リレー企画・コンバットビーカー第1話『勇者誕生!』  投稿者:トリプルG
 ある日の風見家。
「ひなたさんひなたさんっ!始まりますよっ!」
 夕食後、風見ひなたが暗器の手入れをしている台所へ赤十字美加香が駆け込んで
きた。
「始まるって・・・ああ、あのドラマですか。でも、1話じゃまだ僕達は出てない
でしょう?」
「いいえっ、やっぱりこういうのは1話から見ないと!せっかく購買部の方から特
殊放送電波受信機もらってきたんですから!」
「もらってきたって・・・あれは出演料がわりだったんじゃないですか?」
 言いながらも、テレビのある居間へと向かうひなた。
 そして・・・

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【勇者ゲーマー コンバットビーカー第1話『勇者誕生!』】


 第二購買部が閉まるのはかなり遅い。帳票整理や商品の注文を終えて、beakerが
シャッターに手を伸ばす頃には時計の針は8時過ぎを指している。この時間にはす
でにアルバイター達は帰宅していて、beakerは一人で帰ることになる。
 倉庫の方へと引っ込む初代beakerに挨拶すると、学園のある空間と通常空間とを
繋ぐ転移装置をくぐり、我が家へと足を向ける。
 空はよく晴れており、月が綺麗だった。風も心地よく、気分がいい。
 なんとなく。そう、本当になんとなく、季節はずれの月見がしたくなって、beaker
は近くの河原へと向かった。
 ・・・このような『なんとなく』は、時として『運命』などと言われることがある。


 降山市には、建設を計画していた会社の倒産などの理由で、建設途中のまま放置
されたビルが幾つか存在する。それらのうち、最も郊外に位置するビルには、冷凍
した食品用の倉庫として使われるはずだった広大な地下室があった。
 beakerが河原へと足を向けた頃。その地下室に、数人の人間が集まっていた。彼
等の足元には巨大な魔法陣が描かれており、淡い光を放っている。
「・・・ほぼ全ての準備は整いつつある・・・」
 足元からの光により、朧気にその姿が浮かび上がっている黒ずくめの男は、自分
の周りにいる者達に向かって、そう言った。
「今我々がやらぬ事は二つ・・・不安要素の排除と、・・・降山の人間には少々気
の毒だが・・・降山市に恐怖と混乱を蒔くことだ。・・・葛田」
「…はい…」
 葛田と呼ばれた男が、一歩前に進み出る。
「お前を先発隊に任命する。強化妖魔を使用し、降山に恐怖と混乱を撒き散らせ」
 言われて、葛田は恭しく一礼する。
「…了解いたしました導師…。…全ては…」
「ああ。全ては」
 二人の声が重なる。
『永遠なる理想郷のために』


 河原にあるサッカーグラウンドの隅に腰を降ろし、beakerは空を見上げた。
(こういうことが好きだとは、僕もなかなか老人的なのかな?)
 そう思って、苦笑する。
「これで好恵さんがいれば最高なんですけどね・・・」
 そしてそんな事を呟きながら、来る途中で買ってきた缶コーヒーを取ろうと足元
を見る。
「・・・あれ?」
 足元に置いていたはずの缶コーヒーがない。きょろきょろと辺りを見回すと、転
がって草むらの中に入っていく缶コーヒーの姿が見えた。
「蹴飛ばしたかな?」
 不思議に思いながらも、缶コーヒーを追いかけて草むらへと入るbeaker。
 缶コーヒーは、何かにこつんと当たってその動きを止めた。
「!? これは・・・」
 beakerはその『何か』を拾い上げる。
 缶コーヒーが当たったものは、黒光りするショットガンだった。エアガンなどで
はなく、本物である。
 どこかの暴力団の人間が処分に困って捨てたものかと思ったが、すぐに考えを打
ち消した。銃がどこ製のものか分からないのである。第二購買部は様々な銃器も取
り扱っている。そしてそこを仕切っているという立場上、beakerは銃の知識を大量
に有していた。世界中の銃を知っている、と言っても過言ではないだろう。その彼
の知識を持ってしても、分からないのだ。
 さらに、銃は微弱ながら魔力を発していた。これを警察に届けるのは何かとまずい。
こういうときに頼りになるのは・・・beaker以上に色々な知識を持っている彼の祖
父、初代beakerだろう。beakerは学園に戻るべく、元来た道を走りだした。


