偽典Lメモ『大戦』第十四話 投稿者:Fool
 あ〜、今回の話を書いている時、《創造者の罠》つう漫画を読みました。
 故に、影響をモロに受けてます(笑)。
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               ▼あらすじ▼

 D作戦が開始され、久々野以下Cチームの九人は異世界へと跳躍し、そこで
魔神――SGYと相見える。
 お互いの存続を賭けた戦いが、今、始まろうとしていた。





            偽典Lメモ『大戦』第十四話

                −再戦−





「先手必勝っ!」
 右手をSGYに向け叫ぶハイドラント。
「プアヌークの邪剣よっ!!」
 彼の手から光熱を帯びた衝撃波が放たれ、尾を引きつつSGYへ伸びていく。
 しかし彼の放った音声魔術は、目標に当たる瞬間、不自然な動きで曲がった。
「何っ!?」
 呆然となるハイドラント。
「まさかバリア!?」
 dyeが叫んだ。

 おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ…。

 彼らに向かって、SGYの口が大きく開かれる。

「まずいっ! 散れっ!!」
 久々野の合図で九人が散開するのと、SGYの口から閃光が放たれるのが同
時だった。

 破壊エネルギーの固まりである閃光は、一同が立っていた場所を誤差も無く
捉え、一瞬で熔解させる。
 轟音と爆風と衝撃とが辺りを激しく揺さぶり、もうもうと噴煙が溢れて大地
を覆い空に昇る。

 と――。

 煙が揺らめき、SGYの左手に回り込む様に流れた。
「我は放つ! あかりの白刃っ!!」
 刹那、そこから放たれた九条の光熱衝撃波が煙を散らし、久々野の姿を浮か
び上がらせる。

 九条の光はSGYに向かって行くが、先程のハイドラントの時と同じ様に、
命中する直前であらぬ方へ曲がった。
「やはり、障壁の類か…」
 歯噛みする久々野。

「小賢しいバリアなぞ吹き飛ばすまでよ!」
 そんな力強い声と共に、久々野とは逆の方向、SGYの右手方向に向かって
煙が動いた。
 煙の中から姿を現したのは不敗流宗家、西山英志。
「超級覇王デンパ弾っ!!」
 西山の身体が紫色の光球に包まれ、そのまま彼は上空の魔神めがけて飛ぶ。

 迫り来る紫の光球に向かって、右手を向けるSGY。
 すると二者の間の空間が、一瞬、たわんだ様に見えた。

「むおっ!?」
 光球と化した西山は、不可視の力によって空中で止められていた。
「不敗流を舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 しかし、彼は気合いの込めた叫び声を上げ、その不可視の力に抗う。
 西山の身体を覆う紫光の輝きが増したかと思うと、徐々にではあるが彼の身
体がSGYに向かって進み始めた。

「ぬおぉぉぉぉぉぉぉりぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 力比べは西山の方が競り勝った。
 紫球は遂に不可視の障壁を抜け、敵本体へと迫る。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 戒めから解き放たれた彼は、SGYの右手を吹き飛ばしつつ脇腹にめり込み、
そのまま左肩へと突き抜け、空に舞う。

 西山の開けた穴から血の色をした体液が溢れ出るが、当のSGYは怯んだ様
子もなく、頭を左に向け空中の西山に向けて口から閃光を放つ。

「なんのっ!!」
 西山は技を解きながら自分に伸びてきた光線をひらりとかわすと、そのまま
SGYに向かって降下していき、
「レッドブラッツ! フィンガァァァァァァァァァッ!!」
 右の掌打をSGYの頭部に見舞わす。
 斬肉音と共に深々と抉られる魔神の頭部。
「どうだっ!」
 が、SGYは頭を潰されながらも、左手で西山の身体を掴み取った。
「しまったっ!!」
 獲物を捕まえた左腕の筋肉が膨張する。
「ぬぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 悶える西山。その時、彼は自分の骨が軋む音に混じって獣の咆吼を聞いた。

 グオォォォォォォォォォォォォォォォッ!!

