偽典Lメモ「彩のショートストーリー」 投稿者:Fool
 良く晴れた麗らかな春の午後。その日の最後の授業が終わった事を告げるチャイムが、
四月の暖かな空気に包まれた学園中に響き渡った。
 一瞬のタイムラグの後、途端に騒がしくなる試立Leaf学園。
 例えるなら、それは、春の訪れを告げる強風に枝を揺らす若木達のざわめきに似ていた。

 そんな校舎内の喧噪を遠くに聴きながら、Foolは一人、誰も居ない屋上のベンチに
座って、黙々と手にしたルーズリーフにペンを走らせていた。



 偽典Lメモ「無口記念館」 Fool作


 Leaf学園の片隅にある古びた洋館。通称「無口記念館」
 昔この建物が火事になったとき、逃げ遅れた100人のSS使い達が犠牲になったとい
う。

 薄暗い空間の中にポツンと無造作に置いてある水槽。
 薄く水を張ったその水槽の中には一輪だけ黒い薔薇が活けてあった。
 そして、その側に立ち、中の黒薔薇を見つめる一組の男と女。

「ウフフ…大きく育ったネ。ワタシ達のBlack Rose…」

 美しいブロンドをポニーテールにした、その女性が囁くように言った。

「ああ…これなら僕達の願いを叶えてくれるSS使いを生み出すことが出来る…」

 肩の辺りまで髪を伸ばした痩身の男が、水槽にもたれ掛かりながら言った。

「とっても楽しみデス…」

 女が愛しげに薔薇の花びらを撫でる。
 が、不意に「アッ」と短い悲鳴を上げ手を引いた。その可憐で白い指から赤い雫が流れ
落ちた。

「レミィ…いつも言ってるだろ。薔薇の花には棘があるって…」

 そう言うと、男は女の手を取り、その指を口に含んだ。

「クスッ…ムクチは優しいネ…」

 男に指を吸われながら恍惚な表情を女は浮かべた。

「ワザとだな、レミィ…いけない娘だ」



 そこまで書いた時、Foolの手が止まった。

「…ってダメじゃん! これじゃベタベタすぎるし、何よりも参加してない人を出すのは
まずいよな…」

 そのページを切り取り、くしゃくしゃに丸めて捨てる。

「むぅ…何書くかな…」

 腕を組み暫く考え込んでいたFoolは、ポンっと手を叩くと、

「やっぱバトル物にすっか…」

 再びペンを走らせた。



 偽典Lメモ「熱血! 必中! ジン・ジャザム」 Fool作


 鉛色の空の下。国立競技場三個分の広さを持つ、ここ『Leaf学園特設広場』で、二
つの人影が対峙していた。
 
 一つは、来栖川警備保障の誇る最新鋭のセキュリティ・ロボ『Dセリオ』
 いま一つは、マッドサイエンティスト柳川の手によって、サイバネティックなバディを
手に入れた『ジン・ジャザム』

 二つの影は互いに言葉を発するでもなく、ただ睨み合っていた。

 …と言っても睨んでいるのはジンだけで、Dセリオの方に至っては、ジンの鋭い視線を
涼しい顔で受け流しているのだが…。

 辺りを肌寒い風が砂埃を上げて吹き抜けていく。

「今日こそ決着を付けようぜ…Dセリオ」

 不意にジンの口が動いた。唇の端を、きゅっ、と釣り上げて不敵に笑う。

「…決着?」

 Dセリオが訝しげに眉を寄せ、そして、ジンに向かって冷たい口調で言葉を続けた。

「決着なら既に付いてます。データベースを照合した結果、貴方と私の過去10回の勝負
の結果、私の7勝2敗1引き分けで…」
「うっ…」

 図星を指され、たじろぐジン。

「た、確かに今まではそうだったかも知れないが、今日は違う!」
「そのセリフは、もう7回訊きましたが?」
「くっ…」

 またまた痛いところを刺されて口をつぐむジン。

「へっ、そんな涼しい顔してられるのも今の内だぜ。今日の俺はマジでスゲェぜ!」

 だが、負けじと冷静を装う。ただし、こめかみの辺りがピクピク痙攣してるが。

「仕方ありません…忙しい身ですが、己の分をわきまえぬ者の為に5分だけ付き合いまし
ょう」

 ブチッ…。

 Dセリオの嘆息でジンの中の何かがキレた。

「上等だぁぁぁぁ! てんめぇぇぇぇ! 吐いた唾飲ましてやるぜぇぇぇぇぇ!!

 ジンが吼えた。

「熱血ぅぅぅぅ!!!」

 声高らかに叫ぶジン。何故か突然に彼の背後で、ゴウッと紅蓮の炎が立ち上った。

「必中ぅぅぅぅ!!!」

 今度は彼の額に閃光が走った。
 この辺は、スパロボ対戦シリーズ未プレイの人間には全然判らないネタである。

「くらえぇぇぇっ!!! ロケェェェェットパァァァァァァァァンチッ!!!!!」

 エコーがバリバリに効いた声で叫びながら、右腕を勢い良くDセリオに向けて突き出す
ジン。
 轟音と共に彼の右腕は肘から先が分離し、その分離した部分が唸りながら弾丸のように
Dセリオ目掛けて飛んでいく。

 一方のDセリオは、さもつまらなそうに「フッ」と嗤い、何処からともなくバットを取
り出すと、一本足打法で構えた。
 次の瞬間、

 カッキィィィィィィィィィン…。

 快音と共にジンの右腕を打ち返すDセリオ。
 そして打ち返された右腕は、寸分違わず持ち主の所へ。

 どぐぉおおおおおおおおおお!!!

