学園祭Lメモ「楓祭’98/カップルコンテストPART3(完結編)」 投稿者:beaker
ようやく学園祭完結編。
ああこれでやっとオリジナルとグラップラーとか色々書ける…………
あ、DNML忘れてた。

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――第一審査

「それでは第一審査、まずはカップルの自己紹介と意気込みを語ってもらいましょう!!」
志保がそれぞれのカップルにマイクを向ける。
「あ、どうも柏木楓です。頑張ります…………」
ぺこりと頭を下げる楓。
「かえでええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
人の話を聞いて、お願い。
「エントリーナンバー2番は直前に一方の了承が得られていない事が発覚した為、キャンセルされました!」
ちなみに片一方とは梓である。
「あれ〜? 梓先輩どうしたんだろ?」
城下和樹が不思議そうに呟いた。
そりゃそーだ、誰だって日吉かおりが相手だったらキャンセルするわい。
「どーも、主催者兼出場者のbeakerです。よろしくお願いします、本日は観客の皆さんにもお楽しみ
頂ける事を切に願います」
「あ、えーっと、雛山理緒です。えーっと、その、あの、ですね…………」
言葉に詰まる理緒。
観客席の沈黙がさらなるプレッシャーをかける、かと思われたが、
「ねーちゃん、頑張れ!!」
「理緒おねえちゃん、がんばれ〜」
「がんばれ〜」
良太をはじめとするてぃーくんや笛音達ちびっこの声援が飛ぶ。
「あ、良太! うん! おねえちゃん頑張るからね!!」
拳をぐっと突きあげる理緒。
観客席から笑いが漏れる。
「よしよし、元気なのはそれだけで高得点よん。では続いての方!」
「えー、来栖川綾香と…………」
「坂下好…………お」
声が末尾に行くに従ってか細くなる好恵。
「えー、何ですって?」
「坂下、好…お」
嫌味ったらしく耳に手を当てる志保。
「聞こえないーー?」
「坂下好雄!! 文句ある!?」
「いやあん、怖いお兄さん」
「あんたあああああああああ!!!!」
掴みかかろうとする好恵を必死に止める綾香。
「まあまあまあまあまあまあまあまあまあ」
「では、続いての方〜。ハイドラントと松原葵ちゃん〜」
「はいっ! 本日はよろしくお願いしますっ!!」
ドレスで騎馬立ちして正拳の構えを取る葵。
「はっはっはっはっはっは、綾香ああああ!!!」
綾香に手を振るハイドラント。
「あんたら少しはパートナーらしくしなさいって」
志保がツッコミを入れた。
「じゃあ続いてはあかりとヒロ!」
「きゃる〜ん、わたぴ神岸あかりって言います〜、よろしくね!」
「……ってその挨拶止めろって言っただろうがっ!!」
かわいこブリッコするあかりにツッコむ浩之。
「あ、あかり変わったわね…………」
ほんのちょっとだけ引き気味な志保。
「まあいいや。次はカフェテリアガールズのたける&電芹〜」
「みんな〜、よろしくね〜」
「――よろしくお願いします(ぺこり)」
頭を下げる電芹。
「うう〜ん、仲が良いとは言えカップルコンテストに出るなんて結構大胆ねえ」
「だって、仲良しだも〜ん」
そう言って電芹の首に腕を回して抱き着くたける。
「――ひゃああ、たけるさんっ」
焦る電芹。
すでに観客のほぼ全員が何だか怪しげな気分になった事は言うまでも無い。
あれ? 柏木耕一と千鶴はどうしたって?
実は最初入場してすぐに某女子生徒二名といさかいを起こして、初代beakerが次元に穴を開けて
四人を放りこみました。
今ごろどうなっているかはこちらの預かり知らぬ事でございます、ハイ。


――第二審査

第二審査はダンス(いわゆる社交ダンス)。
これは完全に西山英志と柏木楓には不利だった。
「あの鼻血出して気失ってます…………」
「カーーーット」(←あ、これダブルキャストだった)
次に不利だったのはbeakerと理緒。
beakerはともすればこけそうになる理緒を何度かバランスを崩しながらも必死で支えていた。
「ごめんね、beakerくん……ひゃっ」
「とっとっとっ!!」
むぎゅっ!(足を踏む音)
がぎっ!!(繋いでいる手を握り締める音)
「ふっふっふ、今のわざとでしょ〜?(ぎりぎりぎり)」
「さあ、どうかしらね〜?(ぎりぎりぎり)」
さっき一度誤って足を綾香が踏んで以来何となく殺気が感じられる綾香と好雄コンビであった。
「好雄って言うなあああああっ!!!!」


