どよめけ!ミスLeaf学園コンテスト 第三十六話 「Honky−tonk−boys&girls.」 投稿者:悠 朔

  20:11   作戦司令部。
「15分前YOSSY達が潜伏する森に、霜月祐依、皇日輪、大庭詠美が潜入。
時をほぼ同じくして、猪名川由宇、西山英志のペアが別ルートから森に潜入を
開始。現在のところ戦闘は確認されていない……。夏樹からの報告は以上だけ
ど、状況に変化は?」
  広瀬ゆかりが威厳をもってオペレーター役を務める風紀委員男子生徒に問う。
「現在のところ状況に変化ありません。包囲網は少しずつ狭まっていますが、
目標発見の報告は受けていません。他に森に踏み込んだ者も確認されていませ
ん。……貞本さんはどうされたんです?」
「現場の指揮に向かってもらったわ。着任の報告、まだ着てないの?」
  オペレーターが頷く。
「そう……」
  ゆかりの表情に不安げな陰が過ぎる。
  夏樹はゆかりから絶大な信頼を受ける部下であり、同時にゆかりに対し強い
信頼を持っている。彼女が近くに居るか居ないか。作戦に参加しているか否か
で安心感は雲泥の差だ。
「不安ですか?」
  それを見越したのか、オペレーターが通信機の傍らに置いていたポットから
カップに熱いコーヒーを注ぎ、ゆかりに差し出した。
「……別にそんな事ないわよ。私は女優なんだから、こういう緊張感にだって
慣れてるんですからね」
  なるほど、と、オペレーターはもっともらしく頷いた。
  同時に気付いてもいる。『緊張感』という言葉を使った事に。
「心配要りませんよ。すぐに現場から……おっと!  噂をすれば、ですよ」
  ニッと笑みを浮かべ、オペレーターが片耳にだけ当てていたヘッドホンから
の音声に意識を集中する。
「……了解。現状を維持し、指示を待て」
  オペレーターは恭しくゆかりにマイクを差し出し、
「貞本夏樹、現場に到着しました。部隊の指揮権を委譲され、中隊指揮官に着
任。風見鈴香、川島はるか、月城夕香、牧村南、並びに猪名川由宇、西山英志
の在所を確認しました。加えて、YOSSYFLAMEと皇日輪が交戦状態にあるとの事
です」
  その言葉にゆかりが頷き、マイクを手にした。
「こちら風紀委員長、広瀬ゆかりです。学園の風紀を守る砦となった有志諸君
に、敢えて言います。今宵、一つの悲願を達成する時が来ました。
  作戦の第一目標は風見鈴香。部外者でありながら学園の覇を目論む危険人物
です。手段は問いません。なんとしても今回の競技から脱落させてください。
  作戦の第二目標はYOSSYFLAME。女好きで知られる、風見鈴香に協力する奸賊
です。風紀委員にとって最大の敵の一人でもあり、長くにわたり天誅を下す機
会を伺ってきた相手でもあります。生死以外は問いません。万難を廃し私の目
の前まで引き摺って来てください。
  第三目標は霜月祐依。多くのチカン騒動の元凶、覗き事件の犯人と目されて
いますが、今回は可能であれば協力し、第一第二目標の殲滅にあたってもらい
たいと考えています。不可能ならば作戦行動の邪魔にならないよう牽制してく
ださい」
  一瞬、言葉を切る。
「凱歌を歌おう、諸君!  悲願成就の夜が来た!!  闘争の宴は今開かれた!
各員の戦果と無事を祈るっ!」
  オペレーターの耳には部隊員達の歓声、連携を取りながら突撃をかける小隊
長の指示、駆ける数十人の足音などが入り混じってその耳に届く。
  ――女の嫉妬って……おっかないなぁ。
  くわばらくわばら、と、呟きながらも、自分の仕事は忘れない。
  地図上の小隊の駒を進め、ゆかりの指示を仰ぎながら、的確な連携を取れる
よう各部隊に指示を出す。


  夏樹は状況の正確な報告を聞くなり、すぐさま風見鈴香達四名の包囲網を形
成する部隊を、女性のみの部隊との変更を行った。包囲の網自体は薄くなって
しまったものの、水浴びをしていた四人は着替えを置いた場所以外に戻る場所
もなく、大きな抵抗を受ける事無くこれを拿捕。
  風見鈴香はこれによってどよコンにおけるヒロイン資格を失った。

