偽典Lメモ『大戦』第十七話 投稿者:Fool

 あと少しだけ続きます。
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               ▼あらすじ▼

 遊輝と戦い、彼女の持つ力によってSGYは致命的な傷を負う。
 その機を逃さず、久々野達が動いた。
 傷付いたSGYの身体をルミラの魔法が貫き、西山の奥義が吹き飛ばし、芹
香の召喚した不死鳥が両断し、岩下の炎が燃やし尽くした。





            偽典Lメモ『大戦』第十七話

                −帰還−





 芹香が元の世界に帰る為の魔法陣を地面に描いていた。
 dyeとエリアがそれを手伝い、猫の姿に戻ったエーデルハイドが、魔法陣
の外から彼らの動きを眺めていた



 西山とハイドラントと耕一は、激戦地に穿たれた大きなクレーターの縁に立
ち、底をマジマジと見つめていた。

 クレーターは直径、深さとも数十メートルに及び、激闘から一時間程経過し
た今でも表面は赤く溶け、しゅうしゅうと熱い蒸気を立ち上らせている。

 SGYを飲み込んだ火球は、ある一定の質量まで増加すると、今度は逆に縮
小し始め、そして消滅した。
 後に残されたのは、この大地に穿たれた巨大なクレーター。
 その何処を探してもSGYの姿は無かった。

 立ち上る蒸気が三人の姿を陽炎の様にぼかす。
「これなら、さすがのヤツでも生きちゃいないな…」
 耕一の言葉に残りの二人が頷いた。



 久々野は、耕一達から少し離れた所で瓦礫に腰掛けながら、ぼんやりと空を
眺めていた。

 空を覆っていた暗雲は消え去り、今では決戦前に見えた青い空が一面を覆っ
ていた。

 ――あれは一体…。

 久々野の頭は、雲の向こうでSGYと戦っていた少女の事を考えていた。

 辺りを見回しても、既にその姿は無い。
 彼女は一体何だったのだろう。
 華奢な体つきであるにもかからわず、SGY以上の力を持っていた少女――。
 恐らく、彼女無しでは今回の勝利は有り得なかったと久々野は思う。
 だが、そんな強大な力を持つ少女の存在を、彼は今の今まで知らなかった。

 ――まさか、彼女もSS使いか?

 SS使い――。
 言葉や文字で世界の事象に干渉出来る存在――。人の想念を具現化出来る存
在――。
 試立Leaf学園には故意か偶然か、そういった者達が集まってくる。
 今回の騒動であるSGYもそうだった。
 SGYが巨人と化したのは、SS使いとしての力が暴走した――というのが、
久々野の見解だ。
 同時に、それは他のSS使いが第二、第三のSGYになりうる危険性をも示
していた。

 ――もしかしたら、次は俺の番かもしれない…。

「久々野君」
 不意に名前を呼ばれ、久々野は思考を打ち切る。
 いつの間にか、横に岩下が来ていた。
「考え事かい?」
 と問う岩下に、「いや」と苦笑を浮かべながら久々野は立ち上がった。
「久しぶりにはしゃぎすぎたもんで、少し疲れたのさ…」
 土埃を払いながら言う久々野に、岩下は、
「ふっ、君がそんなタマかよ…」
 と笑った。





「四時半…ですか」
 セバスチャンはボロボロになった上着から懐中時計を取り出すと、文字盤を
見ながらポツリと呟いた。
 彼の前には、同じくボロボロの服を着込み、顔に幾つかの裂傷を負った拓也
が瓦礫の上に腰掛けている。
 拓也は空を仰ぎながら、
「もうそんな時間か…」
 と疲れた様に呟く。
 空が快晴なら、そろそろ茜色のヴェールが辺りを包み始める頃だが、この曇
天ではそれも望めそうにない。

 彼らの周りには、魔物達の死骸がたくさん転がっていた。
 血生臭い匂いが漂っていたが、疲労の為か嗅覚は鈍感になっており、今の拓
也は、この嫌悪感を催す悪臭も大して気にならなかった。

 所々、二人がいる所の様に、瓦礫の山が骸の海から顔を出していて、そこに
は他のメンバーが身体を休めていた。
 幸いにも、Aチーム、Bチーム共に死者はいなく、皆、疲れてはいるが生き
ていた。

