偽典Lメモ『大戦』第九話 投稿者:Fool


 ルミラ様大活躍ぅ〜……の巻っ!(笑)
(…つうか、キレまくり/爆)
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               ▼あらすじ▼

 学園内に侵入した魔物達と戦うLeaf学園の生徒達。
 飛び交う怒声と咆吼に、大地は爆ぜ、風は震える。
 そんな中、剣も魔法も効かない敵に苦戦していたティリア達の前に、耕一が
颯爽と姿を現した。





            偽典Lメモ『大戦』第九話

                −修羅−





「はぁ、はぁ、はぁ…」
 綾香は満身創痍といった風体で、荒い息をついていた。
 美しい顔は自分の汗と土埃で汚れ、着ている服はボロボロに破け、腕や脚の
白い肌には幾つもの裂傷が走っている。
 それでも構えは崩さず、対峙しているリザードマンの様子を伺う。
 対する相手も湾刀を斜に構えながら、グルルと綾香を威嚇する様に喉の奥を
鳴らしていた。

 綾香の足下には、既に動かぬリザードマンの骸が四体あった。

 ――あと一つ…。

 手足の感覚がかなり微弱になっている。疲労が溜まっている証拠だ。
 綾香は消え入りそうになる意識を必死に踏みとどまらせ、大きく息を吸う。
 吸った空気を感覚的に臍の下辺りへ溜め、そこから全身に広がって行くよう
に思い描いてから、ゆっくりと吐き出す。

 何度かその呼吸法を繰り返すと、綾香の身体に力が戻ってきた。

 ――こちらも、あと一撃が限界ね…。

 回復してきた力を、ただ一撃の為に蓄える。

 グルアァァァァァァッ!!

 綾香の微妙な動き感じ取ったリザードマンが彼女に迫った。

 風が唸り、湾刀が振り下ろされる。
 しかし、綾香は相手の動きよりも素早く、リザードマンの懐へ飛び込んだ。
「シッ!」
 同時に、飛び膝蹴りを相手の顎に見舞わす。
 綾香の膝は、相手の下顎を確かに捉えた。
 鈍い音がして、大きく仰け反る爬虫類の頭。
 更に飛び膝蹴りの勢いを利用しつつ、綾香は身体を左に捻ると、リザードマ
ンの伸びた首めがけて、強烈な跳び後ろ回し蹴りを叩き込む。

「チェイサァァァァァァァァァッ!!」

 確かな手応え。勝った――と彼女は思った。が、その確信は脆くも崩れ去る。
 綾香の蹴りを受けた相手は倒れるどころか、ニタリと不気味に嗤った。

 ベストな状態の綾香であったなら、この一撃で勝敗は決していたであろう。
 しかし、今の彼女は“疲労”という枷を付けて闘っていた。
 リザードマン四体分の疲労は、数分でどうこう出来るレベルでは無かった。

 蜥蜴人間は彼女の蹴り足をその鱗だらけの手で掴むと、力任せに放り投げる。
「あうっ!」
 受け身も取れずに地面を転がる綾香。
 不思議と痛みは無かった。身体に蓄積した疲労物質が、痛覚すら奪っていた。

 敵が地面を踏み鳴らしながら近付いて来る。

 ――動いて! 私の身体!!

 綾香は起き上がろうとしたが、四肢は脳からの命令を拒否した。

 ――駄目…みたい…。ここまでか…ふふ…。

 何故か笑みが零れた。恐怖は無かった。
 代わりに、頭の中に一人の男の姿が浮かんだ。
 かつて《爪の塔》と呼ばれた場所で、一緒に過ごした友の姿が――。

 リザードマンの足が止まり、湾刀を振り上げる風切り音がした。

 ――ハイド……最後にあんたの事…思い出すなんてね…。

「…や…かっ!」
 覚悟を決め目を瞑る綾香は、ふとハイドラントの声を聞いた気がした。
 彼女は自分の耳を疑った。今際の際の幻聴だと思った。
 だが――。

「綾香っ!」
 ハイドラントの声はもう一度、今度はハッキリと聞こえた。

 ――嘘!? ハイド!?