  交代するまで四人を監視していた男子生徒には役得であった事は、言うまで
もない。
  後に非難される事にはなるが、これは任務途中の不慮の出来事ではあった。


  周辺で騒ぎが起こった事に、当然ながらYOSSYは気付いた。
  気付いたが、だからといって即座に彼女達の元へ駆けつける事も出来なかっ
た。
  日輪が先ほどから延々と、足止めを目的とした攻撃を仕掛けてきているから
だ。加えてぬかるんだ足場が動きを制限し、思ったとおりに動くことを困難に
している。
「くそぉっ!!  これが目的だったのか!」
「はてさて?  確かに目的は達成されそうですが、少し人数が多いようですね。
これ自体は想定外ですよ」
  焦りに顔を歪め叫ぶYOSSYに、日輪はあくまで穏やかに応じる。
「ですがどうやら、私達も包囲されてしまったようですね」
「何っ!?」
  慌てて周囲を見渡すが、YOSSYの目に人影は入ってこない。
「……!」
  が、気付いた。
  茂みの位置が変わっている。
  木陰に気配を感じる。
  風に揺れているには不自然な葉鳴りがそこかしこから聞こえてくる。
  そして注意が向いたその総てから、人影が吐き出された。
「そこまでだYOSSYFLAME!  貴様の身柄を拘束する!!」
「くっ……」
  思わず臍を噛む。
  なにしろ風紀委員会のメンバーほぼ全員がこの捕り物に参加している。女性
メンバーが鈴香達の方へ行っているとはいえ、全体の2/3以上がYOSSY
捕獲のためだけに集結しているのだ。
  蟻の這い出る隙もない。
「……ん?  なんだお前ら、SS使いじゃね〜な?」
「我々は風紀委員会だ!  抵抗を止めおとなしくするなら手荒なまねはしない
と約束する!」
「風紀がなんでしゃしゃり出てきやがんだよ!?  ……ま、いっか。Skill も
使えないのが何人束になろうが、俺を止めれるとでも思ってんのかよ?」
  YOSSYの機動力はSS使いの中でも群を抜いている。
  強がりか、本気か、その表情には余裕が伺えた。
  が、
「抵抗するか!  ならば食らえモブ必殺の奥義ッ!!」
「な、なに!?」
「人海戦術っ!!  かかれぇっ!!」
  ボタボタボタボタ……。
  ワラワラワラワラ……。
  ドドドドドドドド……。
「どわわわわぁぁぁぁっ!?」
  降ってきた。
  沸いた。
  群がった。
  その参連撃が打ち寄せる波涛の如く際限なく、地鳴りを伴ってYOSSYに
押し寄せた。
  抵抗する暇さえ与えられなかった。
  というより勢いに圧倒されてそれどころではなかったという方が正しいだろ
う。
「あ〜れ〜……」
  巻き添えを食らった日輪こそ、いい面の皮だったと言える。



  祐依は嘆いた。
  周りから鴇の声が上がって、そしてそれは即座に終結を迎えた。
  その事は良い。
  問題はその時彼が居たすぐ近くで鈴香達の面々が水浴びをしていたという事
実を聞いたからだ。
「……すぐ近くだったのに」
  スケベ大魔王は涙ながらにそう語ったと伝う。


  由宇と英志は騒動の後に風紀委員会と合流。
  状況を確認した結果、当初の目的が果たされた事を知り、家路を辿ることに
した。
「残念やったなぁ牧やん。ま、また次もあるやろからそん時頑張りぃや」
  狙っていた側にも関わらず、由宇はにこやかにそんな事を言いったものだっ
たが、
「はい、そうします」
  人の良い南の穏やかな笑みに、さすがに罪悪感に襲われたと、希亜や軍畑に
後に語ったそうである。


  ゆかりの前には芋虫の様にぐるぐる巻きにされたYOSSYが転がっている。
治療はされているが、ところどころに擦り傷や打ち身などを作っており、風紀
の必殺技の威力を物語っていた。
  司令部としていた教室には、使っていた機材――通信設備やコスプレ用の衣
装など――が残っているが、目的が達成された今、もう他に人影はない。
「…………」
  YOSSYは何も語らない。
  ただ押し黙り、不機嫌に顔を歪めていた。
  ゆかりはそれを、ずっと静かに見守っている。
「何か、言う事はない?」
  沈黙に耐えられなくなったのか、ぽつりとゆかりが問いかけた。
「…………」
  だがYOSSYは何も言わない。
  口元を一文字に引き結んだまま、何も語ろうとしない。
  ゆかりは嘆息して歩み寄ると、手にしたナイフでYOSSYの戒めを解いた。
「……なんでこんな事したんだよ」
「それ、私が聞きたいんだけど」
「なんだよそりゃ」
  ぼやくように吐き捨て、改めてゆかりと視線を合わせ、動揺した。
「言い訳も、してくれないの?」
  その瞳に、深い悲しみを見てしまったから。
「それとも私って、貴方にとってその程度の価値も無い?」
  ――やばい負ける。
  YOSSYに浮かんだのは、そんな思考だった。
  ゆかりの頬を水滴が流れ、床に跡を残した。
「なんだよ、嫉妬でもしたっていうのか?」
  強がりの中にからかいを含んだ口調。
「そうよ、悪い?  笑ってくれてもいいわよ。でもしょうがないじゃない!
好きに……なっちゃったんだから」
  それに、ゆかりは間髪を入れずに答えた。
  ――くそっ。
  YOSSYが心の中で毒づく。
  泣かせているのが自分だと思うと、心が痛んだ。
  まっすぐに見つめてくる瞳が、可愛いと思った。
  気がつくとYOSSYは、ゆかりの頭を優しく撫でていた。
「あ〜あ、俺の負けかよ……」
  そんな言葉を吐くYOSSYを、ゆかりが不思議なものを見る目で眺めてい
た。


  収まるべきものは収まるべきところに、キチンと収まるように出来ているの
である。


Honky−tonk−boys&girls.
                                        ――夫婦喧嘩は犬も食わない――



                                                                END