 魔物達の攻撃が止んで、およそ三十分が経過していた。
 あれほど大量に現れていた魔物達だったが、ある時を境に、その侵攻がピタ
リと止んだ。
 気付けば、いつしか魔物達の姿は消え去り、後にはこの膨大な骸と拓也達が
残された。
 いや――。
 あと一つ、拓也達に加勢したした忍装束姿の者達も消えていた。
 結局彼らの正体は判らなかったが、それも今となってはどうでも良い事だっ
た。
 戦いに疲れた彼の脳は、深く考える事を放棄していた。

 ――これは掃除が大変だな…。

 自分の足下に転がる魔物達の死骸を見ながら、そんな事を考える自分に苦笑
する拓也。
「予定通りなら、そろそろ帰ってくる筈だが…」
 そして自分達のいる所から、少し離れた所にある転送魔術用魔法陣に視線を
移す。
 魔法陣に変化は無い。その周りに立つティリア達もトランス状態に入ったま
まだ。
「久々野達は…まだか…。全員無事だといいが…」
 少し目を細めて魔法陣を見る拓也。
 SGY討伐のCチームを気遣う彼だったが、表情に浮かんだ心配の色は少な
い。

 そこにいる全員、何となく判っていた。
 簡単な事だった。何故、突然魔物達の侵攻が止んだのか?
 そもそも、魔物達がLeaf学園に襲来したのは、学園のある空間と魔物の
蠢く空間とを隔てる“壁”に亀裂が入ったからだ。“壁”の亀裂さえ治れば、
魔物達はこちら側に来る手だてを失う。

“壁”に生じた亀裂は結果である。SGYという存在が壁に負荷を与え亀裂を
生じさせていたのだ。
 結果は原因を取り除けば無くなる。
 結果の産物である魔物達が消え去ったという事は、即ち原因の消失。
 答は既に出ていた。



 転送魔法陣が眩い光を放ち始めた。
 全員が眩しさを堪えながらそれを見る。
 光は徐々に光度を増していき、そして、唐突に消失した。



 皆、魔法陣に向かって駆け出す。
 最初はゆっくり、そして全速力で。

 光の消えた魔法陣の中には、良く知ってる九人の姿があった。

 洪水のような足音と歓声。
 それは、一週間に渡る戦いの終焉を告げるフィナーレの様であった。





「お帰り! ルミラ様!」
「ただいま、イビル」
「お帰りなさい…」
「お帰りなさい、ルミラ様」
「ふふ…ただいま、エビルにフランソワ…」
「うにゃにゃにゃにゃにゃん!!」
「お帰りなさ〜い! ルミラさまぁ〜」
「はいはい、ただいま。タマにアレイ…」
「ルミラ様、お疲れさんです」
「アンタもね、メイフィア…」



「ハイド!」
「よお綾香…」
「また、ずいぶんとボロボロね…」
「はは、まあな…」



「エリア、無事かい?」
「サラ…。ええ、私は大丈夫です。…ティリアの方は?」
「私ならピンピンしてるよ」



「英志…君…」
「ただいま、楓ちゃん…」
「……」
「……」



「耕一さん…良くご無事で……」
「千鶴さん……」



「お嬢さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! よくぞ! よくぞご無事で!!」
「……」
「は? あなたも無事で何よりです…とぉ!?」
 こくり。
「くぅぅぅっ! 私の様な老いぼれの身を案じて下さるとは! このセバスチ
ャン! まっこと嬉しゅうございますっ!!」





 再会を喜ぶ人々達を、彼らから離れた所で眺めているジンとセリス。

「賭はお前の勝ちだな…」
 セリスが言った。
 彼の肩を借りているジンは、ただ曖昧な笑みを浮かべるだけだった。





「…首尾は?」
「…この状況を見て、そんな野暮な事を訊くなよ…」
「…そうだな…。お疲れ様、風紀委員長…」
「こっちも大変だったみたいだね、生徒会長…」
 お互いのボロボロ姿を見て、ぷっと吹き出す拓也と久々野。
 そんな二人の前に梓がやって来た。

 拓也は久々野の背中を軽く押すと、その場から離れた。
「邪魔者は退散するよ」
「なっ…」
 珍しく、久々野が照れた表情を浮かべた。

「あ、あのさ…その…」
 久々野の前に立ち、恥ずかしそうに身をくねらせている梓。
「その…なんつうか…あ〜、お、おかえんなさい、ショウ…」
 梓らしい「お帰りなさい」に思わず苦笑する久々野。
 同時に、一言で言い表せない様な甘酸っぱい感情が胸の中に広がっていく。
「ただいま、梓…」





