学園祭Lメモ「楓祭’98/女装コンテスト前哨編」(後編) 投稿者:ギャラ
「あ、ちょっと! そこのキミ!」
「……」
「呼ばれているぞ、イビル」
「そう、キミだよ。へー、イビルって言うのか。個性的な名前だね」
「誰だ、お前は?」
「知らないのか、イビル。この人は橋本先輩といって、学園きってのへなちょこ男だそうだ。
 葛田部長がそう言っていた」
「……で、そのへなちょこが何の用だ?」
「(葛田の野郎……そのうち不幸の手紙でも書いてやる)……ああ、いや、実はね……
 キミ、女装コンテストに出てみないか?」


 焼殺。



       学園祭Lメモ「楓祭’98/女装コンテスト前哨編」(後編)



「ってわけで、ひなた君! 出る以上は優勝を目指すわよっ!」
 必要以上に……としか言いようが無い程盛り上がっている沙織を前にして、風見はひたすらに
戸惑っていた。
 どれぐらい戸惑っていたかと言うと、アニメ版では主役はあかりだと聞いた時の浩之ぐらい
戸惑っていた。いや、よく分からない例えだが。
「えーと……新城さん? 僕はまだ出るとは一言も……」
「オリンピックじゃないんだから、出場するだけで意義があるわけじゃないわ! 優勝して
 こそ、薔薇の花は雄々しく花開くのよ!」
「いや、だから……」
「さあ、あの女装の星に誓いましょう! ひなた君が優勝を勝ち取ると!」
「……さおりん」
「なあに、ひなた君?」
 何事もなかったかのように尋ねる沙織に、風見は疲労感を覚えながらも言うだけ言ってみた。
多分、無駄だろうとは思ったが。
「だから、僕は出場するつもりはないんです」
 ・
 ・
 ・
「えええええええええええええええええええええええええええーーーっ!?
 ……そんなの、勿体ないよ! ひなた君、こんなに可愛いのにぃ!」
「そう言われても、嫌なものは嫌ですから……」
 答える風見の手は、強く握りしめ過ぎたせいで、血の気を失って白くなってしまっている。
これが沙織以外の人間の言葉であれば、問答無用でしばき倒していただろう。
 とりあえず、横にいた美加香の首など締めてストレスを発散してみる。
 ……美加香の顔色が必要以上に青白い気もするが、大丈夫だろう。美加香だし。
「だって、もうメイクさんも頼んであるのに!
 ……ほら!」
 そう言って沙織が腕を振る。
 それを合図に、4人の人間がどやどやと教室になだれ込んできた。
「HAHAHAHAHA、ひなたーん! ワタシたちに任せれば安心デース!」

「なんでアフロ同盟かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 思わず絶叫をあげる風見。
 だが、そんな事を気にする人間はこの場にいなかった。
「んー、イイ髪質デスネェ。ぐれーとなアフロができマスヨォ!」
 TaSがぐりぐりと風見の髪をいじくる。
「……風見ちゃん。カツラ、届いた?」
 瑠璃子の言うことは相変わらずよく分からない。
「あはははははは、これで優勝はいただきよぉ!」
 沙織は歓声をあげて机に飛び乗ると、ぐるぐると踊り出した。
 ……おかしい。
 それを見る風見の中で、何かが警報を鳴らした。
 沙織が明るい性格なのは確かだが、ここまで底抜けな性格だっただろうか?
 しかし、目の前にいる沙織はとても偽物だとは思えない。
 ……だとすれば。
「ていっ」
 風見は、懐から取り出した手榴弾を無造作にばら撒いた。
 耳をつんざく爆音が幾度か響き、もうもうとあがった埃が視界を覆い隠す。
 アフロ同盟の面々が焦げて倒れる中……もっとも、元からアフロなので焦げているのか
どうかは判別しがたかったが……風見の目は机の下から這い出す影を捉えていた。
 ちなみに、何故か瑠璃子は焦げていなかった。世の中、そんなもんである。
「……説明はしてもらえるんでしょうね?」
 言葉に込めた殺気を隠そうともせずに風見が問う。
「ふん……気づいていたようだね」
「……当たり前でしょうが」
 余裕たっぷりに言う人影……長瀬祐介に、風見の冷たいツッコミが入った。
「なら、大体の予想はついているだろうが……貴様を女装コンテストに出して評判を落とし、
 再び僕のハーレムを取り戻そうという作戦なんだよ!」
「まだ諦めてなかったのか……」
 風見が疲れきった表情でぼやく。
「当たり前だ! こうなった以上、仕方がない……回りくどい手はやめて、実力行使させて
 もらおう!」
 祐介の叫びとともに、電波が紫電の帯を残して風見へと殺到する。
 だが……
「ワンパターンなんですよね……電波だけだと」
「何っ!?」
 平気な表情でうそぶく風見に、祐介が焦りと驚愕を浮かべた。
 それをよそに、風見は、辺りを漂う埃の中に混じるキラキラと光るものを示してみせた。
「チャフというものをご存じですか?……アルミの細片を、電波妨害に使うんですけどね」
 その言葉に、祐介の顔が青ざめていく。
 風見はゆっくりと立ち上がると、懐から錆びたノコギリを取り出した。
「さて。……さおりんを操ってくれたんです。覚悟はいいでしょうね?」