――第三審査

勝負の前にそれぞれくじを引かされる。
「第三審査は特技披露でぇ〜すっ! それでは一番のくじを引いた柏木楓さんからどうぞっ!」
おずおずと舞台のに進み出る楓
「あ、あのうちのタマの物真似をします、…………にゃあっ」
猫の手招き。
・
・
・
しぃ〜ん
・
・
・
「あ、あのやっぱり面白くありませんか?(うるうる)」
「同じく一番、西山英志っ!! 暴走しまーすっ!! せーのー! かえでええええええええええ
えええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「あんたのは特技じゃなあああああああああああああああああああい!!!!!!!!!(志保)」
ちゅどーーーーーーーーーーーーーーーーん!!
・
・
・
うーん。
ふるふるふる。
「はいっ! 何だかぴったり二十四時間気を失っていた気がするけど続いて行ってみよう!」
続いては松原葵とハイドラントのコンビ。
「は、はいっ! 二番松原葵!! 瓦砕きやりまーーーーーーすっ!!!」
ドレスの姿のまま構えを取る葵。
すーーーーっ、とりゃああああああああああああああ!!!!!!!!
ばきばきばきばきばきばきばきばきばきばきっ!!!!!
一気に十段重ねの瓦が砕け散った。
「「「「「おおおおおおおおおっ!!!!!」」」」」
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちっと満場の拍手が沸き起こる。
「それでは私も瓦1000枚砕きを…………プアヌークの邪剣よ!!」
ちゅどーーーーーーーーん!!!!!!!!!!!!
・
・
・
「はっはっは、どうだ凄いだろう!?」
じろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ。
「な、何だよ。そのジト目は…………」
「ハイド、普段からやってる事を特技と称してどーすんのよ?」
綾香が鋭いツッコミを入れた。
ギクリとなるハイドラント。
全員の冷たい視線がたまらなく痛い。
既に審査員からはかなり低めの点数をもらっていたりなんかする。
「しくしくしくしく」
舞台に隅でいじけるハイドラントを葵やたけるが慰めていた。


「それでは続いてたける&電芹で歌を歌うそうでぇーーーーす!!!」
おおおおおおっ!!!
男子生徒のボルテージが一気に上がる。
「曲は『ウェイトレス GO! GO!』」
二人の一糸乱れぬ踊りに観客も先程の白けた雰囲気がどこかに吹っ飛んでしまったようだった。
「ふーむ、上手くすれば化けるかもな」
英二がぼそっと呟いた。
デコイは黙って写真を撮りまくっている。
「……………………(今度デートに誘おっと♪)」←作者のじじい(笑)
じゃーーーーーーん♪ と曲が終わり、ぱちぱちぱちと観客から拍手が沸き起こる。
「「皆さん、応援よろしくーー! カフェテリアもよろしくねーー!」」
「うんうんうん、私ほどじゃあないけど中々の美声だったわね! それじゃあ次は坂下好雄と
来栖川綾香さんいってみよう!」
「それでは私来栖川綾香と」
「坂下好………雄で」
「「組み手やりまーーーす」」

はいっ!

トアッ!

何の!!

チィッ!

甘い!!

どっちがっ!!

このお!!

「ふっふっふ、中々やるわね(ぜーぜーぜー)」
「そっちこそね(はーはーはー)」

ギラギラッ

「「いざ尋常に勝負!!」」

どがばきぐしゃすかどこぼこばがぐぎゃどどーーーーん
(初代beaker「元気があってよろしい」)

