Lメモりーふ学園放送局【影技L】 「act.1 SCAR FACE後編」 投稿者:幻八
ぼくらの住む『アクア』は数々の傭兵が集う、別名『傭兵王国』と呼ばれる都市だ。
その「アクア」に集う傭兵の中でもずば抜けた力を持つ傭兵は傭兵としての最高の
栄誉とされる称号がアクア王から与えられる。
称号を受けた傭兵はやがて周りの者から『字名』で呼ばれ尊敬され―――恐れられる
ようになる・・・
それが傭兵都市アクアの最高の栄誉を持つ『修練闘士(セヴァール)』と呼ばれる人々
その人々だけが『修練闘士』の印を体に刻むことを許されるんだ。


「ふんふんふん♪」
明るい調子の鼻歌が聞こえる。
ここは都市に設けられた住宅としての機能を持つ場所。
闘いが終わり好恵は自分の身繕いをしていた。
「綾香、私のパンはちょっと柔らかくしてくれるか?」
好恵は料理を作っている綾香にそう声をかけた。
「柔らかく? ・・・なぜ?」
声をかけられた綾香は後ろを振り向いて好恵に聞く。
「いや・・・さっきの試合で噛み締めてた奥歯が痛くてな・・・」
焼きあがったパンを皿にのせ好恵に手渡す綾香。
「はぁ・・・気をつけないとブスになるよなぁ・・・」
「そうねぇ・・・元々好恵は私と違って美人じゃないから大変よねぇ・・・」
綾香の一言であたりの空気が一瞬止まった。
「・・・今、なんて言った、綾香?」
「ん〜・・・何にも」
綾香はごまかすようにして逃げていく。
「なんだとぉ、綾香ぁぁぁ!!!」

ガシャン!!

家の中から怒声と物が飛び出してくる。
ちょうどそのころ家の前にまでやってきた空と片目『ワンアイ』は、
「な・・・なんか・・・すごいな・・・」
「あれでも仲はいいんですけどね・・・」
呆れ半分でその様子を見ていた。
「今日は綾香さんが呪符を使わないだけマシです」

ガシャン!! ビュン!! ドガァン!!

収まる様子がないのか、相変わらず家の中からは怒声と一緒に物が飛んでくる。
諦めきって飛んでくる物を躱しながら空は持ってきたバケツを水瓶の側に置いている。
(よく出来たというか、馴れてる子だな・・・)
そんな空をワンアイは感心して見ていた。
「それよりワンアイさんは『スカーフェイス』ってご存知ですか?」
空は呆れ半分でいるワンアイに質問する。
「スカーフェイス? 『アクアのスカーフェイス』のことですか?」
空の方を振り返り、
「聞いたことありますよ、すごく強い修練闘士の童話のことでしょう」
「童話・・・童話なんかじゃありません!! 本当にいるアクアの英雄の話です!!!」
力一杯力説する空の勢いに思わず押されるワンアイ。
「今のアクア王『ホークアイ』西山英志を、御前試合の時16歳の若さで破ったんです」
なにか遠いものを見るような眼で説明を始める。
「他にも・・・たった1人で1000人以上の傭兵を葬ったとか、数多くの伝説を残して
いる・・・傭兵王国アクア2000年の歴史の中で最強の男!!」
再び視線をワンアイに戻して、
「それが『柏木耕一』・・・でもアクアの傭兵達は誰1人として彼のことを本名では
呼ばない・・・人々は彼の頬に残った一つの大きな刀傷に尊敬と恐怖をこめて
こう呼んでいる」
「・・・・・・・・・」
「刀傷『スカーフェイス』と・・・」
静かに空の話を聞いているワンアイ。
「・・・スカーフェイスみたいに・・・強くなりたくて傭兵になったけど、僕はいつも
好恵姉に迷惑をかけてばっかりだし・・・」
そう言って少し落ち込みかけている空。
「・・・・・・私は・・・傭兵のことは分かりませんがこう思います・・・」

サァァァァァ・・・

優しく風が流れていく。
その中で空とワンアイは目を合わせて語り合っていた。
「男の子は自分の大切な人が危険な時に、自分の命のすべてをかけてその人を守る盾に
ならなきゃと」
「大切な人を守る・・・盾に・・・なる」
「盾になる・・・か、いい言葉だ・・・それが出来ればな」

ズシン

空とワンアイが話している所に別な人間の声、それに重いものが歩く音が
聞こえてくる。
「ハイドラントが符に問う答えよ、其は何ぞ!!」
《我は電撃》
ハイドラントが手にした呪符が蓄えられた魔力を開放する。
「もし出来るのなら、やってみせろ!!」
《電光にて我が敵を縛る者なり》
呪符から放たれた雷光が空を直撃する。
「空っ!!」

バリバリバリバリバリ!!!

