偽典Lメモ『大戦』第十一話 投稿者:Fool
 ラヴラヴモード、その一ぃ〜(笑)
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               ▼あらすじ▼

 ビボルダーによって結界が破られ、旧校舎の中に魔物達が侵入を始めた。
 逃げまどう人々の中で沙織を見つけた祐介は、彼女を守る為にたった一人で
魔物に闘いを挑む。
 一方、ビボルダーとの魔法戦に突入したルミラだったが、一瞬の虚を突かれ
窮地に陥ってしまった。
 しかしその時、耕一の腕がビボルダーの身体を貫いた。





            偽典Lメモ『大戦』第十一話

                −鎮魂−





 灰色の雲の向こうで、太陽が西の彼方へ沈み始める。
 古びた校舎と体育館は落日の光を受け、まるで血を浴びたかのように赤く染
まっていた。

 戦闘は数時間前に終了していた。
 ビボルダーが耕一に倒された辺りから魔物の数は減少を始め、やがてその姿
を完全に消した。
 今は生き残った人間達が、今回の戦いで命を落とした者達を荼毘にふせてい
る最中だった。

 無言のまま遺体を焼く炎を見ている者――。
 傷つき、汚れた顔で嗚咽を漏らす者――。

「願わくば……とこしえの眠りについた者達の魂が……安らかでありますよう
に……」

 重苦しい空気が辺りを包む中、芹香は死者達の魂を慰める為に、か細い声で
鎮魂の呪文を詠っていた。





 頬を撫でる柔らかな風を感じ、祐介の意識は覚醒した。
「長瀬ちゃん…」
 最初に視界に映ったのは瑠璃子の顔。
「瑠璃子…さん? …僕は一体……」
 そこで祐介は自分が寝かされている事に気付き、起き上がろうとした。
「痛ッ!!」
 同時に背中が焼けるように痛み、そして全てを思い出した。
「そうだ…僕は沙織ちゃんを守って……っ! 戦いは!? 戦闘はどうなった
の!?」
 上体を起こし、瑠璃子に詰め寄る祐介。
 そんな祐介を、瑠璃子は慈愛に満ちた笑みを浮かべながら寝かしていく。
「終わったよ…長瀬ちゃん…」
「終わった?」
「うん…。だから、今はゆっくり休んで…」
「そうか…」
 息を吐きながら全身の力を抜き、瑠璃子のされるがまま横になる祐介。

 寝た格好のまま辺りを見回すと、祐介はこの部屋が旧校舎の一室であることが
判った。

 床には毛布が引かれ、自分はそこに寝かされていた。
 上着は脱がされ、変わりに真新しい包帯が上体に巻かれていた。
 窓は少し開いており、そこから微風と共に弱い西日が部屋の中へ射し込んで
来る。
 室内には瑠璃子と祐介の二人しかおらず、心地よい沈黙が部屋の中を優しく
包んでいた。

「瑠璃子さん…」
 暫く黙っていた祐介が、ふと口を開いた。
 何? といった風に首を少し傾げる瑠璃子。
「ゴメン…」
 謝罪する祐介に「どうして?」と彼女は微笑んだ。

「…あの時、あの巨人の騒動の時…僕、瑠璃子さんの声…聞こえなかった…。
助けて、助けて…って叫んでいた君の声……聞こえなかったんだ……。君のお
兄さんに言われて、初めて判って……それで…僕……ぼく……」
 言いながら段々涙声になっていく祐介。右腕で顔を隠す。
「長瀬ちゃん…」
 瑠璃子は首を横に振った。
「いいの、もう…。あれは…あれは仕方ない事だもの…。長瀬ちゃんは悪くな
い…悪くないよ…。だから自分を責めないで。私は大丈夫だったんだから……
ね?」
 そう言って祐介の頭を撫でてやる瑠璃子。
 彼女に頭を撫でられながら、祐介は、ただただ咽び泣いた。



