偽典Lメモ『大戦』第六話 投稿者:Fool


 ルミラ様は、書いていて楽しかったキャラその1(笑)。
 ちなみに、その2は遊輝(笑)。
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               ▼あらすじ▼

 巨人との戦いで吹き飛ばされた耕一は、なんとか学園本校舎まで戻ってきた
が、ズタズタに破壊された惨劇の場を見て、激しく慟哭する。
 一方、旧校舎の中では、久々野によって驚くべき事実が明かされていた。
 なんと、学園を壊滅させた巨人の正体は、SGYという名の転入生だった。





            偽典Lメモ『大戦』第六話

                −兆候−





 夜が明けた。
 空は相変わらずの曇天で、朝日は厚い雲の彼方でぼやけている。

 弱々しい光によって照らし出される試立Leaf学園――。
 謎の巨人――SGYによって破壊され、瓦礫のオブジェと化した建物群は、
昨日の出来事が全て現実であったことを静かに物語っていた。





 鉛色した雲をバックに、大型の鳥が数羽、弧を描きながら飛んでいた。
「ふ〜…」
 旧校舎の屋上で、手摺りに寄りかかりながら空を眺めていたルミラ・ド・
デュラルは、鳥達を見て嘆息をつく。
「……」
 けだるそうな仕草で、パチンと指を鳴らすルミラ。
 その瞬間、上空を舞っていた鳥の一羽が、まるで銃に撃たれたかのように
「ギャッ」と悲鳴を上げ、ひらひらとルミラの元に落ちてきた。
「……」
 無言のまま、落ちてきた鳥を見下ろすルミラ。
 それは、牡鹿の頭を持った奇妙な鳥だった。
 彼女は「やれやれ」と頭を掻きながらぼやく。

「…ペリュトン…破滅の前兆たる凶鳥…か。厄介なモンが紛れ込んでるわね…」





「学園メインサーバーへ接続……。よしっ!」
 他のに比べて、少しだけ原型を留めている建物の中、一人の男が瓦礫に腰掛
けながら、膝に乗せたモバイルタイプのパソコンを操作していた。

 男の名前はOLH。Leaf学園の二年生である。

 彼のパソコンからはケーブルが伸びており、それは瓦礫の中に埋もれた、一
台のデスクトップタイプのPCに接続されていた。
「幹部専用回線へアクセス……パスワードは…っと……」
 歯切れの良いキータッチの音が、瓦礫の山で反響していく。
「…ビンゴッ!!」
 指をパチンと鳴らすOLH。同時に、彼のパソコンのLCD上に様々な情報
が表示され始めた。
「へへっ…この混乱時だ、セキュリティも甘いと踏んでたけど思った通りだ」
 OLHは喜々とした表情を浮かべる。

 しかし、目の前の事に気を取られ過ぎていた彼は、自分の背後の瓦礫から、
半透明なゲル状の物体が這い出してきたことに気付かなかった。





 生徒達が避難した旧校舎では、風紀委員による朝食の配給が始まっていた。

 ロールパンと紙パックの牛乳だけという、簡素で質素なメニューを黙々と食
べる生徒達。

「あれ…? あそこにいるの、恋ちゃんじゃ…」
 配給されてきた朝食のパンを口に入れようとした時、あかりは窓の外に見知
った顔を見つけて手を止めた。
「間違いない、恋ちゃんだよ」

 恋――本名、東雲恋。あかりと同じ一年の生徒である。

「ん?」
 あかりの隣でパンを頬張っていた浩之も、つられて窓の外を見てみる。
「本当だ…。なにやってんだ? あいつ…」
 彼女は、本校舎の方に向かって歩いていた。
「どうしたんだろ…?」
 嫌な予感を感じたあかりは、朝食の乗った盆を床に置いて教室を飛び出した。
「あ、おい待てよ、あかり!」
 浩之も、パンをくわえながら後を追った。





「恋ちゃ〜ん!」
 後ろから声を掛けられ、振り返る恋。だがその声の主が判ると、僅かに眉を
寄せた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
 そんな恋の仕草など気付かず、走り寄ってくるあかり。

