Lメモりーふ学園放送局【影技L】 「act.1 SCAR FACE前編」 投稿者:幻八
気まぐれだけならわざわざアクアに足を運ばなかっただろう。
運命と言う言葉は好きではないが何かしらの縁がなければ出会うこともなかったはずだ。
まだ己の力もその宿命も知らない、あの少年に・・・


「状況は圧倒的に不利・・・・・・」
闘技場、戦士達が命を懸けて戦う場所。
「賭率は7対3、勝てばボロもうけだけど―――勝てるの? 好恵・・・あの化物に?」
己が命を賭け、名誉と栄光を手にするため幾多の戦士は戦い続ける。
「それより・・・あんたは私に賭けたのか? 綾香」
「信用してるからね」
ここにも1人の戦士・・・いや闘士が戦いに赴く。
「よく言うよ・・・でも見てな、大金持ちにしてやるよ」


聖王国の南に位置する都市『アクア』。
赤き旗の下、今日も修練闘士『セヴァール』達は己が腕を競い合う。
――この栄誉ある戦いを――
アクアの象徴がなぜ赤い色なのか・・・僕はこう思っている。
――偉大なる王と、我らが英雄――
この赤は身体の中を駆け巡る赤く熱い血の色だと・・・
――『スカーフェイス』に捧げることを――
そう、今の好恵姉のように・・・・・・
――我が血に賭けて誓う!!――
己の指から流れ出した血を左の頬に塗り自らの闘志の高さを示めしている。


この『闘技際』での相手は人間だけとは限らない。
むしろ力の強き力の持ち主たちの相手は化物・・・獣魔と呼ばれるもの達だ。
「それじゃ・・・そろそろ始めましょうか!!」

ゴン!

背後から現れた獣魔を後ろを向かずに放った蹴りで吹き飛ばし大地に沈めた。
その一撃は獣魔の首に直撃し盛大に血が飛び散る。
その様子を最前列の特等席から心配げな目で見ている少年が1人。
(好恵姉はこのアクアでもかなりの「使い手」だ。その証拠にこの準決勝までの
闘いは魔物相手に勝ってきた。)
「好恵姉・・・・・・」
(――でも今回の相手は普通の獣魔じゃない・・・今までに幾多の戦士たちを葬って
きた化物・・・バーセルク!! 好恵姉・・・大丈夫なの?)
好恵の目の前では先ほど倒れたはずのバーセルクが平然と立ち上がっていた。
「ちっ、首の骨が折れているのに平気な顔かよ・・・それならっ!!」
大地を蹴り大きく飛び上がる好恵。
それを迎撃するべくバーセルクが行動を始める。
「ちいいいいっ!!」
バーセルクが好恵を掴むべく繰り出してきた手を、空中で身体をひねり躱す。
「おおっ!!」
バーセルクの首筋に爪先を突きつける。
「好恵姉!」
(あれは舞乱《ブーメラン》!)
「食らえ化物!! アクア流交殺法影技、舞乱《ブーメラン》!!」

ドキャ!!

バーセルクの首の骨を、そして大地まで砕く好恵の攻撃。

ビュ!

しかしダメージを受けたバーセルクは自らの血を好恵に向かって飛ばす。
その血を手の平で防いだ好恵だったが、
(血を飛ばして・・・・・・体液毒!!)
目の前では平然と立ち上がり、先ほどの攻撃で砕かれた首の骨を再生させ出血までも
止めてしまうバーセルク。
「元気いっぱいってやつね・・・・・・」
「好恵姉!!! 止めなくちゃ・・・」
その戦いを見ていた少年は焦りと心配で心が張り裂けそうだった。
(やっぱり無理だよ、あんなヤツと素手で戦うなんて!!)
少年はどうにかしてこの戦いを止める術を必死に考えていた。
「待ちなさい、空!!」
「!?」
その少年に背後から声がかけられる。
「あ、綾香さん・・・なんで止めるの? このままじゃ・・・」
「ふふっ・・・ばかねぇ空、ここで止めたら好恵が怒るわよ。好恵もこのアクアで
字名を持つ身、そんな修練闘士が途中で戦いをやめると思う?」
綾香のその口調には空を心配させまいとする気持ちがこもっていた。
「あ・・・」
「見なさいあの嬉しそうな顔を・・・」
好恵の顔にはいつのまにか笑みが浮かんでいた。
《――対毒防御開始――》
己が精神をコントロールし手の平に付着した体液毒を中和しはじめる。
「今、好恵は修練闘士をしての誇りを・・・自分の総てを持ってしめそうとしている」
《――成功なり!!》
手の平より弾き飛ばされる血。
「自分のありったけの命を勇気に変えてね、それに絶対に勝つって言ったんでしょ?」
「勝つから・・・おこずかい全部賭けろって・・・」
「じゃあ全部見ないでも先に帰れるわね・・・だって好恵が捨て子のあなたを引き取って
育て始めてから4年間・・・その間あなたとの約束、好恵は一度だって破ったこと
ないもの。」
その時好恵は、
《『武技言語』開始》
「我は無敵なり・・・」
バーセルクの前に立ちはだかる。
「我が影技にかなう者なし・・・」
《全身力集結》
好恵を狙い大きく繰り出された拳を飛び上がって躱し、
「我が一撃は――無敵なり!!!」

