学園祭Lメモ「楓祭’98/女装コンテスト本編」 投稿者:ギャラ
「はー……よくまあ、こんなに集まったものね」
 呆れかえった口調で理奈は呟いた。
 女装コンテスト会場である小講堂は、見渡す限り人で埋まっていた。
 世の中、酔狂な人間は結構多いらしい。
「おお、見ろ、理奈。水○しげるがいるぞ」
 横にいる兄が嬉しそうに客席の一角を指し示している。
 エルクゥユウヤは妖怪なのだろーか?
 ……妖怪だな。
「ずいぶん嬉しそうね、兄さん?」
「まあ、この企画は僕も関わってるからな。お前だってそうなんだろう?」
「まあ、ね」
 そう言うと理奈は、悪戯をしかけた子供のように、楽しそうに微笑んだ。


       学園祭Lメモ「楓祭’98/女装コンテスト本編」


 開始5分前。
 出場者控え室へと向かう、一団の影があった。
 デコイ、TaS、YOSSYの3人である。
 特に深い目的があったわけではない。
 デコイは準備中の写真を――必要かどうか迷ったが――撮っておこうかと思ったため。
TaSはアフロのカツラを差し入れに。YOSSYに至っては、面白そうだから
見に行こう、というだけであった。
「しかし……カメラのレンズが腐らなければいいけど」
 ひどい言われ様だな。
「HAHAHA、このアフロでミンナの美貌は120%あっぷデース!」
「それはそれとして……そう言えば、女の子たちも何人かいるんだって?」
「らしいですね。理奈先生とか、ひづきちゃんとか、面白がってメイクを手伝ってるらしいんで、
 実は、そっちをメインにした写真の方がいいかとも思うんですが、どう思います?」
「そーだなー。エルクゥユウヤもそろそろみんな見飽きてるかもしれないしなぁ」
 平和な会話を交わしながら……もっとも、警備の薔薇部員に見つからないように声を潜めては
いるが……歩む3人。
 彼らはまだ、自分たちを間もなく襲う恐怖の存在すら気づいてはいなかった――


 開始1分前。
「あ、ひなたちゃん。おーい」
「あれ、ゆきちゃん。……見に来てたんですか?」
 露骨に嫌そうな顔をする風見。
「いや、M.Kが藤田くんを笑い者にするんだって無理矢理……」
「やっほ。ひなたちゃん」
「……まあ、いいですけど……それより、美加香を見ませんでしたか? まったく何処にいった
 のやら……」


「あ、由美子しゃん。よっしーしゃんでし」
「あら、ほんと。……どうしたのかしら? 何か様子が変だけど……」
「ふん! あんな奴、普段から変じゃない!」
「どうしたの、マナさん? あ……ひょっとして、この間美咲先生といた時に、美咲先生にばっかり
 声をかけてたから……」
「一言多いっ!!」
「ぐわあああああああああっ!?」
 すねキックの直撃に悶絶する八塚。
「……雉も鳴かずば蹴られまいに……」
「でし、でし」


