Lメモ:『第一保健室業務日誌:後編』  投稿者:でぃるくせん
某月某日、金曜日  天気(快晴)

『ここ数日の平穏を吹き飛ばすかのごとき、災厄の日。
  朝、ジン・ジャザムとDセリオの戦闘。リネットの三分の一が大破。負傷者多数。
  昼、例によって例のごとし。マルチへのパン買い出し規制失敗。本日パン納入業者
の不手際で納入数自体が若干少なかった事もあり、パン争奪戦がいつもの数倍の激し
さで展開される。負傷者無数。
  また、柏木楓の手作り弁当を食した西山英志、弁当を平らげた後、感極まって暴走
す。負傷者、数え切れず。また、柏木梓と日吉かおりと秋山登の追跡劇も同時発生。
巻き添えで、保健室半壊す。
  放課後、エルクゥ同盟とダーク十三使徒との間で小規模な交戦発生。校内で展開さ
れたため、部活中の生徒に巻き添えが出る。風紀委員会が介入し、さらに戦闘規模が
拡大。風紀委員に負傷者多数。

本日の事故  158件
      死者  0名
      負傷者689名』


  そんなこんなで、ディルクセンは今日もやっぱり疲労で死に掛けていた。
「千鶴先生…………早く戻ってきてください、第一保健室一週間担当なんて死んでし
まいますよ、俺」
  昼休み中、机に突っ伏してうわ言のように呟く。
  特に今日は酷かった。
  早朝のDセリオ対ジン・ジャザムの決闘に始まって、先ほどのパン争奪戦、続いて
西山の暴走。ちなみにこれはいくつかの校舎を横にぶち抜いて、みごとに保健室の中
もしっちゃかめっちゃかにしていった。
  そんなこんなで、彼はようやく負傷者の手当てと保健室内の整理を終えて、一息つ
いていたところだ。
「取り敢えず、これで放課後までは何も起こらんだろう。授業中、意識を保てるかど
うかが問題だな」
  意識をはっきりさせるため、冷たい水で顔を洗う。多少なりともすっきりし、とも
すればふら〜っ、となりかける意識を辛うじて繋ぎ止め、彼は鞄から次の授業の教科
書とノートを取り出した。
  と、その時。
「すんませーん、ちょっとこの人預かっといてください」
  ガラガラッと扉が開けられ、何か重いものがどさっと投げ込まれる音がした。その
声に、ディルクセンは聞き覚えがある。
「ん?  …………XY−MENか?」
  なにやら声音を変えた様子だったが、それくらいすぐにわかる。だが敵意が先に立
ち、敢えて気づかぬ風で口の中だけで呟いて、扉の前から人気がなくなったあとでデ
ィルクセンは背後を振り返った。
  そして、そのまま硬直する。
「にっ…………西山英志っ!?」
  そこに転がっていたのは、壊れかけた瞳のまま、至福の表情を浮かべた西山英志の
姿だった。さきほど保健室の壁をぶち破っていったときの迫力はそこには、ない。お
そらく暴走のピークが去り、今は楓の手作り弁当を思い出しつつ至福の一時に浸って
いるのだろう。
「きっ、XY−MENの奴め、何という置き土産を残していくか…………!!」
  修正だっ、絶対に修正してやる!!  などと怒りに満ちた視線で呟きつつ、そのま
まにしておく訳にもいかないので、とりあえず西山に肩を貸してベッドに横たわらせ
た。
「くぬぅっ、お、重いっ!?」
  なんといっても格闘家。人間の姿のままでもその筋肉の量は馬鹿にならない。とも
すれば崩れ落ちそうになりつつ、とりあえずベッドに寝かせる事に成功してディルク
センは重い溜息を吐く。
「ったく、疲れてるとこに要らん手間を持ち込みやがって。しかも心の病は俺の専門
外だぞ?」
  西山の壊れた瞳を見やりつつ、彼はもう一度重い溜息を吐いた。
  時刻は12:44分。もうじき昼休みも終る。これから放課後までは、何も起こる
まい。西山ももうじきすれば、正気を取り戻して出て行くだろう。
  しかし、いつもの事ながら、彼の判断は詰めが甘い。リーフ学園はまさしく弱肉強
食の世界。力弱き者が一瞬でも気を抜けば、生き抜く事など到底出来ない世界だとい
う事を失念してしまうのだ(そんな大層なものでもないかもしれんが)
  それでもって、今日の次なる災厄はどんなものだったかというと、
「梓ぁぁぁぁ!!!  俺を、殴ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」
「梓せんぱぁぁぁぁいっっ、待ってくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっっっ!!!」
「だぁぁぁぁ!!  なんであんた達そんなにしつこいんだよ!!!!!」
