Lメモ異聞録vol.3「過去と現在」(中編) 投稿者:悠 朔
「Dマルチさんの両腕が粉砕。Dガーネットさんは右足を大破し戦闘不能になっています。
Dボックスさんの外装が破壊されましたが、幸い内部に異常はなかったため換装するだけ
ですみそうです」
 前回の戦闘における被害報告だ。
 Dセリオの口調ははいつも通り事務的なものだったが、やはりどこか悲しげでもある。
付き合いの長いへーのき以外にはわからないことかもしれないが、彼女がDシリーズの部
下に対して無条件に優しいのは周知の事実だ。
「すさまじい損害ですね」
「私もサイファーを破壊されました」
 来栖川警備保証セキリュティ支部にて、へーのき=つかさは物憂げな表情で溜め息をつ
いた。
 榊、OLHの両名も浅からぬ打撃を受けている。しばらくは激しい運動は控えなくては
ならないだろう。今動けるのは実質へーのきとDセリオだけと言うことだ。
 そのDセリオさえ、サイファー無しでは本調子と言えない。
「戦力激減ですね……。これでは仕事に支障をきたすのではないですか?」
「Dマルチさん、Dガーネットさんはオーバーホールの必要が認められます。……今回の
戦闘結果は屋内戦であったために遠距離からのバックアップがほぼ不可能であったこと。
及び『ジャッジ』との急造チームであったためコンビネーションが上手くいかなかった事
などが上げられると思われます」
「加えて悠君の戦力を見誤っていましたね。Dガーネットさんの"ツルギノマイ"を躱す
人を見たのは久しぶりです」
「いえ……」
 Dセリオはかぶりを振った。
 黙ってディスプレイの表示を指し示す。
「危険ランクAA!? これは…来栖川本社のデータですね? いったい彼は…」
 そこに示されているのは要注意人物であること。そして危険ランク及び戦闘スタイルだ
けで、詳しい経歴などのデータはすべてフリーズされている。
「今回SS使いの方々はへーのきさん、貴方を含め誰も全力を出していません。……私達
はあらゆる事態を想定して設計されています。例え、それが人並外れた力を発揮するSS
使いと戦うということでも……。結論から言えば悠朔さんに関する実戦データの不足も原
因の一端であるという事です。彼がハイドラントさん以外の人物と戦闘を行ったという報
告は受けておりません。そしてそれを目撃した人物は私達の中にいません」
 言いながら、Dセリオは端末を操作し始めた。
 来栖川警備保障Leaf学園支部、隊長という役職が許されたデータはただ一文。
"Hu^jin――Don't refer to this matter."
 それだけだった。
 危険人物の烙印を押された者が通う学校の警備リーダーに与えられる情報としては、あ
まりといえばあまりな内容だ。このデータをすべて解凍することが出来るのは、来栖川の
中でもトップ近くに位置する者だけという事なのだろうか?
「……どういうことです?」
「Don't refer to this matter.…つまり、この問題に関わるな、ですね。深入りす
れば本社が動く可能性すらあります」
「それはまた…物騒な話ですねぇ」
 のんびりした口調でへーのきは呟いた。正直事の重大さが理解出来ているかどうか、ど
うも怪しい。
「私はこの学園を守るためにここにいます。彼が問題を起こした場合、私はそれを取り押
さえなくてはならない立場にあります……今回と同じように」
 Dセリオは真剣な表情でへーのきを見つめた。
 その瞳は心を写し、揺れている。
「その結果……もしかしたらへーのきさんにも責が及ぶかもしれません。それでも……」
「いやだなセリオさん。オレは来栖川警備保障の一員だよ。……バイトだけどさ」
 へーのきはDセリオに最後まで喋らせなかった。
 そこにはなんの気負いも無い。
 あくまで自然に、マイペースに、へーのきはそう言った。
「へーのきさん……。ありがとう……ございます」
 俯くDセリオ。
「ところでその問題の悠君だけど、今はどこに?」
「はい。第二保険室で藍原さんが看護しています。岩下さんも一緒ですので心配はないと
思います」
 照れ隠しに話を逸らしたのだが、その結果へーのきは顔を上げたDセリオの頬に光るも
のを見てしまい、さらに慌てふためくことになる。