「えー、闘いが白熱してきたので次の組に行きたいと思います」
志保はかなり本気でバトルってる二人を無視して言った。
「あかりとヒロ何やるの?」
「すまんパスさせてくれ…………」
「え〜、熊のものまねしようと思ったのに〜」
「するなっちゅーとろーがっ!!」
「ほらほら、がおーがおーーー」
志保、滝汗。
何とかごまかして次に移ろうとする。
「それではラストbeaker、雛山理緒の二人は…………あ、歌? 曲は……」
言い終わらないうちにbeakerがピアノを弾き始めた。
と言っても極単純なメロディーで。
その場にいる観客はどこかで聞いた事のある曲だなと感じていた。
理緒が舞台の前まで進み出て唄い始める。
「くまのこ見ていたかくれんぼ……♪」
途端、一部の観客から嘲笑が巻き起こる。
童謡だ。
あちこちでざわめきとクスクスとした笑いが生まれる。
先程のYOSSYFLAMEの側にいた男子生徒も唄を無視して野次を飛ばし始めた。
「おいおい、お遊戯会じゃないんだぞ!?」
「小学生じゃねーぞー雛山!!」
大声で喚き散らす。
理緒にもその声は耳に届いていた。
少しだけ悲しくなって眉を顰める。
だけど唄い続けた、すぐ側に良太やてぃーがいて、こちらを真剣に見つめているからだ。
beakerにも「何を言われようと絶対に歌を止めないで下さいね」と言われている。
だから観客をしっかり見据えて歌を歌い続けた。
「おしりを出したこ いっとうしょう♪ ゆうやけこやけでまたあした…またあした♪」
徐々に野次も笑いも起こらなくなっていった。
ふざけた表情の観客が少なくなった代わりに真剣に童謡を聞く観客が増え始めた。
「いいな いいな にんげんっていいな♪ おいしいおやつにほかほかごはん♪」
澄んだ綺麗な声だった。
だがそれだけではない、理緒の唄には感情があった。
心からの優しさと暖かさが。
幼い頃から弟たちの世話をしてきた理緒にとって世間はあまり優しいとは言えなかっただろう。
だが理緒の声にはそれをも包み込む優しさと暖かさが込められていた。
それはきっと理緒以外には誰にも出来ないことだ。
唄が上手い人間はたくさんいるが、唄に何かを込めるのは並大抵の事ではない。
観客も、審査員も、司会も、全員が聞き惚れていた。
「こどものかえりを まってるだろな ぼくもかえろ おうちへかえろ♪」
「でんでん でんぐりがえって バイ バイ バイ♪」
一呼吸置いて続ける、
「いいな いいな にんげんって いいな♪」
「みんなでなかよく ポチャポチャおふろ あったかい ふとんで ねむるんだろな♪」
「ぼくもかえろ おうちへかえろ でんでん でんぐりかえって♪」
「バイ バイ バイ!♪」
唄が終わった。
理緒はきゅっと目を閉じる。
沈黙だ、ああやっぱり駄目だったんだ私の唄…………。
そう思った瞬間だった。
わああっという大歓声と拍手喝采。
全ての人間が理緒に対して惜しみない喝采を与えていた。
いくら拍手しても物足りないと言わんばかりに。