 二人のいる部屋の外で、壁に寄りかかりながら頭を垂れている沙織。
「祐くん……やっぱり月島さんの事が……」
 微かに震える彼女の頬を、光の雫が伝った。





 同じ頃、旧校舎の別室では、楓が西山の背中の傷の手当をしていた。

 傷は決して軽傷ではなかったが、幸いにも既に出血は止まっていた為、楓は
傷口の周囲の洗浄と消毒だけを行い、そこにガーゼを当てて包帯を巻いていく。

 慣れていないせいか、包帯を巻く手つきがぎこちない。
 そんな彼女に、西山は苦笑を漏らした。

「…っつも…」
 不意に楓の口が言葉を紡いだ。
「ん?」
 頭を後ろへ動かす西山。背中越しに見える楓の頭が、少しわなないていた。
「いっつも無茶ばっかりして……」
 きゅっ、と西山の肩を握る楓。
「楓ちゃん……」
 西山は自分の肩に乗せられた楓の手に触れる。
「大丈夫、君は俺が護ってみせる。その為なら、死ぬ事だって…」
「やめてっ!!」
 西山の言葉を、楓の悲痛な叫びが遮った。
「楓…ちゃん?」
「もう、もう嫌! 目の前で人が死んでいくのを見るのは、もう嫌なの!」
 西山の背に頭を押し付け、楓は声を押し殺して泣いた。
「…ごめん……」
 彼女の涙に、学園屈指の猛者の心と背中が疼くように痛んだ。





 辺りがすっかり暗闇に落ちた頃、《臨時生徒会室》とプレートの掛けられた
部屋の中では、拓也は窓際の机に腰掛けながらボンヤリと薄暗い外を眺めてい
た。

 室内には他の生徒会役員達の姿はなく、部屋の中央に置かれた端末群からこ
ぼれる光が拓也の横顔を彩る。
 天井では、ジジジと切れかかった蛍光灯が鳴いていた。

 コンコン――。

 不意に扉をノックする音が聞こえ、
「どうぞ」
 と拓也は姿勢を変える事なく無愛想に答える。

 扉を開けて部屋に入ってきたのは、風紀委員長の久々野と一年のdyeだっ
た。

「すまなかったな、突然呼び出したりして…」
 拓也は二人に向き直り、自分の側の席を勧める。
 久々野は拓也と同じ様に机の上に、dyeは椅子を引き出してその上にそ
れぞれ座った。
「先程、外から連絡があった。予定通り明日、次元間通路が復旧するらしい」
「時間は?」
 拓也の口から発せられた朗報に久々野の目が光った。
「午前中には繋がるそうだ」
「それじゃ…」
 何かを言いかけたdyeに向かって、拓也は「ああ」と頷くと、
「一般生徒の学園外への退去が済み次第、巨人……SGYとのリターンマッチ
だ!」
 自分の胸の前で右拳を左の掌に打ちつけた。
 パシンと乾いた音が室内に響く。

「久々野」
「作戦草案と参加人員のリストアップは済んでいるよ」
「dye君」
「空間亀裂の応急処置は終わっています。暫くの間は今回みたいな大規模の侵
入は起こらないでしょう」
「よし! …では夕食後にブリーフィング開始だ」
 拓也の言葉に、二人は大きく頷いた。





 数時間後――。

 旧校舎の一室には、何人かの人間が集められていた。

「緊急の召集とはな…。なんなんだ? 一体…」
「ま、集まっている面子を見れば、大体想像付くけどね…」
 顎に手を当てながら不審げに言うハイドラントに、側にいた綾香が軽く肩を
竦める。

 部屋に集められている面子は、耕一、千鶴、梓、楓、柳川と柏木家ゆかりの
人間に、芹香と綾香の来栖川姉妹。そして、ハイドラントと西山の計九人――。

「なるほどな…」
 綾香の言葉で、室内に視線を走らせたハイドラントが呟く。
「どいつもこいつも、腕に覚えのある奴らと言う事か…」

 その時、部屋の前側の扉が開いて、拓也、久々野、dyeの三人が姿を現し
た。
「待たせたね」
 部屋の中に入る拓也。残りの二人もそれに続く。

 拓也は教卓の前に立つと室内を軽く見回した。
 そこで、彼は訝しげな表情を浮かべる。
「…おや? 岩下君が来ていないようだが…」
 と拓也が言った時、後ろ側の扉が開いて、右腕を吊った姿の岩下が部屋の中
に入ってきた。
 全員の視線が岩下に集中する。
「遅れてすまない…」
 岩下は軽く詫びの言葉を言うと、空いている席に座った。
「負傷者以外、これで全員揃ったか…」
 拓也の脇にいた久々野が、小声で呟いた。