  …………こんなものだった。
「!!  で、出たなっ、柏木梓、秋山登、日吉かおり!!」
  先ほど西山がぶち抜いた校舎の穴をくぐり、土煙を挙げて突進してくる三人を目に
して、ディルクセンが驚愕の叫びを上げる。
  だが、油断しきっていた彼に出来るのはそこまで。後は突然の事態に動揺し、ぽつ
ねんとその場に突っ立っている事しか出来ない。
  …………三人組が突っ走ってくる進路上に、自分がいる事は明白であるにもかかわ
らず。
「だぁぁぁぁぁぁっ!!  あんた、邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「なっ、誰が邪魔だと…………ひぃぃっ!?」
  背後に気を取られていた梓が正面で呆然としているディルクセンに気づいたのは彼
我の距離が10メートルに迫った時の事。すでに梓の方も止まったり方向転換する事
も出来ない。そして、鬼の力全開で全力疾走している梓と衝突したディルクセンがど
うなるかというと、やっぱり言わずもがなだった。
「へぶしっ!?」
  ぷちっ、と小気味の良い音がして、ディルクセンが赤い血袋と化して保健室の床に
めり込んだ。
「梓ぁぁぁぁ!!!  俺を、殴ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」
「梓せんぱぁぁぁぁいっっ、待ってくださいってばぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「ぐふぅぁっ!?  へぐぅっ!!」
  追い討ち×2。保健室の床が、さらに真っ赤に染まる。
  しばらくして、五時間目の開始を告げるチャイムが鳴り響き、ようやく彼は意識を
取り戻した。
「…………難儀なものですね」
「…………やかましい。一因作ったのは誰だと思っている」
  何時の間にか復活した西山の憐れみの篭もった言葉に憎悪の一瞥を向け、ディルク
センはどっこいしょ、と床に埋まった我が身を引き抜こうとした。だが。
「ぬ、抜けん!?」
  お約束だった。
  どんなにもがいてもあがいても、どうやら抜け出せそうにないらしい。そして、手
を貸せる立場にある人物は、すくなくとも現在のところ目前の男唯一人。
「手を貸してましょうか?」
  見かねたのか、先方から助力を申し出てきた…………顔はかなり笑いで歪んでいた
りするが。
「…………なんかその笑いが気に食わんが、そうせんとここから這い出せないようだ
な。すまんが、君の手を煩わせる事にする」
  不承不承、と言った感じではあったが、取り敢えず彼は突き出された西山の手に捉
まった。西山が軽く力を込めて引っ張ると、呆気ないほどディルクセンの体は床から
引き抜かれる。
「っと、すまんな」
  体の節々の痛みに顔を顰めながら、とにかく彼は西山に礼を言った。ぱんぱんと制
服の汚れを払い、何気なく視線をグラウンドに移す。
「ふむ。二年の体育か」
  その視線の先で、二年生女子がグラウンドをトラックに沿って走っている。それで
もう授業が始まっているのを思い出し、彼は西山へと視線を向けた。
「西山、君はもうそろそろ授業に復帰した方が良いんじゃないか…………ってどうか
したのか?」
  西山の様子がおかしい。暴走は収まったはずなのに何事かといぶかしみ、ディルク
センは数度西山の視線の先と西山の表情に視線を往復させた。
「むぅ。これは、避難した方がよさそうだな」
  疑問はあっさり氷解した。トラックを走っている女子生徒達の中に、ブルマ姿の柏
木楓の姿があったから。
  もう今日はこんな日なんだと、あきらめきった顔で荷物をまとめ、それでも被害を
最小限に抑えるために西山の体をグラウンドの方へ力任せに向ける事に成功し、それ
から彼は保健室の扉を閉めて外に出た。
  それからしばらくして。
『かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁえぇぇぇぇぇぇぇぇぇでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』
  お約束。  
「ははっ、はあははははははははっ、秩序と安定!  やはり力による支配が必要なの
だよ、この学園には!!」
  そんな叫びがリズエルに空しく木霊する。それもやっぱり平和な学園の日常、その
一こまである。
  …………着実にディルクセンの神経は磨り減ってるのだが。