「……で、綾香。ど・う・し・て・わたしがこんな物を見に来なきゃいけないわけ!?」
「あら。女装の仕方でも勉強したら……って、わっ!」
「……何かおっしゃいましたかしらぁ!?」
「じょ、冗談だってば……アンタ、今の裏拳、本気だったでしょ……」
「よ、好恵さん、綾香さん、やめて下さい!」
 通路の真ん中で睨みあう綾香と好恵をなんとか止めようと、葵がわたわたと仲裁に入る。
じゃれ合っているようなものだから放っておけばいいのだが、根が真面目な葵はそこまで
割り切れないようだ。
 服の袖を引っ張ってみたりもするが、効果はまるでない。
 その時、おろおろしている葵の目に、自分達の方に歩いてくる知り合いの姿が映った。
「お2人とも……あ、YOSSY先輩! ちょっと止めるの手伝って下さい!」
 これぞ天佑とばかりに葵が声をかける。
 ――だが、YOSSYはそのまま通り過ぎようとした。
「……YOSSY先輩?」
 あまりにも異常な……と彼を知る者なら口を揃えて言うだろうが……行動に、綾香と坂下も
睨み合いを止めた。
「ちょっと、YOSSY。どうしたのよ、アンタが葵を無視するなんて……」
「熱でもあるんじゃ……って、本気で顔色悪いじゃない!?」
 顔色が悪いどころか、目まで死んでいる。
「これは……壊れた者の瞳!?」
 ちょっと違います。
「YOSSY先輩、しっかりして下さい!」
 葵がすがりつくようにして名前を呼ぶ。
 その言葉に反応してか、YOSSYの瞳に僅かに生気が戻った。
「あ……あお、い、ちゃん……?」
「そうです! 松原葵です!」
「あ……葵ちゃああああああああああああああん!!」
 がばあっ!
「え……せ、先輩ぃ!?」
「葵ちゃああああん!! よかった、僕はノーマ……」
「正気に戻った途端、何をしとるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 葵に抱きつくYOSSYの脳天に、綾香の蹴りが炸裂した。
 ぼごしっ、と何やら危険な音をたててYOSSYの身体が崩れ落ちる。
「はー、はー……まったく……」
「綾香さん。ここは我々が……」
 後ろに立っていたディアルトが、YOSSYの身体を抱え上げた。
 いつの間に……などと綾香は思わない。いや、ハイドラントで慣れてるし。
 そのままYOSSYは引きずられていった。いつの間にやら、それを囲むようにT-star-reverseと
佐藤昌斗も歩調を合わせている。
「YOSSY先輩、大丈夫でしょうか……」
「葵……あなたもちょっとは怒るとかしなさいよ……」
 呆れ気味に坂下が溜息をつく。
 そして、YOSSYの変調の原因は無視されたままになってしまった――


 ぴっ。
 ぴっ。
 ぴっ。
 ぴーん。
「れっでぃぃぃぃぃぃすあんどじぇんとるめん!! いよいよ学園祭最狂企画、女装コンテスト
 の開幕よぉぉぉぉぉ!!」

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!

「司会はこのわたし、学園のアイドル志保ちゃんと!」
「あの、帰っていいですか?」
「なんでやねん! びしっ!」
「……嫌々ながら、姫川琴音です」
 開始早々の志保と琴音のアナウンスで、会場は一気に盛り上がった。
 隅の方で「裸人教団」とか旗を持った野郎共が特に盛り上がっているような気もするが、
本筋には関係ないので無視しておく。
「ってことで琴音ちゃん! いよいよ始まるわけだけど、気になる出場者とかいる?」
「気になると言いますか、忌になる出場者ならいっぱいいますけど……佐藤さんとか七瀬先生
 なんか似合いそうですよね」
「ん〜、なるほどなるほど。でも残念ながら、お楽しみは後回しなのよね〜。トップバッターは
 この人! 学園最悪のアイドル魔法少女エルクゥユウヤこと、柳川先生です!」
 志保の声とともに、舞台の幕が開く。
 そして、

              ――時は静止した――

 ・
 ・
 ・                             ・・・・・
 針を落とした音でさえ聞きとれそうな程の完全な静寂の中、柳川がしずしずと舞台中央に
歩み出る。
 そして、スカートの裾をつまんで一礼し――ようやく時は動き出した。

 どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!

「え……えと、マジ!? こ、これは驚きです! 何をどうやったら、あのエルクゥユウヤが
 ここまで化けるのでしょうか!?」
「わ、わたしたちは今、歴史の証人になりました!!」
 スピーカーから聞こえる声も、混乱の極みに達している。
 それもそのはず。       ・・・・・・・
 柳川の姿は、どこからどう見ても楚々とした美女以外の何者でもなかったのだ。

 きつい目つきはアイシャドウで印象を柔らかくし。
 眼鏡はもちろんコンタクトレンズに変え。
 清純さを感じさせる白のドレスの背中に流れるのは、カツラか何からしい瑞々しい黒髪。
 エルクゥユウヤ……いや、普段の柳川とも180度どころか30i(虚数)度くらい異なる
姿であった。
 まあ、考えてみれば柳川は美人揃いの柏木姉妹の従姉妹なわけで、素材自体は悪くないの
だが……普段があまりにもアレなせいで、インパクトが強かったらしい。メガネっ娘が眼鏡を
外すと美人だった、というような……って最近は何のインパクトもないが。


