テニス大会応援Lメモ(?)『舞台裏の幕間劇』  投稿者:でぃるくせん
「承服できん承服できん承服できん承服できん承服できんッ!!  だぁぁぁぁ
ぁんじてッ、承服できぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃんっっっっっ!!!!」
  そこまでひといきに叫んで、ディルクセンは肩で荒い息をついた。その狂態
を見て、部屋の中で明日からのテニス大会の警備計画を練っていた風紀委員達
の一人が、呆れたような表情をした。
「…………いや、広瀬を取られて悔しい気持ちは判るけど」
「なんでそうなるっ!!?」
  天を仰いで絶叫するディルクセン。では、とばかりに先の風紀委員が首を傾
げる。
「じゃぁ、貞本に広瀬不在中の指揮権奪われたのが悔しいのか」
「そんな俗っぽい事でもないわぁっ!!!」
  神経を逆なでされ、ディルクセンが目くじら立てて怒鳴りたてる。そして、
テニスの対戦表がセロテープで貼り付けられた黒板を思い切り叩き付け、ひと
きわ大きな怒声を放った。
「俺が承服できんのはだなぁっ!!」
「何故に学校の風紀を護るべき風紀委員の長たる広瀬ゆかりが、学賊YOSS
YFLAMEとペアを組んでテニス大会に出場するのか?  だろ?」
「お前なぁ、判ってるんだったら言うなっ!!」
「いや、からかうと面白いし…………ぐおはっ!?」
  にやつきながらディルクセンをからかっていた風紀委員が濁った悲鳴を上げ
て昏倒し、くすくすと笑いを堪えていた下級生達が慌てて表情を引き締める。
「……ともかくだ」
  銃口から硝煙たなびくワルサーPPKを懐のホルスターに戻しつつ、ディル
クセンは周囲に集まった一同を血走った目で見渡した。場には広瀬も貞本もと
ーるもレミィもいない。気心の知れたシンパばかりだ。その一同に、重々しく
告げる。
「このままでは、風紀委員と犯罪者どもとの癒着が噂されかねん」
「そんな大層なもんか?」
「なんとしても、連中が勝ち残るのを阻止しなければならん」
「いや、そこまでしなくても」
「これは我々に課せられた義務だ!!」
「ちょっと先輩、落ち着きましょうよ」
「これより我々は、広瀬・よっしーペア妨害作戦に移行する!!」
「……駄目だこりゃ」
「やるしかないねー」
  そんなこんなで、風紀委員会の一部による妨害作戦が、ここに始まる事にな
ってみたりしたのである。





「で、具体的にはどうするんです?」
  すでにどっぷり日も暮れて、真っ暗闇になったテニスコート周辺。明日の開
会に備え設営も終ったその場を前に、ディルクセン他10人ほどの風紀委員が
匍匐前進で近づいていた。
「ふふふ、これだ」
  いやいやついて来た後輩に問われ、ディルクセンは引き摺ってきたそりから
スコップと円形の何かを引っ張り出す。
「なんだ、それ?」
  夜陰ではっきりと形状を認識できず、別の風紀委員が不思議そうに尋ねる。
それに対し、ディルクセンはこともなげに一言でその正体を明かした。
「対人地雷だ」
「はい?」×複数
  理解不能。風紀委員達が間抜けな表情を浮かべた。それに対して、ディルク
センもまた不思議そうな表情を浮かべて手近な風紀委員の顔を見つめ返す。
「対人地雷だ。知らんのか?  踏んだら爆発するアレだ」
「…………そんな事は知ってるわい。それをどう使うか聞いてるんだ」
  疲れたような表情を浮かべてその風紀委員が質問の仕方を変えた。それでよ
うやく得心したように、ディルクセンが大きく頷く。その次の発言は、風紀委
員達の思考をはるか彼方にふっ飛ばすには十分すぎる発言だった。
「もちろん、コートに仕掛けるに決まっとろうが」
  一陣の北風。しばらくの間、沈黙が続く。
「………………コートって、テニスコートに?」
  ようやくの事で、呪縛から覚めた風紀委員の一人が、恐る恐る質問する。
「当たり前だろうが、バスケのコートに仕掛けてどうする」
  何を当然の事を、と言わんばかりのディルクセンを前に、再び周囲が硬直す
る。しかしそれも一瞬の事、蜂の巣を突ついたような騒ぎが起こる。
「しょっ、正気かディルクセン!?」
「俺は正気だ!!」
「いくらなんでも洒落になってません!!」
「俺は洒落のつもりはない!!」
「テニス大会自体粉砕するつもりですか!?」
「それが一番手っ取り早かろう?」
  ……三度目の沈黙。やがて一人が耐え兼ねたかのように絶叫した。
「……誰か止めろこの馬鹿を!?」
「──誰を止めるのですか?」
  背後からかかったその声に、四度目の硬直の時間が訪れた。
「でぃ、Dセリオ…………」
  そこにいたのは夜間巡回中のDセリオだった。絞り出すような声を出して、
ディルクセンがそりを彼女の視線から遮るかのようにぎこちなく動く。そして
引きつった笑いを浮かべ、たどたどしい弁解をはじめる。
「あー、いや、何でもない。何でもないんだ、ははははは。なあ、お前ら?」
「え?  あ、ああ。いやほんと、俺達も夜間警戒中でなぁ、こういうイベント
がある度に駆り出されてさ、ほんと困るよな、あははははは」
「そうそう、願ったりかなったりだよねほんとうに」
  それを言うなら願い下げでしょう、などと下らない突っ込みはせず、Dセリ
オは納得が行ったように頷いた。
「──なるほど、地雷とか、テニス大会粉砕とか、そんな単語が会話から聞こ
えいましたので、てっきり破壊活動を行っているのかと思っていましたが」
『…………………………………』
  ……悪魔の微笑みとともに発せられたその言葉に、五度目の沈黙が一同に訪
れた。
  そして。
「そっ、総員散開ぃぃぃぃぃぃぃぃっ、各員奮闘を祈るっっっっっっっ!!」


