Lメモ外伝/FENNEKのさりげない出会い 投稿者:FENNEK
 存在。
 俺が存在する理由。

 俺はなぜここに在るのか?
 俺は何を求めているのか?
 俺は何をするべきなのか?

 わからない。
 考えたこともなかった。
 この学園に来る前は。
 そう、”彼女”に会うまでは・・・・・。











 Lメモ外伝/FENNEKのさりげない出会い
  「The first contact of vacant eyes」












 彼女への第一印象は、腰まで伸びるオレンジ色のロングヘアだった。
 そのきれいな髪を、穏やかにかけぬける風が揺らしている。
 次に気になったのは、その髪の間から突き出ている白いアンテナのようなもの。
 ロボット・・・メイドロボの証であるイヤーセンサーだ。
 そのほか、いろいろと彼女を形容する言葉はあるが、とりあえすここではこのふたつが
もっとも目立っていた。
 FENNEKは、そんな彼女の後ろ姿をずっと眺めていた。
 時刻は昼下がり。
 ここ、試立Leaf学園では昼休みとなっている時間帯だ。
 そんな中、FENNEKはひとりぶらぶらと散歩をしていた。転入したての彼は、学園
についていろいろと見て回るべく地図を片手にあちこちうろついていたのだ。
 途中、FENNEKはその少女を見かけた。
 普段なら気にも止めずに素通りするところだが、なぜか彼はその少女が気になっていた。





 彼女は釣りをしていた。
 竿を立て、糸を垂らす。そして獲物がかかるのをじっと待つ。
 その光景は、端から見る限り立派な釣りだ。
 少女と釣り。なんとなくミスマッチのような気がするが、まあそういった趣味を持つ女
の子がいたって別にいいだろう。趣味というのは人それぞれだし、そのことを他人がとや
かく言うのは筋違いだ。
 ただ。
 ただひとつ、難点を挙げるならば。
 そこが池のほとりでも、川岸でも、ましてや海沿いでもなく、

『試立Leaf学園の校舎の屋上』

だということであろうか。
 彼女は屋上の縁から、下にその釣り糸を垂らしているのだ。
 魚はおろか、水気すらあろうはずがない。
(格好だけ真似しているんだろうか・・・?)
 FENNEKは頬に少し汗を浮かべつつ、その少女を見ていた。
 そのとき。

 ピクッ

 竿先が揺れる。
 彼女はその感覚を的確につかむと、竿を上げリールを巻き始める。
(つ、釣れたのか!?)
 がびーんっ!
 常識を打ち破るその事実に、FENNEKはショックを受けた。
 驚愕しているFENNEKに関係なく、少女はどんどんリールを巻いていく。
(い、いったいなにが釣れたんだ・・・!?)

 どきどきどきどき・・・

 全く訳が分からず、ただ巻き上げられる糸の先に視線を集中させるFENNEK。緊張
で、彼の心臓であるエンジンの回転数が急激に跳ね上がる。得体のしれない何かに恐怖す
る感覚。そう、気分はもう
『ジ○ジョの奇○な冒険』
だった。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・

『この扉の向こうに何かがいる!』
的な音が聞こえてきそうな緊迫感あふれる状況の中、リールを巻き上げる音だけが辺りに
響く。
 FENNEKの手にじっとりと汗が浮かぶ。

 ゴクッ・・・

 緊張の中、唾を飲みこむ。

 そして。
 いよいよ糸が巻ききられる!
 糸の先が校舎の陰から姿を現す!
 その先にかかっていたのはっ・・・・・・!!