「うおおおおおおっ!」
 観客席では、初代beakerの鉄拳がおもむろに孫を襲っていた。
「ワシは、ワシはノーマルじゃああああ! ときめいてなどおらんぞおおおっ!!」
「僕もですともぉぉぉっ!」
 お返しの肘が老人の脳天にめり込む。
 二人は、まるで自分が自分であることを確かめるかのように必死に殴りあった。
 それとも、それは一瞬でも男に……柳川に心奪われそうになった自分への罰であったのか。
ともかく、二人の殴りあいは沙耶香がピクシーサヤに変身して腕ずくで止めるまで続いた事
を追記しておく。


 同様の混乱は、会場内のいたる所で発生していた。
「わ、私は騎士……主人以外の、ましてや男性に心奪われるなど……」
 とーるは頭を抱えてぶつぶつと呻いていた。
「しっかりするのよ、かおりぃぃぃぃぃ!! あなたは梓先輩に操を立てたんでしょう!?」
 がんっ! ごんっ! がごおっ!!
 かおりは壁に頭を叩きつけていた。血が飛び散ってスプラッタな状況になっているが、
気づいてもいないようだ。
「まあまあお2人とも……さ、これでも飲んで落ち着いてください」
「……感謝します」
「あ、ありがと……」

 ごくり。

 ……ちなみに今回のしびれ薬は軽かったのか、1時間ほどでしびれは取れたらしい。


「ふ……所詮は愚民か」
「ほう……余裕だな、ハイド」
 悠朔がハイドラントを見てにやりと笑う。
「ふん……俺の綾香への思いは、この程度では揺るがんよ」
「さすがは俺のライバル、といったところか」
 周囲の混乱をよそに、2人は平然と座っていた。
 ……これで、冷や汗まみれでさえなければ格好よかったのだが。


 そして、そんな観客席を舞台の陰からうかがう男が1人。
「むう……まだ来ませんか……」
「”お客さん”はまだ来ないのかい?」
 唐突に背後から声がかかったが、男は驚きもしない。
「そのようですね……仕方ない、もう暫く引きのばしますか」
「ふむ……まあ、その方がいいだろうね。僕としても、せっかくの晴れ姿をみんなに見てもらえ
 ないのは残念だしね」
「……ひょっとして、気にいってませんか?」
「割と」
 それだけを言い残して、背後の気配が消える。
 男はそちらを振り向きもせずに、反対側の舞台袖へ2人目を出すよう、合図を送った。
「――早くしてくださいよ、あかり様――」


「……え、何?……ん。会場のみんな、そろそろ落ち着きなさーい! さあさあ、覚悟はいいわね?
 いよいよ2人目と3人目の登場よ!」
「えぇと……月島拓也さんと、きたみちもどるさんです。きたみちさん、何をやってるんですか……」
 琴音の呆れたような声をバックに、2つの人影が舞台袖から現れる。

 片や、扇情的な紫の夜会服に身を包んだ目の細い美女。

 片や、凶悪な切れ込みの入ったチャイナドレスからすらりとした脚線美を覗かせる美女。

 ――会場は、再び混乱の渦へと巻き込まれた。


「なるほど……あれがお前がメイクしたという……?」
「そ。あっちのチャイナドレスの方だけどね。なかなかのものでしょ、兄さん?」
「まあ、な。それは認めるよ。だが、僕が演出した月島君もなかなかのものだろう? 彼は
 なかなか行動に色気があるからな」
「ふふふ……でも、勝つのはきたみっちゃんよ」
 顔を見合わせて、にやりと微笑む迷惑兄妹。
 こんな連中に見込まれたきたみちこそ、いい迷惑である。
「さ、みんな。応援するわよ……せーのっ!」
「「「ははうえーーー、がんばってーーー」」」
 静、笛音、ティーナ、木風、てぃーのチビッコ軍団が声援を送る。
 それを耳にして、きたみちが世にも情けない顔になるのが遠目にも分かった。
 もちろん、こんな声援を教え込んだのは、チビッコの後ろで大笑いしている女性である。
 ――合掌。


