テニスLメモ激闘編外伝「その後の二人」 投稿者:悠 朔

テニスLメモ激闘編外伝
                                「その後の二人」
                『数々の策謀、そのひとこま。或いは蛇足とも言う』



 さて、諸氏がどのように思っているかはわからないが、悠朔という人物は基本的に勝つ
ためには手段を選ばない人物である。学園の生徒同士ということもあってか、前述した風
見ひなたほど徹底できないのは甘さなのかもしれないが……。
 とにもかくにも、勝つためなら全力を尽くす。まれにまっとうな努力をする事もあるが、
大抵は歪んだ方向に。


 彼は困っていた。
 せっかく勝つための案を出したのに、綾香には受け入れられなかった。
 説得するような心情ではなかったし、保健室を後にする時はすっかりその事を忘れてい
た。今更引き返す気にもなれない。
 ――どうするか?
 彼自身が勝手に実行するのは自由であるはずだ。問題は、それで綾香に嫌われる可能性
があることである。
「……参った」
 困り果てた朔は、学園の数少ない知人、YOSSYFLAMEに相談してみる事にした。
 幸か不幸か、彼はテニス大会の参加者であるが、すでに敗退している。手の内を明かし
てもさほど影響は無いはずだ。

「あん? お前知らなかったのか?」
 開口一番、呆れたように彼はそう言った。
「……なにが?」
「今大会、幻術使用禁止だぞ? 確か……」
 朔は目を瞬いた。
「……ホントか?」
「嘘吐いてどうなるもんでもないだろ?]
 俺も詳しく知っている訳じゃないが、と前置きしてYOSSYが語ったところによると、
大会が近くなり、テニスの練習が白熱してきた頃、ギャラだか芹香先輩だかが、魔術で幻
術を用いたらしい。
 自陣のコートのネット際に、触れても壊れないマジックミラーを設置した。
 強豪と噂されていた相手チームはほとんどロクにプレーすることも出来ず敗退。
 事態を重く見た実行委員会は、幻術を『著しくテニスの試合進行に影響を与える能力』
であると判断した。
 との事である。
「なんてこった……」
 ――俺が綾香と喧嘩したのってまるでムダ!?

 ショックを受けている場合ではない。
 次なる手を考えなくては、試合まであまり余裕はない。



ミッション1「虎牙弾撃翔作戦」

 作戦名の由来はSS不敗流。であるらしい。
 なんのことはない。気功における気をテニスボールに込め、球の速度を上げるという作
戦と呼ぶ事さえ疑問な、シンプルな案である。
 何故か大半の参加者は相手にボールをぶつけて戦闘不能にすることを目的としているよ
うだが……とにかく、気功術の使い手である悠朔にとっては、さほどの苦もなく実行でき
る作戦である。そのはずだった。
 適当に空いている空間に入り込み、早速練習してみる事にする。
 ポーン、ポーンと大地にボールを二度ほどバウンドさせ、ボール自体に問題が無い事を
確認。
 目標は適当な壁。
 迷惑をかけないよう周辺に人影が無い事を確認すると、宙へと視線を向け、ボールを重
力の束縛から開放する。
 落ちてくるボールにタイミングを合わせ、ラケットを振りかぶる。綺麗なフォームで放
たれる、理想的なサーブ。
 快音。

 ラケットを包む極めて攻撃的な気壁に激突し、ボールが砕け散った。

「…………」
 朔の額から冷や汗が流れる。
「ぬぅ……」
 思わず口からうめき声が漏れた。
 足元を見下ろす。
 ダース以上の、木っ端微塵に砕け散った、かつてテニスボールであったものの残骸達。
 フッと冷笑などを浮かべてみる。
 別に意味など無いが。
 ――あいつら一体、どーやってこんな器用な真似してやがるんだ!?
 どうも得物を握ると、刀を持っている時の癖で攻撃に意識が行ってしまうらしい。ほと
んど無意識のうちに、"気"が封神流の、目標を破壊するための技――餓狼烈空斬や、魔皇
剣――に変わってしまっている。
 朔の気功術士としての力量が、単純に劣っている――彼は封神流が気功術の派生である
事に気付いておらず、それぞれがまったく別物であると認識している。それが双方の成長
を著しく阻害しているのだが――のが原因でもあるが。