 暗闇の中に"それ"はいた。
 絶対的な存在感。
 絶対的な力を持つ"もの"。
 "それ"が語りかける。
 矮小な存在……つまり俺に……。
 ――何故私をあてにしてくれないのです? そうすれば敗北など有り得なかったのに…。
 うるさい。勝手に喋るな。……呼んだ覚えはないぞ。
 ――はい。ですが私の力をもっと頼りにして下さるとありがたいのですが…。
 よく言うな。破壊しか能がないくせしやがって……。
 ――しかし破壊は支配に対する有効な力です…。貴方ならいずれこの世界に新しい秩序
を与えられる…。そう信じています。
 ……。人は神になれない。なってはならない存在だ。新たな秩序を与える支配者になれ
だと? 反吐が出る。人は己すら満足に支配出来ない、不完全な存在だ。
 ――ですが貴方以外に私のマスター足り得るものはいません。
 なら黙って俺が呼び出す時を待っていろ! ……二度とそんな時が来ないことを心から
願うが…な。
 ――覚えておいて下さい。私のマスターは貴方一人です。
 貴様が純粋な破壊者なら、まだ好感が持てただろうさ! 失せろ! 下衆!!

 目覚めは最悪だった。
 次いで目に入ってきたものは、最悪だと思った気分をさらに暗澹たるものにさせるに充
分だった。
 白い天井。
 医療施設の天井だ。
 ――とことんついてないらしい。
 不快感を拭い去るために起き上がろうとして、悠朔はそれが適わない事を知った。
 全身に激痛が走る。
「ぐ……」
 思わずうめき声が出てしまう。
「あ、気付かれましたか?」
 その声を聞きつけてか、不意に覗き込んできた、顔。
 見覚えがあった。
 その、どこか……言ってしまえばトロそうな雰囲気は、逆に何故か人を安心させる。
「藍原…瑞穂さん……ですね?」
 その少女は黙って肯いた。
「なにか…欲しいものありますか?」
 悠は首を振ろうとして、酷く喉が渇いていることに気付いた。
「旨い水……できればよく冷えたものが……」
 はい、と元気よく肯いて少女は傍らにあった冷蔵庫からペットボトルとコップを取り出
し、冷水をそそぐ。
 それを受け取るために苦労しながら上半身を起こし、そこで悠は違和感に気付いた。
 ――なんだこれ?
 手枷。
 木製の、随分とゴツイ造りのものだ。
 それに足枷もだ。
 所々鋼で補強された…枷。
 ――これはまた……随分と警戒されたものだな。ま、あれだけ暴れれば当然か。
「ありがとう」
 礼を言ってコップを受け取る。
 手枷のせいで水を飲むのに少々苦労した。
 味は……強烈だった。どうやら口の中はズタズタらしい。涙が出るほど染みる。
 けれど渇きを癒せたおかげか、ようやく辺りに気を配る余裕が出来てきた。
 まず自分の姿。
 上半身裸…とは言ってもその上半身は包帯まみれだ。肌が露出している部分を捜す方が
難しい。
「……手当ては……貴方が?」
「いいえ。セリオさんです。私じゃそんなに上手くできませんから」
 そう言って悪戯っぽく微笑む。
 ――Dシリーズか……彼女達には悪いことをしたな……。それから……。
 チラッと部屋の端を見る。
「貴方の恋人にも……」
「え?」
 きょとんとした表情で悠の顔を覗き込む瑞穂。
 そのあまりの無警戒さに悠は苦笑を浮かべた。
「いえ。貴方の恋人さんには随分迷惑をかけてしまったなと、思いましてね。貴方が熱心
に看護して下さっているおかげで、拗ねているらしい」
 クックッと笑いながら、部屋の隅に背をもたれさせた岩下を指し示す。
 岩下は左腕を負傷し、その腕を吊っていた。
 しかしその顔に浮かんでいるのは傷を付けた悠に対する怒りでも、憎しみでもない。"凶
悪犯"の世話をする瑞穂に対する心配だけだ。
 ――なんか……自分の子供が大失敗をやらかさないか心配する参観日の父親みたいだな。
 悠は実際にそういう場面を見た事がないし、場違いな感想かもしれない。
 でも何故か妙に真理を突いているような気もする。
「いいんです! 私だって『ジャッジ』の一員なのに、今回置いていかれてしまいました
から」
 どうやら拗ねているのは岩下ではなく、瑞穂の方であったらしい。
「私だってなにかの役に立てるはずです。なのに置いていくなんて酷いです!」
「いや、私に言われても……」
 迫力に押される悠。こういった感情を爆発させるタイプの人間を下手に刺激するのは危
険だ。
「それは、藍原君を危険な目に会わせたくないからで……」
「それって我が侭です!」
 後ろから声をかけた岩下を睨み付け、瑞穂はそう言い切った。
「藍原君……」
「私が守って欲しいって言いましたか? 私は言ってません! 守られるだけのお人形な
んて私は嫌です!」
 目に涙を溜めている瑞穂。
 けれど岩下にも譲れないことがある。
「しかし……」
「そりゃあ、岩下さんが我が侭だよ」
 不意に横から声が響いた。
 ベッドの上で様子を観戦していたOLHが、ニヤニヤと笑っている。
「OLH君……いや、でもだな……」
「女心が判ってないねぇ、岩下のダンナ」
「同感だな」
 OLHの言葉に榊宗一も肯く。彼も同じくベッドと主と化しているが、傷自体はたいし
た物ではない。
「藍原さんは貴方と一緒に居たいんだよ。たとえほんのわずかな時でもね」
「どんなに危険な場所でも、愛する男と一緒ならってコトさ」
 二人の明快な指摘に、瑞穂の顔が真っ赤に染まる。
「藍原君……」
「岩下さん……」
 見詰め合う二人。
 不貞腐れる三人。
「やってらんねぇ」
「は〜〜〜〜。好きにやってくれ」
「まぁ……適材適所って言葉もあるけどねぇ……」
 OLH、榊、悠のぼやきは当然のように岩下と藍原には届かなかった。
 それに加えて乱入者があったのだが、二人の世界を崩すには至らない。
「お兄ちゃんけがしたってきいたけどだいじょうぶ?」
「お兄ちゃん、ボク心配したんだよ! 大丈夫だよね?」
「怪我……大丈夫?」
 笛音とティーナが先を争うように部屋に雪崩れ込み、少し遅れて木神木風も榊のもとへと駆け寄った。
 結局、一人あぶれたのは悠だけだった。
 ――虚しい……。綾香は知ってても来てくれないだろうなぁ。
 賑やかな屋内から視線を外し、窓の外を見る。
 少なくとも人の恋路を邪魔する趣味は、悠にはない。が……。
「このあと、私はどうなるんだろうな?」
 この状況では現状の変化は望めそうになかった……。

