VSジン・ジャザムLメモ「たまには真面目な戦いも」  投稿者:ギャラ
「とーとつですが、勝負です、ジンさま!」
「おうっ! ……で、理由は何だ?」

 そういうことは、戦うと決める前に聞きましょう。

「ふっ……第二購買部倉庫に眠っていたと言う、この『わくわく☆惑星(以下略)』の所有権を
 巡ってですとも!」

 ……

「いらん」

 勝敗以前に、戦う事自体に失敗。



        VSジン・ジャザムLメモ「たまには真面目な戦いも」



 翌日。
「とゆーわけで、再び勝負です、ジンさま!」
「……今度は何だ? 前もって言っておくが、『ぱすてる(後略)』も『PET(検閲削除)』も
 いらねえからな」
「……ちっ」(小声)
「おい」
「いやいや、今のは冗談です。今度は真っ当な理由を考えてきましたとも」
「……なんか嫌な予感がしないでもないが、一応聞いてやろう」
 本当に嫌そうに顔をしかめるジン。
 それに気づいているのかいないのか、ともあれその反応を無視してギャラは語り始めた。
「実は、先日のことです。私が薔薇の道を極めるべく読書に勤しんでいると……」
「何読んでやがったんだ、おい」
「……これこのよーな一文を見つけました。『男は女以上に強い者に惹かれる』と」
「まあ、そりゃそうかもしれねぇが」
「とゆーことは! 学園最強であるジンさまを薔薇部に引き込めば惹かれた男子生徒が山ほど
 やって来てウハウハ! いやはやこれは素薔薇しい! 
 ――とゆーわけで、力ずくでも入部していただきます!」
「結局、薔薇ネタかあぁぁぁぁぁぁ!!」

 そーゆー作者ですから。

「覚悟っ!」
 ギャラの手の中に、魔法のようにナイフが現れる。
 その刃が緑色に染まって見えるのは、麻痺毒の類か。
 ……それと見た次の瞬間。
 鋭い切っ先がジンの目の前にまで迫っていた。
「――!?」
 速い。
 当たる。
 ――この話、ギャグじゃなかったのか!?
 ジンの脳裏に、そんなどうでもよい疑問が浮かび。

 どすっ!

 刃を顔面に突き立てられたジンが、そのまま背中から倒れこんだ。




「……やりましたか……?」
 一瞬のうちに破裂しそうなまでに動悸の高まった胸を押さえ、ギャラは油断なく呟いた。
 ジンは、倒れたまま動かない。まあ、死んではいないだろうが。
 今の動きは、自分にとっての奥の手だった。
 幻術による催眠暗示。
 脳の奥底に灼きつけられた暗示が、本能――いや反射として身体を動かす。電極を刺された
カエルの脚が痙攣するように、意識によらず身体が戦闘行動をとる。
 気配も予備動作もない突然の動きは、例え経験豊富な戦士であろうと――いや、だからこそ
余計に反応できるものではない。
「いやはや、これで倒せなければ――」
 ――どうしようもないところでした、と呟こうとした、その時。
「……覚悟を決める、か?」
「なっ……!」
 ゆっくりと。
 死神が鎌をもたげるように、ゆっくりと、ジンの身体が起きあがる。
「さすがに驚いたけどな……」
 にやり。
 笑みを浮かべたジンの顔を見て、ギャラの身体が驚愕に凍りついた。
 たしかに、ナイフは突き刺さっている。
「だがな……」
 だが、それが刺さっているのは。
 眼でもなく。
 額でもなく。
 いや、それどころかジンの身体とさえ言えまい。
 それは……
「この新装備を知らなかったのがお前の敗因だ」



                ヒゲだった。



「ホワイトドールのご加護を受けた、この神々しいまでのヒゲ様を相手に貴様のナイフ如きが
 通用するはずがあろうか、いやない!
 とゆーわけで、俺の新兵器の生け贄となって死ね!」
 ジンが取り外したヒゲを斧のように構えて近寄ってくる。
 その姿を見つめたまま、ギャラはそっと嘆息した。
「いやはや……結局ギャグなんですね」



 ちなみに、全治二週間。