風紀動乱っぽいLメモ「愛と正義の名の下に」前編 投稿者:ギャラ

雌伏の時はもう終わりだ。
激化する生徒指導部の暗躍。
その矢面に立たされた彼らは、ついに立ち上がった!

……いや、立ってないけどっ!



「いやはや……」
 りーふ学園、校舎の一角。
 その窓から外を見下ろして、ギャラは帽子の縁を弄ぶかのように指で弾いていた。
 その視線の先、校門へと伸びる道を二人の少女が歩いている。
 神岸あかりと、長岡志保。
 他の面々――いつも傍らにいる浩之や雅史の姿は見えない。二人だけで、まるで寄り添う
ようにして歩いている。
 それを眺めるギャラの顔は、珍しく不機嫌を露わにしていた。
「風紀委員会……座視しているわけにもいきませんな」
 ぴん、と音を立てて帽子を指で弾く。
 そのまま顔を一度撫で下ろして、ギャラは窓から身を離した。
 既にその顔には、いつも通りのへらへらとした笑みが貼り付いている。だが、その目は……
静かな憤りを、湛えていた。



    Lメモ私的奇譚・風紀動乱っぽい編「愛と正義の名の下に」(前編)



「とゆーわけでっ!」
 ばべん、と黒板を一つ叩いてギャラは声を張り上げた。
「我らのあかり様を悲しませた以上、生徒指導部ひいてはディルクセンさまには不幸な目に
 遭っていただくしかあるまいと思うわけであります!」
 聴衆は、彼と同じくあかり萌えであるkoseki、冬月、氷上。
 さらには暇なのでついてきた美也とアレイを加えた五人を前に、ギャラは熱弁を奮って
いた。その趣旨はこうである。
 ――某筋から入手した情報によれば、生徒指導部が志保に対して何らかの攻撃を加えたらしい。
 ――はっきり言ってそれはどうでもいいがとゆーかむしろ志保が死のうがアフロになろうが
全然ノープロブレムだが、そのことであかりは悲しんだらしい。
 ――あかりの敵は世界の敵であり、これを抹殺することは定説で保証されているのですヨー。
定説主義は日本国憲法の全文で保証されているのだ来為度。
 ――とゆーわけで、ディルクセン許すまじ。
「……とゆーわけですっ!」
「いや、定説はまずいですって。定説は」
 冬月が冷静にツッコむが、ギャラの暴走は止まらない。
「そのよーな些細なことは問題ではございません!」
 と、気圧されていたのか今まで無言でいたkosekiが手を挙げた。
「あの……ところで、不幸な目っていうのは具体的にはどういうことなんですか?」
「一応、わたしにとっても兄で上司なわけだから、危険なことをするようだと放っておく
 わけにもいかないんだけど?」
 美也も頷きながら、挑発するように片頬に笑いを浮かべてみせる。
 だが、ギャラはそれらの疑問を鼻で笑い飛ばした。
「ふっ……私とてそのよーなことは考えております。直接的な暴力でなく、今ディルクセンさま
 にとって最も恐ろしいことは何か? それは、他勢力が共同して生徒指導部に参加すること
 であるはずです!」
「まあ、それはそうでしょうね」
 美也が感心したように呟いた。
 実際、ギャラの頭は決して悪くはない。
「そこでっ! ジャッジとダーク13使徒を協力させるよい案を思いついたのです、私はっ!」
 そう言って、ギャラが黒板に何事かを書き付けていく。
 そこに現れた文字は……



『世界の基本はLove&Peace! 人類皆兄弟とゆーかむしろ兄貴と舎弟!