「プアヌークの邪剣よ!」
 綾香が目を開けると同時に、自分の横を白色の光熱波が通過する。
 それは、寸分違わずリザードマンの頭部に命中し、これを吹き飛ばす。
「もう一つ!!」
 続いて放たれた光熱波が、今度は胴に風穴を開けた。

 どうっ、と湾刀を持ち上げたままの姿勢で、蜥蜴人間は仰向けに倒れた。



「綾香っ! おい! 綾香っ!!」
 ハイドラントは倒れている綾香に駆け寄り、彼女を抱き起こす。
 全身を見回すと、所々に細かい切り傷が見られるが致命傷らしき物は見あた
らない。

「どうだ? 何処か痛むか?」
 と訊くハイドラントに、綾香はその手を弱々しく持ち上げ、目の前の男の額
を軽く小突いた。
「遅いぞ、コラ……。…あんまり女の子を待たせんじゃないわよ」
 大分疲れた感じだが、いつも通りの綾香の口調にハイドラントは安堵の息を
つく。
「すまない、別の所の始末に手間取った。…でも、大丈夫そうで安心した」
「あんたの目は節穴? これのどこが大丈夫そうなのよ」
「それだけ憎まれ口が叩けりゃな」
「バカ…」
 照れながら顔を逸らす綾香を見て、ハイドラントは優しく笑った。





「mars! mercury! moon! venus!」
 不思議な韻を含んだ言葉を紡ぎながら、ルミラは右手の人差し指を、目の前
の空間にスラスラと泳がせていく。
 その姿は、まるでキャンバスに筆を走らせる天才画家の様であった。

 ルミラの指先には仄かな灯りが点っており、彼女が指を動かす度に、光の軌
跡がそこに文字を浮かび上がらせる。
 文字はやがて一つに集まり、幾何学的な図形――魔法陣を形作った。
「IGNISION!!」
 大きな声を上げるルミラ。
 すると、空に浮かんだ魔法陣が弾け飛び、同時に、地を覆う魔物の大群から
次々と巨大な火柱が立ち上った。

 火柱は魔物達を次々と焼いてゆく。

「ほらほら! 次行くよ!!」
 すかさず右手を目の前に持って来て、再び魔法陣を描いていく。
「AIR SLASH!!」
 今度は何処からともなく吹いた突風が、魔物の群の中を暴れ回る。
 突風は目に見えない風の刃と化し、魔物達を切り裂いていった。

 魔物の群の中から、血飛沫と共に悲痛な叫び声が上った。

「まだまだぁっ!」
 遊びに夢中になった子供の様な嬌声を上げながら、ルミラは指を動かし続け
る。
「mars! jupiter! sun! saturn!」
 閃光が煌めいた。
「EXPLOSION!!」
 耳をつんざき、地を揺さぶる程の爆音と、物凄い衝撃波が魔物達を包み込ん
だ。

「楓ちゃん!」
 楓を抱き寄せ、襲い来る爆風から彼女を守る西山。
 彼の腕の中で身を固くする楓。

 やがて視界が晴れると、あれほど溢れかえっていた魔物達の姿は完全に消え、
代わりに大きなクレーターが一つ。

「くくくく…はははは…あーっはっはっはっ!!」
 悦の入った表情で笑うルミラ。
 一方的ともいえる殺戮の現場をバックに笑っている姿は、ゾクリとする程、
危険な魅力に溢れていた。
 狂気と快楽の狭間の嘲笑――。
 西山は、知らずの内に唾を飲み込んでいる自分に気付く。
 彼女の中に、気を抜くと吸い込まれてしまいそうな、そんな魔性の奈落を見
た気がした。



「あーあ、こうなると止まらないんだよね〜、ルミラ様って…」
 肩を竦めて呆れた様にエビルが言うと、残りの下僕達が同時に「うんうん」
と頷く。

「ほら、ほら、ほらぁっ! もっと私を楽しませてよ!」
 そんなルミラの声に答えてか、空が歪み始め、青い身体を持つ一匹の大きな
翼竜が姿を現した。

 キシャァァァァァァァァァァァッ!!