 ――どうして…。

 鬱陶しげに恋は目を細める。
「はぁ、ふぅ、はぁ、ふぅ、追いついた。えへへ…」
「……」
「…はぁ、ふぅ…何処…行くの? はぁ、はぁ…危ない…よ…」
 恋の側まで来たあかりが、息を切らしながら人なつっこい笑みを浮かべた。
 しかし恋は、つい、と彼女に背を向け再び歩き出す。
「あ、待ってよ、恋ちゃ…」
 そう言って、あかりが手を伸ばしかけた時、
「来ないで!!」
 激しい一言が、彼女の手を止めた。
「なんで私に付きまとうの!? ほっといてよ!!」
 振り返り、あかりを睨み付ける恋。
 一瞬、ビクッと身を竦めたあかりだったが、すぐにニッコリ微笑む。
「だ、だって…友達じゃ…」
「…そう思っているのはアンタだけよ!!」
「恋ちゃん…」
「うざったいのよ! いっつも、子犬みたいに笑って近付いてくるアンタが!」
 あかりの肩を強く掴み、激しく捲し立てる恋。
「どうして!? どうしてそうやって笑ってられるの? ねぇ!」
「……」
「嫌なのよ! 同情されてるみたいで!!」
「……」
 恋の口から発せられる言葉の嵐を、あかりは黙って聞いていた。
 彼女は恋の激しい怒りの中に、深い悲しみを見ていた。
 心に傷を負った者が持つ哀愁を――。

 やがて恋は俯き、嗚咽を漏らす。
「恋ちゃん…」
 そんな彼女に、あかりが言葉をかけようとした時、
「あかりっ!! あぶねぇっ!!」
 背中から浩之の叫ぶ声がした。
 はっ、と振り返ったあかりの目の前に、黒い影が空から降り立った。





「凄い…こんな情報まで……」
 モバイルパソコンのLCDを食い入るように見つめながら、一心不乱にキー
を叩くOLH。

 その時、背後から瓦礫の崩れる音が聞こえた。
 OLHの指が止まる。
 異様な気配を感じ、恐る恐る振り返る。
 するとそこには、ぬらぬらと輝く半透明の物体が、OLHを狙って鎌首をも
たげていた。

「ヒッ!」
 短い悲鳴を上げ、本能的に逃げようとするOLHに、その物体は襲いかかっ
た。
 しかし僅かに狙いが逸れ、半透明の物体の攻撃は、彼の持っていたパソコン
に命中した。
 パキャッ! と小気味良い音を立てて砕け散るパソコン。
「しまったっ!!」
 破壊されたパソコンに気を取られたOLHは、足下の瓦礫に気付かず、それ
に足を取られて転んだ。
「ひっ!!」
 無様に尻餅を付くOLH。
 なんとか起き上がろうとするが、恐怖のためか、足がもつれて上手く動かな
い。
 半透明の物体は、そんな彼にゆっくりと近付いていく。まるで、獲物を嬲る
かのように。

「や、やめろ…。来るな…」
 尻餅を付いた形で、ずりずりと後退していくOLH。やがて、その背が瓦礫
の山に当たり、彼の退路は断たれた。
 その時を見計らったかのように、物体が跳んだ。
「来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 OLHは反射的に、半透明の物体に向かって手を伸ばしていた。

 彼の心臓が一回だけ大きく鳴った。
 同時に、自分の中でなにかが弾けるのを感じ、その弾けたモノが腕を伝わり、
手から放出されたのを知覚した。
 轟と風が鳴り、その後、辺りを静寂が押し包んだ。



 OLHが、はっと我に返った時、目の前に半透明の物体の姿は無かった。

 先程、自分の手から放たれた“力”の感触が思い出される。
 狐につままれた様な表情で、自分の手を見るOLH。
「…俺が…やった…のか?」
 そこからは、確かな“力”の残滓が感じられた。





 シャアァァァァァァァァァァッ!!

