Lメモ私的奇譚 序の章 投稿者:ギャラ
「……美咲先生」
「どうしたんです、弥生先生?」
「この生徒なのですが、名簿には載っているのですが、私は一度も見たことがありません。
 美咲先生はご存じありませんか?」
「さあ……阿部先生のクラスの生徒みたいですね。阿部先生に聞かれては?」
「……阿部先生は今どちらに?」
「たしか……まだ保健室じゃなかったかと……」



 その頃。
 問題となっている生徒は……死にかけていた。


                 Lメモ私的奇譚

                   序の章


「あああ……ここはいったい何処なんでしょう……」
 図書館地下、117階。
 いや、かつて117階であった所……と言った方がよいか。
 先日、学園のごく一部を震撼させた『筋肉聖徒会事件』の際に、爆破されたままであったから。
「城に戻るシュートはないんですか、シュートは……」
 その生徒……ギャラの目は壊れかかっていた。
 自分が何故こんな所にいるのかも分からない。
 朧げな記憶の中、『ジーク、アニキーーー!』とか叫んでいたような気はするが……
その後、爆発音のようなものが聞こえた気がして……意識が戻った時には、瓦礫の下に埋まって
いた。我ながら、よく生きていたものだと思う。
「……こんな所を一人でうろついていたら、アークデーモンにマダルトされて終わるのが
 オチじゃないですか……」
 精神も壊れてきたのか、言うことが段々意味不明になってきている。
 アークデーモンの群にマダルト喰らったら、六人いても終わるぞ。さくっと。
「ああ……オクレ兄さん、何処にいるんですか……」
 死んだ魚のような目のまま、ギャラはふらふらとダンジョンの闇の中へ消えていった。
 ……死ぬのが先か、扉を開くのが先か、微妙なところではある。



「図書館内で行方不明、ですか?」
「そうだよ」
 所変わって保険室。
 ベッドに横たわったままの貴之の前に、弥生が座って話しを聞いていた。
「……彼も僕の理想に賛同してくれたんだけどね。あの爆発騒ぎの中で行方知れずなんだ。
 多分、まだ埋まってるんじゃないかな」
 ちなみに、その騒ぎについて知りたい方は、風見ひなたさまの『愛と欲望の謝肉祭の夜』
を参照ください。
 どうでもいいことだが、誰も貴之に賛同してはいない。
「まあ、大丈夫だよ。彼にはとびきりのブツを移植してあるからね……」
 貴之が今一つ迫力のない顔で、ニヤリと笑う。
「……そうですか」
 弥生は立ちあがりながら、心の中の出席簿に、『当分欠席』と書きこんだ。



 ぎおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
 ダンジョン名物、大トカゲの鳴き声が響く。
 大トカゲは、熊ですら一撃で殺せそうな爪を振り上げると、目の前の哀れな獲物に向かって
それを振り下ろした。
 鋭い爪の一撃が、首を薙ぐ。
 何の手ごたえもなく。
 そして、血が飛沫を上げる。
 大トカゲ自身の血が。
 ……大トカゲには、理解できただろうか。
 自分が狙ったのが幻像にすぎないことが。
 自分の首が落とされたことが。
「ドイツ、ドイツ、ドイツドイツジャーマン……」
 首をなくした大トカゲの横を、ギャラが虚ろな呟きを洩らしながら通りすぎていく。
 まだ血に濡れたままの首刈り鎌を携えた道化師が、ゆらめきながら、ギャラの身体へと
吸い込まれるように消えていった。



「そろそろ目的地のはずですが……」
「えっと……この辺りかな……?」
「……まったく、なんでオレがこんな目に……」
「まあまあ、私はダーリンと一緒にいられて嬉しいわよ☆」
 沙留斗、あかり、浩之、四季の混成パーティは、図書館地下のダンジョンに潜っていた。
あかりの求める本、『熊の掌を百八倍おいしく食べる方法』を探してのことである。
 ダンジョン初心者が3人もいるわりに、このパーティはよく機能していた。
 罠は沙留斗が解除し、接近してくるモンスターは四季と沙留斗が撃退する。遠距離の敵には、

「TILTWAIT」

 ずがぼーーーん!