 とても穏やかな空気が流れていた。
 自然と零れる笑い声。
 誰も口にはしなかったが、誰もが理解していた。
 辛い戦いは終わったのだ――と。

 だが、明日からは様々な仕事で忙しくなるだろう。
 破壊された学園の修復、犠牲者の弔い、今回の騒動の原因追求と報告書の作
成など、仕事は山積み状態だ。
 先の事を考えると頭が痛くなるが、でも今日だけはゆっくり休もう。
 熱いシャワーを浴びて、やわらかなベッドの上でグッスリ眠ろう。
 そう拓也は思った。
 戦いを終えた戦士には休息が必要だと。





「おかしい…」
 皆が浮かれ合っている時に一人、岩下だけは難しい顔で空を凝視していた。
 彼の視線の先にあるのは、SGYが出現した時と同じままの鉛色した雲。
 SGYは消滅した筈なのに、未だその雲からは禍々しい気配が感じられた。

 ――まさか…。

 嫌な考えが岩下の脳裏を掠める。
 浮かび上がった疑念を必死に消そうとしても、どんどん心の中で大きくなっ
ていく。

「どうした?」
 岩下の表情が硬い事に気付いた久々野が訊いた。
「ん? ああ、いや…なんでもない…なんでもないんだ……」
 気のせいだと自分に言い聞かせても、何かが引っかかる。幾つもの修羅場で
鍛えられた彼の直感が警告を発している。

 ――嫌な、嫌な予感がする…。

「岩下君?」
 拓也も岩下の様子がおかしい事に気付いた。
「大丈夫かい?」
 と岩下に向かって足を一歩踏み出した時、彼は視界の隅で蠢く“それ”を見
つけた。

“それ”は転送魔法陣の中で蠢いていた。
“それ”は、大きさにして赤子の拳程のピンク色した物体だった。
 大きさが大きさだったから、恐らく誰も気付かなかったのだろう。

 拓也の顔が強張る。
 ぞくりと全身を走る悪寒を感じ、彼は本能的に叫んだ。
「みんなっ!! 逃げろっ!!」
 同時に、“それ”が聞き取れないような小さな声で、何かを言った。
 皆が一斉に拓也の方を見た時、辺りを閃光が包み込んだ。





 激しい爆発音を聞いた次の瞬間、久々野は自分が地面に倒れているのを知覚
した。
 身体のあちらこちらに痛みを感じる。
「一体何が?」
 痛みを堪えながら体を起こした久々野の目に飛び込んできたのは、遙か天空
に向かって伸びる大きな光の柱だった。
「何!?」
 光の柱は、転送魔法陣が描かれていた場所から発生していた。
 そこで久々野は初めて、自分が先程立っていた場所から、かなり吹き飛ばさ
れている事を知った。
「これは一体!? みんなは!?」
 慌てて周囲を見舞わすと、右の方でハイドラントが頭を押さえながら起き上
がろうとしているのが見えた。
「うう…つぅ…っ!! な、何だ!?」
 起き上がったハイドラントは、驚愕の表情を浮かべて光の柱を見る。
「ハイド、無事か!?」
「久々野!? あれは一体…。それにみんなは!?」
「わからん…だが…」
 唇の端を噛みしめる久々野。
「まさか…まさか、ヤツか!?」
「恐らくは…」
「馬鹿な! ヤツは、SGYは確かに消滅した筈だ! 久々野! お前も見た
だろう!」

 そう、確かにSGYは異空間の戦闘で消滅した筈だった。
 しかし、目の前に起きている事象がそれを否定していた。

「だが生きていたんだよ…」
 不意に背後から声がして振り返る二人。
「月島…」
 ハイドラントの口が、背後に立っていた人物の名前を告げた。
 二人の背後には、拓也が拳をきつく握り締めて立っていた。
「どういう事だ?」
 久々野が訊いた。
 拓也は、厳しい表情で光の柱を睨み付けながら久々野の側にやって来る。
「ほんの一かけらの肉片が、魔法陣の中に紛れ込んでいたんだ。それから再生
したのさ…」