  30秒持ちませんでした。




  明けて翌日。
「……どうしたんですか、ディルクセン先輩。ひどくぼろぼろになっている様
ですが?」
「転んだだけだ、きにするな」
  貞本の問いに素っ気無く答える。貞本の方もわざわざ不覚追求する様な事は
せず、不審げながらも当たりの警戒に関心を戻す。ディルクセンの方も彼女を
一瞥する事も無く、ポケットの中に入れた手を動かし、中の物体の感触を確か
める。
  中にはペン型の赤外線レーザーが収められていた。
(……これで試合中YOSSYの目を照らしてやる)
  にやりと小さく笑いをこぼす。これで妨害はばっちり、広瀬・YOSSY組
の勝ち抜きは阻止できる!!
  しかし。
「あら、ディルクセン君。こんなところにいたの?」
「……千鶴先生、どうなさいました?」
  背後からの声に振り返る。声の主は予想通り、柏木千鶴だった。白衣姿とい
う事は、今はまだ保健教師として動いているのだろう。だからこそ、ディルク
センは怪訝な表情をするほかない。
「よろしいんですか?  確か先生もジンと出場のはずでは?」
「だから、ディルクセン君を探してたのよ」
  そう言って微笑んだ千鶴の手に保健委員の腕章が握られているのを目にして、
彼は嫌な予感を感じたが、だからと言って逃げる訳にも行かない。続く彼女の
言葉を待つ。
「そう言う訳で、お願いね」
「ちょ、ちょっと待ってください!  俺には風紀委員としての仕事が……!」
  予想通りの展開に、慌てて断ろうとするディルクセン。おそらく怪我人続出
だろうこの大会で保健委員の仕事を担わされれば、そちらの仕事に忙殺されて
妨害など不可能ではないか。なんとしても避けねばならない。
  ……しかし、既に退路は断たれていた。それも予想外の方向から。
「あら、それなら広瀬さんから『今回のテニス大会、ひょっとすると怪我人が
多数出るかもしれませんから、ディルクセン先輩を保健委員会で使っていただ
いて構いませんよ』って申し出があったから、大丈夫」
  ディルクセン、昨夜から続いて六度目の絶句。動きの止まった彼の腕を掴む
と、
「さぁ、急がないと試合が始まってしまうわよ」
  ずるずると引き摺られ、ようやくディルクセンは我に帰った。そして視界の
隅に、こちらに向かってにっこり笑っている広瀬を見つけ、悪鬼のような表情
で絶叫する。
「なっ…………!?  は、謀ったな広瀬ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

  ……今回は、広瀬の方が一枚上手だったというお話。




___________________________________


  ううむ、書き上げてみると他のSS使いの方を誰も出せんかった(汗)

  と、とにかくそんな訳でディルクセンは本部の方で大人しく必死に保健委員
として頑張ってますので、妨害などは出来ないような気がします(笑)

  と言う事で、ゆかりん・よっしー組頑張って〜!(笑)