 一方、月島応援部隊も負けていない。
「ああ、月島先輩……素敵です」
 完全に夢見る乙女モード全開でカッ飛ばしている香奈子。
 その後ろでは、Runeと健やかがいつもどおりの密談を交わしていた。
「すこちゃん、やっぱりこの女ヤバいよ」
「まあ、それだけ一途なんだよ、きっと……」
「うーん、百合に目覚めないことを祈ろうか」
 ちなみに、Hi−waitは「邪悪は許さんっ!!」と叫んで柳川に襲いかかろうとしたが、
途中でマッチョオクレと化した貴之に捕まっていたりする。
 ……今はただ、彼の冥福を祈ろう。
「こんな事で死んでたま……うわぁぁぁ、やめろぉぉぉぉぉ!」
「Hi−waitさん、ライダーみたいな叫びでかっこいいです!」
「言ってる場合かぁぁぁぁぁ!!」


 くすくすくす。
「――瑠璃子さん! 大丈夫!?」
「大丈夫だよ、長瀬ちゃん。今日も電波がよく届くから……」
「え?」
「届いたよ、お兄ちゃんの電波……」
 そう呟く瑠璃子の顔には、微かな微笑みが浮かんでいた。


「さあ、そろそろ次に行くわよ! 死ぬ覚悟は完了したわね!? 敵前逃亡は銃殺よっ!」
「長岡さん。自分だけアイマスク着けて言うのはズルいです……」
「いーのよ、アタシは! アタシが脳死しちゃったら、誰がアナウンス続けるのよ!?」
「どうせもう、誰も聞いてません……」
「きいいっ、うるさい! さあ、ヒロ&雅史、カモーン!!」
 志保が怒鳴ると同時に、舞台袖から新たな人影が出てこようとする。
 ……その瞬間、天井近くの蛍光灯に向かう魔術に、何人の者が気づいていただろうか。
 そして、、登場より一瞬早く――

 どごおっ!!

 炸裂音が響き、会場は暗闇に閉ざされた。
「な、なによ、これはぁっ!? さてはアンタねっ!?」
「ち、違います! 落ち着いてください、長岡さん――」
「「そうよっ!!」」

 かかあっ!

 声の上がった場所にスポットライトが集中する。
 その中に映る2つの影!
 ……ちなみに、このスポットライトは用務員の「東鳩のゲーセンにいる兄ちゃん(19)」の
アドリブである。ご褒美に名前を付けてあげようかと思ったが、これ以上野郎増やしても嬉しく
ないからやめた。
 それはともかく。
「嫌がる浩之ちゃんや!」
「嫌がる雅史先輩を!」
「「無理矢理女装させるなんて許せない!!」」
「この滅殺あかりと!」
「赤十字美加香は!」
「「とってもご機嫌ななめだわ!!」」
 びしいっ!
 ポーズを決めて仁王立ちするあかりと美加香。あかりの背には燦然と輝く「犬」の文字があった。
「う〜ん、惜しい。ポーズはともかく、制服のままってのは減点対象だな」
「誰も兄さんにそんな事聞いてないってば……」
 ところで、浩之はともかく雅史は嫌がっとりゃせんのですが。
「乙女の情熱の前に、そんな事は些細なことよっ!」
 さいですか。
「というわけで、覚悟、薔薇部っ!!」
 雄叫びをあげてあかりが、阿修羅閃空で一気に舞台へ駆け下りる。続いて美加香も宙に舞った。
 さらに――
「動くな、ジャッジだ! 一般生徒からの通報で状況をあらためさせてもらう!」
「風紀委員会よっ! 首謀者はおとなしく出頭しなさい!」
 会場の扉が蹴り開けられ、岩下、セリス、天神、冬月らに加えて広瀬率いる風紀委員がなだれ
込んできた。
 新たな乱入者たちの出現で、会場はさらに騒がしくなる。だから、その声を聞くことができた
のは一人だけだった。

「時は来ました――」

 にやり。
 口紅で真っ赤になった唇の端が歪む。
「なら、始めようか――」
 ちりちりちり……
 月島の頭上に電波が集う。
「濃霧、出ませい!」
 ギャラの声が、他の騒ぎを圧して響き渡った。
 瞬間、何の前触れもなく立てこめた濃霧が、会場全ての視界を閉ざす。
 それは、風紀委員の間に同様を生み、更なる混乱を引き起こしていった。


