Lメモ・テニス特訓編「テニスの道はまだ遠い」  投稿者:ギャラ
 菅生誠治は、頭を抱えていた。
 ――彼は、学園の中でも人生経験という点においては有数の人物であると言える。
 生徒の中ではもちろん、教師を含めてさえ、自分は水準以上の人生経験を積んでいる人間で、
それに相応しい思慮深さを持ち合わせていると、彼自身も信じていた。
 それはつまり、外見だけに惑わされず、ものの本質も見抜く目を持っているということであり
――また、目的のためには自分の感情を一時黙らせることが出来る、ということでもあった。
 とは言え、それにも限界はある。
 ……つまり。
「……やっぱり、こいつらにテニスを教えるのは嫌だな」
 黙々とポージングを極めている阿部貴之とセバスゥナガセを前に、誠治は橋本に向かって
そう言い切った。



  Lメモ・テニス特訓編「テニスの道はまだ遠い」



「とゆーわけで、こちらで教えを乞うのがよいと伺って来たのでございますが」
「帰れ」
 ばたん。
「西山くん! 君と先生の仲じゃないかあああああああっ!」
 ばきばきばきっ!
「扉を壊すなああああああああっ! どんな関係があるんですかあああっ!」
「そのよーなことを仰らずに! これここに楓さまの写真が! これを差し上げますので!」
「私は買収などされんっ!」
 などと言いつつ、目を向けてしまうのがSS不敗の悲しい性。
「こ、これはっ……!」


          こんなのだった。(vsign.system.to参照のこと)


「どうだい、西山くん! 先生の肉体の次くらいに素晴らしいだろう?」
「いかがですか、西山さま!」
「……」
 ぷつん。

「エディフェル……天狂拳んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!!!」

 爆殺。



 その時、たしかに脳細胞が壊れる音が聞こえたと、来栖川綾香は後に語った。
「……何のつもりよ、あんたたち?」
「むうっ、何のことですかな?」
 目の前で、坂下好恵――少なくとも、そう自称する物体――が首を傾げている。
「綾香くん。そんなことを言ったら、せん……じゃなくて葵は悲しいよ」
 身長、体重ともに綾香を数回りは上回っていそうな松原葵が笑う。
 綾香は、自分が何か悪いことをしたのかどうか、神の胸倉を掴んで訊ねたい気分でいっぱいに
なっていた。
「で、綾香くん。葵はテニスを教えてほしいんだけれど」
「ああ……ちょっと待っててね」
 なんとなくオチが見えて、綾香は目眩をこらえて道場から出た。
 ふらふらと歩いていくうち、殺気立った目をした葵連合軍とbeakerとすれ違う。
「……あんまり道場は壊さないでね」
 多分無駄だろうと思いつつ声をかけて、綾香はそれきり振り向きもせずに歩み去った。
「……あれ、綾香さん。どうしたんですか?」
「ちょっとね……それより」
 廊下で出会った葵の背中を軽く叩く。
「あなたもテニス大会、出るんでしょ? 今から練習しない?」
「え、でも、格闘部の練習は……」
「ああ、それなら気にしなくていいわ」
 ふと、何を見ているのか自覚もないまま、遠い眼差しをする。
「今日は、使えないでしょうから……」
 そう呟いた時、背中の方から凄まじい破壊音が聞こえてきた。



「かくなる上は、貴方様でかまいませぬ! どうか我らにテニスの教授を!」
「お願いだ、JJくん! 先生の肉体を好きなだけ眺めていいから!」
「……無茶言うな」



「水野くんっ! こーなったら頼れるのは君しかいないんだ!」
「後生でございます、水野さまぁぁぁ!」
「は、はうぅ……なんなんですかぁぁぁ〜」
「ほら、プロテインキャンデーをあげるから!」
「あうぅ、変な人から物を貰ったらいけないって師匠から言われてるですぅ〜」
「――そこの変態ども! 他人の弟弟子に何をしてるんですか!?」