 それは、鬼の姿へと変化した耕一の雄叫びだった。
 耕一は魔神の真下へ躍り出ると地面を蹴って跳躍し、SGYの左肘から先を
跳び蹴りで切断する。
 その隙に手から抜け出す西山。
「スイマセン、助かりました耕一先生」
「君にもしもの事があると、楓ちゃんが悲しむからな」
 鬼の顔のまま、耕一は冷やかし気味笑った。



 SGYから見て左手500メートル程の所にハイドラントと岩下がいた

「ちっ、なんて再生能力だ」
 吐き捨てる様に言うハイドラント。

 彼の言う通り、SGYは物凄い速度で傷を治しており、既に西山に負わされ
た傷は完治していた。
 耕一によって切り取られた左腕も不可視の力で吸い寄せ、その身体に吸収し
てゆく。
 すると、まるで蜥蜴の尻尾の様に、新しい腕が切断された箇所から生えてき
た。

「奴を斃すには致命的なダメージを連続で叩き込まないと…。それこそ、再生
する間を与えずに…」
 ハイドラントの横で、険しい表情を浮かべてSGYを睨み付ける岩下。

「ウダウダ考えるより、実力行使っ!!」
 不意に、左からそんな声がして、二人は横を見遣る。
 二人のいる所から数10メートル程行った所に、ルミラの姿があった。
「取り敢えずは、あいつを地面に引きずり落としてやるわ!」
 彼女は空に浮かびながら、腕を組み不敵に笑っていた。
「行くよ! デカブツ!!」
 組んでいた腕を解き、右手を眼前へと持ってくる。
 指先が仄かに輝き始めた。
「mars! jupiter! moon! venus! saturn!」
 呪文を詠唱しながら、燐光放つ右手で空中に魔法陣を描いてゆくルミラ。
 その動きに呼応するかの様に、上空を覆う雲に稲光が走り始めた。
「喰らえぇぇぇぇっ! DEG−THUNDER!!」
 彼女の叫びに合わせて、空から稲妻がSGYに襲いかかった。
 凄まじい落雷音。しかし、魔神を覆う見えざる障壁はビクともしない――が、
落雷の攻撃は一度で終わらず、二度三度とSGYに襲いかかる。
 そして、五回目に落ちた稲妻が遂に障壁を突破し、SGY本体を縦に貫いた。

 ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 落雷音に負けず共劣らないSGYの絶叫。
「エリア! 今よ!!」
 眼下に向かって叫ぶルミラ。いつの間にか彼女の下にはエリアがいた。
 手に馴染む愛用の杖を構えつつ、呪文を紡いでゆくエリア。
「ウィルドバーン!!」
 彼女の声が高らかに魔力の行使を宣誓すると、SGYの周囲の空気が渦を巻
き始め、それは見る見るうちに巨大な竜巻になった。

 エリアの発生させた巨大竜巻は、魔法障壁の消え去った魔神の身体を情け容
赦なく切り刻んでいく。

 ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!

 荒れ狂う暴風の中で、苦しげな叫び声が木霊する。

 ルミラとエリアの混合魔法を受けたSGYはバランスを崩し、地面に向かっ
て落ちて行った――がしかし、衝突の瞬間に六枚の羽を広げて体勢を整えると、
その巨体を難なく地面に着地させる。

「それを待っていたのよ!」
 着地の時を狙って、ルミラは次の魔法が発動させた。
「SUN−RAY!!」
 空を覆う雲を割って、眩い光が地表に降り注いだ。
 光は、まるで剣の如く地表を削りながらSGYへ迫り、その背中生える六枚
の羽を根本からごっそり斬り取る。

 ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

「あはははっ! いい気味ね! まるで羽をむしられた哀れな蝙蝠だわ!」
 苦しみ悶えるSGYの姿を見て、腹を抱えながら笑うルミラ。

「今だ!!」
 この機を逃さずに攻める岩下。
「炎の精霊達よ! 怒れる鳳凰の羽ばたきとなり、我が意志の命ずる者を焼き
尽くせっ!」
 岩下は蒼く燃える右腕をSGYに向けた。
「烈火蒼炎柱蓋ッ!!」
 彼がそう叫んだ瞬間、腕の炎が獲物を見つけた蛇の如く揺らめき、勢いを増
しながらSGYめがけて伸びていく。
 岩下から放たれた蒼い炎はSGYの身体に絡み付き、巨大な火柱となって敵
の姿を包み込む。

 ぎしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 肉の焦げる匂いにSGYの絶叫が乗る。
 しかし、岩下の炎に身体を焼かれながらも、同時に次々と皮膚を再生してい
くSGY。

「とどめは俺に任せろ!!」
 右腕を天に向かってかざして叫ぶハイドラント。
「むんっ!」
 彼が気合いを込めると、掌から黒い稲妻が迸った。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…」
 ハイドラントの息吹に合わせて、黒い稲妻は徐々に細長く、そして鋭くなっ
ていき、やがて一本の黒い槍と化した。
 彼は自らの生み出した漆黒の槍をその手で掴むと、
「行けぇっ! 黒破雷神槍ッ!!」
 SGYに狙いを付け、投げつけた。

 ハイドラントの手を放れた黒い槍は、衝撃波で地面を削りながらSGYに迫
り、そして、寸分違わず魔神の胸に命中し、背後へと抜けた。

 ぐるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 崩れ落ちるSGY。
 誰もが勝利を予感した。



「やった…のか?」
 耕一の口からそんな言葉が漏れた。
 だがすぐさま、彼の後ろから「いいえ」と否定の声がかけられる。
 後ろを振り返る耕一。
 そこには、エーデルハイドを抱いた芹香とdyeが立っていた。

「見て下さい、あれを…」
 dyeの指が蒼い炎に焼かれ、地面に倒れたSGYを示した。

 めきっめきっと、何かが拉げるような嫌な音がした。
 SGYの身体の一部が盛り上がって裂け、そこから白い人型の物体が這い出
して来た。

 その物体は、大きさこそ先のSGYより一回り小さいが、その身に纏う人外
の気配は以前より増していた。
 羽化したての昆虫を想像させる、頼りなさそうな純白の体躯――。なのに、
身に纏うは凄まじい戦闘力を感じさせる気勢――。
 身体以上に更に特徴的なのはその頭部で、そこには目も鼻も口も耳も頭髪の
類すらも一切が付いておらず、つるりとしたのっぺらぼうだった。

 きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!

 人型の物体は、口もないのに甲高い声で鳴いた。



「あれも…SGYなのか?」
 耕一がdyeに訊いた。
 彼は「恐らく」と頷く。
「…どうやら、ダメージを受け過ぎた前の身体を捨て、新たな身体を再構成し
たようです。…いえ、我々の攻撃を学習し、それに見合った身体を作り上げた
と見る方が正しいかも……」



 変貌したSGYは、キョロキョロとせわしなく頭を動かした。
 まるで、何かを探しているかの様に。

「私達を探してるみたいですね…」
 エリアが小さな声で言った時、SGYの首の動きが止まった。その軸線上に
は岩下とハイドラントの姿が――。

 風が唸った。

「うっ!?」
「何っ!?」

 次の瞬間、新生SGYの姿は二人の目前に迫っていた。
 いつ動いたのか判らない程の速さで――。
 まるで、瞬間移動したような感じで――。

 きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!

 二人に向かって拳を振り下ろすSGY。
 岩下とハイドラントは反射的に後方へ跳んだ。
 目標を失いつつも地面を砕き、めり込む純白の拳。

 ――疾いっ! だが、それだけだっ!!