 人だった。








 後ろで思いっきりコケるFENNEK。
(な・・・・なんじゃっそりゃあああああぁぁぁぁっっ!!?)
 そう叫びたいが、驚きとバカバカしさのあまり声も出ない。
 そんな外野の様子など何のその(ってゆーか視界に入っていない)、少女は慣れた手つ
きで糸をたぐり寄せる。
「今度はYOSSYFLAMEさんですか・・・」
 彼女はこともなげにそう言うとYOSSYFLAMEと呼んだ少年を針・・・ではなく
糸の先につり下げられた写真から外し、傍に置かれている魚籠(?)に入れる。
 よく見ると、やたらとでかいその魚籠には今釣れたYOSSYFLAMEの他にも数人
の男達が窮屈そうに入れられていた。
「ああ・・・YOSSYさんも釣られちゃったんですか」
「昌斗・・・ディアルト・・・それにT−star−reverseまで・・・・・。お
まえら、無様だな」
「YOSSYさんも人のこと言えないと思いますけど・・・」
「いやぁ、葵ちゃんの写真についつられちゃって・・・」
「ああ・・・自分が情けない・・・」
『主・・・・(涙)』
                 ・
                 ・
                 ・
「・・・・・・・・(汗)」
 そんな会話が続く魚籠を極力見ないようにしつつ、FENNEKは餌(青い髪の活発そ
うな少女の写真)を付け直して再び糸を垂らす少女に視線を向ける。


 と。
「・・・なにかご用ですか?」
 少女がこちらに声を掛けてくる。視線は竿先を向いたままだが。
「えっ!? えっとその・・・・・・・大漁ですね」
 突然の事にFENNEKは慌てた挙げ句、どこかずれた科白を返す。
 ・・・何が大漁なのだろうか?
 だが、少女はそんなFENNEKの慌てぶりを意に介した様子もなく、竿先に視線を向
けたまま答えてくる。
「そうですね。今日は調子がいいです」
「・・・・ああ、そう・・・ですか」
 それきり、お互い黙り込む。





 そして、しばらく時が過ぎる。
 どちらも何もしゃべらない、沈黙の領域。
 ただ、昼休みの喧噪だけが学園のあちこちから聞こえてくるだけだ。





 そんな状況を打開しようと、FENNEKは少女の傍まで近づき今度はこちらから話し
かける。
「・・・君、名前は?」
「私はHMXー13セリオと言います」
「そうか・・・。俺はFENNEKといいます。今度三年に転入してきた者です」
 お互い、自己紹介を済ませる。
 そしてまた訪れる沈黙。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 長い長いその合間、その少女〜セリオ〜はさらに一人(「HAHAHAHAHA!釣ら
れてしまいまーシタネ!!」)を釣り上げていた。
 さらにやかましくなった魚籠を懸命に視界に入れないように努力しつつ、FENNEK
はセリオの横に座りじっと彼女の釣りを見つめる。
 彼女は餌である写真を、青い髪の少女(松原葵というらしい)のものから黒髪の勝ち気
そうな少女(同じ三年の来栖川芹香に似ている)のものに取り替えてまた釣り糸を下に垂
らす。
 その様子を横目に見ながら、FENNEKは自分がなぜセリオを気にするのか考えてい
た。
(俺はなんでこの少女に惹かれているのだろう・・・・?)
 そう。なんとなく気になるのだ。理由はわからない。
 彼が生まれてから25年、自我をもち世界を旅して15年。
 長い時を人間社会で過ごした彼にとっても、こんな感覚ははじめてだった。



 FENNEKは人間ではない。彼は古い車だ。命を持った車。来栖川モータースが25
年前に制作したスポーツカー、2000GT。それが彼、FENNEKの正体だ。
 一方、メイドロボについてはもちろん知っている。FENNEKを開発した来栖川モー
タースを擁する巨大コンツェルン、来栖川グループの一部門である来栖川電工が開発した
汎用人型ロボットだ。
 同じ企業集合体が開発した、機械。
 その点においては、FENNEKとセリオは近しい関係と言えた。FENNEKがセリ
オを気にする理由も説明できないわけではない。
 だが、それでもFENNEKは何か他に理由があるような気がしていた。
 それと同時に、何か・・・自分とは大きく異なる何かをセリオは持っている、そんな気
がしてならなかった。



「ねぇ・・・」
「なんでしょうか?」
 問いかけるFENNEK。聞き返すセリオ。
 FENNEKは聞くかどうか迷ったようだ、視線が落ち着きなくさまようが、結局聞く
ことにしたらしい。セリオを見据え、言った。
「釣り・・・・楽しい?」
 どうでもいいことだが、FENNEKはセリオの行為を”釣り”と認識することにした
ようだ。・・・釣り愛好家達に怒られそうだが。
「はい、楽しいですよ。・・・・こうしていると人間の心というのがわかってくる、そん
な気がするんです」
「人間の・・・心?」
「はい」
 聞き返すFENNEKにセリオは竿先に視線を向けたまま頷く。
「え・・・だってきみ、メイドロボだろ? ロボットが人間の心を学ぶのか?」
「いけませんか?」
「いや、その・・・・」
 FENNEKは返す言葉が見つからず、口ごもってしまう。

(人間の心?
 機械が人間の心を知る?
 そんなことができるのか・・・?)