「うわあああああああ!!」
「これはっ!?」
「空の声だ!!」
家の中にいた好恵と綾香にも空の叫び声が聞こえた。
好恵と綾香は慌てて家から飛び出し空の声のした方へと走っていく。
「空!!」
「邪魔をするな・・・お前もこうなりたくはあるまい」
駆け寄ろうとするワンアイをハイドラントが止める。
「この子をどうするつもりだ!?」
「どうもしない、すべては『シャドウ=スキル』しだいだがな・・・」
そこに駆けつけてくる好恵と綾香。
「空!!」
「ああああっ!!」
駆け寄り空に触れようとした好恵はその身体が電撃で縛られているのに気が付く。
「これは!?」
「電撃結界!!」
綾香が空に張り付いた呪符を見つけて思わず叫ぶ。
「・・・ハイドラントかっ!!」
殺気のこもった目ですぐ近くに立っている人物を睨み付ける。
そこには両手に呪符を持ち、背後に首の無い巨大な獣魔を従えたハイドラントがその場に
立っていた。
「試合前にお前に仕掛けたことで、俺は決勝戦の試合資格を失ってしまった・・・
となればたとえいかなる手段を持ちいても貴様を殺る以外に『字名』を得る道はない」
手にした呪符をかざして、
「動くなよ『シャドウ=スキル』、動けば・・・俺の放った電撃結界はお前の大事な
弟を黒焦げにする」
そう好恵に対し脅しをかける。
「なんだと・・・あんたこんな手段で勝ってどんな字名が望みなの!!」
怒ってハイドラントに攻撃しようとした綾香だが、
「待て、綾香!!」
その攻撃を押しとどめる好恵。
「条件は分かった、殺られてやるから・・・空を自由にしろ!!」
(悪い空・・・私はもうこれ以上お前を育ててやれないらしい・・・)
そう言って空から離れていく。
「安心しろ、お前が死んだら呪縛は解く」

ボゥッ!

呪符から放たれた魔力がハイドラントの背後にいる獣魔の身体に貼り付けられた呪符に
反応して輝きを増す。
「準決勝でお前が倒したバーセルクを俺が呪符を用いて鋼鉄の肉体に変えた・・・」
ハイドラントが腕を振り上げると背後に控えているバーセルクも動きが同調している
らしく同じように腕を振り上げる。
「こいつならばお前を殺すのにも数分とかかるまい・・・あばよ『シャドウ=スキル』」
凄惨な笑みを浮かべながら振り上げた腕を振り下ろす。

ゴキン!!

背後のバーセルクも同じように腕を振り下ろし、好恵を殴り付ける。
「かはぁっ!」
吹き飛ばされていく好恵。
「好恵!!」
「動くな!! そこで『シャドウ=スキル』が殺される様を見ているがいい」
そして好恵を捕まえ、締め上げていく。
「くああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
抵抗も何も出来ずにただ絞め続けられる好恵。
「好恵姉!! 好恵姉が死んじゃうっ!! 僕のせいで・・・立たなきゃ・・・立って、
立ち上がって好恵姉を助けなきゃ・・・」
電光にさらされながらも必死に立ち上がろうとする空。
(空のやつ・・・あんな泣きそうな顔して・・・ごめん空・・・私・・・もうお前を
育ててやれないらしい・・・)
そんな空を見て好恵は自分の状況も忘れ、ただそれだけを思っていた。
「好恵姉っ!!」
空の悲痛な叫びが響き渡る。
「ハイドラント、なぜそうまでして字名にこだわる?」
「『シャドウ=スキル』がその子を命を投げ出す様に・・・俺にも守るべきものがある」
そんな中、ワンアイが口を開きハイドラントに質問する。
「だが・・・それでは無名ではダメなのだ! どうしても字名がいる!!」
「これで手に入るのは、卑怯者の汚名だぞ」
「『シャドウ=スキル』を殺しただけで十分だ」
「貴公は字名を持つ本当の意味を知らないだけだ」
「動くなっ!! ・・・ええぃ、ハイドラントが符に問う、答えよ其は何ぞ!!」
《我は刃、白い刃、霞のごとく舞いおどり――敵を切り裂くものなり!!》
ワンアイとやり取りをしていたがうざったくなったのかハイドラントは呪符を取り出し
ワンアイに向かって攻撃した。
呪符から放たれた魔力が白き刃となりワンアイを襲う。
「ばかな奴よ・・・」
誰もがワンアイがやられたと思った・・・だが、

バシュン!!

