「ディルクセン君」 「は?」 職員室に入った途端に自分の名前を呼ばれ、ディルクセンはその声に嫌な予感を憶えな がらも背後を振り返った。視界内に入ってきたのは彼の予想通りの人物である。 「丁度良かった。君に頼みがある」 「なんでしょうか、柳川先生」 げ、やっぱり! などという内心を表情に表さないよう、努めて平静を装いながら、デ ィルクセンは背筋を伸ばして柳川に向き直る。 そんな彼の心のうちを知ってか知らずか(知ってても無視するだろうが)、柳川はクー ルな表情を崩さないまま続ける。 「いま、反省房に入れられている奴はいるか?」 「は?」 予期せぬ質問に、ディルクセンは間抜けな表情で返答に詰まった。 「先生が、どうしてまたそんな事を?」 思わず逆に質問してしまう。この教師が校内風紀に関心を持つとは思えないし、一体何 事か? その疑問は柳川のニヤリという笑みと共にあっさり氷解した。というか、薄々感づいて いたが気づかない振りをしていた事そのままだっただけなのだが。 「生け贄が足りん」 「あー、そういうことですか」 聞くんじゃなかった、聞かずに素直に反省房の連中を引き渡せばよかったと後悔し、デ ィルクセンは思わずこめかみを抑えた。『職員室の中でこーゆー物騒な話が行われてるん だから誰か助けてくれよ』という願いを込めた視線を周囲に送るが、教師も生徒も誰もが 見事にスルーパス。あるいはこの手の会話(及び救いを求める視線)にはもう慣れてしま っていて、本当に気づかないだけなのかもしれない。なんにしてもひどい連中だ。 「反省房なんですが、今日はまだ確認してないんです。何人いれられているかまでは…… ……で、何人必要なんですか?」 たとえ相手が柳川だろうがエルクゥユウヤだろうが教師は教師。所詮ディルクセンの行 動パターンの中には『教師に刃向かう』という選択肢は含まれていない。 先ほどまでの苦悩はどこへやら、『上官抗命罪は死刑だからな』などとわかったような わからないようなことを小声で呟いて一人納得し、彼はあっさり魂を悪魔に売り渡す。柳 川も相手が話に乗ったのをみて、満足げに目を細めた。 「多ければ多いほど良い。今回の実験はすこし大掛かりでな、いつもの生け贄だけでは数 が足りんのだ」 「Ja vor、柳川先生。必ずや手ごろな風紀違反者を調達してまいります」 なんかもうどうでもいいや、かなりなげやりな笑みを浮かべつつ、ディルクセンは軍人 よろしく踵を打ちつけて敬礼を返した。 数分後。 「と、言う訳で! 職員室から出てきた俺の目の前を歩いていたのがお前の身の不幸だ、 YOSSYFLAME!! 恨むなら君の父上を恨むのだな!!!」 「そんな無茶な理屈があるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 「やかましい、どうせよからぬ事を考えて歩いていたのだろう!(巨大な予断と偏見に基 づく断定) お前なら俺も良心の呵責を感じずに済む(身勝手な言い分)、大人しく観念 して捕まれ!!(命令形)」 そんな絶叫とともに校内を走り回る集団の姿があった。先頭はヨッシーフレイム、五馬 身ほどおくれてマチカネディルクセン、内側からフウキイインエーが上がってきました… …って、そんな事はどうでも良くって。 廊下を全力疾走で逃走するYOSSYと、それを追いかける風紀委員達。風紀委員の方 は追跡中に見かける風紀委員を片端からディルクセンが呼び止めるもんで、すでに9人ほ どにまで増殖している。もっとも、追跡開始時に二メートルほどだった彼我の距離は、1 00メートルほど走った現時点ですでに五馬身ほど引き離されていたりするが。 