 ……あかりの呪文が炸裂していた。
「さすがあかりちゃん!」
「えへへ……まあ、わたし、勇者だから」
 はしゃぐ女性2人の横で、男どもは疲れきった表情をしていた。何と言うか、「もーどーでも
いーです」と顔色が雄弁に語っていた。「ソレは勇者じゃなくてサムライかメイジの呪文
だろーが」とツッコむ気力すらないらしい。……あ、でも、あかりってサムライとも言えるか。
 ともかく、内心はどうあれ、能力的にはなかなかのパーティであった。
「それにしてもなかなか……どうしたの、沙留斗ちゃん?」
「何か、声がしませんか?」
 沙留斗の言葉に、一同が耳をすませた。
「……言われてみれば……」
「呻き声みたいね」
 感覚の鋭い四季がそう言った。
「……んーとねえ……こっちみたい」
 先に立って、声のする方に先導していく。
 そこには、人間らしき物体が倒れ伏していた。



「……マッチョ……オク、レ……」
 ギャラの状態は、本格的にヤバかった。
 飲まず喰わずで2週間。
 はっきり言って、生きていただけで不思議であった。
「……大丈夫?」
 ……どこか遠くから、声が聞こえてくる。
「……大丈夫、ねえ?」
 ……優しい声だ。頭の後ろに、何か柔らかい物が当たっているのも感じる。
 ……ここが天国なのでしょうか……?
 ギャラは、そんな事も考えた。
「……ほら、お薬だよ。これを飲んで……」
 何かが口にあてがわれる。
 ギャラは、貪るようにそれを飲んだ。
 ……懐かしい味だ……
「……ところで、浩之ちゃん。これって何のお薬なの?」
「さあ? そこに落ちてたヤツだけど」
 ……懐かしい……って、マ薬の味じゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
 かくして、薬のおかげで、ギャラの身体は元気になった。
 ……そりゃもう、いらんくらいに。



「図書館地下から怪物が現れただぁ? んなもん、いつもの事……」
 報告を受けたジンは、最初は無視しようかと思った。だが、何かが引っかかった。
強いて言うなら、エルクゥの勘とでも言おうか。
「……ちょっと待て。どんな怪物なのか、詳しく説明しろ」
 説明を受けたジンの顔が、蒼白になっていく。
「……なるほど」
 説明を聞き終わったジンは、重々しく頷くと、
「ジェット・スクランダーーー!!!」
 脇目も振らずに飛んで逃げた。
 必死で運命から逃げた。
 人としての誇りをかけて逃げた。
 ……その1分後。
「ジンさん! マジックナイトに……」
 駆け込んできたティーナは、無人の教室を見て舌打ちした。
「……逃げられたか」



「魔法老女セバスゥナガセ、愛の力で惨状です☆」
 図書館地下から現れた怪物が名乗りをあげた。
 白くダンディーなシルバーブロンド。
 顎の発達した独特の馬面。
 美術館に飾っておきたいほどに鍛えあげられた肉体を包むミニスカート。
 ……そう、彼女こそ、魔法少女界の最長老・セバスゥナガセ!!
「ふはははは! あれこそが、僕の植えつけた薔薇の種の力さ!」
 保健室のベッドの上で貴之が笑う。
 彼がギャラの身体に(勝手に)植え付けた薔薇の種は、魔法神族セバスゥナガセの魂を
宿していた。そこにマ薬の刺激が加わったことでセバスゥナガセはかつての力を取り戻し、
今こそ学園に降臨したのだ!
「……なるほど。アレはあんたがやったわけだな?」
「そのとおりだとも! 薔薇の力が学園を支配する歴史的な瞬間を、その目に焼き付ける
 がいい!」
「……ほほう」
 高笑いを続ける貴之。
 秋山は、そんな貴之の背後に近づくと、思いっきり窓から蹴り落とした。



「あああああっ! もう、何なのよ、あの変態はっ!?」
 風紀委員会室では、広瀬ゆかりが悲鳴をあげていた。
「ジャッジはどうしたの、ジャッジは!? いつもならそろそろ出てきてやっつけるはず
 でしょ!?」
「……あの〜、それなんですが……」
 風紀委員の一人……とりあえず下っぱAと命名……が言いにくそうに口を開いた。
「『マルチがアレを見たショックでオーバーヒート起こしたので看病している』『悪いが
 瑞穂くんの精神衛生上悪いので家まで送ってくる』とセリスさんと岩下さんから伝言が……」
「何よそれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 ゆかりは額に青筋たてて絶叫した。