 週末まで『反省房』に投獄。
 それが悠に科せられた罰だった。

「何故あんなところで無駄な抵抗をした?」
 悠が独房に放り込まれて最初にやってきた面会人は、西山英志だった。
「先生……」
 西山は悠が取り押さえられた現場にいた。だから、面会に来るのは特におかしな事では
ないかもしれない。
 けれど西山と悠の関係といえば、明確なものなど何も無い。
 悠が弟子入りを志願し、西山がそれを拒否した。それだけだ。
 悠が西山を尊敬しているというのは常々口にしていることだが、西山が悠を気にかける
理由はない。
 だから悠には西山の訪問が意外であった。
「あそこで暴れたところで罪が重くなるだけだとは考えなかったのか?」
 詰問するのではなく。諌めるでもなく。ただ不機嫌に、西山は簡易ベッドの上に腰掛け
ている悠を鉄格子の間から睨み付けていた。
「……試してみたかったんですよ」
「試すだと?」
「そう。自分自身の強さを……試してみたかったんです」
 付けられたままの枷を、否、己の手のひらを見つめ、悠は独白するように呟いた。
「それで? 満足はいったのか?」
「ええ。……殺されるかもしれない状況で"キリングマシーン"になることも、使いたく
ない力を使おうともしませんでしたから」
 西山は気付いた。
 悠が試そうとしていたのは武力ではない。
 それは意志の強さであり、心の強さだったのだと。
「試してみるまでもない」
 西山は扉を離れ、外への道を歩きはじめた。
「先生?」
「試そうとしたことこそ、弱さの証明だ」
 反論を許さぬ、強固な意志をともなった言葉だった。
 目を上げてもそこに西山の姿はなかった。再び手のひらに視線を落とす。
「……そうかも…しれませんね」
 無骨な手のひら。
 武術、戦闘技術を教え込み続けた手のひら。
 これまでの生涯をずっと共に過ごしてきた身体の一部。
 けれどそれは、疑問に答えてはくれない。
「悠ぁ!!」
 西山の声が、響いた。
「え?」
「迷うがいい! 迷いはきっとお前を強くする! 迷うことを、結論を出すことを恐れるな!!」
 足音は止まっていない。
 西山はもう反省房から離れていったのだ。
 残されたのはただの精神論だ。
 けれど、その言葉は悠に届いた。
 一つの方向へ、悠を導いた。
 だから……悠は涙を流した。
「はい! ……先生……ありがとうございます」