 とにもかくにも。
 虎牙弾撃翔作戦、失敗。



 ミッション2「闇討ち大作戦」

 次の対戦相手は学園屈指の闇使いOLHと、常人を遥かに凌駕する運動神経に恵まれた
斉藤勇希教諭である。
 ミスコンプリート時のリスクを鑑みた結果、断念。



 ミッション3「闇討ち大作戦リターンズ」

 そう言えば神海が校内で密かにトトカルチョが行われているらしい、と話しているのを
聞いた覚えがある。
 らしいもなにも、賭場を仕切っているのはダーク十三使徒ではないかと朔は睨んでいる
が、どっちにしろトトカルチョが行われているのは事実なのだろう。
 ――とすれば、これを利用する事は出来ないか?
 例えば、である。
 常人離れしたSS使いや、それを押さえつける側である教師に並みの生徒が挑んでも勝
ち目は無いだろう。
 ――だが、弱点を突けば? 
 OLHと勇希が可愛がっている姫川笛音、あるいはティーナがテニスコートに応援に来
なかったら、さぞかし彼らは不安に思うだろう。
 もしかしたら、心配して探し回り、試合の時間になってもテニスコートに姿を現さない
かもしれない。
 そうすれば悠朔、来栖川綾香組の不戦勝だ。
 ――これなら俺が直接手を汚す事はない。ただ俺達に大金を賭けている奴に、「OLH
達が可愛がっている娘達が姿を見せなかったりしたら、試合中彼らは動揺するだろうなぁ。
対戦相手である俺としては、そういった事が起こらなければいいと思わずにはいられない
よ……」と、囁くだけでいい。事件が起こるかどうかまでは知った事では無い。
 まさしく悪人の思考である。

 だがこの案にも問題がある。
 適当な人材を探すのには、それなりに手間がかかる。
 それは見つかるまでの間、朔がそういった人物を探していたという事を露呈し続けると
いう事だ。
 つまり、成功率の低さに反してバレる可能性が高い。バレるとまず間違いなく、確実に
綾香に嫌われる。その程度の認識はある。

 闇討ち大作戦リターンズ、作戦案破棄。



 ミッション4「闇討ち大作戦フォーエバー」

 とりあえず題してみたが、特にいい案も思い浮かばない。
 そもそも『大作戦』などというチープ極まる呼び方が美意識に反する。その後ろの取っ
て付けたようなカタカナ英語も気に入らない。こういうのはちゃんと英語で記して欲しい
ところである。