ドゴォォォ!!

バーセルクに技を叩き込み頭そのものを粉砕する。
しかしそれでも好恵に向かって攻撃を繰り出すバーセルク。
「! しつこいっ!!」

ドン!

その攻撃を踏み潰すように叩き落とす。
好恵はこのアクアに伝わるアクア流交殺法と呼ばれる難しく危険な技の使い手で
その中の表技、そして影技をも会得しており特に影技を好んで使用する。
今の技も影技のうちの一つ・・・アクア流交殺法影門死殺技、裂破《レイピア》。
そして大きく右腕を振り上げ己の勝利を誇らしく示す。
「「「「オオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」」」」
舞散る紙吹雪の中、勝利を称える歓声が闘技場を揺るがす。
「好恵姉!!」
声をかけた空は柵から身を乗り出さんばかりの勢いでいた。
「よかった・・・ぼくてっきりもうダメかと・・・」
心配と安心が入り交じった表情で涙を浮かべながら好恵に声をかけている。

パシッ!

「わっ!?」
ハチマチが投げつけられ思わずびっくりしてしまう空。
「バカ野郎!! 男のだったらピーピー泣くなっ!!」
険しい表情になり空を怒鳴りつける好恵。
「いいか・・・空。仮にも傭兵から修練闘士になろうという者が命を賭けた戦いで
泣くんじゃない!!」
自分が倒した獣魔、バーセルクの身体から降りて紙吹雪の中を歩いてくる。
「戦う相手に最大の尊敬と敬意を払い・・・打ち倒せ!! それが・・・・・・
人の生き死にで糧を得る修練闘士、いや傭兵としての最低限のルールだ」
「・・・・・・はい・・・・・・」
しゅんとしてトボトボと歩いていく空。
「・・・あーー・・・・・・」
その様子にバツの悪そうな顔をしている好恵。
「えーい、空っ!!」
「な、なに?」
「しけた顔してるな、私は勝つと言ったら絶対勝つんだ!! それより賭けの賞金を
おろしてパーティーの準備でもしておけ」
「うん!!」
今度は嬉しそうな顔をして元気に走っていく空。
その後ろ姿を微笑んで見ている好恵。



歓声冷めあらん闘場を後にして控え室へと戻って行く。

ガシャン

左頬についた血を拭い、両腕についた手甲を捨てる様にして外す。
「くそっ・・・失敗した!!」
いつのまにか息を荒げて辛そうにしている好恵。
「あんな体勢から『裂破』ってのは無理だったかな・・・・・・!!」

キン

「しゃっ!!」
突然表情が変わり膝についていた飛び道具を外して通路に向かって投げつける。

ガッ!