「そこまでだ、この変態め!」
「ぬうっ!?」
 道ゆく一般生徒を次々と毒牙にかけ……もとい、愛を教えていたセバスゥの前に、何者かが
立ちはだかった。
「天が、地が、人が許そうとも! 葵ちゃんが許さないかぎり、この俺も許さない! この
 YOSSYFLAMEが、葵ちゃんのために貴様を倒す!」
 びしっ、と木刀を突きつける。
(決まった……)
 思わず自分に陶酔しそうになるYOSSY。
(きっと葵ちゃんも何処かで見ていてくれてるはず……このままこいつを倒して、葵ちゃんの
 好感度ゲットだぜ!)
「ふっ! 青二才がっ! やれるものならやってご覧なさいませ!」
 セバスゥが吼える。
「おうっ! どりゃああああああああああっ!」
 それに呼応するかのように雄叫びをあげ、YOSSYが一気に間合いを詰めた。
 瞬発力を最大限にいかし、反応すら許さぬほどの速さで斬撃を次々に叩き込む。
 肉と木がぶつかりあう鈍い音が何度となく響く。
 だが……
「甘うございますぞっ!」
 セバスゥが、腕に木刀が当たった瞬間を狙って、腕を大きく振った。
 桁外れの怪力によって、木刀ごとYOSSYの身体が吹き飛ばされる。
「何っ!?」
「それしきの攻撃で、このセバスゥナガセの鋼の筋肉は貫けはしませぬぞ!」
「ば、化け物か、お前は!?」
 思わず悲鳴をあげるYOSSY。
 いかに彼が攻撃力には自信がないとはいえ、木刀であれだけ殴られてまったくダメージを
負っていないとは……
「まだまだ青うございますなっ! お覚悟を!」
 セバスゥの魔の手……じゃなくて愛の手がYOSSYに伸びる。
(もうダメか……!)
 YOSSYが覚悟を完了した、その時!
「『青い』だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
 横から壁をぶち抜いて表れた傀儡が、セバスゥを殴り倒した!
「ぐはあっ!?」
「おおっ、ティーさん!」
「今、『青い』とか言ったのはあなたですね……?」
 傀儡に続いて、T−star−reverseが姿を現す。その目は、怒りに燃えさかって
いた。
「変態魔法少女の分際で! 葵さんを侮辱するとは万死に値します!!」
「葵……?」
 セバスゥが考え込んだ。ギャラの記憶を検索して、そのキーワードに該当する人物を探す。
「おお、カツサンドの方ですな」
「殺ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉす!!」
 YOSSYとT−star−reverseは、怒りで攻撃力がアップした状態で、
セバスゥに襲いかかっていった。



「というわけで、風見よ! あの変態に楓の素晴らしさを説き、真の愛の何たるかを教えて
 やるのだ!」
「はい、師匠!」
(どっちも歪んでるじゃないですか……)
 燃えさかる師弟を前に美加香はそんな事を思ったが、口に出さないだけの分別は残って
いた。
 楓の愛に暴走している風見と西山を前にそんな事を口にしたが最後、3秒後には「ハンバーグに
最適☆」とか書かれてお肉屋さんの店先に並んでいるに違いない。
「うむ! それでは俺は楓を安全な所まで送ってくるから後はまかせた」
「ししょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ええい、やかましい! あんな物体の半径1キロ以内に楓を置いておいて、何かあったら
 どーするつもりだ!?」
「僕一人であんな物質と戦えとぉぉぉぉぉ!?」
「がんばれ、風見。俺は信じているぞ……では、さらばだ!」
 そう言い残して、西山は去った。
「ひなたさん……」
 さすがに哀れに思った美加香が、俯いてしまった風見の肩にそっと手を置く。
「……」
「……あ、あの、大丈夫ですよ! わたしや結城さんも手伝いますから、ね?」
「……ふっふっふ……」
「ひ、ひなたさん?」
「ふははははははははははははははっ!」
 風見は哄笑をあげながら立ち上がった。
「美加香! かくなるうえは、アレを出しますよ!」
「え……?」
 首をかしげた美加香の顔が、みるみるうちに青ざめていく。
「で、でも、ひなたさん! アレは最近は色々と問題が……」
「大丈夫! 具体的名称と外見さえ出さなければ問題なしです! さあ、さっさと用意して
 きなさい!」
「で、でも……」
「それとも、鬼畜ストライクで決着をつけましょうか?」
「すぐに用意します!」
 美加香が慌てて走り去るのを見送って、風見もセバスゥの方へと歩みはじめた。
「ふっふっふ……魔法少女だか老女だか知りませんが、勝つのは僕ですよ……」

