わずツッコミを入れる。
「いけないんですか?」
きょとんとして聞く城下。
「いや、別に駄目って事は無いけど、普通自分から…………」
そこまで言うと城下はハッと気付いたようにこちらへ向き直った。
「それより梓さん! カップルコンテストに出るんですか?」
「え? いや、あの、ねえ。出ないと思うけど」
「あれ? 何でですか?」
「何でって、そりゃあねえ…………」
梓は苦笑してポスターを見た。
と、突然城下は愕然とした様子で梓を見つめた。
「そ、そうだったのか!! すいません、余計な事を聞いて!!」
「へ?」
「大丈夫です、俺が何とかします!!」
そう言って駆け出す城下。
「へ?」
「期待して待っていて下さいね〜」
最後にそう叫んだ。
呆然として立ち尽くしていた梓だが、ぽりぽりと頭を掻くと気を取り直して帰ろうとする。
だが突然校内放送が流されると梓は凍りついた。
「あ〜〜、あ〜〜、全校生徒の皆さんっ。こちら暗躍生徒会ですっ、
実は三年生の柏木梓先輩はカップルコンテストに出たいのに相手が今いません!!
是非とも梓先輩の為に我こそはと思う方はパートナーに立候補を!!!!!」

ガクッッッッッッッッッッ!!!!
脳天から思いきりこける梓。
「はっ、そ、そ、そ、そうだったのか!!」
「梓センパイったら私のアプローチを待っていたのね!!」
で、この後いつものように秋山とかおりのゴールデンコンビ(どこが)に襲われる事になる。
「あいつめええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
一方暗躍生徒会。
「うーむ、使えるな」
「本人に自覚が無いってのが最大限の強みだな」
「いや、まったく」


「えーーーかげんにせんかーーーーーー!!!!!!!!!!」
ごすっごすっと鈍い音が格闘技部の練習場に響き渡り、二人の男が崩れ落ちた。
ハイドラントと悠 朔である。
当然先ほどの台詞を言い放ったのは…………
「まったく、黙って聞いてればいつ私があんた達のステディってのになったのよ!!」
「この間」
「たった今」
「覚えがないわよ!!」
すぱんすぱんと今度は軽快な音が鳴った。
…………と言うわけで来栖川綾香である。
「いい!? 私は少なくともあんた達とは出ない!! これだけはハッキリと言っておくわ!!」
「「そんなああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」
「ハイハイ、練習練習!! 散った散った散った!!」
「「あやかああああああああああああ!!!」」
「ええい、大の男が二人してワカメ涙を流すな!!」
・
・
・
・
・
悪戦苦闘してようやく二人から解放された綾香は練習を始めるまでもなくぐったりとしていた。
「あ〜、葵、適当に始めといて」
投げやりな口調でそう言う。
疲れ切ったという感じで練習場の床に腰を下ろす。
「綾香さん、どうして出ないんですか?」
葵がすぐに練習を切り上げて同じく腰を下ろした。
「ん…………そりゃあ、私だって悪い気分じゃないけどさ、あの二人とカップルって感じじゃないし……
それに、カップルって事はさ、どっちか一人を選ばなきゃいけない訳でしょ?
何かそう言うのもちょっとね…………」
自分で自分の言葉に苦笑する綾香。
「でも、あの様子だと明日も来そうですね」
同じく苦笑する葵。
その言葉に綾香は口元を引きつらせた。
「た、確かにあの二人が簡単に諦める訳…………」
「ないですよね」
「はあ、どうすればいいって言うのよ〜〜」
床に寝そべる綾香。
「いっそ、あの二人の他に良い人材を見つけて『これが私のパートナーよ』とでも言えば諦めが
つくかしらねえ…………」
「う〜ん、でもハイドラント先輩も悠 朔先輩もカッコイイと思いますけど…………」
確かに。
黙っていれば(強調するが)、黙っていればあの二人もそこそこモテるはずなのだが…………
性格面でやや(?)問題があるのが難点なのだ。
「あの二人よりカッコよくって、尚且つあの二人に恨まれなさそうな人物…………」
「ちょっと」
「あれ?」
何か今頭の中で閃光が煌いたような…………
「ちょっとってば」
凄く良いアイデアだと…………
「綾香ッ」
「ちょっとうるさいわね、もう少しでアイデアが…………」
話し掛ける誰かに、綾香はうざったそうに手を振ると再び考えに没頭した。
「あーーーやーーーかーーー!!」
「何よ、ほっといて…………って、好恵!?」
「そっちこそ何よ、ぼけーっと考え事して。組み手相手がいないのよ、ほらほら」
「好恵だ…………」
「そうよ、私よ」
「好恵よ…………」
「な、何よ。その怪しげな嬉しそうな眼は…………」
わずかに腰が引く。
「好恵!! 私とカップルコンテストに出て頂戴!!!!」
・
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・
「えええええええええーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!?」


嵐が吹く……………………





<続く>


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