Lメモ『正当伝承者現る!?』  投稿者:ディアルト
(・・・えっ?『旋』!?)

陸奥崇がいつも通り何となくセリオの後を歩いてきた時(人はそれをストーカーと呼ぶ
(笑))ふと長身の男が女生徒相手に組み手をしてるのが目を引いた。

いや、正確には長身の男が使ってる技が目を引いたのである。

ちらっとセリオに目を向けると黒の長髪の女生徒と話してるのが見えたのでもうしばらく
見ることにした。

(な、なんで陸奥でもないあの人が『旋』を使ってるんだ!? また!)

長身の男が回し蹴りを放ち、避けられた瞬間、軸足を跳ね上げそのまま飛び後ろ回し蹴り
を放とうとした瞬間、一瞬早く女生徒の蹴りが男の背中に直撃する。

「いたたたた。また私の負けですか・・・」

「狙いはいいんだけどね。たまに2撃目が来るのが遅いのよ。さっきの技は・・・」

「そうですか?う〜ん、何処が悪いんでしょう・・・

 ともかくもう1本付き合ってもらえますか?」

「いいわよ。さぁ、かかってらっしゃい!」

そう言うと2人、長身の男ディアルトと女生徒好恵は再び組み手を始めた。

(なんであの人が使えるんだろう? あっセリオ先輩だ。ともかく練習が終わった頃校門
で待ってみようかな。)

 セリオが黒髪の女生徒、綾香に頭を下げて立ち去るのが見えたので慌てて後を追いその
場を去った。



「・・・あの、すみません?」

いつも通り部活が終わり、葵、YOSSYFLAME、T-star-reverse達と帰ろうと校門を出ようとす
るなりディアルトは見知らぬ男子生徒に声を掛けられた。

「はい?何ですか?」

「ちょっとお聞きしたい事があるんですけど宜しいですか?」

「別に構いませんが、あなたは?」

「あっ、僕は一年の陸奥崇と言います。」

「ディアルト−。先行ってるからなー」

「あっ、時間かかりそうなのでどうぞー。それじゃまた明日。」

「はい。ディアルト先輩、お疲れさまでした。」

「それじゃまた〜」

「お疲れさまでした。」

三人はそれぞれ挨拶をし、葵を中心に両脇で挟むように楽しそうに帰っていった。

「・・・それで話って?」

「はい。あっ、その前にお名前教えてもらえますか?」

(ひょっとしたら不破かもしれないし・・・)

 不破・・・陸奥から別れた圓明流の分家である。その家の者なら使えてもなんら疑問は
ない。

「あれ?知らないで声掛けてきたの?私は二年生のディアルトです。よろしく」

「ディアルトさんですね。それで話なんですけど、ちょっと歩きながら話しませんか?」

「別に構わないけど、それだったら葵ちゃん達と一緒でもよかった?」

葵と帰れなかったことを今になって悔やみだしたディアルトだった。

「いえ。できれば2人で話したかったので。すみません。」

ディアルトが残念がってるのをなんとなく感じた崇は言葉の端に謝罪の言葉を入れた。

「別にいいですけどね。それじゃ歩きながら話しますか。」

「はい。」



「それで?」

「はい。単刀直入に聞きます。何故ディアルトさんは『旋』いえ、圓明流が使えるんです
か?」

「えっ?何故って・・・ 何でそんなこと聞くんだい?」

「実は、僕は陸奥圓明流の直系の陸奥家に生まれ育ったんです。それで何故陸奥でないあ
なたが使えるのかと不思議に思って・・・」

「あぁ、それで。・・・それじゃ話すけど・・・あまり人に言わないでね。」

「あっ、はい、構いませけど・・・」

ディアルトは崇の返事を確認すると自分の過去から話し始めた。

いじめられてたこと 

あることをきっかけに自分を鍛えようと思ったこと

鍛えてる内にたまに技が名前と共に、まるではるか昔に忘れてたモノを思い出すかのよう
に使えるようになっていったことを・・・

その間、崇は無言でたまに肯くだけで静かに聞いていた。

「と、まぁ、そう言うわけで思い出し初めて数年で自分が思いだしてる技の流派が圓明流
だって言うことまではわかったんだけどね。何でそんな記憶があったのかは知らないんだ。
案外前世の記憶だったりね。」