「浩之ちゃん! 浩之ちゃん、どこっ!?」
 あかりは、突然の濃霧で見失った浩之を探していた。
 だが、霧のせいで視界は0に近い。近寄ってくる者を押しのけることはできても、たった1人の
人間を見付けるなど、出来そうにもなかった。
「浩之ちゃん……」
 涙で視界が滲む。
 いつもそばにいるはずの人がいないというだけで、何故これほど不安になるのだろうか。
 自分の居場所すらつかめない霧が、さらに不安をかきたてる。
「浩之ちゃ……!」
「こっちだ、あかり」
「え……!」
 唐突に聞こえた声。
 だが、聞き間違えるはずもなかった。
「浩之ちゃん!」
「こっちだ、あかり」
 声の位置が、少しずつ遠ざかっていく。
 どうしようもない不安が、身体をかりたてる。
「待って、浩之ちゃん!」
「こっちだ、あかり……」
 あかりは、ただひたすらに声を追った。
 何度も人にぶつかるが、気にもならなかった。押しのけることも忘れ、まるで子供のように
不様に、何度も転びそうになりながら走った。
 ――やがて、涙でぼやけた目に、出口の光が映る。そして、その前にいる見慣れたシルエットも――
「浩之ちゃん、見ーつけた!」


 あかりと浩之が無事に出会ったのを見て、ギャラはこっそりと溜息を漏らした。
 それは安堵の溜息であり……嫉妬の溜息であり、諦観の溜息でもあった。
「我ながら……酔狂なことですね」
 呟いて手を軽く振るう。
 と、あかりと浩之を誘導していた「声」――音のみの幻覚が消え去った。
 すがりつくあかりの肩を半ば抱くようにして、浩之が会場から出て行く。
 それを見やって、ギャラは舞台の方に向き直り、腕を広げた。
「濃霧、消えい!」
 その声を合図に、会場全体を埋めつくして霧――これも幻覚だが――が一息に消え失せる。
それと同時に、月島がこっそりと電波を放った……柳川に向けて。

「魔法少女エルクゥユウヤ、ちょっぴりミステリアスな魅力で参上です☆」

「「「結局それかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
 会場にいた人間が口を揃えて絶叫する。
 だが、彼らの読みはまだ甘かった。

「魔法老女セバスゥナガセ、コンビを組んで惨状です☆」

 いつもより悲惨になっております☆
 偽善チックな笑みを浮かべる作者をよそに、会場はまさに地獄絵図と化した。
「……ったく、何考えてるのよ、薔薇部は!?」
 パニック状態に陥った群衆ほど厄介なものはない。理奈は、我先にと逃げまどい走り回る
群衆から子供たちを守るのに手一杯になっていた。
「これは予定外の行動だと思うがね、薔薇部としては」
 英二の軽口も、雪崩かかってくる生徒を蹴り払いながらのせいか、精彩に欠ける。
「どういうこと?」
「薔薇部全体じゃなくて、誰か一人、あるいは数人の勝手な行動だろうってことだよ」
 言葉を交わしながら、笛音を押しのけようとした奴を殴り飛ばす。
 そいつがどうなったのかを確認する間もなく、次が来るのを頭に蹴りをいれて押し返す。
「だいたい、薔薇部だけの行動にしては妙だとは思わないか?」
 英二の魔術が、まさに話の対象に炸裂した。
 混乱する観客の中で、闇雲に暴れまわって混乱を拡大している連中。その瞳は、明らかに
尋常のものではなかった。
 その事は理奈も気づいてはいたが、その理由を考える余裕はなかった。
「まあ、確かにね……っと。そんな事より、打開策はないの、兄さん!? このままじゃじり貧で、
 子供たちにも危険が……」
「心配するな……ほら、騎兵隊の登場だ」
 英二がそう言うが早いか、彼らの周辺の観客が数人まとめて吹っ飛んだ。
「静ぁぁぁ!」
「ちちうえ!」
 静が喜びの声をあげる。
 そちらに向かって軽く微笑むと、きたみちは再び逆刃刀を構えた。途端、間合いに入ってきた
観客数人が神速の斬撃にとらえられて吹っ飛ぶ。
「理奈姉や皆も大丈夫か?」
 逆刃刀を振るう合間にきたみちが問う。
 ここまで来るのに相当強引な手を使ったらしく、服はズタズタに裂け、化粧は汗で崩れて
ひどい状態になっている。二目と見られぬ、という形容がぴったり来るような有様であった。
 それでも、
「こっちの方が綺麗ね、きたみっちゃん……」
 理奈は思わず呟いた。
 きたみちが一瞬面食らった表情になり、次いで顔に朱がさす。
「り、理奈姉!……冗談言ってる場合じゃないだろ!」
 向こうを向いて逆刃刀をまた振り始めるきたみち。
 それを見ながら、理奈は静の頭をそっと撫でた。
「母上なんてからかったこと、謝らないとね……」
 そう呟いて理奈は、不思議そうに自分を見上げる静に、そっと微笑んでみせた。


