風紀委員会応援Lメモ『嵐の前の嵐』  投稿者:デコイ
 彼がその話を耳にしたのは、彼にしては珍しく、生徒会室前を通りがかった時のこ
とだった。

「生徒指導部が復活だと!?」

 唐突に聞こえたその声に、彼、カメラをトレードマークにする少年は足を止める。
 周囲に彼以外の人はいない。
 つまりは、その声は生徒会室から聞こえてきたものに間違いなかった。

”………なんだと?”

 その特徴的な頭髪には似合わぬ感情を顕わしながら、今聞こえてきた話に己の耳を
疑う。
 そして、すぐさま壁により、疑ったばかりの耳に神経を集める。

「……懲り………か。まさか……じゃないだろうな」
「いや、……ディルクセン、とい……彼が指揮を……」
「止めさせる………ないか?」
「………紀委員内での………な。お門違い……だろう」

 途切れ途切れに続きが伝わってくる。
 だが、肝心な部分は聞き逃さなかった。いくつかの単語を刻み込む。
 そして、長居は無用。そう判断したのか。
 彼は先ほどまでのゆらゆらとして歩調ではなく、明らかに目的をもった勢いで歩き
だし、その場から立ち去る。
 意識しているのか、かなり急ぎ足だ。
 彼が聞いた話は、それだけ彼にとって切実な問題であり、そして恐らくは、ここ、
試立Leaf学園に通う多くの生徒たちにとっても同様のものだ。

 彼は先を急ぐ。
 言いようのない不安。

”予兆だ”

 或いは確信。
 何かが動き始めていることに、分不相応にも気がついてしまったのかも知れない。













風紀委員会応援Lメモ
『嵐の前の嵐』




a0%dbms tcls.db
Wellcome to DataBase Management System. Ver.1.5(green.73)
tcls.db Loading...done.

title "Test Case Leaf School Main Database."

db>search key 生徒指導部

>生徒指導部
 緑葉帝暦73年、2年転入生「広瀬ゆかり」が風紀委員長に就任し、直後に結成さ
れた強制執行権保有風紀維持部隊。
 ****(level8)及び****(level7)による学園内の混乱を鎮めるに一役買
うも、その強行性に多くの生徒が反発。
 同年7月、自発的な解体に至る。
 所属生徒の一部は風紀委員に残るも、多くは辞職。
 以降、風紀委員長直属諜報部隊『草』としての活動を確認。
 不明点あり。要詳細調査。
 new(g730803)>>
 緑葉帝暦73年8月。
 ダーク十三使徒の警備保障襲撃に関する処罰に、多くの風紀委員が反発。
 風紀委員の強化案の一環として、生徒指導部再結成案が受理される。
 管理者として、3年生徒「ディルクセン」が就任。

no more data.

db> exit

a0% _











 男が2人、女が1人。
 その部屋に存在する人間の数。
 男の1人は部屋の隅に敷かれた畳の上で茶をすすっている。
 残りの2人は、机に向かいなにやら作業を行っていた。

ガラッ…

 予告無く扉が開く。

「くせ者!?」

 最初に反応したのは女。
 今の今まで握っていたボールペンを戸口に向かって投げ放つ。

サクッ

「おおおおお!!?? ペンが、額にペンがっっ!?」

 むやみに小気味良い音に、やたらと騒がしい悲鳴。
 しばらく、廊下、ドアの向こうでドタバタと暴れ回っているらしいくせ者の声に、
男が反応した。

「なぁ。 あれ、デコイじゃないのか?」
「うん、そーじゃないかなーとは思った」

 即答しやがる。

「だったらいきなりボールペン投げるな!!」

 まったくだ。
 ここまでの雰囲気をどうしてくれる。

「うっさいわね。良いのよデコイなんだから」
「違ったらどうするつもりだっ!?」
「その時はその時よっ!! 第一ノックも無しにドア開ける方が悪い!!」
「ぐ、だからってなぁ………」

 最後のはぶつぶつと呟きながら、それ以上抗議する気はないのか、男−シッポ−は
再び作業にかかり始める。
 意外に薄情なのかも知れなかった。

「ほら、手下B。あんたもいつまでも死んでないで、さっさと入ってきなさいよ」

 女−長岡志保−は、いい加減静まった扉の向こうに声をかける。
 つまり、ここは情報特捜部、通称東スポ部の部室であり、全く動じず、目もくれず
一心に茶をすすっているのが部長であるはずの悠朔だった。

「うぅ、ひでぇよ………」

 なんだか情けない、どういうわけか、被っているヅラのせいで余計にそう見える、
デコイがようやく入室を許可された。

「で、何? 特に仕事なんか頼んでなかったわよね?」

 ずいぶんとそっけない上に、抗議無視。
 まぁ、いつもの風景ではあった。






『特ダネぇぇ?? あんた(おまえ)が?』

 結局、他愛ない話を30分ほどした挙げ句、用件を告げたデコイを待っていたのは
この一言だった。
 そりゃそーである。基本的にこの男がネタを持ってくること自体が初めてのこと。
 彼は部員ではないが、何の因果か情報特捜部、特に志保にこき使われており、それ
がごく普通になっていたとはいえ本来ネタを探す義務はない。
 加えて、副部長、実質的な部長が一番のネットワークを持っており、ネタに困ると
いうことがないため必要なかったのだ。
 まぁ、所詮素人集団。伝言ゲーム的にどんどん歪んでいく情報ではあったが。
 ともかく、彼のいきなりの行動はそれなりに興味は惹いたようだった。

「とかいって、もう知ってる情報だったら承知しないわよ」
「情報ソースが生徒会だっていったら?」

 男は、普段からは考えられないほど自信満々に、切り札をだす。
 正確にはジャッジからなのだが、たいした違いではなかった。

「………内容は?」

 あからさまに表情を変え、続きを促す志保。
 効果覿面だったようだ。

「生徒指導部って覚えてるよな。あれが復活するらしい」
「「な!?」」

 さらっと、本当に何でもないようにいわれたその内容に、驚愕する2人。
 見れば、悠朔までもがぴくりと反応している。

「本当なんでしょうね」
「ああ、間違いない。声からして、岩下さんとセリスさんだと思うんだが、生徒会室
で話してたのが”耳に入って”な。もちろんついさっきだ」

 しばし見合う。そして嘆息。
 何とも言えない緊張感が漂いはじめる。
 脳裏に1学期の悪夢がよみがえったのか。

 そして、

「シッポ、記事の差し替え……違う、号外の準備!! それとデコイ、もっと詳しい
ことわかる!?」

 それが、引き金となった。





 翌日。
 生徒指導部再結成が受理された次の日という異例の早さで、『情報特捜部号外』と
銘打たれただけの、薄っぺらい藁半紙に手書きという陳腐な、しかし最速の情報が、
試立Leaf学園全てに行き渡ることになる。


**************************************