偽典Lメモ『大戦』第二話  投稿者:Fool
 あー、そもそもSGYつうのはですね、あっしの昔のHNでありんす。
 ちと思うところがあり、今のヤツに変えたんですが…。
 嗚呼っ、その時は、まさかこんなコトになるなんて思いもしませんでしたわ!(笑)
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               ▼あらすじ▼

 突如としてLeaf学園に出現した巨人は、その力で学園を破壊し始める。
 学園に通う人間達が巨人に戦いを挑む中、二年の健やかは、人気の無い校舎
裏で学園屈指の猛者、岩下信が何者かによって倒されているのを見つける。
 満身創痍の岩下は、自分を倒した人間がSGYという生徒だと健やかに告げ
た。





            偽典Lメモ『大戦』第二話

                −戦鬼−





 そこは薄暗い闇の世界だった。

「また失敗か…」
「これで、もう何回目になる?」
「やはり、《SS使い》を人工的に生み出すことは不可能なのか…」

 暗闇の帳が降りた向こうに、浮かび上がる幾つかの人影。
 影達は感情を感じさせない低い声で囁きあっていた。

「今までのデータから判断するに、《SS使い》を造り出す事は現状の技術力
では困難のようだ…」
「左様、その点では寄生生命体SGYは失敗作と言える…」
「しかし、生物兵器という点では成功したとも言える…」
「いずれにせよ、Leaf学園の《SS使い》相手に暴走したSGYが何処ま
で戦えるか…」
「ふむ、結果如何によってはプロジェクトの変更も有り得る…と言うことだな」

 人影達は闇に溶け込むように消え去った。





 ギィィィンと、鍛え上げられた鋼と鋼のぶつかり合うような音が響いた。
 次いで、ガラスが砕けるような音がそれに続く。

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 必殺の一撃を放ったきたみちの手から、愛用の逆刃刀が滑り落ちた。
 その刀身は、見事なまでに粉砕されていた。
 苦悶の表情を浮かべ、自らの両腕を抱きしめるきたみち。



 ヒュンヒュンと風切り音を立てて、佐藤の後方に何かが飛んでいった。
 それは、半分に折れた日本刀の刀身だった。
 佐藤が片膝を付くのと、折れた白刃が地面に突き刺さるのがほぼ同時だった。
 見れば彼の刀は、切っ先から半分の辺りで綺麗に折られていた。
「くっ! 瞬間的に身体を硬化させやがった」
 憎々しげに巨人を見上げる佐藤。
 彼の両腕からは赤い雫がポタポタと流れ落ち、地面に紅の華を咲かせていた。

 つい先程まで、鮮やかなピンク色をしていた巨人の体躯が、今ではコールタ
ールの様なドス黒い色に変わっていた。
 渾身の力で放った二人の斬撃は、黒く染まった巨人の脇腹をほんの少し削っ
ただけに留まった。



 轟と風が鳴った。
 今度は巨人が自分の番とばかりに手を振り上げ、拳を自分の脇に立つ佐藤め
がけて、ボディブロー気味に放つ。
「ぐはっ!!」
 佐藤はその一撃を避ける事なくまともにくらい、大きく後方に吹き飛んだ。
「さとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!!」
 薄れゆく意識の中で、佐藤はきたみちの絶叫を聞いた気がした。



 もう一度、空気が唸った。
 きたみちは咄嗟に危険を感じ、反射的にその場から飛び退く。
 数秒後、きたみちの眼前を巨人の手が通過していった。
 直撃すらしなかったものの、その時の衝撃波で、きたみちの頬に真一文字の
傷が走る。

「くっ!!」
 巨人との間合いを離そうと、地面を蹴って跳躍するきたみち。
 しかし彼を逃がすまいと、巨人の身体から幾つかの触手が飛び出し、きたみ
ちに向かって伸びてゆく。
「しまったっ!!」
 そう叫んだ時には、既に彼の足に触手の一本が絡み付いていた。