 何か激しく間違っているような気もしつつ、以降、闇討ち案は封印。

 ・
 ・
 ・

「ふぅ……」
 朔は暇な時によく来る中庭のベンチにだらしなく腰掛け、嘆息して空を仰いだ。両手を
背もたれにひっかけ、無防備な姿でダラけている。ここなら少しばかりの緑もあるし、校
舎に近い割に、何故かあまり人が来ない。彼のお気に入りとなっている場所である。
 風が木々を揺らし、春のやわらかい日差しが生んだ影が踊る。その葉擦れの音が、どこ
か郷愁を漂わせる。
 中庭の一角に設けられた大きな池は澄み渡り、時間によって色彩を変え、見る者を飽き
させない。
 落ち着いて考え事をするには最適の場所だ。
 身体を投げ出していると白衣にシワが寄ってしまう。が、気にしない事にした。今頭を
悩ませている事と比べればどうでもいい些細な問題だ。
 ――なかなかこれ! というのは無いものだな〜。
 必勝を期するなら、それなりに手を尽くしておきたい。相手は百戦錬磨のSS使いと、
それを常に相手取ってきた教師だ。どんな手を使ってくるかわかったものではない。用心
はしておいてし過ぎるという事はない。
 だが現状は手詰まり。
「……どーしたもんかね?」
「ニャア」
「…………」
「…………」
 少し顔を動かし、視界の端にしたり顔でチョコンと座っている、アーモンド型の茶色の
大きな瞳が特徴的な小猫――名前はゴースト。飼い猫だとしても名前を知らないので勝手
にそう決めた――を確認。
 面倒くさそうに身体を起こし、ゴソゴソと白衣の懐を探り、少し深さの有る白い皿を取
り出す。次いでポケットから今朝コンビニで購入した瓶入りのミルク。小猫だと冷たい飲
み物を与えると腹を壊す事がある。人肌くらいの温度が丁度良い、と聞いた。ので、そう
する事にした。
 皿にミルクを注いでやり、地面に置く。
 あとは放置。
 再び身体を投げ出し、空に視線を投げてぼんやりと物思いにふける。

 と、歓声が響いてきた。
 その方向へ目を向ける。
 ――あ" ……。忘れてた。保健室で随分時間を潰してしまったような……。クソッ、偵
察の意味も含めて観戦するつもりだったってのに……。
 慌てて身体を起こし、朔は走り出した。
 もしかしたら今からでも、少しは観る事が出来るかもしれない。
 ゴーストは一瞬興味を惹かれたようだが、すぐに食事を再開。群れという認識を持たな
い猫にとって彼は飼い主やリーダーではなく、食事の準備をする役目を果たす、ただそれ
だけの人物である。



 テニスコートに着いた時には、もうその試合は終わっていた。
 先程の歓声は試合が決まった時のものだったようだ。
「川越さん、頑張ったよな」
「俺感動したよ」
「でも残念だったよな。俺もう、なんとか手を貸したくてしょうがなかったよ」