「Dセリオさまぁぁぁ!」
「――サウザンド・ミサイル!!」



「TaSくぅぅぅん!」
「HAHAHA、よろしいデショウ! タダシ、このタマダンスについてこれたらデース!
 HAHAHAHAHAHAHA!!」
「ぬうっ、負けませぬぞぉぉぉ!」
「輝け僕のワセリン! どりゃあああああっ!!」
「……なんかもう、相手を選ばなくなってきてるわねー」
「理奈ちゃん、あの人電波が届かないよ」
「まあ、ワセリン塗ってるからねぇ」



 ・
 ・
 ・
「……駄目だ! この学園には、僕たちにテニスを教えてくれる人はいないのか!?」
 貴之が天を仰いで慟哭する。
「何故なんだ! テニスというのは、それ程秘密にしなければならないものなのか!?」
「くっ……たかがテニスと侮っておったのが間違いでしたか……」
 もっと根本的な所で間違ってます。
「もう、僕にはどうすればいいのか分からない……」
 がくり。
 貴之の膝が地につく。
 そのまま、彼の心まで崩れ落ちようと――

「甘いぞ、貴之!」

「――!?」
「あ、貴方は!?」
「ふん……それほど困っているなら、何故俺の所に一番に来ないんだ?」
 いつの間にか西の空に輝いていた夕日を背に、一人の男が歩いてくる。
「だ、だって……あなたは僕を捨てて、四季なんかと!」
「ふっ……馬鹿だな」
 涙混じりの貴之の言葉に、男が優しく、まるで母のように慈愛に満ちた笑顔を浮かべる。
「俺が、お前を捨てるはずはないだろう? 俺たちは……いつまでも一緒だ」
「や……柳川さぁぁぁぁん!!」
 貴之が柳川の胸に飛び込み、そのまま幼子のように泣きじゃくる。
 柳川は、そんな貴之の背を優しく撫でていた。
「や……やなが、柳川さぁぁん!」
「そう泣くな、貴之。俺たちには、今からやらねばならないことがあるんだからな……」
「それでは、柳川さま!?」
「ああ。……この俺が、お前たちにテニスを教えてやろう!」



 で、翌日。
 テニスコートには、貴之&セバスゥペアと、何故かティー&葵ペアの姿があった。
「……ごめんなさい、ティー先輩。わたしのせいで、こんな変な練習試合に……」
「いえいえ。葵ちゃんが頼まれたら断りきれない性格なのは分かっていますし、我々としても
 練習試合はマイナスにはならないはずです。それより、精一杯頑張りましょう」
「はいっ!」
 気合を入れる二人。
 だが、相手の貴之とセバスゥは不気味なまでに余裕たっぷりの様子であった。
「それでは、参りますぞ!」
「はいっ!」
 ちゃきっ、と葵がラケットを構える。
 セバスゥがボールを構え、サーブを放った。
「――速いっ!?」
 技術はないが、何しろパワーがケタ外れである。
 セバスゥのサーブは、まさに砲弾のような勢いで突き進む。
(でも……これなら!)
 だが、葵の動態視力はそれをはっきりと捉えていた。
 すかさず、打ち返そうと相手コートに目を向け――

「「脳殺ポーズ!!!」」

 その瞬間、時は静止した。

 作者も描写したくないのだが……ワセリンテラテラの貴之と、ぴらぴらスカートの下に
Tバックを装備したセバスゥのポージングは、文字通り二人の脳を殺すのに十分な破壊力を
有していたのだ。
 脳死状態に陥った葵とティーが保健室にかつぎ込まれたのは、それから十分後のことで
あったと言う。



「とゆーわけで、僕たちはテニスの奥義を極めた!」
「我らの美しい姿態から繰り出される脳殺ポーズを恐れぬならば、かかってこられませ!」

 暗躍生徒会は、この二人の出場を取り消すか真剣に協議中であると言う。