「・・・そうだったんですか。」

「それに思い出すって言っても大まかな型だけだからね。だから多分に我流混じりなとこ
ろもあるし、いざ闘うという時になったらこっちの方だしね。」

といいながらまるで剣を構えるような手つきになる

「剣術ですか?」

「そう。使えるようになった圓明流を元にある書物にあった剣術と併せて独自の倭刀術を
考えたんだ。それで名前も二つを併せちゃって圓明流倭刀術って名前にしちゃってるけど
ね。」

「そうなんですか・・・ それでディアルトさんは圓明流のこと。どう思ってますか?」

 崇は圓明流を使う人に聞いてみたかった。幼いときから人を殺す術を教えられ、同じ術
をもつ人がどう思っているのか。

そして、千年不敗という陸奥圓明流の名の重さについて・・・

 ひょっとしたら『旋』を見かけたときから同じ立場ではないが同じ使い手ということで
これが聞きたかっただけなのかもしれない。

「そうですね。良く切れる刀の様なものだと思いますよ。」

「刀?」

「そうです。刀は元来人を殺すために作られたものですよね。けど、それはもつ人の心で
殺戮のためだけのモノにもなれば、人を護るためのモノにもなると思ってます。圓明流も
同じ、使う人の心次第だと思いますよ。」

「人を護る・・・」

そう、とディアルトが返事を返そうとした時、少し離れたところから人の悲鳴が耳に届い
た。

「!? 崇君。ひとまず話は後です。」

「はい。僕も行きます!。」

2人は頷き合うと悲鳴の聞こえた方へ走り出した。

いくつかの角を曲がり悲鳴が聞こえたらしい場所に辿り着くとセリオが女生徒を守りつつ
人型妖魔2匹と闘っていた。

「セリオ先輩!!」

「崇君!2人を助けますよ。倭刀よ!!」

ディアルトは崇にそう叫ぶと手に気を物質化した倭刀を作り出し、そのまま妖魔の一匹に
斬りかかった。

「こっちの方は私が相手をしますから、崇君はそちらを頼みます。」

「はい!セリオ先輩を傷つける奴は許しません!!」

そう叫ぶと崇ももう一匹の妖魔に飛びかかった。



袈裟切り 横薙 切り上げの3連斬。

妖魔も完全には避けられないのか致命傷を受けないように避けている。

今のところディアルトの方が優勢である。

「破ッ!」

再びディアルトが切り上げる。

しかし、妖魔はこれをよんでいたのか、そのまま上に跳ね上げた。

がら空きになった胴が見えたのが嬉しいのか、思い通りにコトが運び嬉しいのか不気味に、
僅かに微笑んでるような顔で一気に間合いを詰めてきた。

(かかった!!)

上に跳ね上げられた倭刀の切っ先がそのまま背中の方に移動していく

「掌破刀勢!!!」

背後にきた刀身の切っ先の峰を自ら掌打で打ち、戻ってきた時と同じ、いやそれを遥か凌
駕するスピードで再び妖魔に襲いかかった。

妖魔も自分が弾いたはずの刀が弾いた速度を凌駕する速度で戻ってくるとは思ってなかっ
たらしく、避けることも出来ず。肩口にまともに受けることになった。

上半身の半分までに刃を埋め込まれながらもは最後の力を振り絞るかのように体に抱きつ
き、締め上げてきた。

普通、剣を使う者にとって剣が相手に刺さったままでなおかつ密着した間合いは致命的な
間合いである。

「・・・・・・フン!」

僅かに動かせる右手を相手の中心、人間でいう水月の辺りに持ってくると気合い一閃、こ
の拳を相手にめり込ませた。

『虎砲』、相手の体に拳を密着させ、己の力を一気に解放し瞬間にたたき込む技である。

致命傷を受けた体で『虎砲』までも受けてはさすがに最後の力も出ず、そのまま地面に倒
れ伏した。

絶命したかどうかを確認すると、まだ続いているもう片方の様子に目を移した。



崇の方は攻防が続いていた。

相手の間合いが広く爪で攻撃してくるに比べ、こちらは無手の技で相手に十分なダメージ
を与えることができない。

また初めての人外のモノとの戦いと言うこともあってほんの僅かであるが戸惑いもあっ
た。

(・・・セリオ先輩を助けるためだ。陸奥が嫌いなんて言ってる場合じゃ・・・)