某月某日、土曜日  天気(曇天)
『昨日のリネット大破のあおりを受け、一年生の一部が青空教室。日射病で倒れるも
の、続出。大東亜戦争直後の日本を彷彿とさせる光景だな、と長瀬源四郎氏が感慨を
こめて語っていた。なんか論点が違うような気もしないでもない。
  今日は土曜日である。つまり、昼食時の乱戦がない。帰ってきた千鶴先生にジン・
ジャザムも投獄されているので、Dセリオも暇を持て余しているようだ。
  平和で何より。
  図書館で中毒事件発生。下手人は言わずもがななで、とりあえず捜査も行わぬまま
館長を反省房にぶち込んだとの事。

本日の事故  28件
      死者  0名
      負傷者97名』


「はい、ご苦労様。一週間、大変だったみたいね」
  そう言って笑う千鶴に対し、ディルクセンは思いっきり実感の篭もった溜息を吐い
て見せた。そして、普段の彼なら上役には滅多に見せないような、やや怨嗟がましい
視線で上目遣いに彼女を見やる。
「大変とかなんとか、そういうレベルを超越しています。まったく、連中千鶴先生が
いないとなると、例え第一保健室であっても無茶苦茶しますから」
  良く死ななかったもんだという思いを込めて、ディルクセンはもう一度溜息を吐い
た。
「まぁ、みんな元気があって良い事じゃないかしら?」
「元気とか、そういう問題ではないかと思いますが」
  三度目の溜息。彼はやれやれと頭を振る。それから目付きを厳しくして、目前で苦
笑を浮かべている千鶴に苦言を呈する覚悟を決めた。
「千鶴先生も千鶴先生です。薬品棚にせよなんにせよ、あまりに無茶苦茶ですよ。先
生自身、ひょっとするとどこに何が入っているのか把握してらっしゃらないのでは有
りませんか?」
「それくらいはちゃんと分かってます」
  心外な、と言わんばかりに千鶴も真剣な表情を作った。そしてあちこちの棚を指差
して説明していく。
「あそこに調味料でしょう、で、ここが保存食品、そこに食器類や調理器具で………
…」
「なんでそんなもんばかり覚えてるんですかっ!!  薬品とか医療品とかは!?」
  さすがに耐え切れなくなって絶叫した彼に対し、千鶴は少し顔を赤らめて小首を傾
げる仕種をした。
「…………あら?」
「…………もういいです」
  胃の辺りを抑えてちょっと失礼と断り、ディルクセンは懐から粉末胃薬を取り出し
た。コップに水を注ぎ、一気に飲み干す。
「…………とにかく!  千鶴先生にもちゃんと自覚を持って頂きませんと!」
  一息ついて、再び説教を始めた。あの千鶴先生を相手に言い度胸しているとしか言
いようが無いが、さすがに自覚症状があるのか意外にも千鶴は大人しく頷いている。
「それにですね…………」
  もう一息ついて冷静さを取り戻し、やや声のトーンを落として言葉を続ける。その
次の言葉はしかし、中断されるはめになった。
「かっ、匿ってください!」
  などという言葉とともに、ゆきが駆け込んできたから。
「あら、ゆき君。匿うって…………何から?」
「ああっ!?  千鶴さん、もう帰ってたんですか!?」
  すがるような目付きで千鶴を見るゆき。大体の事情を飲み込んだディルクセンが、
唇の端を笑う形に歪めた。
「今日はジン・ジャザムも反省房にいるしな。柳川先生も暇を持て余してらっしゃる
んだろう。大人しく科学部に帰って、真理の探究に付き合って差し上げろ」
「絶対、嫌!!」
  涙とともに首を横に振るゆき。その姿を見て、なんかディルクセンはエルクゥ同盟
に勝ったような気分になって、先ほどまで千鶴に詰め寄っていた事が急にどうでも良
くなった。
「では、自分はこれで失礼しますね」
「はい、ご苦労様。またお願いするわね」
  『また』は止めてくれ〜、と思わないでもなかったが、上からの指示に異議を唱え
る事は出来ない。ちょっと疲れたような笑みを浮かべて一礼し、彼は保健室を退出し
た。そして、
「柳川先生。お探しの人物でしたら保健室にいますよ。千鶴先生も既にお戻りになっ