その通路の角にあった柱を削るのみに至った。
「女性の着替えをのぞくっていうのはいい趣味じゃないぞ・・・出てこいよ」
そう言われて暗闇の中から1人の男が出てくる。
「・・・・・・『シャドウ=スキル』の坂下好恵殿とお見受けする」
「私の字名も有名になったな・・・で、お前は何者だ?」
出てきた男に対して警戒心を解いていない好恵。
「俺はハイドラント、まだ字名を持つ事も許されていない一介の傭兵だ。午後の
決勝、俺が貴公の相手をさせて頂く」
そう言いつつ太股のあたりから何かの紙切れを取り出している。
「当然勝ち、俺は字名を手に入れる。アクアの字名を持てば超一流の身となり・・・
どの戦場でも通用する栄誉となるだろう」
「で、さっきの戦いのダメージが抜けてない内に殺ってしまおうと言う訳か・・・」
(呪符!? こいつ・・・呪符魔術士(スイレーム)だ)
ハイドラントの取り出した紙を見てそう判断する。
緊張した空気が辺りを満たす。
「好恵姉!!」
そこに場違いな声を出して走ってくる空。
「でっかい酒ダル買ってきたよーー!!」
空はすぐそこまで来てやっとこの場に満ちている緊張感に気がついた。
(見られたか、ならばっ!!)
空の存在にに気付き、その瞳に殺気が宿り空を見るハイドラント。
「ハイドラントが符に問う、答えよ其は何ぞ」
ハイドラントは手にしていた呪符にお伺いをかける。
《我は刃、白い刃――――》
呪符がそのお伺いに反応し貯えていた魔力を開放する。
「殺るだけだ!!」
《霞のごとく舞いおどり――敵を切り裂く者なり!!》
呪符から白い刃が出て空を殺すべくハイドラントは襲い掛かった。

ゴオォォ!!

「空っ!!」
慌てて近寄ろうとする好恵。
「もう遅い!!」
にやりと笑い止めを刺そうとしたその時、

ヒュオッン

音を立てて飛んできた何かが呪符を砕き、ハイドラントの手のひらを貫いた。

パアァァァァァァァァンッ

「!!」
空の目の前で砕け散り行き場をなくした魔力が辺りに撒き散らされる。
魔力の暴走した呪符から慌てて手を離すハイドラント。
(ちっ、余計な邪魔が入りすぎた・・・この場は消えるか)
手に刺さっているモノを引き抜き新たな呪符を取り出す。
「ハイドラントが符に問う、答えよ其は何ぞ」
《我は霧、貴公の姿をおおい隠す者》

バシュ!!

呪符から発生した魔力が霧となりハイドラントの姿を一瞬にて消し去る。
「なんだかわかんないけど・・・た、助かった・・・」
尻餅を付き泣きそうになりながら自分の命が助かった事を実感している空。
「なにかゴタついてたようだから・・・思わず焼肉のくしを投げたけど・・・」
何かが飛んできた方から男が歩いてきた。
空はその男を見た途端、思わず絶句してしまった。
その男は傭兵らしい格好だったが右目を包帯で隠していることが大きかった。
「大丈夫か?」
手を差し伸べ空を助け起こす男。
「だ・・・大丈夫です、おかげで助かりました」
「そうですか、それは良かった。それから・・・はいこれ」
男は酒ダルを空に渡す。
「よかった・・・好恵姉のお酒も無事・・・」

ゴン!

背後から突然殴られ、痛みに顔をしかめながら振り向いた空の目には怒りに燃えている
好恵の姿が映った。
「何がお酒だ・・・このバカ!! 咄嗟の時に攻撃の受け流しぐらいできなくて
どうする!! このトボけた人が助けてくれなかったら死んでいたぞ!!」
「ト・・・トボけた・・・とは」
自分をトボけた呼ばわりされて苦笑するしかない男。
ぶるぶると握りしめた拳が震えている好恵。
「ご、ごめ・・・」
空は怒りに震える好恵を見て、おびえている。
「ホントにお前は!!」
振り上げた手に殴られると思って縮こまっていた空だが、
「えっ?」
逆に優しく抱きしめられる。
「ホントに・・・死んじまうかと・・・」
「好恵姉・・・」
「まったく・・・心配ばかりかけやがって・・・」
その様子を優しく見守っていた男だが静かにその場を立ち去ろうとした。
「待てよ・・・助けてくれてありがとうよ・・・」
涙を拭いながら男に声をかける好恵。
「よかったら、名前・・・教えてもらえないか?」
男は立ち止まり2人の方を向いた。
「俺は片目『ワンアイ』、アクアの有名な闘技祭を見に来たしがない狩人ですよ。」


少年は私のこの包帯を見つめている。
この片目と頬を覆う包帯が珍しいのか・・・あるいは・・・




後編に続く。