「そうだな。彼女達の試合、どこも強豪だったから……しょうがないけどさ」
「次の試合いつからだ〜?」
「次は何処と何処ぉ?」
「良子〜。飲み物買いに行くんだったら、ついでに私のも買ってきて〜」
 観戦していた生徒達が感想などを話しながら、それぞれ騒がしく次の試合までの時間を
過ごしている。
 朔は舌打ちし、自分の不注意を悔やんだ。
 ――組み合わせからすると……とーる、宮内レミィ組対長瀬祐介、川越たける組か。ま
わりの話から考えるととーる、レミィ組の勝ちのようだが……。
 卓抜した運動能力保持者と、戦力分析及び戦術能力に秀でた剣士。
 ――俺達と似た組み合わせだな。
 ディアルト、Dマルチ組との試合を見た限りでは、波に乗せると痛い目にあう、非常に
やっかいなチームだ。
 この試合を見逃したのは正直痛い。特にとーるには二の手、三の手を用いて苦戦を強い
るという事をやってのける力量がある。
 ――当たれば強敵……か。
 まぁそれも次の、OLH、勇希ペアとの対戦に勝ってからの話ではあるが。
 なにか良い手でもないだろうか?
 ヒントにでもなるようなものはないかと、辺りを見回してみる。
 と、ひとつの屋台が目に入った。
『辛味亭』
 ノボリには赤地の布に大きくそう書かれている。
 ――辛いもの……。キムチとか……か?
 多少尻込みしつつ匂いを嗅いでみるが、幸いにもそれらしい匂いはしない。
 ――はて?
 近付いて店先を覗き込んでみると本が並んでいる。
 それも一般に市販されているものではない。まず一冊が薄い。そして薄い割には高価だ。
 ――これで一冊500円? なんなんだ、こりゃ?
 間違いなく同人誌である。
 が、朔はそんなものがある事さえ知らなかった。
 彼はその値段に驚いたものだが、辛味亭は同人業界では『良質に、より安く』をテーマ
とし、そしてそれを実践している事で知られている。それでも個人発行である以上、割高
になってしまうのはやむを得ないところだろう。
「どうぞ手に取って見ていって下さ〜い。気に入ったら買って下さいね〜」
 売り子の男子生徒が、のんびりとお決まりとなっているのだろう言葉をかけてきた。
 チラッと見ると、どこかで見たような顔だ。多分寮で見かけたのだろうが、詳しい素性
はわからない。眠たげな目をしているわりにやけに眼光が鋭い事を除けば、さほど特徴の
ない男だ。
 品揃えはテニス大会に合わせたのだろう。有名なテニス漫画のパロディや、オリジナル
らしいテニスものが並んでいる。その脇に、在庫処分らしいテニスとまったく関係のない
ジャンルが置かれていた。
 絵は、悪くない。
 というより上手い。
 興味を惹かれた朔は、その一冊を手に取った。