ていますが」
「ふん、柏木千鶴も中に居るのか。それではさすがに手が出んな」
  柱の影から現れたのは柳川だった。そして、不思議そうな表情でディルクセンに問
い掛ける。
「で、どっちを向いて話し掛けているのだ、ディルクセン君?」
「いや、はは、自分は気配を感じるなんて気の効いた真似は出来ませんから……山勘
でこっちかなぁと思ったんですが、違ったようですねぇ」
  こほん、と咳払い。
「で、どうなさいます?  反省房から調達しますか?」
「いや、その必要はない。どうせジンのいない間の暇つぶしに、と思っただけだから
な。それよりジンを早く釈放してくれる方が有り難い」
  暇つぶしで人体実験するなぁっ、と思わず喉まで突っ込みが出掛かかるが、辛うじ
て喉の奥に押し込む。そして意識して笑顔を作り、ジンの釈放に関してはきっぱり拒
否した。
「それは出来ません。風紀と秩序を守るのが、我々の責務ですから。例え柳川先生の
ご要望とは言え、そればかりは」
「まぁ、君の事だからな。予想通りの回答だ」
  真面目くさって言うディルクセンの言葉を遮り、それより、と柳川は懐から幾本か
のビンを取り出した。
「これらはな、この間開発してみた回復系の薬品なのだ」
「で、これを臨床試験して見てくれ、と?」
「…………さすがだな、話が早い」
  柳川とディルクセンはニヤリ、と笑いあう。その表情のまま、ディルクセンは柳川
に念を押すように尋ねてみた。
「一つお聞きします。動物実験は?」
「これからだ」
  二人の笑みがさらに凄惨さを帯びた…………ような気がする。
「わかりました、反省房には規則も守れぬ人間未満の動物連中が大量におります、貴
重なデータとして人類に貢献できるなら、彼らも本望でしょう」
  無茶苦茶な暴論である。しかし、そんな発言をたしなめるべき立場にあるはずの教
師が、この場合柳川であった訳で。
「ああ、期待しているぞ」
  そういう事だった。
「どうせなら、今から反省房に一緒に赴かれますか?  私が観察記録をとっても構い
ませんが、どうせなら先生も御自身で観察されるのがよろしいでしょう?  それに、
ジンと面会するのも構いませんし」
「ふん…………そうだな。ではそうさせてもらうとしようか」
  それって、結局被験者を科学部に差し出すのと変わらないんじゃないか?  という
疑問は二人の脳裏に浮かぶ事はついに無いままに、二人の姿は地下へと消える。


  かくして、ディルクセンの第一保健室一週間勤務は終わりを告げたのだった。


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作「ようやくの事で、第一保健室業務日誌後編です」
ディル「終ったな、ようやく。その間に何本別のL入れたのかね」
作「はっはっはっはっは、気にするない(爆)」
ディル「気にするわ。期間もえらく開いてるし」
作「気にするなっての」
ディル「いつまでたっても委員長(保科の方な)との絡み書かんし」
作「き、気にするない(汗)」
ディル「無理じゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!(怒)」
作「はううぅぅぅぅぅぅっっ!?(冷汗)」
ディル「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
作「ま、まぁ、落ち着け。そのうち…………いつかは書くから」
ディル「っつぅか、最優先で書け、このボケがぁっ!」
作「ひぃぃぃぃん(涙)  ネタが無いから仕方ないやんかぁぁぁ!!」
ディル「ネタが無いなら作れ!  ああもう、次のLは委員長との絡みな、はいもうこ
  れは決定事項!!  変更は許さん」
作「んな無茶な……」
ディル「うだうだ抜かすな。そういう事で、再見!」
作「あっ、ちょっと待(ぶつっ)」







  けど、予定は未定☆(笑)