Lメモ異聞・策は放たれた(下) 投稿者:dye
  学園の薔薇の色はやはり深紅かと。個人的には紫や黒も捨てがたいですね。
むしろ重要なのは「色」でなく「香り」の方なんです。もっとも、ハマった人
には関係ないようですよ。ほら、「色香」に惑うって言うでしょう?

                                    ―学園お悩み相談室・回答より―



              〜Lメモ異聞・策は放たれた(下)〜


  新呪プロジェクトが開始される日より、一週間前の科学室。

「…先生が造ったいうタイム・マシン。使用させて頂けませんか?」
  久々野の申し出に柳川は眉をひそめた。
(タイム・マシンだと?…そんなもの造った覚えは………「!」)
  思い当たった可能性に彼は口の端を上げた。程なく発せられた忍び笑いが、
やがて室内に響く大きなものへと変わる。
「…なかなか、傑作な話だ。確かにアレはそうとも言える。だがな、お前が
考えているような代物じゃないぞ」
「どういう意味です?」
「意識の転送装置だ。生命体そのものを過去・未来に送ると、何かとリスクが
大きい。そこで限定の意識情報を異なる時間の本人達へと送る」
「不明瞭な話ですね」
「要は、個体の思念を移す装置だ。予知や前世の記憶とまではいかなくとも、
限定の情報を得る。もっとも未完成品だがな…」


  『草』からの情報は、真偽の入り交じった噂も含む。未完成品の発言は、
少なからず久々野を失望させた。
「何しろ、テスト結果がゼロだ。送った先から戻れない一方通行なんでな。
行った先で自己消滅させる程度の細工は可能だがな」
  捨て置いた未完成だからこそ、情報が漏れているのだ。
「…分かりました」
  礼を述べた久々野が退室する。彼が後日『連れ』を伴い、再び訪問するなど
この件は終わったと思っていた柳川は予想だにしなかった。
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  二人の男がベッドに拘束状態で横たわっている。彼らの体には複数の電極
が取り付けられ、そのコードは背後の巨大な鉄塊へと繋がっていた。

「なあ、矢島。たまには俺達が活躍しても、バチ当たんねぇよな?」
「そうっスね、先輩」
「皆に黙って影で闘う、か。俺達にはお似合いかもな」
「橋本さん…あんた漢っスよ…(涙)」
「矢島…テメェだって……」
  繰り広げられる橋本と矢島の語らいを無視し、柳川は二人に頭に転送装置
のメットを被せた。
「いいか、自分の目的や使命という形で念じろ。あまり複雑だと弱い思念に
なり場合が多いんでな」
  装置が鈍い唸り声を出すと共に、柳川は科学部・特殊実験場から退出した。
廊下には二人を連れて来た男がいる。

「しかし何故、この二人なんだ?」
「彼らがちょうどいいんです。なまじ強い力を持つ者だと、逆に新たな火種
となる恐れが有りますし、何より現在の対SGYの戦力低下に繋がります」
  久々野がにこやかに答える。

(…第一次大戦前のSGYを追うこと!)
(…SGYを探し出すこと!)
実験場内では思念集約と共に、過去のそれぞれへの転送が始まっていた。

「言葉を返すようだが、たとえ標的を見つけ出したとしても、あの二人の
手には余るぞ」
「そうでしょうね」

  タイム・トラベル小説に、時間への介入は歴史を狂わせる説がある。
  確かに二人の存在は小さい。
  世界という巨大時計の中の、小さな歯車。
  だが小さな歯車の狂いは、やがて大きな狂いとなる。
  未来を別のものに。誰も犠牲にならない新たな歴史に。
  久々野の狙いは、むしろそちらにある。

「ふん、まあいい。どうせ成否を確かめる術は持たないからな」
  とぼけた返事への追求を諦めた柳川に賛同するように、転送終了の知らせ
を告げるベルが辺りに響いた。



――意識が転送された過去、すなわち『第一次SGY大戦』前

  「転送」は失敗した。いや、送ることは成功したものの、二人の「思念」
が完全ではなかった。対象の『SGY』を失っていたのである。

(…俺は…誰かを探さなければならない!)
  強迫観念めいた想いに動かされ、橋本は多くの人間に声をかけた。それは
学園に「ナンパ師・橋本」を誕生させることとなる。
  一方、矢島は…。
(…神岸あかりさん。彼女こそ、俺の探していた運命の人!この胸のトキメキ
が何よりの証拠だ!!)
  こっちも大した違いはなかった。
  未来は変わらぬものであり、歯車の狂いは生まれなかったのだろうか?
『SGY大戦』は勃発することになる。



――SGY大戦の終結後。

  保科智子にちょっかいを出した橋本・あかりに振られて荒れる矢島は
ある人物に出会った。闘いを通じて生まれた友情…みたいなもの。
「Fool兄貴ぃぃぃ!」
「Fool先輩ぃぃぃ!」
「智子さーん、これは違うんだぁぁぁ!」
「…なっ、ちょ、ちょっと抱き付かんといて!」
  皮肉にも、結果として二人は真相に近づいている。


「そこを何とか…」
「う〜ん。複製画ならともかく、オリジナルは難しいですね」
  トール・ミナヅキ画伯の名作、肖像画「楓」の購入を頼む西山英志。
「複製画じゃダメなんだ」
「ですが、絵に優る本人がこの学園には居るじゃありませんか」
  beakerの言葉に、相手はひどく赤面する。
「…そ、その本人にプレゼントしたいんだ」
  しばし訪れる沈黙。
「…ふむ、分かりました。そういう理由でしたら、張り切らせて頂きますよ」
  購買部の主は、営業用と異なる笑みを浮かべた。


「いい加減あきらめたらどうです、風紀員の皆さん(怒)」
「待ちなさ〜い」
  風紀委員達の執拗な追跡から逃げる風見ひなた。どうも、持ち物検査を
迫られているらしい。
「僕より物騒なもの持っている連中は他に居るじゃないか〜〜〜!!」
  学園中の至る所でクシャミが発生する。
「被害報告は、あなたがTOPです!!」
(ぜってぇ、それは報告漏れだぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!)
  追手を撒きつつ、ひなたが懐に手を入れる。数分後、悲鳴が学園に響いた。


    大戦後の学園生活。
    もう一つの未来に、この光景は起こらなかった。
    何故なら、SGYの封印は成功していない。
    一方的な破壊の後、姿を消した第一次大戦。
    再び舞い戻った第二次。
    だが、この世界では第一次は勝利に終わっている。

    もはや「あの未来」とは別のものになっていた。
    地下に眠るSGYを知る、久々野彰と月島拓也。
    知るよしも無い学園の生徒達。
    そして「未来には存在しなかった」Fool。
    この時間の果ての物語は、これから生まれようとしている。

                                                 [完]
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                    <あとがき>

  という訳で、消えたバッドエンドorパラレルワールド(少し違いますが)
のネタです。余り「設定」に加えずに済むとは、この事を指してました。
結局、ほとんどが無かった話という訳でして…(苦笑)。

  転送装置の発想の元ネタは『タイム・リープ…あしたはきのう…[上・下]
(電撃文庫)』です。柳川も意識を送り、(未来の)超科学力を持っている理由
にと考えていたんですが、うまくいかず削除しました。

  内容については以上で、以下は陳謝。

  まずは登場して頂いた皆様、大変失礼しました。特にFoolさん。薔薇ネタは
使わないシリアスと言っておきながら、こんなんです。

  ジンさんのお言葉を拝借しますが、リベンジはLメモでお願いします。
(…って、自分の設定のアップまだだったりする:爆)

  本当に失礼しました。それでは。