 一瞬の後、視界がまるで絶叫マシーンに乗った時のように流れる。
 そして、何かに叩き付けられた感触。
 骨の砕ける音と、その一呼吸後に襲い来る激痛。
 その段階で初めて、彼は自分が巨人の触手によって地面に叩き付けられたの
だと知覚した。
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 絶叫が空気を振動させる。
 過電流が流れたときのブレーカーのように、きたみちの意識は飛んだ。



 再びきたみちを叩き付けようと、触手が彼の身体を持ち上げた。
 その時、双眸に人外の光を宿し現れた人影が何処からともなく現れ、飛燕の如
く巨人に迫る。
「させるかよっ!!」

 その人影の名は柏木耕一。Leaf学園最強の教師。

 耕一は、瞬く間にきたみちの足を掴んだ触手を切り裂いてゆく。
 戒めを解かれ、重力の法則に従って地面に向かって落下し始めるきたみち。

「千鶴さん!」
 耕一が叫ぶと同時に新たな人影が地を駆け、きたみちが地面に落ちる瞬間、
彼をキャッチする。

 それは、瞳に金色の光を湛えた柏木千鶴だった。

 千鶴はきたみちを肩に担ぐと、今度は佐藤の倒れている所へと跳躍し、着地
と同時に彼を脇に抱えた。

 しゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 獲物を取られたことに腹を立ててか、巨人は威嚇するように一声吠えると、
千鶴に向かって触手を伸ばす。
 が、触手の伸びるスピードより速く耕一が動き、触手群を散らす。
「千鶴さん! 今の内にっ!!」
 無言のまま頷き、地面を蹴って跳び、その場を離れる千鶴。

 ――耕一さん…気を付けて…。

 途中、一度だけ振り返り、千鶴は胸の内で耕一の無事を祈った。
 そんな彼女の気持ちが届いてか、耕一は背中越しに軽く右手を挙げた。



「さてと…それじゃ鬼の力、とくとご覧に入れようか!!」
 千鶴が安全圏まで後退したのを確認すると、耕一は向かって来る触手を切り
裂きながら巨人めがけて走り出した。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 走りながら、その身体に潜む凶暴な血を開放していく。
 瞳が一際金色に輝いたかと思うと、その体躯が人間のそれとは異なる物へと
変化していく。
 腕が、足が、胴が、逞しい筋肉の脈動で通常の倍に盛り上がる。
 例えるならそれは獣――いや、鬼。

 着ている衣服が、筋肉の膨張に耐えきれず弾け飛んだ。
 耕一は、額に一本の角を生やした鬼へと変化した。

「オォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
 迫り来る触手に向かって耕一は右手を振り上げ、残像を残すほどのスピード
で振り下ろす。

 轟ッ!

 大きく風が鳴り、鬼の――エルクゥと呼ばれる人外の力を宿した耕一の右手
は空を裂いた。
 裂かれた空気は、真空の刃と化して巨人の触手群を斬り裂いてゆき、更には
巨人本体をも傷つけた。

 だが対する巨人も、その凄まじいまでの再生能力で自分の身体の傷はおろか、
触手達をも再生させていく。

 巨人が傷を再生させている間に、耕一は地面を蹴って跳ぶ。
 エルクゥの力を開放した耕一の跳躍は凄まじく、一瞬で巨人の身長よりも高
い位置に着く。

 巨人と耕一の目が合った。金色の瞳と深紅の瞳が火花を散らす。

 耕一は上空で身を捻ると、ここまで跳んだエネルギーを殺さずに、そのベク
トルを斜め下方向――つまり巨人へと向けた。

「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
 絶叫を上げながら、跳び蹴りの姿勢で巨人へと突っ込んでいく耕一。
 腕を胸の辺りで交差させ、それを防ごうとする巨人。

