Lメモ仮眠館業務日誌 「驚愕の新事実発覚!? その続き」 投稿者:幻八
「ど〜したの幻八、さっきから不機嫌な顔をして?」
にこにこ顔で幻八のほっぺを突つく。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 黙って目を瞑りお茶を啜っている。
「ねぇ〜ってばぁ〜」
 さらにうりうりと突つく。
「だああぁぁぁぁっ! やめろって!!」
 幻八は声を荒げてその手を払う。
「あら・・・嫌なの、幻八?」
 ちょっと悲しそうな顔になって幻八に聞く。
「う・・・そ、その突つくのを止めろと言ってるだけだって」
 あたふたと慌てながら言い訳をする。
 その様子をくすくすと笑いながら眺めているまゆら。



Lメモ仮眠館業務日誌 「驚愕の新事実発覚!? その続き」



 ここは仮眠館テラス。
 幻八の側に座っているのは学園では見た事もない少女。
 仮眠館に訪れた誰もが不思議に思い、そして見惚れる可愛さを持っていた。
 果たしてこの少女は誰なのか?
 ・・・って分かりきっていると思うが。
 この少女の本当の名はまや。
 幻八のコアに宿る意識体の存在だったが以前、とある実験でHMの身体を持つ事となる
そしてその実験の継続、そしてお礼と言う理由で特別製のHMのボディをもらった。
 そして今でも「まゆら」と名乗っている。
「だからって・・・・・・」
「ん、何?」
「以前の姿に作ってもらうか、普通・・・」
 幻八は頭を抱えながらにこにこ顔のまゆらに文句を言う。
「あら、幻八はこっちの方がいいんじゃない?」
「だからってなぁ〜・・・」
 どこまでも明るいまゆらに呆れかける幻八。
 幻八の言う通り、まゆらの姿は以前実験のときに使用したボディと違い、その時より
幼い感じがするボディを持っていた。
 それが、人の身体を持ち生きていた時の姿をしているのを知っているのは幻八1人
だが。
「せっかく注文通り作ってくれるって言うから・・・お願いしたまでよ?」
「・・・人の断りもなく勝手にそんな姿になるなよ・・・」
 ぶつぶつと言いながらもどこか優しさがこもった口調の幻八。
 そんな幻八に気づいているのか、嬉しそうな顔をしているまや。
 こんなやり取りが2人(?)の間で行われていた。
 ・・・2人なのかどうか・・・ARMS、ナノマシンの塊のとHM・・・人間とは
どえらく違う気もするが・・・



 その2人を離れたテーブルから見ている3人組がいた。
「なあ、あの2人・・・どう思う?」
「どうって・・・・・・見た通り仲良いじゃない」
「そうですね」
 ご存知異世界からやって来た勇者様御一行、ティリア、サラ、エリアの3人だ。
 現在では幻八の経営している仮眠館で一緒に生活している。
「そうじゃなくて・・・幻八の様子だよ」
 サラに言われてちょっと離れたテーブルでまゆらとやり取りをしている幻八を見る
ティリアとエリア。
 その視線の先で他愛もない会話がされている。
「・・・なにか・・・違いますね」
「そお?」
 エリアが何かに気付いたが、ティリアは気がつかなかった。
「気付かないかティリア・・・幻八の雰囲気だよ」
 言われて再び幻八をよく見るティリア。
「確かに・・・なんとなく違うわね」
「そうだろ、なんて言うかこう・・・自然な感じで接してるって感じがするんだよ」
 サラが感じた感想を述べる。
「そうですね・・・私たちと接する時でもどこか他人行儀がありますからね」
 エリアもサラの意見に同意していた。
 3人の視線の先で端から見るとじゃれ合っているとしか思えない幻八とまゆら。
「まゆら、ううん・・・まやさんでしたよね、あの人」
 エリアがまゆらを見ながら名前を確かめるように口にする。
 幻八はこの3人に対しては本当の名を教えていた。
 その他の関係は一切伝えていないのだが・・・
「ああ、自分でもそう言ってたしな」
「幻八と・・・どんな関係なのかな?」
 ティリアの口から出た言葉に思わず硬直するサラとエリア。
「ん? どうしたの2人共?」
 そんな2人を見て首を傾げるティリア。
「ティリア・・・お前自分で何を言ったか分かってるか?」
 硬直からいち早く立ち直ったサラがティリアに問う。
「分かってるわよ、それに誰も恋人なんて言ってないじゃない」
 そんな事をさらりと言ってのけるティリア。
「そ、それはそうですが・・・」
 エリアが幻八とまゆらを見ながら、
「でも・・・あれってどう見ても・・・」
「・・・恋人・・・」
「・・・以外見えないわね・・・」
 3人は同じ意見らしく、また幻八たちを見続ける。