 大きく太い光の柱が天を突いていた。
 真夏の太陽の様に明るいが、その輝きは、同時に真冬の太陽の如く冷たい。

 ゆらり、と柱の中に蠢く影。
 影は、徐々にその質量を増加させていた。

 おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…。

 影が忌まわしき復活の咆吼を上げた。
 ビリビリと空気が振動し、地面が揺れた。
 やがて、光が弱まっていく。
 それは、まるで中にいる存在が光を喰らっているかの様な錯覚を覚えさせた。

「あつつ…一体何が?」
 頭をさすりながら起き上がる耕一。その表情が強張る。
「何!? こ、これは…」

 ガラガラと瓦礫の山が崩れ、中から岩下が姿を見せた。
「やはり…。ヤツめ、生きていたか…」
 苦い表情で呟く岩下。

「なんて…なんて強大で禍々しい力…」
 呆然と立ちつくすティリア。
 恐怖のあまり、手にした聖剣が震えていた。

 おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 凄まじい殺気が放射された。
 そこに居合わせた誰もが、身体の底から沸き上がる絶対的な恐怖を感じた。
 カタカタと歯が小刻みに鳴った。膝がガクガクと笑った。
 ある者は立っている事すら出来ずに膝を折る。
 喉の乾きを感じ、唾を飲み込もうとしても唾液すら分泌されない。
 代わりに、諦めにも似た乾いた笑いがこみ上げてくる。
 呼吸は荒くなり、鼓動は速くなる。
 そんな、圧倒的な殺意の波動の放射だった。





 復活したSGYのプレッシャーは、離れた所にいたセリスとジンをも襲った。
「くっ!!」
 顔に苦悶を刻み、必死に堪えるジン。
「な、なんて殺気だ! こんなヤツ、今まで見た事無い」
 セリスの奥歯がギリリと鳴った。





 やがて光の柱は消失し、完全復活したSGYが姿を現した。
 その姿は、あらゆる面で以前の物を遥かに凌駕していた。

 ゆうに十メートルはあろう体躯に、左右三本ずつの剛腕が付いていた。
 灰白色の外骨格に覆われた身体には爬虫類を彷彿とさせる頭部があり、そこ
には地獄の業火さながらの燃える双眸と、天に向かって伸びる二つの角があっ
た。
 背には身体を隠せる程の巨大な漆黒の翼と、背骨に沿って生えている鋭利な
突起物。
 足は付いてなく、変わりに樹齢数千年を刻んだ巨木の様な長く太い尾が身体
を支えていた。

 何と強大で、何と禍々しい姿か。
 その姿は、とぐろを巻いて威嚇している蛇を彷彿とさせる。
 否――そんな生易しいものではない。
 今のSGYは、神話などに記されている、終末の日に現れるという蛇の姿を
した絶対的な破壊者そのものであった。

 ――こんな…こんなヤツと、どうやって戦えっていうんだ…。

 呆然と立ち尽くす久々野。
 今までに感じた事無い戦慄に、自分の手が震えていた。冷たい汗が滲んで
いる。
 彼我の力の差は、埋めようもないほどに広い。
 例えるなら、蟻が象に挑むようなものだ。
 如何に、自分達が強大な技を駆使しようとも、SGYにしてみれば蚊の一刺
し程にしか感じないであろう。
 強力なゴム鉄砲を作ったところで戦車の装甲は破る事は出来ない。
 加えて尋常ではない再生能力。
 以上の事柄から導き出される解答は、即ち絶望――。





 喉の奥を鳴らしながらSGYが動いた。
 自分の周りにいる、震える事しかできない哀れな者達を見下ろす。
 何のつもりか、六本ある腕の一つをその集団の一つに向けた。
 腕の先には、ティリアとエリア、そして、アレイとたまの姿が。
 彼女らに向けて掌を開くSGY。
 と、開いた掌がいきなり真横に裂け、そこが地の底から響く様な低いくぐも
った声でこう言った。
『プアヌークの邪剣よ…』

「何ぃっ!?」
 ハイドラントが驚きの声を上げると同時に、ティリア達に向けた掌から光熱
波が彼女らに向かって放たれる。
「俺の! 俺の魔術だとぉっ!?」
 だがそれは、ハイドラントの物よりも太い光の奔流だった。