 その初代beakerは、河原の近くのマンションの屋上から、走り行くbeakerを見て
いた。beakerの姿が見えなくなると、自分の隣にいる老人の方に視線を向ける。
「・・・なかなかに不自然だな」
 年に合わない頑強な体のその老人・・・長瀬源四郎は、言われて少し顔を赤くす
る。
「し、仕方なかろう。ああいう小細工は苦手なのだ。それに私の役目は彼に銃を渡
すこと。極端な話、手渡しでも良かったのだから、芝居の上手い下手は関係ない」


 坂下好恵は、毎朝晩のジョギングを日課としている。夕食の後に自分の家の周り
をぐるりと5KM程走ってくるのだ。
 そして、今日もいつものように折り返し地点にしている降山市役所近くの商店街
を折り返して、残り2,5KMを消化すべく、少しスピードを速めた。
 アーケードの端・・・カメラ屋の前を通り抜けようとしたときである。
 坂下は、ふいに足元に揺れを感じた。
「・・・地震?」
 足を止め、辺りの様子を窺う。その間にも揺れは段々と大きくなり、そして・・・
坂下のいる場所と反対側のアーケードの端辺りの道路を破り、巨大な頭が出現した。
そして首、腕、足・・・たちまちのうちに全身が現れる。
 それは、恐竜に近い姿をしていた。プテラノドンの羽をティラノサウルスに生や
した感じ、と言ったら、なかなか近いかもしれない。
 一瞬のうちに商店街がパニックに陥る。唯一、日頃Leaf学園で様々な常識の域を
越えた体験をしている坂下だけが、辛うじて冷静を保っていた。
「な、何なのよ一体?!」
 言いながらも、走り出す。恐竜の近くで転んだ子供が見えたのだ。


 全長30M程の恐竜型妖魔の肩に乗り、葛田は降山の町を眺めた。
 綺麗だった。美しかった。しかし、それは見た目だけのものにすぎない。この美
しい景色の影に、数え切れないほどの『汚れ』が潜んでいるのだ。
 だから・・・だから自分は、動かねばならない。
「…破壊しろ…!」
 葛田の声に妖魔は大きな咆吼で答えると、ゆっくりとその一歩を踏み出した。
「待ちなさい!」
 凛とした声が、葛田の耳に届く。声のした方向・・・妖魔の足元を見れば、一人
の女性が自分を睨み付けていた。
「…あの女は…」
 見覚えがあった。不安要素の1つ、『試立Leaf学園』の生徒だ。格闘部に所属し
ており、その戦闘能力はかなりのものとみていいだろう。
「…ちっ…厄介な…妖魔よ、排除しろ…!」
 妖魔は右足を持ち上げると、坂下の上に振り下ろした。
「くぅっ!」
 坂下は素早いサイドステップでそれを回避すると、妖魔の膝を踏み台にして、跳
躍する。
 いくらなんでも空手の技で巨大な妖魔を相手にすることは難しい。となれば、狙
うのは肩の上で妖魔に命令を出している葛田だ。さらに妖魔の右腕を踏み台にする
と、一気に葛田との距離を詰める。
「…ふっ…甘いな…!」
 ぐるん!と妖魔の首が回転し、坂下の方を向いた。半開きになったその口の中に、
光の玉が生まれる。空中にいる坂下は、自分の体の軌道を変えることが出来ない。
(やられる?!)
 眩い光が視界を白く染め上げ、そして・・・
 銃声が、響いた。続いて妖魔の悲鳴が起こり、口の中に生まれた光の玉が消える。
 銃弾が、妖魔の右目を撃ち抜いたのだ。
 半ば呆気に取られながら、坂下は銃声が来た方を見、そして呟いた。
「beaker・・・」