 絵にも描けない……それどころかSSにも書けない地獄絵図と化した会場。(怠慢作者)
 その様子を、安全な所から見下ろす男の姿があった。
「ふう……これくらいの人間を暴れさせれば十分か」
 男――月島拓也は、電波を操るための集中を緩めた。エルクゥユウヤとセバスゥナガセの
出現で混乱した会場に、絶対数は少なくとも無差別に暴れる者を混ぜれば、混乱は収拾できない
ほどにまですぐに拡大する。そして、月島には意図的に他人を暴れさせる事のできる力があった。
 大騒ぎになっている会場を見て、僅かに笑みを漏らす。
「瑠璃子……楽しんでくれてるかい?」
 と、背後の扉が開いた。
「――文化祭では、暗躍生徒会は休むんじゃなかったんですか?」
「個人での活動を休むと言った覚えはないよ」
 どうやって気づいたのか、悠然と放送室に入ってきたRuneに、月島は笑ってみせた。
 Runeが、つき合いきれないとでも言いたげに肩をすくめる。
「自分には分かりませんね。なんでこんな回りくどい事をするんです? 瑠璃子さんも危険に
 なるでしょうに」
「その辺は心配ないよ」
 月島の指が会場の一角を指し示す。
 そこでは、瑠璃子を守るように奮戦する葛田と、その隣に立つ祐介の姿があった。
「彼らが守ってくれるさ」
 どこまで本気なのか分からない笑顔で言う月島。
「それでも、分かりませんね。あなたも……ギャラと言いましたか、あの男も。自分には、
 まどろっこしいとしか見えませんよ」
「――だろうね」
 その言葉を口にした時、月島の瞳に形容しがたい思いが浮かんだ――そう見えたのは、
Runeの錯覚だっただろうか。
「――それでも、僕たちにはこれしか出来ないんだよ――」
 それだけを口にして、月島は再び会場を見つめる。
 なんとなく、その背中を見ているのが哀しくなって、Runeは倒れている志保と琴音の
様子を見るふりをしていた。
「……会長?」
「ん?」
「……飲むなら、つき合いますよ」
 おごりなら、と言葉にせずに続けて、Runeは言った。
 しばらく驚いたような顔をしていた月島だが、やがてその顔にじわじわと笑みが広がる。
「そう、だな……祭りが終わったら、羽目を外すとしようか。せっかくだから、ギャラ君や
 健やか君……ああ、柳川先生達も誘うとするか」
「いいんですか? 教師の前で……」
「たまには、ね……何もかも忘れてみるのもいいだろう」
 独白するように月島が言う。
 それを見ながら、Runeは漠然と思っていた。

 ――こんな想い方も幸せなのかもしれない。
 ――たとえ苦しくとも……幸せならそれでいいじゃないか、と。


===

 どもども、ギャラでございます。
 ……で。

 「あまり時間かけずに書けそうだ」とか言ってたのはこの口かぁぁぁぁぁぁぁ!?

 ちょっと自己嫌悪。
 ・
 ・
 ・
 自己嫌悪終わり。(約12秒)

 とゆーわけで、今回のごめんなさい大賞は!?

 A.多すぎて分かりません(核爆)

 既にリベンジは覚悟の上!……というか、セバスゥナガセな私に失う物は何もなし!(おい)
やれるものならやってみなさいませ!!

 ……冗談ですぅ。ごめんなさい(汗)


 それから、八塚さま、感想ありがとうございました。笑っていただけたようで嬉しいです。
……とか言いつつ、今回はこんな目にあわせてしまいましたが(外道)
 剣の事は了解しました。次から注意しますです。

 YOSSYさま、登場させていただいてありがとうございます〜。
 セバスゥナガセ以外のセリフって初めてだ……(感涙)

 それでは。