     岩下さま&ハイドラントさま らぶらぶ☆カップル化計画』



 ……ギャラの頭は決して悪くないが、その使い方は致命的なまでに悪かった。
「えーと……それは何と言うか……」
「不純同性交遊は、風紀委員として取り締まるべきなんでしょうか……?」
「一応ジャッジのメンバーとしては、反対するべき……ですかね……?」
「多分、無理だと思いますぅ……」
 開いた口が塞がらない、といった様子の四人。
「何をおっしゃいます! 奇跡とは起きるからこそ奇跡なのですっ! さらに言えば、
 学園に愛と正義と秩序をもたらすこの作戦に風紀委員が協力しない法がありましょうや、
 いやないっ!」
 その反応を気にもせず、一人どこまでも暴走していくギャラ。
 途方に暮れた四人の視線が絡まり合う。
 目と目で見つめ合う、僅かな間。その時、彼らは互いの意志を確かに感じたと確信した。
(……何か問題が起こったら、こいつに責任押しつけて逃げるということで)
(……そうですね、説得も無理っぽいですし)
「わかったわ、そういうことなら協力しましょう!」
「そうですねっ、神岸さんの復讐ですし!」
「ああ、私も及ばずながら協力しよう!」
「頑張りましょうぅ!」
「――皆さまっ!」
 感動した面もちのギャラの手を、必要以上に爽やかな笑顔の四人が握る。
 明日できることは今日しない。
 立派な心がけではあるが、人間そーゆー所からドツボにハマるものである。



「……で、それはいいとして、具体的にはどうするんですか?」
「ふむ、よい質問ですな」
 実際、ジャッジとダーク13使徒は仲が悪いどころか、明らかな敵対関係にある。その
指導者を恋愛関係に持ち込むなど、冬月ならずとも疑念を覚えて当然である。
 だが、そんな冬月の疑問に対してギャラは平然と頷いてみせた。
「ですが、ご心配なく。この件に関しては、13使徒に対して既に内通工作をおこなって
 おります。如何にハイドさまとて、獅子心中の虫に襲われてはひとたまりもありますまい!」
 自信満々に断言する。
「13使徒の内通者……? 本当だったら大したものだけど……」
 眉をしかめて美也が呟いた。
 カリスマ的な指導者を抱く組織の常として、13使徒の結束は非常に硬い。幹部クラスとも
なると各人の思惑に差もあるようだが、少なくとも一般構成員レベルでの裏切りは皆無と
いってもよい。
 事実、生徒指導部も内密に寝返り工作を進めているが、現時点では何の成果も上がって
いないのが実状である。
 美也の目に、単なる好奇心以上の光が宿った。
 それに気づいているのかいないのか。ギャラは大きく腕を振りかざして教室の扉を指さした。
「おいでませ! 我が同志、匿名希望Tさま!」
「きゅっ☆ぴぴーんっ!」
 その途端、奇声が響いた。
 おもむろに引き開けられた扉から、何やら奇怪な物体が転がりだしてくる。
「……魔の者ですかっ!?」
 反射的に冬月が椅子を蹴たてて立ち上がった。
 ――「それ」は、少なくとも見た目は人間に見えた。
「なんだなんだなんだいチミたちーーー! 元気がないでちゅPー? そーゆー時はタカハシ
 印のブルーベリーダンスで腐ったチーズのように元気よくダンスダンスダンスアーーンド
 シャッホゥ! イェーーーッ!?」
 もっとも、常人には理解不能な言語を振りまきつつ頭を下にして回転を続ける生物を
人間と認めるかどうかは、議論の分かれるところだろうが。
「イェーーーッ!」
 生物に同調したらしいギャラが、同じように頭を下にして回転を始めた。
「……」
「……」
「……えーと」
 反応に困って固まる四人。
 彼らが見守る前で、ギャラと謎の乱入者は回転を続け……