 愛用のコルトガバメントV10・フルサイズゴールドモデルを構え、beakerは心
の中で神に感謝した。偶然、ズボンのポケットから生徒手帳が落ちて、それを拾お
うと振り返ったら、巨大な頭が見えたのである。もし生徒手帳が落ちなかったら、
今頃は気付かずに学園まで行っていたかもしれない。
 もう一丁、コルトガバメントを取り出して構えると、beakerは地面に降りた坂下
に向かって叫んだ。
「好恵さんっ! 学園の寮に行って救援を要請して下さい!」
 自分はその間の足止めにまわる。止められるかどうかは正直自信がないが、とい
ってSS使いの人間が偶然通りかかるのを期待して二人で戦うわけにもいかない。
 坂下が頷き、走り出すのを確認すると、beakerは妖魔と葛田を睨み付けた。
「さあ!お前達の相手はこの僕だ!」
「…ちっ…まずいな…救援を呼ばれては…」
 葛田もまた、beakerを睨み付ける。
「…一撃で始末しろ…!」
 妖魔の口の中に、再び光の玉が生まれる。狙いは・・・坂下!
「させるか!」
 beakerは両手のコルトガバメントを妖魔の口に向かって斉射する。
 銃弾の干渉を受け、光球が破裂したその瞬間。
「…プアヌークの邪剣よ…!!」
 声を上げる間すらない。
 beakerの意識が妖魔に集中したその瞬間を突いて、葛田の放った光熱波がbeaker
に炸裂した。



(目覚めよ。我が主に相応しき勇気と情熱、そしてクソゲーを愛する心を持つ者よ)
 その声で、beakerは意識を取り戻した。しかし、目を開けたつもりなのに、光が
目に飛び込んでこない。そこは、暗闇の世界だった。
 自分の体の感覚はあった。どうやら、死んではいないらしい。
「・・・誰だ?」
 それから、beakerは声の主に向かって問いかけた。
(我が名はクリムゾン。勇者・・・クソゲーハンターに、その称号に相応しき力を
与える魔銃、クリムゾン)
「魔銃、クリムゾンだって!?そんな、実在したというのか?!」
 横たわっていた体を、がばっと起こす。すると、まるで映画館のスクリーンのよ
うに、暗闇の空間の中に、見覚えのある風景を写している部分があることに気付い
た。見覚えのある風景・・・先程までいたはずの降山市役所前だ。
 市役所が燃えていた。人々が逃げまどっていた。坂下が・・・たった一人で戦っ
ていた。
(勇者に・・・クソゲーハンターに相応しき情熱と勇気を持つ者よ。目覚めよ)
 声は、同じような内容のことを、もう一度繰り返した。
「勇者・・・僕が・・・?」
(左様)
 その時。光球が起こした爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされる坂下が見えた。beaker
は、思わず声にならない悲鳴を上げ、そしてどこにあるのか分からない魔銃に向かっ
て叫んだ。
「魔銃クリムゾン!勇者とかなんとか、正直訳が分からないけれど!頼む!力を貸し
てくれ!僕には・・・僕には・・・守りたいものが、あるんだ!!」
 光・・・光が、beakerの体より放たれる。
 そして彼の目の前に、赤い扉と、河原で拾ったショットガンが現れた。
 beakerは迷わずショットガンを掴むと、赤い扉に手をかける。
「せっかくだから・・・」
 言うべき言葉は、分かっていた。
「せっかくだから、俺はこの赤い扉を選ぶぜっ!!」