「はぁ・・・」
「どうしたの、ため息なんか吐いて」
 暗い顔でため息を吐いている幻八とは対象的に、明るい顔で幻八に声をかけるまゆら。
「ど〜して付いてくるんだ・・・まや」
 嫌そうな顔でまやをちらりと見る。
「いいじゃない、今までずっと一緒だったんだし♪」
「・・・はぁ・・・」
 やっぱりため息を吐いている幻八。
 今、2人はどこかに向かって歩いていた。
 それも腕を組んで。
 にこにこととっても嬉しそうな顔をしているまゆらとは対象的に、暗い顔をしっぱなし
の幻八。
 まったく正反対の顔をしている2人が人目を引かないはずはない。
 歩く先々で興味の視線を受けるが、まやは気にしていなかった。
「どうしたのぉ、さっきからため息ばっかり」
「だってなぁ・・・」
 ため息ばかりついている幻八を気にしてまゆらが声をかける。
「だって・・・」
 ぎゅっと幻八の腕を強く抱きしめるまゆら。
「だって・・・こんな事出来るなんて思いもしなかったんだもん」
 幻八にしか聞こえないぐらいの小さな声でぽつりと漏らす。
「・・・まや・・・」
 道の真ん中で立ち止まり静かにまゆらの言葉に耳を傾けている。
 人の気配は周りにない2人っきりの状況であった。
「まやが死んで・・・」
 そんなまゆらを見ながら幻八は口を開く。
「・・・いや、正確には俺の中に取り込んでからこんな事になるとは思いもしなかった」
 静かに歩みを始める幻八。
 それにつられてしがみついたまま、まゆらも歩みを始める。
「あれっ? 幻八さ〜ん!」
 後ろの方から幻八を呼ぶ声が聞こえてくる。
 声の主はこの一連の事件を作った張本人、とーるだ。
「あ、とーるさんこんにちは」
「・・・よぉ」
 幻八の腕にしがみ付いたまま明るい声で挨拶をするまゆらとは対象的に、不機嫌そうな
顔でとーるに挨拶をする幻八、
「まやさん、機嫌が良さそうで・・・それに比べて幻八さんは・・・」
 ちょっと脅えながら挨拶を返してくるとーる。
「とーるさん、この身体・・・本当にありがとうございました」
「いえいえ、前の実験でお手伝いしてくれましたからそのお礼ですよ」
 にこやかな顔で話しているとーるとまやを幻八は口を開かずに見ていた。
 その顔にはなんとなく優しさが見え隠れしていて、穏やかな顔をしていた。
「・・・で幻八さん」
「あ・・・ああ、なんだ?」
 突然話を振られた事と、考え事をしていて聞いていなかった為、少しうろたえた。
「聞いてなかったんですか?」
「すまない・・・ちょっと考え事をな」
 自分が聞いていなかった事を素直に謝る幻八。
「ティリアさんたちの事ですよ」
「ティリアたちの?」
 幻八は腕にしがみついているまゆらを離れさせようとしながらとーるの話を聞く。
「・・・彼女たち、まやさんの事どう思っているのかな、って思って」
 とーるの何気ない質問に幻八は一瞬ぴくっとなった。
 そんな幻八に最初は、ぶ〜と膨れっ面になっていたまゆらだが何故かそそくさと離れて
幻八ととーるから距離を取る。
「・・・・・・・・・」
「彼女たち、まやさんの事を知らないし突然出てきたみたいじゃないですか」
 幻八の沈黙の理由もまゆらが離れた理由も気にしないで話を進めるとーる。
「だから・・・たとえば恋人とかって本気で思っているんでしょうかって話を・・・」
 とーるはそこまで言ってからやっと幻八が殺気を放っているのに気が付いた。
「ど・・・どうしました・・・幻八さん・・・」
 恐る恐る、逃げ腰になりながら幻八に問い掛ける。
「貴様・・・人が気にしている事を・・・」
「あ・・・あの・・・幻八さん・・・ちょっと、目がマジ・・・」
 完全に幻八の放つ殺気に押されているとーる。
 まゆらは離れた所で空中に十字を切っていた。
「ああ、まやさん!! そんな事してないで助けて!!」
「とーる・・・覚悟を決めろ!! 我が字名にかけてお前を潰す!!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! な、なんでぇ〜〜!!!」

ちゅど〜〜〜〜〜〜ん!!

 幻八、再び暴走・・・
 とーるはこの時に悟った、「まやさんの事に関しては幻八さんに聞かない方がいい」
と・・・
 ・
 ・
 ・
 その後、またボロボロにされたとーるが道端で発見された・・・