 翌日。
「…………律義な事だ」
 朝ドアに挟まれていた手紙を手に、悠は一人ごちた。
「情報特捜部は解散……今居るのは正真正銘のシロウトばかり……か。わざわざ知らせに
来ることもないだろうに……」
 苦笑が浮かぶ。
 僅か数枚のレポート。
 それがもたらしたデータが事実なら、悠の立場は今極めて微妙なところだということだ。
 致命的なのはスポンサーの悠への疑惑。
 故の情報特捜部強制解散だった。部長である悠には秘密裏に、迅速に。
「これでも一応は、忠実にやってきたつもりだったんだがな……私的な感情が入るとやは
りだめか……」
 ――ヒットマンが来るのは時間の問題かね?
「あ、そうだ! ついでだから久々野さんに報告しよう。晴れて学校公認の部活になった
ことだし」
 ――多分久々野さんならこっちの内情知ってるだろうけど……面白いからいいか。
 悠は満面の笑みを浮かべた。
 悪戯を思い付いた子供のように。

 昼。
「悠さ〜ん。お昼ご飯ですよ〜」
 そんな言葉とともに扉が開いた。
 入ってきたのはカートを押したマルチと、それに付き従うセリス。
「……マルチさん? と、セリスか」
「なんだよ。ぼくはオマケか?」
 悠の台詞にぼやくセリス。しかし悠は完全にセリスを無視した。
 手際よく料理を並べていくマルチを見て、そんな余裕はなくなっていた。
「これ……マルチさんが作ったんですか?」
 並べられたのは囚人には不似合いな、豪華な料理の数々。
「はい! 一生懸命作ったんですけど、お口に合うかどうか……」
「いや……マルチさんの料理なら口の方を合わすけど……ちょっと量が多くないか?」
「合わす必要なんてあるか。マルチの料理は最高だ」
 相変わらず、セリスはマルチを中心に生きているんだなと思わせる一幕である。
 悠の疑問にマルチはにこやかに笑って、
「はい! セリスさんにも食べてもらおうと思って大目に作りましたから。沢山食べて下
さいね!」
 そう、言ってくれた。
 セリスが大喜びでマルチの手料理に向かい手を合わせる。
「いっただきま〜す」
 見ている者を幸せにするか呆れさせるかはともかく、セリス本人は極めて幸せそうに箸
を進める。
 反面、悠は非常に困っていた。
 食事はしたい。
 しかし料理を口に運ぶのに、手枷がどうしても邪魔だ。
「あ、悠さん大変そうですね。手枷外してもいいですか?」
 食べる必要の無いマルチは給仕に徹しようとしていたが、このままでは悠は食べること
がままならない。
 が、セリスは無情にそれを拒否した。
「駄目だ。そいつは危険人物ってことでここに居るんだし、万が一にもマルチに危害を与
える可能性がある奴を……」
 マルチの目に涙が浮かぶ。
 どう考えても彼女の思い浮かべる『幸せな食事風景』とはかけ離れている。反省房でそ
れを求めるのもどうかとは思うが、心優しいマルチにはそれが悲しい。
 慌てて悠がフォローに入った。
「あ、セリスの懸念も当然だし、別に食えない訳でもないし、マルチさんが泣くほどのこ
とでは……」
「じゃあ私が食べさせてあげますね!」
 マルチ爆弾発言。
 途端にセリスの額に青筋が浮かぶ。
 セリスの脳裏に浮かんだ『幸せな食事風景』は、とても彼の許容出来るものではなかっ
た。
「枷外します……」
 マルチの意志こそ我が道標、マルチが喜ぶか嫌がるかが行動の判断基準であると公言し
てはばからない男セリス。
 彼がこの軍門に下るのは必然だった……。