 満身創痍の坂下を見て、葛田は勝ち誇った笑みを浮かべた。どうやらLeaf学園生徒
が来る前に、事は終わりそうだ。
 辺りにもはや人影はなく、ただ炎だけがメラメラと燃え盛っている。
「…そろそろ…限界のようですね…?」
 妖魔が口を開ける。その中に、光の玉が生まれる。もはや、坂下には避ける力が残
っていなかった。
『ちょぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁっ!!』
 そして・・・声が、辺りに響き渡る。
「…こ、この声は…!?」
 葛田が、驚愕の声を上げる。
『数々の建築物の破壊、罪もない住民に対する容赦のない攻撃!お前達、レビュアー
の評価は最低ランクだ!よって、僕がハントする!』
 ごっ!
 ひときわ大きく燃え盛っていた市役所の炎を飛び越え、右手にクリムゾンを融合さ
せたbeakerが市役所前広場に降り立った。
「クソゲーハンター、beaker見参!」
「び、beaker・・・良かった・・・」
 安堵の声を漏らした坂下が地面に崩れ落ちる。
「…生きていたのか…しかし、もう一度出てきたところで所詮は同じ事…さあ、今度
こそあの世に送って上げますよ…!」
 妖魔の口から、光球が放たれる。beakerは、ゆっくりとクリムゾンの銃口をそれに
向けた。
「クリムゾンシールドッ!」
 クリムゾンの銃口の辺りより発生した障壁が、光球を霧散させる。
 そして光球が消え失せると同時、beakerが走る。人間では考えられないほどのスピ
ードで一気に妖魔の足元へと行くと、クリムゾンの銃口を真上に向けた。
「いくぞクリムゾン!」
(心得た!)
 銃口に、光の粒子が集まる。魔力を感じることの出来るものなら、そこに集まるも
のすごい量の魔力を感じ取ることが出来ただろう。世界中のクソゲーを愛する者達の
『思い』の一部を魔力に変換し、銃口に集めているのだ。
「…ちいいっ…ヨークの翼よっ…!」
 転移魔術により、葛田の姿が消え失せる。
「必殺!クリムゾンショーーーーーーット!!」
 そして放たれた強力なエネルギービームが、司令塔を失った妖魔の頭を消し飛ばした。
「ハント・・・完了!」


 葛田に指令を出した黒ずくめの男・・・ハイドラントは、あの魔法陣の描かれてい
る部屋に、一人で立っていた。
「何か厄介なものが覚醒したらしいな」
 おおぉ・・・
 部屋の隅・・・魔法陣の光の届かぬ場所にある闇が、蠢く。実際にはそれは声なの
だが、ハイドラント以外に聞こえることはない。
「・・・ああ、そうだな。あの程度では我々の驚異とはなり得ない。しかし、芽は早
いうちに潰しておくべきだろう」
 闇の声に答え、そして、ハイドラントは続けて言った。
「全ては、永遠なる理想郷のために」

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【次回予告】
 クソゲーハンターの力に目覚めたbeakerの前に忍び寄る、秘密結社『ダーク十三
使徒』の影!

ハイドラント「くくっ・・・我が名はハイドラント!永遠なる世界を求める者!」
beaker「馬鹿な・・・あの男・・・クソゲーハンターか?!」
坂下「beaker・・・勝ちなさいよ、絶対に!」

ダーク十三使徒の幹部にクソゲーハンターが?驚愕するbeaker、そして放たれる氷
結妖魔!beakerよ、今こそ融合合体の時だ!
次回、コンバットビーカー第二話『高級住宅街の罠』!お楽しみに!

これが勝利の鍵だ!『エチゼンブレード』

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うーん、こんな1話でいいのだろうか・・・?(汗)
と、とにかく、どうにかこうにか書き上げたコンバットビーカー第1話をお送りします。
はい、つまらないですね(笑)。
というわけで、第二走者の方にバトンをお渡しいたします。
最後に、あの予告編からこのような企画を考えて下さったbeakerさん、そして参加
して下さった皆さんに感謝いたします(って、言えるような立場なのか自分?(汗笑))