「くっ、くそ……体力的な問題が……おいYOSSY、走って(ぜぇ)逃げると(はぁ) 校則罰則項第(ぜぇ)18条『廊下を走(ひぃ)らない』に該当し、さ(ひぃ)らに罪が 重くなるぞ!!!(ぜぇぜぇ)」 「ディルクセン先輩が追いかけてこなけりゃ、走らなくても済むんですけどね!」 もともと乗用車並みのスピードとマラソン選手並の持久力を持つYOSSYに対し、デ ィルクセンの体力はそこらの一般生徒と大して変わらない。追いつけると考える方がどう かしているし、いつもならディルクセンの方もさっさと追跡を断念して肩で息をしている ところだ。 しかし、今回はついさっき柳川から生け贄の調達を命じられたところ。ここで彼を逃す と最悪自分が生け贄にされる危険性が高い。どうあっても逃がすわけにはいかなかった。 「……ええい、止むをえん、発砲許可! あいつの足を止めろ!!」 なにやらとんでもないことを吐き捨てるように命じ、ディルクセンは制服の懐に手を突 っ込んだ。 「ちょ、ちょっと! 発砲許可って一体……」 剣呑な叫びに背後を振り向いたYOSSYは、そこに黒光りする銃口を彼の背中に向け た風紀委員の集団を見出し絶句した。その光沢といい重量感といい、どう見たってプラ製 のエアガンでは有り得ない。というより、実銃そのものだ。 さすがに引きつった彼の表情を見て、ディルクセンはいかにも楽しげに微笑んだ。まる っきり悪役の笑みである。 「ふふふ、お前の想像の通りこれは実銃だが、弾倉に装填されているのは暴徒鎮圧用のゴ ム弾だ。当たっても死にはしないから安心しろ」 「そういう問題じゃないでしょうが!!」 「聞く耳持たんな。撃て! 撃って撃って撃ちまくれ!!」 ぱむぱむぱむぱむぱむ。 さながら香港映画の様に乱射されるワルサーPPKやらコルトやらSIG/ザウエルや ら……まぁとにかく色々なタイプの拳銃×9。お約束というべきか、「Help Me!」 とか「Don’t shoot!」とか叫んで逃げだそうとした通行人が多数巻き込まれ て銃弾の洗礼を浴びる。大半の風紀委員が「あう、ライフが減っちまった」という表情を している中で、 「治安維持に多少の犠牲は付き物だ。構わん、射撃を続けろ!」 周囲の惨状を全っ然気にしていない人物が一人。もちろんディルクセンである。まぁ音 声魔術やらサウザンドミサイルやらの直撃に巻き込まれるよりマシって事で、英霊達も許 してくれることだろう。 一方、目標のYOSSYと言えば、 「大丈夫? 怪我はない? 危ないね、こんなとこであんなの使う非常識な人がいてさ」 とっさに近場の見目の良い下級生の女の子(見目が良くても結局名も無い一般生徒だっ たりする)を小脇に抱え、銃弾の雨をかいくぐって無傷で走り続けていたりする。 ところが、それが彼の運の尽きだった。抱きかかえられた女生徒が誰なのかを確認した ディルクセンがにやりと笑ったことに気づいていなかったのだから。 そこからさらに数メートル。踊り場まで後少し。階段に逃げ込めば銃も使えない(普通 廊下でも使わない、というより学校で風紀委員が使うもんじゃない)し、追跡者のスピー ドも極端に落ちるから逃げ切れる。そうYOSSYが思った瞬間、がつん、と鈍い衝撃が 脇腹を襲った。ただし、衝撃は後方からではなく前方から。それも、ゼロ距離射撃。 「な、なんで……」 女生徒の顔、それからまだ硝煙がたなびく銃口、最後に視線を巡らした左袖にようやく 風紀委員の腕章を発見し、YOSSYは「不覚……」とうめいてへたりこんだ。少し間を 置いて、すでに10馬身差程引き離されていたディルクセン達が息も絶え絶えに追いつい てくる。 