 くきっ。

 突然回転を止めて倒れた。
 さりげなく、首が本来曲がるはずのない方向に曲がっていたりもする。
「……」
「……どうしましょう?」
「……そんなこと聞かれても」
 kosekiと美也が途方に暮れた顔を見合わせた。
 この学園に来てからそれなりの時間も経ち、異常な事態にも慣れたつもりであったが……
まだまだ甘かったらしい。
「世界には、わたしたちの理解の届かない生物がまだまだ眠っているのね……」
「そんな、水曜特番の矢追純一じゃないんですから」
「やおいっ!?」
「「わああっ!?」」
 がばんっ、と起きあがりこぼしのような不自然な動きで生物が立ち上がった。
 思わず悲鳴を上げて飛び退くkosekiと美也を後目に、壁に向かって説教を始める。
「やおいとは何だね、キミは! 先生は悲しいぞっ! キミたちは腐ったミカンじゃない、
 むしろ腐りかけの方がバナナは美味しいんだけどあの黒っぽいところは食べる気なくす
 よなーってわけでメタンガスは切り捨てられねばならないのだよ、分かるねっ!?」
「え……あの、その」
「分かるねっ!つーかむしろ分かれっ!」
「……は、はいっ!」
 勢いに負けて答えてしまうkoseki。
 もっとも、彼を意気地なしと責めるのは酷であろう。九十度首が傾いて目から血が流れて
いるような顔を近づけられて平気でいられる人間は、普通そうはいない。
 長い黒髪の、美人と言って差し支えない容貌であるが、顔色が青ざめていてはむしろ不気味
さを増すばかりである。
「ぅよしっ!……ところで」
 その瞳が突然細められた。
 つい先刻までの狂気とは異なった、冷たい光が瞳をよぎる。
 その雰囲気に気圧されて、kosekiは思わず生唾を飲み込んだ。

「……なんの用かニャー?」

『――はぁ?』



「あー、なるほど。そういうことならこの匿名希望少女TといってもT-star-reverseとは
 無関係なので気をつけつつファッキンベイベーにお任せしてタイタニック号に乗った
 つもりでデカプリオよ!」
 匿名希望少女Tが、必要以上に陽気に……というかむしろ狂気に叫んだ。
 その横で、五分と経たずに復活したギャラも元気よく踊り出す。
「とゆーわけでっ! Tさまのご協力によってハイドさまの行動は本日の下着の色に至る
 まで我らに筒抜け! 電話番号まで分かってしまった今、岩下さまの名を騙ってハイドさま
 をデートに誘い、あわよくばイベント発生で好感度一気にアップなのです!」
「すっっっんばらC−−−っ! 実にナイスよギャラ! もうハートに火が点いて邪悪の
 ゴズマをキャッチしちゃったりなんかしてオーバードライブッ!!」
「Tさまっ!」
「ギャラッ!」
 感極まったか、二人ががっしりと抱き合った。
 そしてそのまま猛烈なタマダンスを踊りはじめ……

 ばぢっ!