――結果発表

「それでは審査員から渡された用紙で上位三組の点数の発表を始めまーーす!」
「第三位はたける&電芹〜〜、歌がやっぱり高得点に繋がったみたいだわね!」
「そして第二位!! beaker&雛山理緒!! ダンスがちょっと点数に引っかかったみたいねえ」
え〜と言う声があちこちの観客から巻き起こる。
一方の理緒は二位でも充分満足したのか照れた笑みを浮かべていた。
「で、第一位は…………何と坂下好雄と来栖川綾香! こっちは逆にダンスがポイント高かった!
殺気まで感じさせるほどのダンスはお見事!!」
人知れず激闘を繰り広げていたのに。
「それでは第一位のカップルに賞品を…………と言いたい所ですがちょーーーっと待った!!
実はまだ上位陣には逆転の要素が残っています!!」
志保はニヤリと笑みを浮かべた。
「それでは特別審査員登場してください! 特別審査員には一組だけに十点をあげる事が出来ます!
つまり彼がどこに十点を入れるかで優勝が決まるのです!!」
そして舞台の横から’特別審査員’が登場した。
「げ、げ、げ、げ、源太郎くん!!?? きゃーーーーーーーっ!!!!」
理緒が悲鳴を上げた。
それもそのはず、特別審査員とは近所のスケベ犬’源太郎’だったのだ
(とゆー訳で当てた人はいなかったね(笑))。
くんくんくんと匂いを嗅いだ源太郎くんは……嬉しそうに(スケベそうに)理緒に飛び掛った。
「きゃーーーーーーーーーーーーっ!! 助けてーーーーーーーーー!!!」
たちまち舞台の上を走り回って逃げ出す理緒。
と同時にどこからともなく催涙ガスが撃ち込まれた。
「葵ちゃんを返せーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」
「綾香ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
「だああああああありいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!!!!」
「楓ちゃんを渡せえええええええええええええええええええええええええ!!!!」
「やるかてめえらああああああああ!!!!!!!」
「かかってきなさああああああああい!!!!」
「さっきは理緒ちゃんの事をようも好き勝手ぬかしてくれたなあああ!! ついでに修正してやるううう!!」
「よしえちゃあああああああああああああああん!!!!!!!!!!!」
「私にそういう趣味は無いいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!」
舞台の上、とゆーかもうイベント会場中が蜂の巣をつついた大騒ぎになった。
良識のある人間、常識のある人間はすぐに避難を始める。
beakerと理緒もとっととこんな人外魔境からおさらばしようとした。
ずべっ!!
いつものように理緒が階段からこけた――階段?
「だ、大丈夫ですか理緒さん!?」
beakerが慌てて駆け寄る。
「あ、平気…………それより早く逃げよう……痛ッ!!」
どうやら足首を捻っている様だ。
「beakerさん!! 理緒ちゃん!! どうした!?」
さっさと一般生徒を心ゆくまでボコにしたYOSSYFLAMEが駆け寄る。
「足首を捻ったみたいです!!」
「…………よし、ここは任せろ!! とっとと理緒ちゃんを連れて保健室へ逃げ込め!!」
「いいんですか?」
「いいから行け!!」
ぽんとbeakerの肩を叩く。
「…………すいません」
「よっしーくん、ごめんね。ありがと…………」
「ああ、俺は大丈夫。それより理緒ちゃん、優勝おめでとう」
ニッコリとYOSSYFLAMEは理緒に微笑んだ。
「ありがとう、よっしーくん」
「ありがとうございます…………骨は拾ってあげますからね」
そう言い残してbeakerは理緒を背中に担いでスタコラ逃げ出す。
「……って最後の台詞ちょっと待てえええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
YOSSYFLAMEがツッコミを入れたが時既に遅し。
遥か彼方まで二人は逃げ出していた。
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結局保健室で湿布を当てて休むと、理緒の足首は特に異常は無かった事が判明した。
「あはは、やっぱり私は体が丈夫だったね」
その後二人は自由行動の為に別れ、beakerは好恵や沙耶香、理緒は良太たちを連れて
思う存分学園祭を楽しんだ。
そして今年の学園祭も幕を閉じた。
beakerは理緒に一緒に帰るよう誘った。
一応パートナーとしては家まで送るのが(時には家の中まで)礼儀らしい。
beakerも理緒も結局まだ着替えていなかった。
道行く人間が少々二人を奇異の視線で見るが、今の理緒にはそれも心地よかった。
ドレスで歩くのは少々肌寒いかと思っていたが思ったより夕陽は暖かかった。
「……でも結局賞品とかはどうなるんだろ?」
「後で送ってくれるよう手配しておきますよ」
「あはは、でも私達が優勝なんて思わなかったなあ」
「そですか? 僕はあの唄を聞いた時に優勝を確信しましたが」
「えーーっ、あの唄で?」
「そですよ、ちょっと前に理緒さんが店の仕事をしながらあの歌を唄っていた時に」
「え!? それで私にあの歌を唄うよう勧めたの?」
「ええ、あれでイケると思いましたから」
「ふーーーー、でも優勝のトロフィーとか賞状とかもらえなかったのがちょっとだけ心残りだなあ」
「あはは、それは確かに」
そんな会話を交わしながら二人は理緒の家の前についた。
「じゃ、送ってくれてありがと! また明日学校で……」
「それではお邪魔しますか」
別れの挨拶を言おうとした理緒を無視してbeakerは理緒の家に入ろうとする。
「え? え? あ、駄目駄目!! うちにはまだ誰もいないし、二人っきりになっちゃうし…………」