「よくやった(ぜーっ)、『PS版THでの志保ちゃん情報愛好者の(はーっ)浩之のク ラスの女生徒』(ぜーっ)、これで…………(はーっ)」 『草』だかなんだかとかいう広瀬委員長の私兵というあたりが気に食わないが、連中の 能力だけは認めなきゃならんな。この疲労困憊の状況の中でなおも傲然と胸を張り、彼は YOSSYを捕縛すべく一歩一歩ゆっくりと(疲れてるからね)近づいていった。 …………が、しかし。10人掛かりで悶絶しているYOSSYを抑え込み、手錠と荒縄 でがんじがらめにしようとしたその時。 「ん?」 ふと嫌な予感がして、ディルクセンは天井を見上げた。他の大半の風紀委員も同じよう に上を見上げている。このリーフ学園で一般生徒でありながら風紀委員なんかを務めてる 連中は、嫌でも危機感知能力を発達させなければ生き残っていけないのだ。 もっとも、危機感知能力をいくら発達させたところでそれに対応できるだけの反射神経 が身についていなければ、結局同じ運命が待ち受けているのだが……この場合の彼らのよ うに。 嫌な予感がしたならさっさと逃げ出せば良いものを、ディルクセン達がじっと見つめる 中天井が突如崩壊した。彼らが逃げ出す暇もあればこそ、もうもうと立ち上る土煙の中か ら何かがすさまじい勢いで飛び出してくる。 「げぶあっ!?」 「ひぎゃぁっ!」 「ぎゃろっぷ!!」 ごく自然に風紀委員達は回避失敗、直撃を食らって10人まとめて吹き飛んだ。飛んで きた物体はディルクセンを下敷きにしてようやく静止し、首をふるふる振りながら弱々し げにうめく。 「ううぅ、痛いですぅ〜」 「……お前……赤十字とか言う……と、いうことは……」 なかば床にめり込みながらほとんど瀕死状態のディルクセンが見上げた先に、涼しげな 笑みを浮かべた予想通りの人物がいた。 「すみません、どうやら狙いを誤ったようですね」 「やっぱりお前か、風見ひなた!!」 ぎりぎりと奥歯を噛み締めるディルクセンやらあちこちに散乱している風紀委員の遺体 (死んでないけど)やらを尻目に風見は大きく口を開けた天井の穴からすっ、と階下に舞 い下りる。そしてあいかわらず床にめり込んでいるディルクセンには目もくれず、あいか わらずその上で半ば伸びている美加香に歩み寄り…… 「いつまで寝っ転がってるつもりですか!」 げしっと一発蹴りをくれた。 「みぎゃぁっ!? ひ、酷いですよぉ、ひなたさん」 頭をさすりながら抗議する美加香。床をぶち抜いて落下してきた割にはあいかわらずダ メージの欠片も見受けられない。ディルクセンを踏みつけてもそもそと起き上がると(ち なみにこの課程でディルクセンが「お、重い……」などとのたまったため、鳩尾に一撃く れて昏倒させた)、何を思ったかひなたと美加香はさっとその場を飛びのいた。次の瞬間、 『プアヌークの邪剣よ!!』 爆炎と衝撃が直前まで彼らがいた場所……つまり、ディルクセンがめり込んでいるあた りを包み込んだ。 「ディルクセン先輩。一言忠告しておきますが……いつまでもそんなところに転がってい ると、危ないですよ」 「………………」 返事が無い。ただのしかばねのようだ。 そんな黒焦げディルクセンをぶぎゅると踏みつけて、たった今この破壊をもたらした男 が上階から飛び降りてきた。言わずと知れた、ハイドラントである。 「逃げるつもりか? 風見!」 「そんなつもりはない……が、戦う場所は選ばないとな」 「あっ、ひなたさん」 「逃がすかっ!」 しばしのにらみ合いの後、美加香を連れて不意に身を翻す風見。間髪入れずにハイドラ ンドがその背後を追う。 後に残されたのは思い思いの姿で倒れ伏す風紀委員達のみ。しばらくしてようやくディ ルクセンが意識を取り戻したが、周囲を見渡してふと気づく。 