 FENNEKは、セリオの言葉に対応し切れていなかった。
 自分の常識の中には存在しない考えだったから。
 人間の心を知ろうなどと、考えたこともなかったから。

『人間の心を学ぶ』

 そんなFENNEKにとって、セリオのその言葉はまさに寝耳に水だったのである。



「・・・・人の心って難しいと思わないか?」
 散々思い悩んだ挙げ句、出てきたのはそんな言葉だった。
 セリオは何気なさそうに応えてくる。
「そうですね。確かに難しいです。でも・・・面白いです」
「面白い?」
「はい」
 問い直すFENNEKに律儀に頷くセリオ。
「面白い、か・・・」

(そうかもな・・・)

 確かに面白いと思う。
 長く人間社会の中を彷徨ってきたFENNEKは、それこそいろいろな人間達との出会
いと別れを繰り返してきた。まあ中にはあまり誉められないような人物もいたが、それで
もFENNEKは彼らとの関わりによって様々な事を学んだ。
 それらはFENNEKにとってとても興味深く、同時に羨ましくもだった。

「面白い、か・・・」
 もう一度呟いて、空を見上げる。
 さわやかな青色を視界一杯に広げる空。
 空のきれいな青を際だたせるがごとく、まばらに散らばる白い雲。
 全てを飲み込んでくれるような透き通った空を眺めるFENNEK。
 セリオは相変わらずの太公望だ。
 試立Leaf学園。校舎の屋上は、FENNEKの思考といまだ騒がしい魚籠の中を除
いてはおおむね平穏だった。





 一方その頃。
 彼らの足の下、ちょうど餌(来栖川綾香の写真)が下がっている辺りでは、数人の男た
ちがそれを巡って熾烈なバトルロイヤルを繰り広げていた。(巻き込まれる被害者多数)





 (でも・・・)
 視線を正面に戻し、FENNEKは思う。
 人間の心は確かに面白いかもしれない、そう思う。でもそれ以上に・・・・

『怖い』

 人間。
 自分を生み出した人間。
 彼・・・彼ら機械にとってみれは創造主である、人間。
 自分とは違う存在。自分とは相容れぬ存在。自分が服従すべき存在。
 彼は機械。意志を持った車。
 決して人間ではない。
 生き物ですらない。
 自然の摂理から外れた、不条理な存在。
 人間には憧れている。
 でも、こんな自分が人間の心を知ろうなどとは、おこがましいのではないだろうか?
 神に対する冒涜といっても過言ではないのではないか?

『コンプレックス』

 そうかもしれない。
 自分自身への嫌悪感、ごく自然に心を有する人間への羨望と恐怖・・・・。
 それらが複雑に混ざり合い、重たくFENNEKにのしかかっている。
 振り払うことも、乗り越えることもできずに。

『壁』

 人間と機械との壁。
 造りしものと造られしものを隔てる壁。
 その向こう側を見ることはもちろん、傷をつけることすらままならないほどの、あまり
にも高すぎて厚すぎる壁。



 そして。
 その壁に背を向ける自分。壁の向こう側に怯える自分・・・。



(そうか・・・・)

 FENNEKは唐突に気づく。
 考えたことがなかったんじゃない。
 考えようとしなかったのだ。
 怖かったから。
 両者を隔てる壁が、とても怖かったから。
 自分と違うものに触れるのが、たまらなく怖かったから。
 だから考えなかった・・・考えない振りをした。
 湧き起こる好奇心を無理矢理押さえつけ、自分に嘘をついてまで。

(なのに・・・)

 なのに。
 今、目の前にいるこの少女は、FENNEKがどうして踏み込むことのできなかった領
域に・・・壁の向こう側に足を踏み入れようとしている。
 自分と同じ、人に造られし存在でありながら。