「さてみんな、今日はご苦労様。みんなのおかげで魔物の侵入は抑える事が
出来た」

 拓也は、一つ咳払いをしてから全員の労をねぎらう。

「今現在はdye君と来栖川君が施した術が効いているから、当分魔物による
大規模の侵攻は無いだろう。しかし、それはあくまで応急処置だ。根本の原因
を断たねば、再び奴らはここへ攻め入ってくる……」

 それから拓也は、ここ数日間の魔物襲撃事件の原因が、元を正せば六日前の
巨人にあると説明した。
 巨人の存在はLeaf学園周囲の時空間に多大な負荷を与えている為、異な
る空間同士を隔てる次元隔壁に亀裂が生じ、その綻びから異世界の住人である
魔物達が学園に侵入して来た――と。

「…明日、長らく不通だった次元間通路が復旧する。これにより、一般生徒や
負傷者を外の世界へ避難させる事が可能になった。…しかし、我々は一連の騒
動に決着を付ける為、学園に留まり巨人を斃す為の作戦を実施する。みんなに
集まってもらったのはその為だ」

 しわぶきの音一つ無く静まり返る室内。

 不思議と拓也の言葉に驚きや不満の声は上がらない。
 先程ハイドラントが漏らしたように、集まった者達の面子を見れば、そんな
事だろうと、余程の馬鹿でもない限り気付く。

「異存は…ないようだな…」
 誰も反論しない。それどころか、皆の瞳には十分な闘気が溢れていた。
 それを答えと受け取った拓也は話を進める。

「さて、作戦会議を始める前に、一つみんなに話しておきたい事がある。それ
は件の巨人についてだ」
 拓也の目が僅かに鋭さを増した様に見えた。
「例の巨人の正体、それは先頃一年に転入してきたSGYという生徒だ」
 ざわめきが波紋の様に広がった。
「そんな…まさか、ヤツが…」
 信じられないという感じの西山。
「……」
 無言のまま吊された手をさする岩下。

「独自に調査した結果、SGYは外部組織から何らかの意図をもってこの学園
に入って来たらしい」
「外部組織? …俺達の古巣みたいな所か?」
 ハイドラントが久々野に訊いた。
「ああ」と頷く久々野。
 拓也の話が続く。
「恐らく、SGYとは生体兵器の一種と思われる。それも、プロトタイプの…」
「じゃあ何? ここはテスト場に選ばれたって事?」
 声に怒りを込めながらも、静かな声で尋ねる綾香。
「恐らく、そういう事だろう…」
 彼女に答えたのは柳川だった。
「ふざけんな! そんな、そんな理由でみんなは死んでいったの? 冗談じゃ
ない!!」
 いきり立ち、目の前の机を殴りつける梓。
 梓の一撃を受けた机は、無惨な音を立てて砕け散った。
「梓、落ち着け」
 久々野がなだめる。
「でも!」
「過ぎてしまった事に感情を高ぶらせても仕方ない。今、我々がする事はSG
Yを斃す事だ。…それが死んでいった者達への弔いにもなる」
「そう…だけど…」
「梓…彼の言うとおりよ。今はそれが最善なの」
「千鶴…姉…。うん、判った……」
 久々野と千鶴に諭され、静かになる梓。

 そこで、拓也は再び咳払いを一つした。
「この中にはSGYと交流のあった人間もいるだろう。だが、今の奴は我々に
仇なす敵だ。複雑なところだろうが、その辺の私情は捨ててもらう」
 拓也の言葉に、柳川を除いた全員が首を縦に振った。
 ただ一人、荒ぶる狩猟者の魂を持ったこの教師だけは「ふん」とつまらなそ
うに鼻を鳴らした。

「さて、詳しい作戦内容は、ここにいる久々野が説明する…。久々野…」
 今まで拓也の脇にいた久々野が、拓也と入れ替わる形で教卓に立つ。

「それでは、今回の作戦について説明します…。まず…」
 その時、久々野の言葉を遮る形で、ガタンと誰かが席を立った。柳川だ。
「柳川先生?」
 僅かに眉をひそめる久々野。しかし柳川は気にした様子もなく、そのまま部
屋の後ろを通り後部の扉を開けた。
「おい! どういうつもりだ!」
 耕一が立ち上がり彼の肩を捕まえる。
「馴れ合いはゴメンだ」
 柳川は耕一の手を払うと、
「俺は自分の好きにやらせてもらう。お前らの指図は受けん」
 そう言い残して部屋から出ていった。
「柳川!」
「柏木先生!」
 更に追い立てようとする耕一を久々野の声が止める。
「仕方ありませんよ…」
 首を横に振る久々野。
 耕一は何処か納得しない様子だったが、渋々と自分の席に戻った。