「ヤスランの…」
 飛び退きながら、右手をSGYへと向けるハイドラント。
 音声魔術の呪文が彼の口から放たれる。だが、新生SGYの行動はハイドラ
ントの口より素早かった。
 SGYは胸を突き出す様に仰け反ると、肉が裂ける音と共にそこが左右に開
き、肋骨らしき物がハイドラントめがけて発射された。

「がはっ!!」
 機関砲の弾丸さながらに飛んでくる鋭利な骨に身体を蜂の巣にされ、力無く
地面に落ちてゆくハイドラント。

「ハイドラントっ!! くそっ!!」
 先に着地した岩下が、ハイドラントの元に駆け寄りながら炎の精霊達に呼び
掛ける
「炎の精霊達よ、荒ぶる劫火と化し……」
 その時いきなり、岩下の足下を割って白い触手が躍り出た。
「何っ!?」
 触手は先端部を槍の様に鋭く変化させ、岩下の身体を刺し貫いていく。
「ぐぼっ!! ば…かな……」
 血を吐き倒れ込む岩下。

 岩下の血で赤く染まった触手は、不気味に蠢動しながら地面の中に潜ってい
った。
 同時に、ズルリとSGYが地面にめり込んだ腕を引き抜いた。
 引き抜いた腕は、手首から先が触手状に変化しており、その先端部分は血で
赤く染まっていた。

 きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!

 獲物を仕留めた狩人の様に、満足そうな咆吼をSGYは上げた。





「てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 サラの鞭がしなる。
「ぬおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 セバスチャンの剛拳が唸る。
「……」
 エビルの斬首鎌が冴える。

 転送魔法陣を護る戦いはピークを迎えていた。
 芹香の施した魔術が効いてか、先のビボルダーやブルードラゴンなどの強大
な力を持った魔物は現れなかったが、その分、雑魚の数が前回を上回っていた。

 ――ちぃっ! 数が多すぎるっ!!

 破壊電波を練りながら、拓也は心の中で舌打ちした。
 Bチームの面々は善戦しているが、向こうの人海戦術に少しずつ押され始め
ていた。

 ――このままでは…。

 と拓也の脳裏を不安がよぎった時、
「うぬぬっ!!」
 セバスチャンの脇を一体の小鬼が擦り抜けた。
「しまったっ!」

 Bチームの防衛線を突破した小鬼は、キキキと甲高い声で鳴きながら魔法陣
に迫る。

 魔法陣では、ティリア以下のAチーム全員がトランス状態に入っている。今
の彼女達は攻撃に対して全く無防備な状態だった。

 小鬼が愉悦に顔を歪め、魔法陣めがけて跳んだ。

 その時、
「秋山忍法っ! プラズマブレードッ!!」
 何処からともなくプラズマを帯びた二本の苦無が飛来し、小鬼の背に命中す
る。
「ギャンッ!!」
 一瞬にして炭化する小鬼。
 同時に、背中に刀を背負った黒い忍装束の男達が風と共に現れ、魔法陣を守
る様に立つ。
 彼らの先頭には、先程、久々野に“秋山”と呼ばれた人影の姿があった。

「我ら草の者共、主(あるじ)の命により助太刀いたす」
 秋山がそう言うと、残りの者達は次々と背中から刀を抜いた。





                              ――つづく





               ▼次回予告▼

 新たに再生したSGYに苦戦するCチーム。
 その頃、Leaf学園本校舎跡地ではジン・ジャザムが動きを見せた。
 遊輝を開放しようとするジン。それを止めようとするセリス。
 だが、セリスの説得も聞き入れられず、結局ジンは遊輝の戒めを解き放った。

 次回、偽典Lメモ『大戦』第十五話−開放−。

 アルピノの少女は、敵か味方か――。

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 さてさて、遊輝ファンの皆様お待たせしました。
 次回は彼女が再登場です(笑)。
 前に出たのは第三話だったから、かれこれ12話ぶり?(驚)
 長い伏線だねぇ〜(苦笑)。

 あ、SGYの第二形態のモデルは、スト3サードのトゥエルヴです(笑)。
決して量産型エヴァではありません(爆)。