 知りたい。
 彼女の本音を。
 聞きたい。
 彼女の気持ちを。

 でも、どう聞けばいい?
 聞きたいことは山ほどある。
 でも言葉にならない。
 どうすれば・・・・・



 ひたすら悩んだ結果、出てきた言葉は辛辣なものだった。
「・・・・それじゃ、きみは人間になりたいのか? そんなことが可能だと思っているの
か?」
 FENNEKが口を開いた。
 言っていて自分でも嫌になる科白だ。
 セリオを傷つけるかもしれない、そして自分自身をも傷つけるであろう、諸刃の剣。
 でも、こんな言葉しか思いつかない。彼女の真意を、気持ちを、知るためには。
 例え乱暴な言い方になろうとも、これだけははっきりと聞いておきたかった。
 今聞いておかなければ自分はここから一歩も先には進めない、そんな確信めいたものを
感じたから。
 セリオの答えを待つ。
 神と悪魔とを同時に望むような、不思議な期待感と共に。
 セリオは少し考え、やがてゆっくりと答えてくる。
「わかりません。でも、私を生んでくれた長瀬主任や姉のマルチさん、それに久々野さん
やdyeさん達も、それを望んで・・・・・・」
「そんなことを聞いてるじゃない! きみは、きみ自身はどう思ってるんだっ!?」
 思わず怒鳴り出すFENNEK。そのままの勢いで立ち上がっていた。そんな行動に出
る自分自身に驚きながら。
 セリオはその声に、その行動に、初めて竿先から目をそらしこちらを正面から見た。
 初めて見る彼女の表情。
 虚ろで、それでいて深い色をたたえたその瞳がじっとこちらを見つめる。
 その視線に、FENNEKは射すくめられたように動けなくなってしまう。
 セリオが口を開く。
「・・・・私にもそれはわかりません。
 もしかしたら、もともと定められたプログラムに従っているだけなのかも知れません。
でも、それだって私の意志であるはずだと信じていますから・・・・・・
 それではいけませんか?」
 その瞬間、FENNEKは見た。いや、見えてしまった。
 その瞳に、感情の見えないその虚ろな瞳の奥に、一瞬だけ見えた光の煌めきを。

(そうか・・・・・・彼女は・・・)

 FENNEKはようやく、自分とセリオとの差の正体に気づいた。
 だがそれは、同時にFENNEKにとって大きな衝撃をもたらす冷酷な事実に他ならな
かった。
 愕然とするFENNEK。それ以上口を開く事が出来ない。
 再度訪れる沈黙。
 その場にあるのは、下から聞こえてくる叫び声や爆発音、悲鳴(バトルロイヤル・・・
まだやってる(汗))と視線を戻して釣りに集中するセリオ、そして消沈しているFEN
NEKだけだった。





「セリオ。ちょっといいかい?」
 そこへ声がかかる。
「dyeさん・・・」
「ああ、すまない。久々野さんがセリオに用があるから来てくれって」
 現れた男、dyeは用件を簡潔に伝える。
「わかりました」
 セリオは頷くと、傍においてあった魚籠の中身(葵ちゃん連合:命名ギャラさん)を校
舎の縁から逃がしてやる。
 う〜む、キャッチ&リリース。
 そして、手早く釣り道具一式をまとめて帰り支度をする。
「それではFENNEKさん、失礼します」
「あ・・・ああ」
 セリオは一礼すると、校舎の中へと歩き出す。dyeもこちらに会釈して、その後に続
く。
 あとには、所在なさげといった感じのFENNEKが誰もいない屋上に佇んでいるばか
りだった。





「今の人、見たことないけど誰なんだい?」
 校舎に降りる階段に向かいながら、dyeは傍を歩くセリオに聞いた。
「・・・三年に転入したFENNEKさんだそうです」
「へぇ・・・・。めずらしいね、セリオが初めて会った人と世間話するなんて」
 そう言ってくるdyeにセリオは答える。
「そうかもしれません。ただ・・・」
「・・・・ただ、なに?」
 珍しく逡巡するセリオに、dyeは訝しげに問いかける。
「・・・ただ・・・あの人・・・・」
 その虚ろな瞳に少しばかりの戸惑いの色を宿し、セリオは呟く。
「・・・私とどこか似ているような気がします・・・・」
 セリオのその科白にdyeは一瞬驚いたような表情を浮かべるが、次の瞬間には感心した
ような優しげな顔をセリオに向ける。