 ――ようとして、美也のスタンバトンに痛打されて倒れた。
 半ば人間以外に片足突っ込んだ生き物様も、高圧電流には弱いらしい。
「……で? 具体的な方法を説明してほしいんですけど?」
 スタンバトンで自分の肩を叩きながら、痙攣している二人を醒めた目で見下ろす。
「いや……ですから、ハイドさまと岩下さまを呼び出して……無理矢理にでもデートして
 いただこうと……」
 その後ろでは、冬月、koseki、アレイらがこそこそと小声で囁き合っていた。
「……ぼく、こんな上司の下でやっていけるでしょうか……?」
「うーん……風紀委員も大変ですね」
「そういえば、昨日も矢島さんを虐めてましたよぉ」
「そこっ、うるさい!」
『はいっ、すみません!』
 思わず直立不動になる三人。
 変わり者に対する耐性の差であろうか。
「そんな無茶苦茶な作戦が成功するとでも思っているんですか?」
「ご……心配、なく……今すぐに証明してご覧に入れましょうっ!」
 ようやく痺れがとれたらしく、ギャラが勢いよく立ち上がった。
 懐から携帯電話を取り出し、
「Tさま、マル秘ノートをっ!」
「アラホラサッサー!」
 同様に復活した匿名少女Tから手帳を受け取り、素早くダイヤルする。
「……失敗するに千円。賭けませんか?」
「いえ、ぼくは賭事はちょっと……」
「いいですけど、わたしも失敗する方に賭けたいですからぁ……」
 外野の声を無視して、受話器に耳を澄ませるギャラ。
 と、微かに漏れ聞こえていたダイヤル音が、人の声に変わった。
『はい。第二茶道部です』
「あ、岩下ですが。ハイドラントくんはいますか?」
「……へぇ」
 ギャラの声を聞いて、冬月が感心したような声をあげた。
 ジャッジメンバーである彼でさえ気がつかないほど完璧に声を変えている。幻術師の
面目躍如といったところか。
『岩下さんですか?……少々お待ちください』
 電芹の声が消え、呼び出し中の音楽が聞こえてくる。
 そして、暫くそのままの状態が続く。
「……ずいぶんと待たされますね」
「まあ、当然でしょ」
「ジャッジとダーク13使徒は犬猿の仲ですからね。普通、警戒するでしょう」
 首を傾げるkosekiに、冬月が説明をする。
 その説明が終わるとほぼ同時に、待機音が切れた。
『……ハイドラントだが?』
 明らかに警戒した声音だ。
 だが、ギャラはそれを気にせず、気楽な雰囲気で答えを返した。
「ああ、久しぶりだな」
『ふん、昨日もやりあったばかりだろうが。皮肉のつもりか?』
「いや、とんでもない。……ところで、ハイドラント。今度の日曜日……暇かい?」
『……答える義務はないな。そもそも、暇だと言ったらどうするつもりだ?』
「よければ、中央公園にいっしょに遊びに行かないか?」
『……………………』
 ハイドラントが絶句した気配が、電話越しにでも伝わってくる。
 冬月は、敵味方の立場を越えて、この時ばかりはハイドラントに同情した。
『……何の冗談だ、それは?』
 たっぷり十秒以上も間を置いて、ようやくハイドラントが答えた。
 だが、
「いや、本気だよ」
『……………………』
 再び、絶句。
「じゃあ、午後一時に噴水の前で待っているから」
 相手の反応に構わず、ギャラはそれだけを告げて電話を切った。
 様子を窺っていた一同に、親指を立てて笑ってみせる。
「ふっふっふ……これでハイドラントさまのお膳立ては完璧ですな」
「でも、来ない可能性の方が高いと思うけど……」
「何をおっしゃいますか、美也さま!?」
 大袈裟に仰け反るギャラ。
「このTさまのマル秘ノートの力を疑うのですかっ?」
「ノンノンノンノンノンッ! アイのレポートはベリィグッ! 世界捕鯨協会から花マル
 バッテンを貰ったほどの精度で来年のピュリツァー賞はいただきなのよっ! 分かってるの
 セーラ!?」
 横から文字通り首を突っ込んできた匿名少女Tが、マル秘ノートなる手帳を美也に突き
つけた。
「ほら、ここにちゃんと! 『ハイドラントはダーク学力50以上で平日にダークコマンドを
 実行すると登場。好みのデートスポットは中央公園と寄生虫館。プレゼントに綾香の下着で
 好感度大幅アップ』って書いてあるのにっ!」
「……えーと、そんなこと言われても……」
「ちなみに葛Pは文系学力、神凪っちは理系学力だけど、ベネディクちゃんは隠しキャラ
 だから登場条件がベリーテリブゥッ! これ一冊で13使徒のデータは勢揃いして貴方も
 今日からときめけ青春千堂かずきちよ姉さんっ!」
「あまつさえ、そんなこと叫ばれても……」
 首から上だけを静止させたまま腰をベリーダンス調に回転させる匿名少女に、さすがに
困惑顔になる。
 とりあえず、押しつけられた手帳を開いて見て、
「……うわ。見事に役に立たない……」
「……努力は買わないでもないですが……」
 「13使徒のデータ」と聞いて気になったらしく後ろから覗き込んだ冬月も、呆れた口調で
呻いた。
 手帳に載っているのは確かに13使徒のデータであったが……
「名前、年齢はともかく……身長とか体重、スリーサイズって何……?」
「……この『好きな食べ物』とか『勝負下着』、『イベント発生条件』という
項目も分かりませんね……」
 見事なまでに役に立たない。
「ていっ」
 びりっ。
 とりあえず破いてみた。
「にょおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
 頭が背後の床に着くほど仰け反って、ムンクのように匿名少女Tが叫ぶ。
「何てことするのアナタはっ? おかーさんはあなたにそんな子を育てさせた覚えは
 アリババは四十人で盗賊よっ!」
「……アレイさん。突撃」
「はい」
 あっさり頷いたアレイが、強烈なショルダータックルをぶちかました。
 華奢な身体が勢いよく吹き飛び、頭から教室の窓に突っ込んでいく。

 ――ばりぃぃぃん!

「祇園帝国に栄光あれよかしいいいいいいいいいいいっ!」
 ちなみに、ここは三階である。