「…今回の参加人員ですが、約二十人程になります。メンバーはここにいる皆
さんと、ティリア先生、サラさん、エリアさん。…それと、ルミラさんと彼女
の配下五人です」

 黒板に白いチョークで図を書きながら説明していく久々野。

「ティリア先生達は昼間の戦闘で負傷した為、今はここにいませんが、作戦に
は参加します。…それと、同じく負傷した長瀬祐介君ですが、彼の場合、肉体、
精神共にかなり疲労している様なのでメンバーから除外しました」
 祐介の名前が出たところで、拓也は不快感に眉を寄せた。

「さて、実際の作戦内容について説明します…。今現在、SGYは学園の存在
している空間とは別の異空間に潜んでいます。SGYの場所はこちらで掴んで
いるので、我々がこちらから向こうに出向き、先手を打ってこれを撃破」
 バンと黒板を叩く久々野。
「…その後、学園へ帰還して作戦は終了です」



 次に、久々野は参加人員を三班に分けた。
 一つは、SGYの潜む空間に転移する為の空間転送術を行うAチーム。
 もう一つは、Aチームが施術中に全くの無防備になる為、想定される魔物
の襲撃から彼らを守るBチーム。
 最後は実際にSGYと戦うCチーム。

 それぞれのチーム構成は、Aチームがティリアをリーダーとした千鶴、梓、
楓、綾香の五人。
 Bチームが拓也をリーダーとした、サラ、エビル、イビル、メイフィア、ア
レイ、たまの七人。
 そしてCチームは久々野をリーダーとした、ルミラ、エリア、耕一、岩下、
芹香、西山、ハイドラント、dyeの九人に決まった。

「…以上です。何か質問は?」
 一通り説明が終わると、久々野は教壇の上から一同を見渡す。

 誰の手も上がっていないのを確認すると、
「…では、作戦は明日、一般生徒の避難完了もって開始。…以後、本作戦をオ
ペレーション・ディエス・イレと呼称します」
 そう言って会合の終了を告げた





「生徒会長、話がある…」
 会議が終了し、皆それぞれに部屋を出て行こうとした時、久々野が拓也を呼
び止めた。

「なんだ? 話って?」
 他の人間が部屋を後にし、室内が二人だけになった頃に拓也の口が動いた。
「D作戦の前にどうしても話しておきたい事があってね…」
「ふっ、ずいぶん神妙な顔だな…。お前らしくもない…」
「……」
 軽く茶化す拓也だったが、目の前の男がいつもの皮肉で返さないので彼も表
情を引き締めた。
「真面目な話か?」
「……」
 久々野は静かに頷いた。





                              ――つづく





               ▼次回予告▼

 作戦発動を明日に控えた夜、戦士達はそれぞれの時を過ごす。
 そんな中、拓也は久々野から《SS使い》と呼ばれる人間達の話を聞く。
 言葉や文字で世界の事象に干渉できる人間達がいる、と聞かされ戸惑う拓也。
 やがて、学園は《オペレーション・ディエス・イレ》の朝を迎えた

 次回、偽典Lメモ『大戦』第十二話−前夜−。

 様々な想いを胸に秘めて――。

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 本当は、夕食の場面があって、そこで好恵とエビル達のドタバタお笑い炊き
出しシーンが入る予定だったんだけど、上手くまとまってくれないからボツ。
 でも大丈夫(何が?)、ちゃんと好恵の出番は次回に用意したから(笑)。

 あと、SGY殲滅作戦名は《ディエス・イレ》と《ラグナレク》のどちらに
しようか迷ったけど、後者だと銀英伝(笑)になっちゃうし、第一、ラグナレ
クって言葉自体色々な所で目にするんでディエス・イレに決定。
 意味は第一話の冒頭で書いたけど審判の日(怒りの日)って事らしいです。
(元ネタはモーツアルトのレクイエムから。餓狼伝説2の対クラウザー戦BG
Mと書けば、その筋の人には判っていただけるかと……/笑)