「ほら・・・どっちがいい?」
 手にした缶ジュースをまゆらに選ばせるべく差し出す。
「ん、こっち」
 そう言ってまゆらは片方の缶を受け取る。
 あれから2人は学園を出て人気のない外の公園に来ていた。
「ねえ、幻八・・・」
「なんだ?」
 自分の隣に座り、缶ジュースを開けている幻八に声をかける。
「あれ以来・・・闘う理由って出来た?」
 その言葉にぴくっと小さく反応する幻八。
「理由・・・か・・・」
 悲しげな小さな声で呟く。
「今までまやを守る盾として闘っていたが今は・・・何もないからな・・・」
「・・・幻八・・・」
 まゆら・・・いや、まやは自分が人間として生きていた間、幻八がその命をかけて
守ってきてくれた事をよく知っている。
「・・・あれ以来・・・人との接触を断ってたし、あんな思いは二度としたくなかった
からな・・・」
 缶を持つ手が小刻みに震えている。
 幻八は大切な人を失う悲しみを何度も味わった・・・
 遥かなる時を生きている幻八には何度経験しても慣れる事が出来ない。
 幻八はそんな悲しみを恐れていた・・・何かを失う悲しみを。
 まやは幻八のその苦しみを分かってやることが出来ない。
 自分にはそんな事は一度も無い上に、まやにとっての大事な人は幻八だから・・・
「ねえ、幻八・・・」
 そんな幻八の手に優しく自分の手を添えるまや。
「これから・・・見つければいいじゃない、その大事な人」
「なっ!?」
 まやの発言に思わず絶句する幻八。
「今はわたしも幻八と一緒よ・・・だからもうそんな思いはさせない」
 そう言って幻八の肩に自分の頭を押し付ける。
「まや・・・」
 だんだんと震えが収まり、自分の気も落ち着いてきた事を実感する幻八。
 幻八が落ち着いていくのを待って、
「第一・・・幻八は先代さんに言われたじゃない」
 そう口に出す。
 まやに言われて幻八は、過去に・・・黒い翼を与えてくれた先代の言葉を思い出す。
《幻八、お前も見つけなくてはいけない・・・自分の命を賭けてでも何かの為に闘う
理由を・・・お前にしか出来ない闘いがきっとどこかにあるはずだ・・・》
 幻八の頭の中・・・過去の記憶のデータがその事をはっきりと覚えている。
 まるで昨日の事のように・・・
「そう・・・そう言われた・・・」
「だったら・・・ティリアさんたちを守ってあげれば?」
「・・・ティリアたちを?」
 自分の肩に頭を乗せたままのまやに聞き返す。
「そう、今の幻八には彼女たちがいるじゃない」
「しかし・・・彼女たちは・・・」
「分かってる・・・でも幻八にはそう言った守るべき者の為に闘う牙を持たないと」
 顔を上げて幻八の眼をじっと見つめる。
 まやが見つめる幻八の眼はどこか迷いを秘めている。
「わたしは・・・幻八の中にいるからいっつも守ってもらってるし・・・」
 そこで頬をほんのりと赤く染めて、
「それにわたしも守ってあげてるから・・・」
 小さい声になりながら幻八の胸にもたれ掛かっていくまや。
 その心地よい重さを感じながら幻八は心の中でひとつの決心をする。
「そう・・・だな、いつまで一緒に居られるか分からないがティリア、サラ、エリアを
守るべき者とするか・・・」
 そう言いながらまやの身体を優しく抱きしめる幻八。
「それが・・・一番よ・・・幻八」
 まやもその体勢のまま動かなかった。
 そんな2人はどこから見ても仲の良い恋人同士にしか見えないだろう。
 本人たちにはどんな想いがあるのか分からないが・・・



「ちょっと遅くなっちゃったかな・・・」
 学園の敷地、仮眠館に向かう道を空を飛んで向かっていく幻八。
 まゆらは幻八に抱えられている。
「夕飯には・・・間に合いませんでしたね」
 あの後幻八とまゆらは色々と仮眠館での生活に必要な物を買っていた。
 女性の買い物は長い・・・まやもそうだなとまさにそれを実感した幻八だった。
 しばらく飛んでいるとやがて仮眠館が見えてくる。
 さすがにこの時間帯、仮眠館のほとんどの部分の灯りが消えていた。
 ついているのは居住スペースぐらいと言った所か。
「まったく・・・女性の買い物は長いと聞いていたが・・・ほんとだな」
 呆れた声でそう言う幻八に対してまゆらは、
「だって・・・買い物なんてすっごい久しぶりなんだもん」
 少し怒った口調で言い返す。
 しばらく顔を見合わせたあと、くすくすと笑い出す幻八とまゆら。
 やがて静かに着地する幻八。
 その腕から買い物をした袋を持ったまゆらが降りる。
「それより・・・皆さんお腹空かせているんじゃないですか?」
「ん〜、そうだな・・・急いで作るか」
 そう言いながら仮眠館のドアを開ける。
「ただいま〜」
「ただいま帰りました」


 ・・・こうして仮眠館管理人の幻八のある一日は過ぎていった。



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まや:一度受けた依頼は必ず遂行する、それがアクアの傭兵・・・なのに・・・
みゆ:あるじ・・・ばっちりと否定して逃げてましたね。
まや:そのくせ、なんだかんだ言ってきちんと書き上げてるからね・・・
みゆ:・・・あるじってよく分かんない・・・
まや:・・・でその話題の主の幻八は?
みゆ:はいこれ。
まや:・・・手紙? え〜と・・・

『旅に出ます・・・絶対帰ってきません!! 二度と帰ってくるもんかぁぁぁぁぁ!!』

まや:・・・・・・・・・
みゆ:・・・・・・・・・
まや:あ、まだあった・・・

『追伸 探す事も却下』

みゆ:・・・・・・あるじぃ(涙)
まや:・・・はぁ・・・(ため息)