『他の存在との共感』

 命ある者、意志を持つ者にとってはごく当たり前のもの。
 その感覚をセリオが抱いたことが、dyeには嬉しかった。
 それはすなわち、彼女が成長しているという証なのだから。
「さ、久々野さんが待ってるから急ごう」
「はい」
 二人は校舎へと入る階段を、久々野が待つ部屋へと向かって降り始めた。





「・・・・・・・・・はあ」
「どうかした? FENNEKくん」
 溜息をひとつついて外の景色を眺めていたFENNEKに、声がかかる。
「・・・千鶴先生」
 いつの間に現れたのか。そこにはこの学園の校長で教師で生徒、学園最強の誉れも高き
女性、柏木千鶴が立っていた。
「元気ないみたいね」
「そう見えます?」
「そう見えるわね。いまセリオさんと会っていたみたいだけど・・・それ?」
「・・・!?」
 いきなり核心を突かれ、驚きの表情を浮かべるFENNEK。
「ひょっとして、恋の病かなぁ?」
 冷やかすようにそう言ってくる千鶴に、FENNEKは笑って否定する。・・・ただし
どこか自嘲めいた笑いで。
「そんなわけないじゃないですか。
 ただ・・・セリオさんを見て、自分がどうして存在しているのか考えてしまったんで
す」
「存在?」
 千鶴は怪訝そうに尋ねる。視線でFENNEKに次の言葉を促す。
「俺は知っての通り、人間・・・いや生き物ですらありません。人に造られ、人に尽くし、
人のために使われる機械でしかないんです。いままではそれが当然だと思っていました。
生まれてから10年間・・・”オーナー”とともに過ごした頃は」
 FENNEKは千鶴にというより、自分に言い聞かせるように話し続ける。
「でも、俺は自我を持ちました。そしてそれからの15年は人間の世界で生きてきました。
人の姿をとることも出来るようになりましたし、言葉や文字、知識も学びました。
 だけど、俺はあくまで車。機械だということを忘れることはなかったんです。そして、
それはしょうがないことだと思っていました」
 そこまで一気に話すと、FENNEKはいったん言葉を切る。
「・・・・・・・・・・・・・」
 千鶴は先ほどまでの冷やかすような雰囲気を消し、静かにFENNEKの独白に耳を傾
けている。
「・・・でも今、セリオさんに会って自分の考えが間違っていることに気づかされたんで
す。同じ機械、メイドロボとして生まれたはずの彼女は、人間に近づこうと、人間の心を
知ろうと今一生懸命努力している。
 それに比べて俺はなんだ? あくまで機械? そんなの彼女に対する冒涜でしかない
じゃないか!」
 だんだん感情が高ぶってきたらしい。いったん言葉を切って自分を落ち着けようとする。
 FENNEKはこみ上げてくる感情を押さえ込むと、千鶴を正面から見つめた。
「・・・・俺もここで自分を探してみようと思います。機械だとか、人間だとか、そんな
のとは関係ない。いま、ここに在る自分をしっかりと認識してこれからどう生きていく
か・・・考えてみようと思います」

 

 ひょっとしたら逃げていただけなのかもしれない。
 現実から。そして、自分から。自分は人間ではないと勝手に卑下して。
 セリオはそれに気づかせてくれた。
 今まで逃げていた自分自身の愚かさ、弱さに。
 彼女と対等になりたい。
 彼女のあの瞳を正面から受け止めたい。
 彼女と、胸を張って心を語り合えるように。