 そして、彼らが立ち去った後。
「僕の立場っていったい……?」
『あきらめろ、光……』
「しくしくしく……」
 すっかり忘れられていた結城光が、一人涙にくれていた……



 廊下は、すでに瓦礫の山と化していた。
 壁や天井の破片と、愛の抱擁によって砕け散った傀儡の破片の中で、セバスゥナガセは
独り立ちつくしていた。
「むう、逃げられてしまったようですな……」
 既にYOSSYの姿も、T−star−reverseの姿もなくなっていた。
 自分たちの攻撃力ではセバスゥを倒すのは困難だと判断し、傀儡に後をまかせて逃走した
らしい。
「まあ、よろしゅうございます。これで邪魔者も消えたようでございますし……」
 セバスゥの顔に、飢えた野獣のような笑みが浮かんだ。
「そこまでだ、筋肉馬鹿!」
「何ですとぉ!?」
 セバスゥが顔を向けたその先、壁の穴の向こうでは、校庭にそびえ立つ巨大なロボットと
その肩の上にたつ風見ひなたの姿があった。
「ふははははっ、貴様ごとき変態など、この僕が叩きつぶしてあげましょう!」
 自信たっぷりに笑う風見。
 それを見るセバスゥの額に、特大の青筋が浮かんだ。
「その言葉! これを受けてもおっしゃれますかな!? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
 セバスゥが筋肉をムキムキとうごめかせ、次々に怪しいポージングを始める。
 その体の周りに、紫電が疾るのが見える。
「ふははっ! これぞ、必殺・筋電波!! 我が筋肉より発される電波を受け、愛の奴隷と
 なるがよろしゅうございますっ!」
 ちりちりちり……
 セバスゥの筋肉から発生した不気味な電波が、風見の精神を破壊せんと襲う。
 だが、風見はそれが届くより一瞬早くコクピットに潜りこんでいた。
「はははははっ、仮にもロボットのコクピットが、電磁波対策をしていないとでも思ったん
 ですか?」
「ぬううっ!」
 必殺の筋電波を弾かれ、セバスゥが無念の呻きを漏らす。
 そして……
「くらえっ! 楓ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
 楓への愛を存分に込めたロボットの拳が、セバスゥナガセの体を文字通り叩きつぶした。



「……へぇ、そんな事があったの」
 翌日。
 あかりは、浩之や四季たちと一緒に『志保ちゃん情報』を拝聴していた。
 セバスゥナガセ降臨の際にダンジョンで生き埋めになったはずだが、沙留斗の能力でも
使ったのか無傷で登校してきたのである。
「そーよ! あんた達は地下に埋まってたから知らないでしょうけど、そりゃあ大騒ぎ
 だったんだから!」
「……いつもの事じゃねえかって気もするけどな」
「何よ! あんたはいつもそうやって……!」
 気のない浩之の返事に、志保が激高してつっかかる。
 そんないつも通りの光景を見ながら、あかりは誰にともなく呟いた。
「……それにしても、その先輩ってどうなったのかな?」
「……図書館を壊した罰だって言って、まさたちゃんに連れていかれたみたいだけど……」
 四季が答える。
 ……しばしの沈黙。
「……生きてるといいね」
「……そうね」
 二人は、哀れな先輩のために、そっと黙祷を捧げた。



 ちなみに、その数日後にディアルトは図書館ダンジョンの奥で「この世のものとは
思えない悲痛な呻き声」を聞いたと主張したが……それはまた別の話である。


===

 というわけで、自己紹介SS・対サンライズ用改訂バージョンです(笑)
 少しばかり追加したら、ごめんなさいリストが増えてしまいました(笑)
 ちなみに、ごめんなさい大賞は結城さんです……ごめんなさい(ぺこし)

 それでは、次はおそらく学園祭・女装コンテストでお会いできるでしょう!

    学園の美を、貴方に届けます……(女装コンテストのキャッチコピー(笑))