「ところで……私の木刀はどうなったか、知っていますか?」
 ふと思い付いてマルチに尋ねる。
「あ、はい。『ジャッジ』が預からして頂いてます。ここから出る時にお渡ししますけど……あの、燃えてしまってますから……」
 無論そんなことは判っている。残っているのはグリップの部分だけだ。一本は岩下に燃やされ、もう一本はセリスに切り刻まれている。
「じゃあ返ってくるんだな?」
 はい、と肯いたマルチに、悠は拳銃――M93R――を突き付けた。
「!!」
 セリスが動くより先に、悠はそれをひっくり返し、マルチにグリップを向ける。
「わあ。どこに持ってたんです?」
「没収されるのかと思って隠し持ってたんですよ。まだありますからちょっと待ってくだ
さい」
 そういう悠の手のひらに、まるで魔法のように次々と銃が現われ、マルチに手渡される。
 その中に悠の自慢のロングライフルと、そして刀があった。どこに持っていたかはさっ
ぱりわからないが。
「……どうして刀を使わなかったんですか?」
 マルチの素朴な疑問。
 しかしそれは悠にわずかな痛みを産んだ。
「正義の味方に刀を向けるわけにもいかないでしょう? 銃刀法違反になってしまう」
 それ以上に木刀は実剣以上に危険な凶器となる事もあるという、かつての剣豪の言葉を
実践しようとしたというのもあるのだが、まあそれは言う必要の無いことだろう。
「別にたいした理由がある訳でもありません。ただ刀を使う気にならなかっただけです」
 しかしDシリーズには怒りをぶつける事になってしまった。言い訳のしようもない。た
だ苛立ちをぶつけてしまっただけだった……。
 それがDシリーズに多大なダメージを与えた理由。捕らえるだけのつもりだった者と、破壊しようとした者の差。
 武人を自負する悠には、それは恥ずべき現実だった。