理緒が慌てて前に立ちふさがる。
「あ、心配しなくて良いですよ。もう全員とっくにここに着いている筈ですから」
「え?」
全員、ここに?
何を言っているんだろう? と訝しげな理緒を無視してbeakerは家の扉を開けた。
パン!!パン!!パン!!パンパン!!
クラッカーの音がそこら中に響き渡った。
びっくりした理緒も慌てて家に入る。
家の中はびっくりするほど飾り付けられ、イベントで使った高価な花もいくつか混じっている。
そして居間にある垂れ幕。
「理緒ちゃん お誕生日おめでとう!!」の文字。
あまりの展開の唐突さに理緒は目を丸くして呆然としていた。
そこにはみんながいた。
良太、勇希先生、沙耶香、好恵、デコイ、東雲兄妹、もちろんYOSSYFLAMEも。
それに笛音、てぃーくん、木風と言ったお子様の面々(勿論保護者もしっかりと参加していた)。
だが一番理緒を驚かせたのは奥にいる女性だった。
「おかあ……………さん?」
そこには入院中であるはずの母がいた。
驚きが連続過ぎて石のように固まった理緒にbeakerが言った。
「今日はお母さんの病状も比較的安定していて、特別に外出許可をもらったんですよ」
「理緒…………ちょっと早いけど、お誕生日おめでとう!」
「誕生日おめでとう 理緒ねえちゃん!!」
「理緒ちゃん、おめでとう!!」
呆然としていた理緒はようやく事態が飲みこめたらしくふうと息を吐いた。
それから全員のほうに向かってニッコリと笑う。
「みんな…………本当に……誕生日には早すぎるわよお…………ありがとう……」
つつーーっと理緒の瞳から綺麗な雫がこぼれ落ちた。
「ホントに、ありがとう、本当に…………」
ぐすぐすっと泣く理緒にそっとハンカチを差し出すYOSSYFLAME。
そして静まり返る一同。
そんな沈黙を振り払うかのようにbeakerがポンポンと手を叩いた。
「さあさあ、パーティに沈黙は似合いません!! 皆さん大いに飲んで食べて行きましょう!!」
その言葉で魔法が解けたかのように喧騒が戻った。
理緒は母親の隣に座り、これまであった色々な事を話し始めた。
デコイがパーティの写真を撮り、子供は保護者とゲームで遊び始める。
東雲忍の方は台所を借りて料理を作っていた。
そして理緒は全員からプレゼントをもらい、子供のような瞳でそれらを開け始める。
OLHと勇希は互いに贈ったプレゼントにケチを付け始めた。
それを慌てて沙耶香が宥める。
そんな大騒ぎの中、beakerはこっそりと家を抜け出した。
それに気付いた理緒はbeakerを追った。
beakerは家の外で夜空を見上げていた。
一瞬、話しかけたら悪いような気がしたがとりあえず声を掛けてみる。
「beakerくん」
「ああ、理緒さん……駄目ですよ、今日の主役がパーティを抜け出しちゃあ」
クスリと笑ってbeakerは言った。
「今日は色々とありがとう、全部beakerくんのアイデアでしょう?」
「えーーっと、まあそうです。ちょっと前に理緒さんのお母さんが入院している病院に立ち寄った際、
今日が外出許可が下りる日って言うのを聞きまして…………それでこのイベントを思いついたんですよ」
「え? じゃあもしかして私にドレスを着せる為だけにこのイベントを!?」
「いいえ、違います。僕がこのイベントを開いた目的は…………」
「目的は…………?」
「ヒミツです」
ニッコリと笑って言った。
「ぶーう、もう! やっぱり!」
「あはははは、すいません。それより僕はまだプレゼントをあげてませんでしたねえ」
「え!? もういいよ! beakerくんには色々迷惑をかけちゃったし!!」
アセアセと手を振って拒む理緒。
「まあまあ、それではちょいと目を閉じて下さい」
「え!?」
ますます焦る理緒。
(ま、まさかキスとか…………?)
ドキドキしながら目を閉じる理緒。
一秒………二秒………三秒………
何も起こらない、近づいてくる気配も無かった。
「はい、プレゼント渡しましたよ」
そう言う。
理緒は目を開けたが特に何も変わっていない、beakerが何か持っているのかと思ったが何も持っていない。
戸惑う理緒。
「そのドレスですよ、そのドレス。それを差し上げます」
・
・
・
「えーーーーーーーーーーっ!!!??」
「ああ、気にする事はありませんよ。元々オーダーメイドですから理緒さん以外の体型には合いませんし」
「でででででででででででも!! こんな高そうな服!!」
「その代わり、明日から仕事がちょーーーーーっとキツくなりますよ?」
ニヤリと笑う。
「それでは僕はこれで。また明日…………」
そう言って彼は歩き出した。
「beakerくん!!」
声をかけたがbeakerは背中を見せたまま、黙って右の手を挙げた。
しばらくbeakerを見送った後、理緒はぎゅっと自分の体とそのドレスを抱きしめた。
「ありがとう、beakerくん…………」
だが一つだけ疑問が残った、最後の台詞。
(明日から仕事がキツくなる…………?)


――翌日
理緒は昨日以上の驚きを味わった。
購買部にずらーーーーーーーーーーーーーーーーっと並ぶ人、人、人。
理緒の姿を見つけるや否やわあっと駆け寄る。
「あ、押さないで下さい、押さないで下さい!!」
「理緒さん!! 俺と付き合ってください!!」
「理緒ちゃん、これ頂戴!!」
「雛山さん!! 是非もう一度歌を!!」
「理緒ちゃん!! 何でも買うから言ってね!!」
「あうあうあうあうあうあう、な、なんなのーーーーーーー!?」
悲鳴をあげる理緒。
そんな理緒の悲鳴を聞きながらbeakerは昨日のイベントの収支決算をしていた。
若干の赤字。
だがすぐに補填できるであろう、何しろこっちには天下無敵の看板娘がいるのだから……。
beakerはニヤリと笑い、電卓を置いた。


「えーーーーーん!! ドレスは嬉しいけど仕事がハードすぎだよbeakerくう〜〜〜〜ん!!」


<おしまい>