「ふ〜、参った参った。希亜〜、売れ行きはどないや〜?」
「あ、由宇さんおかえりなさ〜い。まぁボチボチですかね〜」
 典型的な関西人の会話である。
「で、軍畑さんどうでした?」
「あかんわ。あのアホ食中毒で動かれへんのやと。まったくこの大事なときに。……まぁ
ぼやいてもしゃあないわな。悪いけどあんたには二人分働いてもらうで。かまへんやろな?」
「あう〜。お手柔らかに〜」
「……ところで、このあんちゃん、お客さんか?」
「あ、そうみたいです。さっきからず〜っと立ち読みしてますけど」
「……なんや。307号室の悠やんか」
 辛味亭の主、猪名川由宇は現在男子学生寮の寮長を勤めている。当然というべきか、寮
生である朔とは面識があった。
 そして彼女にシタッパ〜βとして使われているのが弥雨那希亜。学園の一年生である。
 因みに会話にあったようにαこと軍畑鋼は現在休養中。
 由宇はそっと、邪魔しないように朔の手の中のものを横から覗きこんだ。作者としては
何を読んでいるのか気になるところだ。
 ――『忍者血風禄』か。忍者カムイ伝のパロディやな……。ああ、これを書いたときは
うちも若かったわぁ……。そもそも題名にひねりもなんもないもんな〜。今のうちやった
ら、もうちょっとこぉ……なぁ?
 遠い目をする由宇。
 原作の古さを考えると、描いた時はどれほど若かったのか気になるところではある。
 そしてその漫画のヒトコマを見た瞬間、朔がその瞳をクワッとばかりに見開いた。
 まさに開眼。
 目から鱗が落ちるとはこのことだ。
「こ……これだぁっ!!」
「アホかあんたはぁっ!!」
 朔が叫んだ瞬間、由宇の罵声。
「痛い!?」
 と、同時になにかを叩きつける激しい音が響き、頭を抱えて屈みこんだ朔がその場で悶
絶する。
「い、いきなり何をする!?」
「いきなり何をやあらへんわ。ちょっとあんたぁ、今めっちゃ悪いこと企んでへんかった
かぁ?」
 煙の吹きあがるハリセンを肩に担ぎ、ぶっきらぼうな口調で問い詰める由宇。すでに目
が座っている。
「……なんのことだ?」
 多少涙目になりつつも明後日の方角を向いて、朔。
「このページ見て何思い付いたんやって聞いとんのや!」
 由宇が開いたページを見て、希亜が納得する。
『しまった! 春香の術か!!』
『ふふふ。風下に立ったがうぬの不覚よ……』
 朔はフッと鼻で笑うと至極まじめな表情を浮かべ、
「多分貴方が考えたとおりのことだと思うが?」
 飄々と答えたもんである。
「テニスでは薬物の使用は禁止や」
「なにぃ!? 阿部教諭を見ろ! どこからどう見てもドーピングだろうが!!」
「失礼だなぁ、君ぃ」
 クルクルと怪しげなダンスを踊りながら、爽やかマッチョに阿部貴之登場。
「う、うふ……あああれは、たたた〜だ〜のぷぷプロテインささぁ……。うふ……、うふ
ふふふぅ?」
「あんさんキマってるキマってる」
 由宇が半眼でつっこんだ通り、どうやら薬が良いところにヒットしているようだ。説得
力は皆無と言っていい。
「さささぁ、きき君もみもみも……こ〜のヤクで理想の肉体美をぅおぅおぅ……」
 朔は怪しげな瓶を持って迫る貴之教諭を希亜の方へと蹴り飛ばした。虚ろな瞳がゾンビ
を連想させる。
 率直に不気味だ。
「いまなら〜ワワワワァ〜、タウリン1000mgのところを〜ワワワワァ〜、二割り増
し〜!!」
「うひゃ〜!」
 怪しげな歌を歌いながら希亜に迫る貴之。
 悲鳴をあげながらも、何故か希亜は笑顔を浮かべて楽しそうである。不思議な人物だ。
今はシタッパ〜βに甘んじているが、実は案外大物なのかもしれない。
 とりあえずこっちに実害は無さそうなので放って置く事にし、朔は由宇に向き直った。
「ほらみろ。やっぱりドーピングじゃないか」
「ま、あれはあれで置いといて、や」
 由宇が胸の辺りの箱を脇へ置く動作をする。
「頭がマトモやったらちょっとは考えてみぃ! スポーツ競技での薬物使用は即失格で永
久追放って昔っから相場が決まっとるやろぉが! いっくらこの学園が非常識やって言う
たかて、そこまで認める筈あるかいな!!」
「くっそ〜。やっぱり俺の敵は一般常識か!? そうなのかぁ!?」
 悔しげに苦悩する朔を見て、希亜は思う。
 ――そーいう問題でもないように思うがなぁ。
 だが、
「ワセリン塗ってテカテカにぃぃぃ! 銀河の果てまで照らすほどぉう!!」
 今は迫り来るこの怪人をどう処理するかの方がよほど問題である。
 希亜は少し悩んだ。