「今度はブルードラゴンさんみたいですね〜」
 額に手をかざしながら翼竜の姿を見ていたアレイが、長閑な声で言う。
「おい、それって…」
 ヤバイんじゃないか? と目で訊く西山に、無言でイビルが頷き、
「いわゆるボスキャラってヤツですね」
 フランソワーズが補足する。
「アイツの雷をまともに食らった日にゃ…」
 くいっ、と首を掻き切るポーズで舌を出すメイフェア。
「うにゃにゃにゃにゃにゃ〜!」
 それに合わせて、たまが苦しみ悶える仕草を見せる。

「上等!!」
 ルミラは蠱惑的な色をした、その形の良い唇をペロリと嘗める。
 彼女の瞳は、喜々とした光を放っていた。

 キシャァァァァァァァァァァァッ!!

 青い翼竜――ブルードラゴンは、天に向かって吠えると、ルミラ達の上空を
旋回し始めた。
 合わせて、空を覆う雲がゴロゴロと鳴り出し、稲光が零れ始める。

 すかさず、ルミラは呪文の詠唱に入った。
「mercury! moon! sun! saturn!」

 キシャァァァァァァァァァァァッ!!

「BARRIER!!」

 ブルードラゴンの咆吼と、ルミラの魔法の発動が同時だった。
 青い翼竜の呼び声に導かれる様に、稲妻が雷鳴と共に空を駆け、一同めが
けて落ちてくる。
「っ!!」
 思わず目を瞑り、西山に抱きつく楓。

 しかし、稲妻はルミラ達に命中する事なく、彼女らに当たる直前で散った。
 まるで、そこに見えない壁でもあるかの様に。

「甘い甘い! そんなヤワなカミナリじゃ私に傷一つ負わせられないよ!」
 ブルードラゴンを不敵に挑発するルミラ。

 キシャァァァァァァァァァァァッ!!

 天に向かって叫ぶ翼竜。再び上空の雲から稲光が漏れ始める。
「はん! このルミラ様に同じ手が二度も効くと思っているの!? 私も舐め
られたもんね」
 そう言いながら、ルミラは右手動かす。
「mars! mercury! jupiter! moon! sun!」

 ブルードラゴンが第二弾を放とうと、眼下のルミラを見下ろした正にその時、
「自分の呼んだ雷に打たれな! THUNDER!!」
 パチンとルミラの指が鳴った。

 先程以上の雷鳴が辺りを震わし、稲妻がルミラ達ではなく、ブルードラゴン
を縦に貫く。

 一瞬で炭化した青い翼竜は断末魔を上げる間も無く、失速した飛行機のよう
に地面に向かって落ちていった。





 空間に生じた歪みから、まるで津波のような勢いで迫る巨大な芋虫達。
 芋虫達の全長は二、三メートルといったところか。
 数に至っては、これは数えようが無い程の大群であった。

「キャリオンクローラーだ! エリア!!」
 ティリアはエリアに目配せする。
 エリアはコクリと頷き、持っていた杖を地面刺して目を瞑り、ブツブツと呪
文を唱え始めた。

 キャリオンクローラーと呼ばれた巨大芋虫の大群は、キーキー鳴きながらテ
ィリア達に迫る。
 二者の距離が数メートルまで縮まった時、エリアの魔法が発動した。
「コルズ!」
 彼女が刺した杖を中心として、凄まじい速さで扇状に地面が凍結していく。
 やがて、それがキャリオンクローラーの群れに到達すると、芋虫達は次々と
瞬間冷凍され動きを止めてゆく。