 鈍い音を立ててジンの顔面にめり込むジンの右腕。
 彼はスローモーション画像の様にゆっくりと仰向けに倒れた。

「これで私の8勝2敗1引き分けですね」

 そんなDセリオの冷たい言葉の追い打ちを、ジンは薄れゆく意識の中で聞いた気がした。



 再びFoolの手が止まる。
 そして、今まで書いていたページを切り取ると、またくしゃくしゃに丸めて捨てた。

「駄目だあぁぁ! 全然面白くないっ! しかも、これじゃジンの逆鱗に触れそうだし、
何よりリーフキャラが出てないじゃん!」

「はぁ」と溜息を漏らし、ベンチの上に寝転がるFool。
 空の青さが嫌に目に染みた。
 目を閉じてみる。
 だが、閉じたら閉じたで、何か心にモヤが掛かってような感じがしてスッキリしない。

(なんか最近書けないよな…スランプかな)

 心の中で自分に問いかける。無論答えが返ってくるわけでもない。
 己に問いかけて答えが返ってくるなら、人間悩んだりしない。
 その時、軋んだ金属音が屋上に響いた。

「…こんなとこにおったん?」

 入り口の方から、独特のイントネーションを持った声が聞こえた。
 Foolにとっては、良く慣れ親しんだ声だ。
 頭だけを起こして、入り口の方を見るFool。

「保科さん…」

 其処には保科智子が立っていた。
 彼女はFoolの側まで来ると、足下に転がってる丸まったルーズリーフを苦笑を浮か
べながら拾い上げた。

「今度のヤツは随分と難産みたいやな」
「ん…ああ、なんか…ね」
「スランプ?」
「多分…。でも全然書けないんじゃなくて、自分で納得いく物が書けないんだ…」

 身体を起こすFool。その目は何処か遠くを見ている。

「ふ〜ん、SS使いってのはエライ難儀な生きモンやな…」
 
 拾ったルーズリーフに目を通しながらベンチに腰を降ろす智子。

「もう潮時なのかな…SS書くのも…」

 ポツリと自信なさげに呟くFool。智子は目だけ動かして、自分の隣に座ってる男を
見た。
 その姿は、とても小さく見えた。酷く虚ろで、とても弱々しかった。

(結構重傷みたいやな…)

 智子はFoolに判らないように小さく嘆息を付いた。そして、ベンチの背もたれに寄
りかかりながら、透き通るような蒼天に視線を走らせる。

(空はこんなに晴れてるのに…)

 雲一つない晴れ渡った空。そこから流れてくる心地よい風に、智子は春を感じた。

 暫しの沈黙の時間が訪れる。

「物事に…」

 不意に智子が言葉を発した。
「え?」と頭を智子に向けるFool。

「物事に行き詰まった時は、もう一度原点を振り返った方がいい…って誰かが言ってた」
「原点?」
「そ、初心忘れるべからずってヤツ…」
「初心…初心か…」
「アンタの場合は初めてSS書いた頃の気持ちやね」
「…………」

 視線を下に落として考え込むFool。
 そんなFoolを、智子はもう一度、ちらっと目だけ動かして見た。

「アンタ、ひょっとして上手く書こうと思うてんやないの?」
「上手く書く…」

 うわ事の様に、智子の言葉を繰り返すFool。
 しくりと胸の奥が痛んだ。

「そう、自分の感じた事を素直に書くんやのうて、表現や文体に拘りすぎてるって感じが
する」
「…………」

 智子はFoolへと向き直り、そして続ける。
 Foolも頭を持ち上げ、智子の顔を見た。

「そんな肩肘はってたら、そりゃスランプにもなるってもんでしょ」
「…………」
「他人は他人、自分は自分や。Be my self! それでイイと思うよ」

 そう言って智子は微笑んだ。
 春の青空をバックに笑う彼女の姿は、とても優しく、とても綺麗だった。
 その笑顔を見ている内に、何故だか、Foolは自分の心の中にあった黒いしこりが掻
き消えていくのを感じていた。

「自分らしく…か。…そうか…そうだよな。自分が書きたいものを書きたいように書く…。
そんな基本の事を忘れてたなんて…。馬鹿だな、俺って…」

 ベンチから立ち上がり、大きく伸びをしながら苦笑するFool。
 そして、

「…サンキュウ、保科さん。おかげで吹っ切れたよ…」

 と白い歯を見せて智子に笑いかけた。既にその瞳には一片の曇りもなかった。

「別に…礼を言われるような事してへんよ…」

 智子も笑顔で返す。

「へへっ、なんかクヨクヨ悩んでたら腹減ってきたな…保科さん、何か食べに行こうぜ」
「イイけど…お代はアンタ持ちやからな」
「うひぃ〜、お手柔らかに頼むぜ…」
「ふふふ…」

 そんな二人の会話を、屋上に吹いていた柔らかな一陣の風が包み込んだ。



※注:この話は当然フィクションです。(^^;
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 Lメモ初投稿です。…っていっても、全然Lメモっぽくないな…(汗)。
 しかも、今回は書いてて恥ずかしかった…(爆)。
(委員長ファンの方々ゴメンナサイ)