Lメモ「ある雨の日の話」 投稿者:トリプルG
 雨・・・朝起きたら、雨が降っていた。
「・・・嫌ですねえ・・・」
 トリプルGは誰にともなく呟くと、のそのそと朝食の準備を始めた。


 雨は弱かった。アパートを出ると、傘をさして学校へと向かう。
「・・・あれ?」
 見れば電信柱の下にダンボール箱が置かれており、その中に子犬が一
匹うずくまっている。
 そばに近づいて見てみると、子犬もこちらを見上げてきた。
「・・・お一人ですか?」
 子犬はただ、くぅんと鳴くのみである。
『名前はたろうです。かわいがってやってください』
 そう書かれた紙が、そばにあった。
「・・・無責任・・・ですよねえ・・・いや、何か事情があったのでし
ょうか?」
 彼はしばらくそこに佇んでいたが、子犬を抱え上げると、再び学校へ
と歩き出した。


 学校に着くと、ダンボール箱とビニールシートで簡単な犬小屋を作る。
さて、これを何処に置けばいいだろうか。
 しばらく考えた末に、トリプルGは校庭の隅に置くことに決めた。校
舎内に置けば雨は完璧に防げるが、何かと問題がありそうだ。Dセリオ
VSジン・ジャザムの決戦も、雨の日はいつも室内でやっているような
気がする。この学園に来てからまだ日が浅いのでなんとも言えないが。
「じゃあ、ここにいてくださいね。私はあなたを飼ってくれる人を探し
てみますから」
 彼はメモ用紙を濡れないようにビニールシートの間に挟み、箱の横に
傘を開いたままにして置くと、その場を立ち去った。
『たろうという名前らしいです。今朝電柱のそばに捨てられていました。
飼ってくれる人を探しています。希望者の方はオカ研のトリプルGまで』
 メモ用紙には、そう書かれていた。


 トリプルGの記憶は間違っていた。ジンとDセリオの決戦には雨など
関係ない。
「光子力ミサイル!!」
「甘いですよ!」
 片方が攻撃を加えれば、片方がそれをかわす。一進一退の攻防が続く
中、二人は徐々にダンボール箱の方に近づいてきていた。
「いきますよ・・・サウザントミサイル!!」
 回避に移ろうとした瞬間・・・ジンの視界に、ダンボール箱とその中
の子犬が入った。
「・・・ちいっ!」
 避ければ下の犬に当たる。彼は慌てて手を顔の前で交差させ、ミサイ
ルの直撃に備えた。
 が・・・ミサイルはジンを大きく外れ、明後日の方向に飛んでいった。
Dセリオがミサイルをコントロールし、その進行方向を変えたのである。
 ジンは苦笑すると、親指でダンボール箱を指さし、上空のDセリオを
見上げた。
「・・・今日は休みにしとかねぇか?」
 Dセリオもまた苦笑を浮かべつつ、その言葉に頷いた。


 しばらくすると、ばちゃばちゃという足音が近づいてきた。子犬が顔
を上げると、一人の男が目に入った。全身黒ずくめの男・・・ハイドラ
ントである。
「・・・・・・」
 ハイドラントは、じっと犬を見つめる。
 犬もじっと見つめ返してくる。
「・・・・・・」
 今度は、殺気を込めて睨み付けてみる。気の弱い人間なら、その目を
見ただけで気絶してしまうだろう。
 しかし、犬は怯える様子もなく、やはりじっと見つめ返してきた。
「・・・・・・フン」
 ハイドラントは口元に薄い笑みを浮かべると、その場を立ち去った。
「あ、いたいた、導師!何処に行っていたんですか!」
「ああ、すまん」
 遠くでそんなやりとりが聞こえた。


 やがて、昼休みがやってきた。雨はまだ降り続いている。
 子犬は空腹を感じていた。
 と、ばちゃばちゃと足音を立てて、誰かが近づいてくる。
「・・・子犬?」
 足音の主は柏木楓・・・XY−MENの屋台でたこ焼きを買った帰り
にこのダンボール箱を見つけたのである。
「捨て犬・・・うちで飼えるかしら?」
 彼女が思案していると、子犬がふんふんとたこ焼きの入った袋の匂い
を嗅ぎ始めた。
「・・・ああ、たこ焼き欲しいの?・・・はい、熱いから気を付けて」
 発泡スチロールの容器からたこ焼きを一個取り出し、箱の中に置いて
やると、鼻を近づけてふんふんと匂いを嗅ぎ、少しずつ口を付け始める。
「ふふっ、美味しい?」
「・・・そりゃ美味しいに決まってる。なんたってウチのたこ焼きだか
らな」
 いつの間にか、楓の横にXY−MENが腕を組んで立っていた。
「捨て犬か・・・」
 どことなく昔の自分の境遇に似ているような気がして、XY−MEN
は少し胸が痛くなった。
「ああっ、犬さんです〜!」
「この雨の中何をしているのかと思ったら、捨て犬か・・・っと響、走
ると靴下が汚れるぞ」
 二人分の足音と声が近づいてくる。情報特捜部のYF−19と、どう
見ても小学生女子な高校生男子、水野 響である。
「・・・あ、浩之ちゃん、子犬がいるよ」
「捨て犬、か・・・ほら、パン食うか?」
 校庭の隅に幾つかの傘があると目立つらしい。続いて現れたのは藤田
浩之と神岸あかりだった。


「っはー・・・」
 数分後、子犬に餌をやろうと下駄箱まで来たトリプルGは校庭を見て
驚嘆した。二十あまりの傘がダンボール箱を置いた辺りに集まっている。
この様子だと餌をやる必要はなさそうだ。
「これは新しい飼い主も結構簡単に見つかるかもしれませんねえ・・・
あ、東西さーん!やっぱり私もそっちで食べますー!」
 ちなみに、今日のトリプルGの昼食は魔法瓶に入れた徳島の郷土料理
『そば米汁』だったのだが・・・まあ、どうでもいいことである(笑)。


 チャイムが鳴って昼休みが終わり、5時間目になると再び子犬は独り
ぼっちになった。欠伸を一つすると、丸くなって眠り始める。
 数分ほど経った頃だろうか。雨ガッパを着た一人の人間が近づいてき
た。河島はるか教師である。子犬がそれに気付いて顔を上げた。
「今日は5時間目、授業無いから」
 彼女は犬にそう言うと、ダンボール箱の横に座った。子犬も再び体を
丸めると、眠りにつく。
 それからしばらくすると、また一人の人間が現れた。白衣を着たその
男は、教師の柳川祐也である。
 彼はそっとはるかの顔を覗き込んだ。・・・寝ている。間違いない。
まあ、すでにエルクゥの超視力で確認済みなのだが。
 そして彼は白衣のポケットからビーフジャーキーを取り出すと、ダン
ボール箱の中に投げ込み、そそくさと戻っていった。


 放課後。雨はすでに上がっている。水たまりを避けながらトリプルG
はダンボール箱の方に向かった。
「どもー」
 自分を見上げてくる子犬に軽く片手を上げて挨拶する。
「あなたを飼ってくれる人が見つかりましたよ。良かったですねえ」
 彼は子犬の喉の辺りをくすぐってみた。
 子犬は気持ちよさそうに目を細めた。

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 そば米汁・・・そば米汁です(謎笑)。
 ちなみに子犬をもらっていったのは一般生徒です。
 あと、出演してくださった皆様、どうもありがとうございました。