呪符の魔力がはじけ飛び無傷のワンアイがそこに立っていた。
「なに!? 俺の呪符を受けて無傷だとっ!?」
信じられないものを見たかの様にハイドラントは驚愕した。
「さぁ空、今こそお前のすべてを見せる時だぜ」
ワンアイは自分の目を覆っていた包帯を取り、空の額に鉢巻きのように巻き縛る。
「見せてくれ、お前の勇気!!」
「ワンアイさん・・・顔の包帯・・・」
空はワンアイのしていた包帯の下に隠されていたものを見つけた。
「お前の命の全てと引き換えに手に入れられる本当の勇気を、この俺に見せてくれ」
「その・・・頬の傷は!!」
自分の指を傷付け流れ出た血を空の左の頬に塗る・・・そう、
「この『スカーフェイス』に見せてくれ!!」
己が頬に刻まれた傷のように・・・
「・・・『スカーフェイス』・・・」
「さあ行け!!」
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
スカーフェイスの声に押されるようにして空の全身に力がみなぎる。
《肉体代謝機構――全力回転》
「立ち上がれ!! 眼前に立ち塞がる全ての物を屠って!!」
空は全身を覆っていた電撃をすべて吹き飛ばし呪符すらも弾き飛ばす。
「ばかな・・・結界を破っただと!?」
《電撃中和――武技言語開始》
「我は無敵なり」
「武技言語!! 空、お前まさか!?」
「我が影技にかなうものなし」
スカーフェイスが振り上げた腕を踏み台にして空高く舞い上がる空。
「我が一撃は――無敵なり!!!」

ズガガガガガガァァァァァァァン!!!!

一撃で好恵を締め付けていたバーセルクを粉砕する。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
「・・・何と言う事だ・・・この少年に、あんな力があるなどとは!!」
荒い息をついている空を見て呆然としているハイドラント。
「信じられん!!」
「ハイドラント、字名は自らが求める物ではない・・・人が驚嘆した闘いをした者が
他人の心に生み出す物だ!! ・・・そう、今の空の様に・・・」
驚愕し呆然としているハイドラントにスカーフェイスは諭すように語り掛ける。
「『スカーフェイス』・・・」
そのスカーフェイスを見つめる空。
「・・・見事・・・貴公の勝ちだ、名も無き若き傭兵よ・・・だがな、次は負けぬ」
そう言って霧に包まれ消えていくハイドラント。
「空っ!!」
「好恵姉!!」
空の名前を呼びながら駆け寄って来る好恵に笑顔で答える。
(・・・見せてもらったよ、空・・・お前の心にやどる力と・・・勇気を)
いつのまにか屋根の上に登り、下を・・・空を見続けているスカーフェイス。
「こいつ・・・いつのまに影技、武技言語なんて覚えた?」
涙を浮かべ、空を抱きしめたまま好恵は空に問う。
「覚えた訳じゃないよ、身体が動いたんだ・・・あの人の声に促されて・・・」
「あら・・・そういえば、いつのまにかいないわね?」
好恵たちを暖かい目で見守っていた綾香だが、空に言われて耕一の姿を探すがどこにも
いなかった。
(これから、お前が生きていく間に今日のような危険が何度もあるだろう・・・
だが恐れるな、危険を重ねるたびにお前は大きく、強くなっていくのだから・・・)
空たちから離れて歩いていくスカーフェイス・・・耕一。
「ねえ、好恵姉・・・前に言ってたよね、僕が足手まといにならなくなったら・・・
3人で旅に出るって・・・」
「ん、そうだけど・・・いきなり何だ?」
突然、空が言ってきたことに好恵はうろたえた。
(空・・・強くなれ、誰よりも・・・俺よりも・・・その為に自分の一番大切な人と
旅立つんだ・・・さあ)
「行こうよ、旅に!!」
「おい待て、空!!」
「冒険だぁぁ!!」


この出会いが僕を変えた・・・
この出会いがあったからこそ僕は強くなるきっかけを得た・・・
そしてここからが本当の・・・僕の物語の始まりだった・・・


・・・そうして少年は新たなる一歩を、自らが刻み続ける伝説を歩み出す。




act.1 「SCAR FACE」 終わり

(これは岡田芽武先生の「影技」をLのキャラに交換して展開しています。)
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 第一話、終わりました。
・・・良いのでしょうか、こんな悪巧み?
とにかく載せてみました。

キャスティング

ガウ=バン役           来栖川 空
エレ=ラグ(シャドウ=スキル)役 坂下 好恵
フォウリー役           来栖川 綾香
スカーフェイス(ヴァイ=ロー)役 柏木 耕一
コア=イクス役          ハイドラント

以上です。