 結局、朔には普通にテニスをするしか道は残されていないらしい。
 そう悟った彼は、暇な時間は壁打ちでもして過ごす事にした。



 朔が由宇とじゃれているその頃、悠綾芽は買い出してきた缶ジュースを皆に配っていた。
「はい。ママはグレープフルーツでよかったよね?」
「ありがと」
「お、感心感心。グレープフルーツジュースには筋肉を柔らかくする働きがあるのよ。こ
れからもスポーツを続けていく気なら、覚えておいて損はないわよ」
 一人だけビールなのは御愛敬である。
「…………」
「さすが保険医ですね? いや〜、照れるわねぇ」
 早速一本空けた相田響子がカラカラ笑う。
 保健室では来栖川綾香を綾芽、来栖川芹香、響子が取り囲み、井戸端会議に花が咲いて
いた。
「…………」
「え? 怪我は大丈夫かって? ……そうね、さっきより随分痛みも引いたし、もう大丈
夫だと思うわよ。癒しの技は苦手だって言ってたけど、結構効いたみたい」
「パパ?」
 綾芽の問いに綾香は肯いた。
 気功には傷を癒す力がある。未熟ではあるが、朔も扱えない訳ではない。せいぜい湿布
よりはマシという程度だが。
「…………」
「さっきの悠さんとの会話、どこまで本気でした? って……」
 問われて相変わらずボ〜っとした姉に視線を向ける。
 ――少〜し、怒ってるかな?
 身内か、相当親しい者でないとわからないような変化ではあるが、綾香は表情を見てそ
う感じた。
「全部ホンキだったわよ? 一緒に出たかったって言ったのも、もう付き合いきれないっ
て思ったのも、全部本当」
 結構短気よね〜、と、ケタケタと笑う。
「でもま、そうそうあいつの勝手な行動に振り回されてたまりますかって」
 その笑みにはどこか危険な香りがした。
 まるで猫科の肉食獣が、獲物を前に舌なめずりしているような。
「…………」
「ホントに本気だったかって?」
 ニッと笑い、
「多分ね」
 そう言ってまた、クスクスと笑う。
 何処までが本気で、何処までが嘘なのか。芹香にさえ見切れない。ただ困惑した表情を
浮かべるだけだ。
「……パパのこと、嫌いになった?」
 少し心配そうに綾芽。
「嫌いも何も……友達よ? それでいいじゃない」
「よくない!!」
 突然大声を出した綾芽を、動きを止めた三人が呆気に取られて見つめる。
「よくないよ……」
 ――パパとママが結婚しなかったら、私産まれてこない……。もしそうなったら、ここ
に居る私はなに?
 彼女には他に縋るものが無い。寄って立つべき基盤がまったく無いのだ。
 絶望的な暗い表情で自分自身の肩を抱きしめる綾芽を見て、綾香は自分の失言に気付い
た。とはいえ、前言を撤回するのも違う気がする。
「今の時点じゃ、あいつはただ放っとけない、ちょっと手間のかかる友達よ……。姉さん
も知ってるでしょ? あいつ、人間不信だから……」
 芹香がコクンと肯く。
「それでもさ、私には結構気を許してくれてるじゃない? だから引っ掻き回してやろう
って思ったのよね。人間嫌いになった理由なんかもぐちゃぐちゃになってわからなくなる
くらい。そうしたら少しはマシになるかもしれないって、そう思ったのよ。……今は、そ
れだけ」
 そこまで言って三人の視線が集中している事に気付き、コリコリとこめかみを掻く。
 照れているのだ。
「今回はさすがに愛想尽きるかと思ったけどね〜」
「もう平気?」
「ま、ね」
 すでに三本目のビール缶を掲げ、相田教諭がクスリと笑う。
「テニス大会、頑張りなさいよ?」
「当然!」
 綾香は晴れやかに微笑んだ。
「優勝して見せるわよ!」

========================================

朔    「ハネムーンサラダの遥子がクリティカルヒットする今日この頃。こんな女性
     に人生しっちゃかめっちゃかにされてみたいもんである。気が休まる暇が無く
     て、相当楽しいだろ〜な〜。客観的に見るぶんにはかもしれんが」
綾芽   「……思いっきりそのまんまって気もするけど。まずくない?」
朔    「まずいとは思うけど、このキャラって綾香はこうであって欲しいって言う俺
     の願望が具現したようなキャラなもんで……。それに実はもっとまずいことが
     あるしなぁ」
綾芽   「?」
朔    「お前の存在そのもの」
綾芽   「え? え? え?」
朔    「Leaf学園に綾芽が登場したのはいつでしょう?」
綾香   「……あ!」
朔    「そう。体育祭以降。二学期の話だ。ところがこのテニス大会は春行われるイ
     ベント」
綾香   「ということは……」
綾芽   「私はいったい、どこから出てきたんでしょう?」
朔    「俺達をテニス大会にエントリーしたのは、一体誰だったんだ〜!?」
綾香   「……気付いたのは激闘編書いてる途中、だったのよね」
朔    「綾芽の設定と、登場するストーリーを見直してた時だった……。どうしよう
     もないからとりあえず書き上げたが……困ったもんだ」
綾芽   「ここは先生に頼むしかないね」
朔    「先生?」
綾芽   「うん! 長瀬祐介先生〜。出番ですよ〜」
祐介   「ど〜れ?」
朔    「なんとかできるのか?」
祐介   「してみましょう?」
綾香   「どうするつもりなのかしら?」
朔    「さあ?」
祐介   「…………(忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ)」← 電波送信中
YOSSY「あれ? そういえばギャラが試合中幻術使ってたような?」
綾香   「え? あれって変装じゃなかったの?」
祐介   「…………(それもついでに忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ)」← 電波送信中