 二つの人外の存在がぶつかった。
 ほんの一瞬、雀の瞬き程の時間が止まり、その後、肉と骨の砕ける破砕音が
辺りに響いた。

 耕一の放った跳び蹴りは巨人のガードを容易く突き破り、その胸に大きな風
穴を開けていた。

 ぎしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 苦痛の叫びを上げながら激しく身悶える巨人。
 胸に空いた風穴から赤い体液を撒き散らし、その身体から生じている触手群
が鞭のようにしなり校舎や地面に破壊の爪痕を残していく。
 一方、巨人の背後に抜けた耕一は大きく地面を抉りながら着地すると、すぐ
に体勢を整え巨人に向き直る。

 確かな手応えを耕一は感じていた。
 両腕は潰され、胸部には背中に抜ける巨大な穴。
 どう見ても致命傷なのは確かだった。

 しかし、巨人が息絶えることはなかった。
 それどころか、既に傷の再生が始まっている。
 耕一によって砕かれた両腕が復元し始め、胸に空いた穴も徐々に塞がり始め
ていた。

 鬼と化した耕一の頬を、冷たい汗が流れた。
 本能が危険を発しているのが判る。
 人より獣に近い今の彼だからこそ感じる恐怖。
 耕一は、改めて目の前に立つ存在が、自分以上の化け物であるという事を認
識させられた。

 その時、巨人の周囲に変化が起きた。

 突如として、巨人の足下が淡い燐光を放ち始めたかと思うと、リボンのよう
な薄く半透明な紐がそこから立ち上り、朝顔の蔓さながらに巨人の四肢に絡み
付いていく。

 ――これは…? 一体…?

 訳が判らず、呆然と立ちつくす耕一を尻目に、リボン状の紐は次々と現れ、
巨人の身体に巻き付き、自由を奪っていく。

 ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!

 巨人はそれを引きちぎろうと激しく藻掻くものの、一見頼りなさそうに見え
る外見とは裏腹に、信じられない強度でそれに耐えるリボン。
 そうこうしている内に、リボンは巨人の体躯を覆い尽くした。





「凄い…」
 屋上の金網に手を掛けながら、眼下の様子を見ていたdyeは感嘆の呟きを
漏らした。
「さすがにフェンリルを封じるために作られた鎖だ…。これならいくら巨人と
言えど、そう易々とは破れないだろう…」
 既に巨人は全身をリボン状の紐に覆われており、身動き一つ出来ない様子だ
った。

 ちらり、と後ろを見る。
 そこには燐光を放つ魔法陣があり、その向こうで芹香が両手を魔法陣にかざ
しながら、聞き取れない声で呪文を詠唱していた。

 dyeは視線を巨人に戻した。
「これで時間が稼げる…。後は、久々野さんや岩下さんが来てくれれば…」
 その時、脇にいたエーデルハイドが何かを威嚇しているような鳴き声を上げ
ているのに気付き、そちらに頭を動かす。
「どうした? エーデル?」
 エーデルハイドは、全身の毛を逆立てて芹香の描いた魔法陣を睨み付けてい
た。
 怪訝に首を傾げながらdyeが一歩足を踏み出した時、魔法陣から乾いた破
裂音がした。
「何!?」
 同時に魔法陣に亀裂が走り、燐光に照らされた芹香の表情が苦悶に歪んだ。
「まさかっ!?」
 慌てて、巨人の様子を見るdye。

 バン! と張り詰めた紐が切れるような音がして、巨人の身体を覆っていた
リボンの一つが弾けた。
 弾けた切れ端は、ヒラヒラと地面に向かって落ちていき、地面に落ちると光
の粒子となって霧散した。
「馬鹿なっ! いくら人の作りだしたグレイプニルとは言え、こうも容易く破
るとは…」
 見る見るうちに引きちぎられていくリボン達。

 おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!