 十秒後。
 一年生棟に、祐介の断末魔の悲鳴が響きわたった。



「よっしー先輩、ティー先輩、八塚先輩! 是非、女装コンテストで優勝して下さい!」
 剣道部の部室では、松原葵……を自称する物体が、三人を前に熱心な勧誘をおこなって
いた。
 体格が三人より大きかったり、馬面だったり、鋼の筋肉を持っていたりもするが。
 どうやら、体育祭以来すっかり気に入ってしまったらしい。
「そうだなぁ……」
 呟きながらYOSSYは、調子を確かめるように喧嘩刀を軽く振ってみた。
「どうしましょうかねぇ……」
 悩むような言葉を洩らしながら、T-star-reverseが部室の木刀のうちで一番威力のありそうな
ものを選ぶ。
「あー、鈴花? ちょっと佐藤さんとTaSさんとディアルトさんを呼んできてくれないかな?」
「はいでし!」
 鈴花を送り出した八塚は、先日拾った剣を抜いて、刃に曇りがないかどうか確かめた。

 そして、五分後。
 剣道部の部室は、まるで尊くない犠牲とともに爆砕した。



「やほー、ゆーさく」
「……よう」
 呼びかけられた悠朔が顔を上げると、珍しい取り合わせが目に入った。
 来栖川綾香とハイドラント。
 この二人が一緒にいる事自体はさして珍しくもないが、二人そろって悠朔に話しかけてくると
いうのは、なかなかに珍しい事態ではあった。
 そのせいか、何か違和感を感じる。
「……ハイドラント? お前が俺に話しかけてくるなんて、珍しい事もあるもんだな」
「まあ、事情が事情だからな」
「なんだ、それは?」
 意味ありげな答えを返すハイドラントを問い詰めようとした悠朔だったが、そこに綾香が
割り込んできた。
「じ・つ・は……二人に、これに参加しないかって聞きにきたんだけど?」
 そう言って綾香がチラシを見せた。
「ああ……なるほど」
 綾香が出した女装コンテストのチラシを見もせずに、悠朔はハイドラントに向かって言った。
「……そういう事か」
「そういう事だ」
 そろって頷きあう二人に、綾香が眉根を寄せる。
「なに二人だけで納得しあって……」
「プアヌークの邪剣よ!」
「魔皇剣!」
 綾香の抗議は、突然襲いかかった光熱波と斬撃によって遮られた。
 光熱波が綾香の頭を撃ち抜き、斬撃が腰椎を薙ぐ。
 ……否。撃ち抜かれ、薙がれたのは、残像であった。
「あ、危ないじゃないの!」
 抗議の声をあげる「それ」は、既に綾香の姿をとっていなかった。身長数十センチ程度の
小さな妖精。
「当たり前だ。知音……とか言ったな。マイラバー綾香の姿を真似た罪、償ってもらおうか」
「マイラバーはともかく、同感だな」
 構えをとったハイドラントと悠朔がじりっと距離を詰めた。
 悠朔が感じた違和感の正体、そしてハイドラントが彼の所に来た理由も、これであった。
綾香が偽物であることに気づいていたからこそ、連れて来たのだろう。……裁きを下すために。
「ひ……な、なんでこんなあっさりとバレちゃったのぉ!?」
「決まっているだろう」
 脅えの色を見せて慌てる知音に、ハイドラントは自信に満ちた口調で言い放った。
「本物の綾香は、もう2ミリほど前髪が長いからだ!」
「それだけじゃない! 声も3ヘルツほど高い!」
「人間か、あんたらはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 知音、絶叫。
「ふん、そんな事はどうでもいい!」
「……少しは否定しろよ」
 ぼそっと悠朔が突っ込むが、ハイドラントは……少なくとも外見上は……何の動揺も見せなかった。
よく見れば微妙に目をそらしてはいたが。
「とゆーわけで、とにかく死ね!」
「ちょ、ちょっと待ってぇ!」
「今さら命乞いか!?」
 殺気を吹きつけてくる二人に脅えながらも、知音は必死に懇願していた。
「ア、アタシは師匠に頼まれただけで……」
「何と言って頼まれたんだ?」
 刀を突きつけ、問いつめる悠朔。
 知音は、おそるおそる口を開いた。
「あの二人を薔薇に引きずりこめば綾香ちゃんはフリーになるって……」
「「やっぱり死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」
「ひいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 爆音とともに、血と涙の帯を引きながら知音は空の彼方へと消えていった。



     ・     ・     ・     ・    ・     ・



 夕暮れ時の校舎の中で、二人の男が佇んでいた。
 学園祭直前ゆえの学園内での喧噪も、この室内には届かないようにさえ思える。
「……人員は揃いました。これだけ揃えれば、十分でしょう……」
 道化の仮面をもて遊んでいた男が、呟くように声を出す。
「そうか。……ご苦労だったね。それなら、こちらも手筈どおりに協力しよう」
 答えたのは、細い……そして、何処か狂気を感じさせる目をした男。
「感謝いたします」
 それだけを口にして、ナイフの男はもう一人の男に背を向けた。
 そのまま歩み去ろうとする背中に、声が刺さる。
「しかし……君も回りくどい事をする」
「……お互い様、でしょう?」
 男は、振り向くと微かに唇の端をつり上げてみせた。
「……瑠璃子のためだよ」
 細い目の男……月島拓也が、笑みを浮かべたまま呟く。
 その言葉に、笑みを一層深くしながら、道化の面を持つ男……ギャラは、暗躍生徒会室を後に
した。



 そして……学園祭当日が、やって来る……

========================================

どもども、ギャラでございます。思いっきり時間を空けてしまいましたが、女装コンテスト
前哨編の後編、ようやくお届けいたします。

女装コンテスト当日編の方は大体の話は出来ていますので、今年中にはなんとか……
とは思っていますが。でも、クリスマスSSも書きたいし……

まあ、未来は常に不確定!……とか言ったら怒ります?(笑)

それでは。