 それからセリスとマルチは毎日やってきた。食事の世話はマルチが志願したことであっ
たらしい。私には戦う力はないから、と。せめて出来ることを、と。おかげで美味い料理
を口に出来る悠に不満はなかったが、数日その姿を見ていて気付いたことがあった。
 マルチは「味はどうですか?」という質問は二人にする。しかし細かい味付けの好み等
の質問はセリスにしかしないということだ。
 つまりマルチが本当に自分の手料理を食べて欲しいのはセリスであって、悠はオマケだ
ということだ。
 ――大方、料理研の面々が、マルチに吹き込んだんだろうけどなぁ。
 料理研には柏木梓や神岸あかりの他にも、部員ではないが世話好き、おせっかいな面々
達が出入りしている。
 マルチが料理を習ったのはおそらくあそこだろうし、そう考えるとマルチの行動は容易
に説明がつく。
「ロボットのような人間と、人間のようなロボット……。果たして人間らしいのは、どち
らか……?」
 嬉しそうにセリスが食事をするのを見守るマルチを見ていて、悠はそんな疑問を抱いた。
同時にそれがひどく無意味なことに気付く。
 ――それは一体誰を指している? 俺じゃないのか? ……つまり俺はロボット以下だ
と自分で認めているんじゃないのか? ……それ以前に、この思考自体が彼女達に失礼だ
と思わないのか?
「なんか言ったか? 悠」
 セリスが聞きとがめたらしい。
「……マルチさん。すまないが席を外してくれないか?」
「え? ……わかりました……食事は楽しんで下さいね」
 こんな風に追い出されてさえ、笑顔を失わない少女。悠にはひどく眩しく映る。
「で……なんだよ。マルチに聞かせたくない話って」
 セリスは真剣だ。無論、悠としてはそうでなくては困る。
「HMシリーズをどう思う? いや、もしHMシリーズのミリタリー・バージョンが出た
ら……貴方はどうする?」
「決まってんだろ。プロジェクト自体を潰してやるさ。妹達が戦争に行くなんて、マルチ
が悲しむに決まってるからな」
 セリスは当たり前のように答えた。しかしそれは悠に予想された答えにすぎない。
「では聞くが、今までアンドロイドやパワードスーツが流用されなかった理由を知ってい
るか?」
 セリスが一瞬答えに詰まる。
「一番の理由は重量。運搬に差し支えるからな。ところが成人男性と比べてHMシリーズ
の重量は約2/3以下に過ぎない。加えて良くも悪くも彼女達はプログラムで動く。兵士
を訓練して生活費や訓練に必要な経費に数億の金をかけるのと、HMシリーズを購入して
プログラムを打ち込むのと、果たしてどちらが安上がりか? 考えるまでもない答えだ」
 悠はセリスを睨み付けた。
「実際に、今そういうプロジェクトが無いと、貴方は言い切れるのか? ……Dシリーズ
が実用されている今でさえ!」
 警備用と言われているDシリーズの性能。それは戦闘用と言ってなんら恥じる所は無い。
「彼女を……守ってやってくれ」
 悠は自分の手を見る。
 何も生み出すことのない己の手。悠はその事を、かつて嫌というほど思い知らされた。
「ああ、わかってる」
 セリスは力強く肯いた。
 愛する者を守る。それを決意するのに躊躇は必要なかった。

 残すところあと1日。
 その日、悠としては最も意外な人物が、反省房に訪れた。
「綾香? ……何しに来たんだ?」
「いきなりご挨拶ね。せっかく様子を見に来たのに」
「心配してくれたのか?」
「当たり前でしょ? あなたはわたしにとって大切な……」
 そこで言葉に詰まる。
 悠の見つめる先で。
 その先の言葉が悠の望むものでないことを知るが故に。
「慈悲だと思っておくよ。その先を言わないでいてくれるのは」
 友人。
 綾香の認識は、あくまで友人なのだ。
 決して恋人ではない。
「綾香……これは……」
 言葉を続けるのに苦痛を伴う。嘆きが全身を駆け抜ける。
「友人としての忠告だ。そのつもりで聞いてくれ。……ハイドラントには近付くな」
「なによ……それ」
 綾香は笑い飛ばそうとして……それが出来なかった。
 真剣だった。
 いつもと目の輝きが違う。
 違いすぎる。
 そこにいるのはいつもの、綾香の知る悠ではない。なにかが根本的に違う。
「奴は危険すぎる」
 悠はそう言ったあと、ふっと視線を逸らした。
「そんなこと……出来るワケないじゃない。ハイドはわたしにとって大切な……」
「今度は耳に痛いな。…頼むからそれ以上は言わないでくれ」
 悠は綾香の方を見ようとしなかった。
 ――ハイドラント……もしお前が俺と同じ、同種の人間なら……お前はあまりに危険だ。
 何故綾香に惹かれたのか?
 その答えなら簡単に出る。
 ――綾香は俺にとって光だった。希望そのものと言って良い。でも……もしハイドラン
トが俺と同じなら?
 疑問が確信に変わる。
 "生きてさえいれば、いつかいい事あるもんさ"
 そう言って笑ってくれた人はもういない。
 ――俺が絶望した時、その言葉に、生に縋ったように、ハイドラントは闇に惹かれたの
ではないだろうか?
 それは紙一重の差。そして決定的な差だ。
「光ゆえに…闇に惹かれるか……」
 恋愛は自分に無い物を求める心だとも言う。
 ――なら……それも仕方が無いことなのかもしれない。
 綾香がハイドラントを求めることは、あるいは自然なことなのかもしれない。
 それは悲しい結論だった。
 けれど悠にはそれを覆す理論を見つけることは出来ない。
 ただ受け入れるだけだ。
「行け……しばらく俺に構わないでくれ……」
「ゆー……」
 声をかけようとして、躊躇う。
 思わず上げられた手が力無く下ろされる。
 そして綾香は、扉の向こうに消えた。