 巨人が大きく吼えると、その身体を覆っていた戒めは完全に弾け跳んだ。
 それと入れ替わるように、芹香の前にある魔法陣から紫電が迸る。
「まずいっ! リバウンドが来るっ!!」
 dyeは芹香に飛びつき、彼女を庇うように抱きかかえる。
 迸った紫電が二人に襲いかかった。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 腕を焼かれ、足を焼かれ、背中を焼かれてもdyeは耐えた。
 ただひたすらに芹香を胸に抱き、彼女を守り続けた。
「dyeさん!!」
 悲痛な芹香の叫びは、荒れ狂う紫電に掻き消された。





 風が巨人を中心に渦を巻き始めた。
 それは徐々に大きくなっていき、やがて小型の台風程の威力を持った局地的
な暴風圏を周囲に作りだした。
 ごうごうと唸る風は次々と地面を抉り、瓦礫を空へと舞上げていく。
「くそっ!」
 エルクゥの力を開放したさしもの耕一も、暴風に負けて飛ばされそうになる
が、その逞しい腕を大地に刺し必死に堪える。

 暴風に負けぬ声で巨人が吠えた。
 すると、巨人の肩――肩胛骨の辺りが縦に裂け、そこからズルリと何かが這
い出してくる。
 それは、蝙蝠の様な皮膜状の羽を持った六枚の黒い翼だった。

 巨人は羽化した蝶の様に翼を大きく広げる。

 魔神――。
 風に霞む目でその姿を見た耕一の脳裏に、なんの脈絡もなくそんな言葉が浮
かんだ。
 吹き荒ぶ風の中、六枚の羽を広げ、殺意と破壊衝動に満ちた紅い目を輝かせ
るその姿は、神話や伝承に出てくる恐ろしき力を秘めた荒ぶる神を彷彿とさせ
た。

 一際大きく風が鳴った。

 巨人が、風を孕んだ六枚の羽を大きく羽ばたかせた。
 瞬間、今までの比にならない程の荒れ狂った風が地面に叩き付けられる。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 耕一が腕を刺していた地面もごっそりえぐり取られ、彼も他の瓦礫と同じよ
うに遙か彼方へ吹き飛ばされた。

 一方の巨人は、六枚の翼で身体をくるみ、自分を取り巻いている暴風を使っ
て、弾丸さながらの螺旋運動で一気に上空に昇った。



 Leaf学園の上空、数十メートル地点で翼を広げて滞空すると、巨人は紅
い目で眼下の学園を見下ろす

 ぐるぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!

 巨人が咆吼を上げると、その身体の至る所から青白い火花が生じ始めた。
 火花達はお互いに融合しあい、少しずつ大きくなっていき、やがて巨人の身
体を覆い尽くした。

 青白い光球と化す巨人。

 やがて、膨らませ過ぎた風船が弾けるような感じで、光球が爆ぜた。
 光球の破片は流星雨のように学園に降り注ぐと、地面を穿ち、建物を破壊し、
逃げまどう人々を焼いた。

 吹き上がる紅蓮の炎。
 立ち上る黒煙。

 ほんの少し前まで長閑な昼休みだった学園は、たった一体の破壊者によって
数十分の内に阿鼻叫喚の地獄と化した。

 燃えさかる炎を見ながら、巨人は愉しそうに嗤っていた。





                              ――つづく





               ▼次回予告▼

 巨人によって完膚無きまでに破壊された試立Leaf学園。
 生き残った者達は小動物の様に寄り添い、震え合う。
 そんな中、香奈子は最も見たくない物を見てしまった。

 次回、偽典Lメモ『大戦』第三話−涙雨−。
 冷たい雨は涙の味――。

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 はい、ココまでが前回(つっても遙か昔/笑)UPした作品の焼き直しです。
 …んで、ココから先が新たに書き足した部分です。

 少しネタバレを…。
 当分、戦闘シーンはお預けです(含笑)。