「くっ!!」
 咄嗟にティリアは三人の前に立つと、SGYの放った光熱波を剣で受け止め
る。
「くっそおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 しかし、光熱波に押されじりじりと後ずさるティリア。
「リンクス!!」
 彼女の後ろにいたエリアが防御魔法で加勢するが、それでも光熱波の勢いは
止まらなかった。
 二人の抵抗も空しく、SGYの放った光熱波はティリア達の立っていた地面
を、爆音と共に大きく吹き飛ばした。

「うわあぁぁぁぁぁぁっ!!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」
「あれぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「うにゃにゃぁぁぁんっ!!」

「ティリアーッ! エリアーッ!」
「アレイっ! たまっ!!」
 サラとイビルの悲痛な叫びが交錯する。



 続いて、SGYは別の手を動かした。
『mars…jupiter…moon…venus…saturn…』
 その掌にも口とおぼしき物が現れ、身の毛のよだつ声を吐き出した。
「あれは私のっ!?」
 ルミラの顔が驚愕に引きつる。
 呪文を唱えている手の前に、光り輝く幾何学的な模様が次々と浮かび上がり、
それらが一つに融合して空間上に魔法陣を描く。

「我は紡ぐっ! 光輪の鎧っ!!」
 反射的に、久々野は防御の音声魔術を叫んでいた。

『DEG−THUNDER…』
 空がゴロゴロと唸ったと同時に、無数の落雷がSGYの周囲に降り注いだ。

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 為す術もなく、雷に打たれていくLeaf学園最強の精鋭達。



 おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!

 勝ち鬨の咆吼を上げるSGY。
 その時、上空の雲を突き破って、一つの流星がSGYに向かって落ちて来た。

 それに気付いたSGYは空を仰ぎ、落下してくる星に向かって顎を開くと、
喉の奥から、凄まじい光量の光を放たった。

 光線は狙い違わず流星に激突した。
 爆発する流れ星。
 爆音が辺りを揺るがし、もうもうと煙が空に浮かぶ。

「おのれ!! 冥府魔道に堕ちずに迷い出たか!!」
 煙の中から、若い女の凛とした声が響く。
「ならば今度こそ、二度と黄泉帰れぬよう滅殺してくれる!!」
 一陣の強い風が吹き、漂う煙を飛ばす。
 そこには、激しく憤慨した遊輝の姿があった。

 背に生えた純白の翼を広げ、SGYへと滑空していく遊輝。
 獣が威嚇する様な声で空が鳴った。

 新手の、それがかつて自分を苦しめた相手の出現にも、SGYはさして臆し
た様子もなく、六本ある腕の一つを降下中の遊輝に向ける。
『咬壊(こうかい)…』
 おぞましい声が向けた腕の掌から発せられた。
「なっ!?」
 遊輝の動きが止まった。
 同時に、彼女に向けられたSGYの掌が、まるで何かを握りつぶすかの様に、
ぐっと閉じられた。
 それに合わせて、遊輝の身体が不可視の力を受けて拉げ始めた。
「ぐっ!? こ、こやつ…わ、妾の力を……」
 苦しげに呻く遊輝。
 動きの止まった遊輝をSGYは、空いている別の手で易々と捕まえると、そ
の華奢な身体を勢い良く地面に叩き付けた。
「ぐはぁっ!!」





「ぐはぁっ!!」
 ジンの身体が突然拉げた。
「遊輝の…力を……。な、なんてヤツ…だ……」
 力無くその場に崩れ落ちるジン。
 彼の身体から血液が溢れ出し、辺りに血の池を作り出す。
「ジィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!」
 セリスの叫びが赤い池に反射していた。





                              ――つづく





               ▼次回予告▼

 Leaf学園精鋭達の技を引っ提げて完全復活したSGY。
 もやは、弱点はおろか死角すら見あたらない相手に、拓也はうなだれる。
 だが、ただ一人、久々野だけはその足をSGYへと向けた。
 その瞳にある決意を浮かべて。

 次回、偽典Lメモ『大戦』第十八話−自虐−。

 其は、自らを傷付ける唄なり――。

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 やっぱり、あの“唄”が出ないとね(笑)。

 あ、SGYの第三形態(最終形態)は、ピラミッド・ソーサリアンに出て
きたボスキャラの一つ、ガドルガンとOVA版ガリアンに出てきた邪神兵を
足して二で割って、腕を六本にした感じ(笑)って思っていただければ幸い
です。