崇はそう心で決めると相手の攻撃を避けると同時に、唾を飛ばした。

『訃霞』、唾を礫と化し相手の視力を奪う技である。

妖魔はいきなり目が見えなくなったことに驚き、がむしゃらに腕を振り回す。

崇は僅かに鈍った腕の片方を掴むを背に回ると肘を極めつつ投げた。

ビキッ!という腕が折れる音がし、僅かに遅れて崇の振り下ろした蹴りが延髄に決まった。

打・極・投の三位一体の技『雷』である。

骨が砕ける音が聞こえると崇はセリオ達へ近づいていった。

「セリオ先輩、大丈夫でし・・・」

「陸奥さん、後ろっ!!」

セリオの叫び声が聞こえ、後ろを振り向くと倒れたはずの妖魔が立ち上がっていた。

(そんな!確かに骨を砕いたはずなのに・・・)

崇はあり得ないという気持ちが先に出てしまったせいで僅かに迎え撃とうとするのが遅れ
た。

そのまま襲いかかってくるかと思った妖魔はその場から動かず、そのまま再び倒れ込んだ。

「・・・え?」

「崇君。こういう人外のモノはちゃんと絶命してるか確認しない内に背を向けちゃだめで
すよ。」

「ディアルトさん・・・」

「まっ、私も初めてダンジョンで闘ったときは危なかったですけどね。沙留斗さんがいな
かったらどうなってたやら」

 そう崇に話しながら、倒れた妖魔に近づいていき、胸元に刺さってる倭刀を引き抜き、
そのまま物質化を解除した。それと同時に倒れた妖魔も塵とかし消え去っていった。

周りを見るとディアルトが倒したはずの妖魔もその場所に僅かに塵らしきものを残し、消
え去っていた。

「それにこいつらは大体絶命すればこんな風に塵になって消えますからね。それまで油断
しない方がいいですよ」

「そうなんですか・・ これからは気を付けます。」

「それじゃ、ちょっと私は一回学校に戻りますね。いまならまだジャッジの本部に誰か残
ってるかもしれませんし。報告をしにね。」

「そうですか、それじゃ僕は・・・」

「崇君はあっち。」

そういうとディアルトは崇の後ろの方を指さした。

「あっ、セリオ先輩・・・」

「また、さっきみたいな妖魔が出てきたら大変ですからね。送ってあげた方がいいですよ。」

「そうですか?」

「それに一緒に帰りたいんでしょ?さっきもセリオさんの後つけてたみたいだし」

「ど、どうしてそれを!?」

「どうしてって、今日セリオさんが綾香さんを訊ねてきた時いたじゃないですか。私だけ
じゃなくて綾香さん、坂下さん、ティーさんやよっしーさんも来てたのは気付いたと思い
ますよ。」

「えっ、えぇ!?」

「そんなわけでセリオさんとお二人でどうぞ。 あっ、ちょっとジャッジで話を聞きたい
んだけど、いいかな?」

 ディアルトは崇にそう言い放つとセリオのそばで座り込んでる女生徒に話しかけ、二言
三言話すと、それじゃまた。とセリオと崇に言い、今来た道を戻っていった。

 その場に残された崇はしばらく呆然としていたが、やがて

「それじゃ一緒に帰ろ?セリオ先輩。またさっき見たいのが出てくると危ないし・・・」

「ーーそうですね。それじゃ行きましょう。」

「はい!」



−−−翌日−−−

「ディアルトさん。」

「あっ、崇君。どうしたんだい?」

「はい。昨日のお礼と言うワケじゃないんですが・・・ 『旋』ですけど、二の足に力を
溜めすぎてるんですよ。だから最初の蹴りと次の蹴りの間が開くんですよ。」

「あっ、それでか。ありがとう。けどどうしてだい?」

ディアルトはお礼を言いながら不思議そうに訊ねた。昨日の会話の中で崇が陸奥圓明流を
嫌ってるように思えたからだ。

「それは・・・ ディアルトさんが昨日言いましたよね。圓明流は刀みたいなモノだって。
使う人の心次第で殺戮のためのモノにもなれば人を護るためのモノにもなるって。これか
らも好きにはなれないかもしれませんが、僕も陸奥を否定せず、護るために使っていきた
いと思います。」

(そして、陸奥が千年不敗であってもそれは家のことであって僕には関係ない。僕は大切
な人さえ守れればそれで構わない。例え僕で不敗伝説に終止符をうったとしても・・・)

「それで頼み事なんですけど・・・」

「? なんですか?」

「僕がディアルトさんに圓明流の正しい型を教えてあげる代わりにたまに鍛えてもらえま
せんか?」

「なんだ。そんなことでいいんですか?いいですよ。一緒に護りたい人のために頑張りま
しょう。」

「はい!」


こうしてディアルトと崇はたまに格闘部で共に練習をするようになった。

ただし、セリオが格闘部に来ているときだけというホントに僅かの間だけだが