「・・・・・探せるわ。この学園なら」
 それまで黙ってFENNEKの話を聞いていた千鶴はそう言った。
「この学園に通う生徒達は、誰もが何かを探しているわ。そして、自分なりの答えを見つ
けていく。それが学習であり、成長なのよ。
 FENNEKくんの答えもきっとここにあるはずよ。あなたがそれを求める限りね」
「そうでしょうか?」
「そうよ。求めればいずれ必ず見つかるわ。頑張りなさい」
「・・・・・頑張ります」
 その真摯な言葉に、FENNEKは自分を勇気づける様に笑って応えた。
「ところで・・・」
 千鶴はいきなり雰囲気をがらりと変える。なにか頼み事するときにするような、いわゆ
る『お・ね・が・いっ☆』顔というやつだ。
 その様子にFENNEKはいや〜な予感を覚えた。
「これから隣町まで用足しに行かなければならないんだけど、FENNEKくん乗せて
いってくれない?」
「あ、やっぱり・・・・」
 それを聞いて、途端に疲れたような顔になるFENNEK。
 彼を学園に連れてきた菅生誠治が千鶴に入学の許可を取った時に、彼女が入学の条件と
して出してきたのがこれだった。
 できればお断りしたいところだが、それができるような自由はFENNEKにはない。
「・・・・わかりました。それじゃ下まで降りましょう」
 そう言って階段へと千鶴を促す。
 二人は階下へと続く階段へと向かって歩き出した。
「・・・それにしても、ここの人達ってそんな答えを求めているようには見えないんです
けど・・・?」
 そんな、聞きようによってはとても失礼な質問を千鶴にぶつけるFENNEK。
 千鶴は、そんなFENNEKに微笑みかけながら答える。
「みんな探しているのよ。探していることに気づいているかどうかはともかくとしてね。
 ・・・いいえ、生徒だけじゃないわ。教師や職員、この学園に関わる者全てが何かしら
の答えを探し、求め、そして今を精一杯生きているの」
「千鶴先生も・・・ですか?」
 そう切り返すFENNEKに千鶴は苦笑する。
「そうね・・・。そうかもしれないわ」
 冗談のつもりで返した筈の質問を真面目に答えられ、FENNEKは戸惑いを隠せな
かった。
「さ、そんなことより早く下に降りないと。帰りが遅くなっちゃう。
 今夜は耕一さんのために手料理奮発するんだからっ☆」
 戸惑うFENNEKに関係なく千鶴はそう言うと、階下にのびる階段を軽やかなステップ
で降りてゆく。
 FENNEKはそんな千鶴に苦笑すると、階段と屋上を隔てる扉を閉めようとした。
 が、一瞬その動きが止まる。
 そして、自分たちがいままでいた屋上を振り返る。
 外から聞こえてくる喧噪。
 笑い声、怒鳴り声、雄叫び、爆発音、悲鳴、歓声・・・・。
 それらが入り交じり、絶妙なハーモニーとなって屋上まで届いてくる。

(自分なりの答え・・・・か)

 この学園は日々騒動に満ちあふれている。
 刺激的で、大げさで、それでいて楽しい毎日が。
 この学園にいる限り、日常に飽きることはないだろう。
 その中に、どこかにFENNEKが求める答えがあるのかもしれない。

「・・・・・よぉし、頑張るぞっ!!」
 景気づけるようにひとつ叫びを上げると、FENNEKは扉を・・・

 ガチャ

 閉めた。







                          ー了ー

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 ・・・・・・庵野風味に挑戦、あえなく撃沈(爆)
 というわけで、”萌えキャラ(?)との出会いLを書くつもりだったのに、なぜか妙な
具合になった”Lをお送りするFENNEKです。


 いやあ、この作品は今までで一番の難産になりました。
 大元は二ヶ月も前にできてたはずなのに、途中でばったりと筆が止まってしまいそのま
まHDDにしばらく放っておいたんですよねえ。
 その間、ファイルを開いては頭抱えてパソコンの前でもがき苦しみ結局そのまま閉じる
こと実に数十回! 悩んでる間、苦し紛れに出した作品二本!!
 しまいにはチャットで助けを求めて本当にメールで送ってしまう始末。
 まったくもって、よく完成したもんだなあ(笑)(←自分で言うな)



 今回のごめんなさい。
 セリオ嬢に釣られてしまった葵ちゃん萌えな方々及びバトルロイヤルに参加したであろ
う綾香萌えな方々です。本当にごめんなさい(平謝)



 さて、次回はライトなギャグに挑戦してみようと思います。ある意味FENNEKの天
敵になるであろう方々の登場です。
 ・・・・まあ前作のあとがき読めば誰だかは一目瞭然ですが(笑)



 それでは今回失礼にもメールを送り付け助けを求めた腐れバカに嫌な顔ひとつせず丁寧
なアドバイスを下さった葛田玖逗夜さんに最大級の感謝の意を表しつつ、この辺りで失礼
します。また次の機会にお会いしましょう・・・。