「いくよ!」
 ティリアが剣を構えて走り出す。
「オッケェ!」
「おう!」
 サラと耕一が彼女に続いた。

「はあっ!!」
 銀光一閃、エリアの魔法で凍結したキャリオンクローラー達をフィルスソー
ドで粉々にしていくティリア。
 サラも愛用の鞭で、耕一も鬼と化した手で同じ様に破壊していく。



 半分くらいまで三人が進んだ時、エリアは三人の前方の空間が歪み始めたの
に気付いた。
「気を付けて! 新手です!!」

「なに!?」
 耕一が手を止め、前に視線を走らせる。
 エリアの言うように、前方の空間が歪んでおり、そこから異界の魔物がこち
らの世界へ実体化している途中だった。

 今回のは、キャリオンクローラー達のような集団ではなく、一匹の個体だっ
た。
 小型の軽トラック程の大きさを持った球状の物体が、歪んだ空間の向こうか
ら姿を見せる。

 その球体には四肢らしき物は付いておらず、身体の中心に大きな目が一つだ
けあった。
 目の下には、鋭い歯列の並ぶ大きく裂けた口。
 球の頭頂部には頭髪とおぼしき触手が数本生えており、それらが不気味に蠢
動を繰り返している。

 その姿を一目見た時、耕一は背筋に氷嚢を押し付けられた様な感じを覚えた。
 瞬間的に本能が警告を発する。あれは危険な存在だ――と。

「ビボルダー…」
 驚愕に目を見開かせているサラ。
「ちいっ! なんて厄介なヤツが」
 ティリアは歯噛みしながら剣を地面に突き刺し、両手で不思議な印を結ぶと、
実体化途中のビボルダーへ向ける。

 目を閉じ精神を集中させ呪文を紡ぐティリア。
 すると、ビボルダーの周囲に次々と火花を散らす光球が出現し始めた。
「シャインクルス!」
 ティリアの魔法が発動した瞬間、それらの光球から凄まじい光を放つ雷撃が
ビボルダーに襲いかかる。

 同時に、
「ウィルドバーン!」
 後方のエリアが、ティリアに合わせて自分の魔法を行使させる。
 雷撃に包まれているビボルダーを中心にして風が巻いたかと思うと、それは
瞬く間に巨大な竜巻となってビボルダーを包み込む。

「ダルコルド!」
 とどめとばかり、サラも魔法を使う。
 遙か上空に巨大な氷塊が出現し、竜巻ごとビボルダーを押し潰した。



「やっ…たの?」
 誰に言うともなく呟くティリア。
「いや…」
 耕一が氷塊を凝視しながら呟く。
「まだ生きている…」
 彼の目は氷塊の中で蠢く影を捉えていた。

『…DEG…NEEDLE……』

 その時、氷塊の中から、聞く者の肌を粟立たせるおぞましい声が聞こえた。

 瞬間、何処からともなく銀色に鈍く輝く細長い針が無数に現れ、耕一達を取
り囲む。

「に…」
 耕一の口が「逃げろ」と動くより早く、無数の針は彼らの身体を貫いていっ
た。



 氷塊が砕け、中から無傷のビボルダーが姿を現す。

 ビボルダーは地面に倒れている耕一達に、その大きな眼で一瞥をくれると、
学園旧校舎の方へ向かって飛び去った。





                              ――つづく





               ▼次回予告▼

 耕一達を一瞬で打ちのめしたビボルダーが旧校舎に迫る。
 その強大な魔力で、旧校舎周囲に張られた結界を破るビボルダー。
 結界を破られた事に気付いたルミラは、エビルとイビルを連れ旧校舎に向
かった。

 次回、偽典Lメモ『大戦』第十話−羅刹−。

 生きる事の辛さ、厳しさ――。

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 ルミラ様が使っている魔法は、ソーサリアンのヤツです(爆)。
(ちなみにビボルダーのも/笑)
 某セーラー服戦士’Sとは無関係です(笑)。
(ああっ! 設定無視してゴメンよ、ルミラ様!)

 それと、もしフィルス本編で、ビボルダーが雑魚キャラだったらどうしよう
カシラ……(汗)。