 威嚇するような鳴き声を上げて、恋とあかりの前に降ってきたのは、巨大な
異形の蛇だった。
 熱帯雨林に住む大型の蛇を、更に大きくさせたような長く太い身体に、人間
の頭蓋骨の形をした頭部が付いていた。

「ヒッ!」
 恋とあかり、二人は文字通り、蛇に睨まれた蛙のように竦みあがった。
 異形の蛇は、口からチロチロと舌を覗かせながら、その窪んだ眼窩で、目の
前の獲物を値踏みするように見ていた。

「あかりっ! 東雲! 逃げろっ!!」
 二人と蛇を挟んだ所にいる浩之は、大声であかり達に呼び掛けるが、二人の
足は震えたまま動こうとしない。
「チッ!」と舌打ちしてから、浩之は武器になりそうな物を探して自分の周り
を見回す。

 求める物は、自分のすぐ側にあった。

「てりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 足下に落ちていた鉄の棒を拾い上げると、浩之は異形の蛇に向かって駆けた。





 朝食を食べ終え、窓際の壁に寄り掛かってくつろいでいた二年の東雲忍は、
外の喧噪を聞き、窓の外を見た。
「なにっ!!」
 表では、見たこともない蛇のような化け物に、二人の女生徒が襲われそうに
なっている。
 その二人を助けようと、一人の男子生徒が武器らしき物を携え、異形の蛇に
向かっていた。
「あれは…恋!?」
 忍の身体は、襲われている女生徒の顔を見た瞬間、窓の外へ飛び出していた。





「この野郎っ!!」
 異形の蛇の数歩手前で、浩之は地面を蹴って大きくジャンプすると、相手の
頭に鉄の棒を振り下ろす。
 しかし、渾身の力を込めて振り下ろした筈の鉄棒は、情けない音を立てて弾
かれた。
「なっ!」
 蛇は、ちらりと後ろを見ると、驚いている浩之に自分の尻尾を叩き付ける。
 それは太い鞭のようにしなり、浩之の身体を捉えた。
「ぐはあっ!!」
 吹き飛ぶ浩之。
「ひ、浩之ちゃん!」
 悲鳴を上げるあかり。
 その声で、蛇の狙いはあかりに決まった。
 眼窩を赤く光らせながらあかりの睨め付けると、口を大きく開けて襲いかか
った。
「っ!!」
 思わず目をつむり、全身を強張らせるあかり。
 対して我を取り戻した恋は、彼女を抱きかかえ横に跳ぶ。

 蛇の頭部は目標を失い地面に激突し、そこを抉った。
 二人は、受け身も取れずに地面に倒れ込む。
「あうっ!」
 その際、あかりは頭を強く打ちつけ、昏倒してしまった。

 再び、異形の蛇が鎌首を持ち上げた。

 シャアァァァァァァァァァァァァァッ!!

 逃れた獲物を、怒り露わに睨み付ける。
「あかり! あかりっ!」
 恋はあかりを激しく揺さぶるが、彼女の意識は回復しない。
 もはや逃げることが出来ない。そう観念した時、疾風の如き速さで人影が
蛇と二人の間に割り込んできた。
 恋は、その人影の背中に見覚えがあった。
 それは、いつも自分の事を気遣ってくれる存在――。
 それは、いつも自分の事を護ってくれる人――。
 それは、唯一の肉親、実の兄――。
「お兄ちゃん!?」

「恋に触るなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 その人影――忍は、眼光を怒りに燃え上がらせながら、蛇の首根っこを鷲掴
みにする。

 ギシャアァッ!!

 苦しみに表情を歪める蛇。
「燃えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 と、忍が掴んだ手に力を込めると、異形の蛇は紅蓮の炎に包まれ爆発した。



 辺りに焦臭い匂いが立ちこめていた。
 忍によって爆砕された蛇の肉片が、ピクピクと痙攣している。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
 恋に背を向けたまま荒い息を吐く忍。
「お兄ちゃん…」
 妹は、そっと兄の背中を抱きしめた。





                              ――つづく





               ▼次回予告▼

 にわかに学園内部が慌ただしくなる。
 SGYとの再戦に向け、静かに動き始める久々野。
 同時に、学園内に魔物の侵入を検知した芹香は、旧校舎付近に結界を張り巡ら
す。

 次回、偽典Lメモ『大戦』第七話−胎動−。

 戦いの予感が学園を包み込む――。

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 ん〜、今回も短め〜(笑)。
 恋とあかりのトコは、もう少し掘り下げて書いても良かったかな……。