* *****
 は〜い。愛に敗れた男、悠朔です。
 といっても好きな人が変わったわけではありませんが(笑)
 前後編のつもりが中編を入れる結果になってしまいました(苦笑)
 いや〜。いっそのこと3.1とかいう題にするべきでした。前中後、完結編なんて書く
わけにもいかないし(爆)
 事実ここまで長くなるとは思っても見ませんでした。いくつか削ったシーンがあるのが
心残りです。
 チャットとLメモの関係が問題となっている現在、こんな話を載せるのはどうかな……
とも思ったのですが……(笑……えない)

では、感想です。

幻八様【Lメモ場外乱闘 そのに「仮眠館ほのぼの日記」】――琴音さんとラヴラヴになる
のか? はたまた誰かがライバルとなるのか!? 実は今一番危険な存在として注目して
います。武器使用の武技言語……恐ろしすぎる(汗)
【Lメモ場外乱闘 そのさん「対決!りーふ学園棲息ロボット!」】――あの〜、Dセリオ
さん結局なんで戦いを挑んだんです? いつの間にか三つ巴になってるし。……ジンさん
は到る所でワリを喰っていますね(笑)

OLH様【「はじめてのおつかい」】――バッチリです!(なにが?) 近付くものすべて
をなぎ倒すその過保護っぷり。なんかそこに【愛】がありますね(笑)
……笛音さん属性ではなかったんですか?(てっきりそうだと思ってたけど)
【「歪んだ愛」】――まぁこれはしょうがないでしょう。夢おち。そもそも笛音さんがそこ
まで「壊れる」ということが、私には考えられませんから。……でも誰にも渡さないため
にその人を壊す。判ってしまいそうな心理が恐い……。

Hi-wait様…【Lメモ半分過去外伝「何で僕はやーみぃなんだ!?」】――をを! こんなと
ころに強力な気孔術士が!(私は未熟な気孔術士(笑)) ふふふ、Leaf学園にいれば目
標には事欠きませんね(笑) ひなたさんとの決戦に向けて頑張って下さい

Beaker様… 【グラップラーLメモ第二話「開催三日前及び抽選会」】
      【グラップラーLメモ第三話「兵(つわもの)たち」】
      【グラップラーLメモ第四話「鬼と闇」】――ハイドラントと因縁の対決を
するには決勝戦しかないわけか。ふっ、上等だ! 勝ち上がってやろうじゃないか! 途
中で消えるなよハイドラント!! ……以上参加者の意気込みでした(笑) パクリ全開
といわれても元ネタさっぱりです。葛田さんと梓の話、こういう頭を使った戦いっていい
ですね。

沙留斗様…【Lメモ外伝 トレジャーハンター沙留斗の冒険 act1 「推参」】――オヤ?
名も知らない女生徒が、新たなSS使いと戦っている?(笑) beakerさんのお弟子さん
ですか。購買部の常連を目指している「悠 朔」です。今後ともよろしく〜。
【Lメモ外伝トレジャーハンター沙留斗の冒険act2「追跡者」】――これは役に立つ
薬ですねぇ。私としては目立たせようとして失敗したキャラ達に使わせたい(爆)

春夏秋雪様…【Lメモ私的英雄伝5】
      【Lメモ私的英雄伝6】――ジンさん……一体何をやらかしたんです?(笑)
戦ってたはずの千鶴さんとは仲直りしてるし(汗) 喧嘩するほど仲がいいとも言います
し、仲良く争って下さい(笑) 最後に一言……EDGEさんはそう簡単に倒せる相手では
ないですよ。あの方は私の脅威です(笑)

T-star-reverse様【Lメモ「挨拶招く同志たち」】――挨拶回りご苦労様です。ああ、思
えばいきなり乱入して、その上ろくに挨拶もせず、なおかつ喧嘩ばっかり売り歩いてる私。
……頭が下がる思いです(これも笑えん……) これからもよろしく〜。