「……………なぁにぃっ! YOSSYの奴、どこに行った!!」 YOSSYFLAMEまでどこかへと逃げ去っていた。逃げてない方がおかしかろうに どこへ行ったも何も無いものだが、彼としては絶叫せずにはいられない。 ついでに言うと、不幸というものはこの程度で終るものではない訳で。大体、YOSS Yどころか一般生徒まで消え失せていることに気づかなかったのがもはや彼の運命を決定 付けていたといえるだろう。 「ん?」 しばらく呆然としていたディルクセンやようやく起き上がってきた他の風紀委員達は、 何やら爆音や銃声が急速接近してくることに気づいた。直後、廊下の端に高速飛行物体が 出現する。 「あれは……?」 まだ呆然とした状況から抜け出せないディルクセンはひどく間抜けな表情で急速接近し てくるその物体を眺めていた。『それ』が彼を跳ね飛ばし、廊下の逆の端へと飛んでいく その瞬間まで。 「ぶふぉうぷっ!!?」 そんな奇妙な悲鳴を耳にして、 「ん? 今何かはねたか?」 Dセリオからの出方を窺うことに集中していたジン・ジャザムは、不可解な表情をして 首をかしげた。 「……………校…舎内の……制限……速度は………60キロ……」 そんな空ろな声が誰もいない廊下の中に響く。ジンにはねられたディルクセンが正気を 取り戻すまで10秒。そして正気を取り戻したときには、せまりくる大量のミサイル(b yDセリオ)から身を隠す手段など無い状況だったのは言うまでもない。 「結局こうなるんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 そしてディルクセンと風紀委員達は星になった。 しばらくして。風紀委員会に帰ってきた10人の風紀委員(黒焦げ)の姿を見て、とー るはしばらく目を丸くして押し黙った。たっぷり数秒の沈黙を経て、おもむろに疑問を口 にする。 「…………ディルクセン先輩達も、アフロ同盟にお入りになるんですか?」 『違うわぁぁぁっ!!(号泣)』×10 …………この日から数日、ディルクセン達は何故か鉄兜を被り、頭部を人目に晒さない よう注意していたという。 <蛇足> ちなみに。 「いや、神岸には感謝してるよ。あいつが風邪で休んでいなかったら、お前が反省房にい ることなんかなかっただろうしな」 「せ、先輩、後生だから放してくれ!! 俺はまだ人間をやめたくねぇぇぇぇぇ!!」 「ああ、長岡、お前にも『色々』感謝してるんだ。いつもいつもデマ流してくれてありが とうな」 「ちょ、ちょっとディルクセン先輩、話せばわかるわよぉ、軽いジョークじゃん!!」 「さらばだ藤田、長岡。お前らの勇姿は忘れないぞ」 『人でなしぃぃぃぃぃ!!!』 …………生け贄納入は無事完了。柳川とディルクセンの友好度が55になった。 ________________________________________ ディル「初投稿だな」 作「新参者ゆえ、不都合ありましたらびしばしお叱り下さい〜」 ディル「まったく、これからが思いやられる。大体俺の扱いはなんなんだ? 下手な一般生 徒よりひどい扱いうけてるじゃないか」 作「あ、それは全然問題なし。予定通りだし。少なくとも日常的には君こうだから」 ディル「きっ……貴様(じゃきっ)」 作「あ、あっ、ちょ、実弾はちょっと…………話せばわかる!!」 ディル「問答無用!! 天誅!!」 ぱむぱむぱむぱむ 作「ぐふっ……無断使用させていただいた皆さん、どうも失礼しました……がくっ」 ディル「巨悪は滅びた……では、これからもよろしくお願いする」 ディルクセン退場、あとには血まみれの死体のみが残される…… 終劇。